桃香に対するコメントが多いので、桃香目線の話を少し書きたかったのです
ついでに主人公の無自覚なやらかしも
()内は主人公の中の考えです
朱里ちゃんと雛里ちゃんからは色々聞かされていた。
曰く、希代の作家。
曰く、民の守護者。
曰く、稀有な徳人。
……曰く、曰く___。
朱里ちゃんと雛里ちゃんが良く話題に出して褒めるその人、廖 元倹さんに私が初めて会ったのは、青州へと黄巾党を討伐しに向かっている最中の事だった。
私達義勇軍が行軍中に黄巾党の人達と突発的に出会って戦闘になった時の事。
朱里ちゃんの策が上手く行き、私達が有利に戦闘を進めていた時に、その人が急に現れた。
そして驚いた事に、その人は私達の援軍として来たのに何もしなかった。
ただ、部隊を引き連れながらゆっくり歩いているだけだった。
だと言うのに、黄巾党の人達は元倹さんが現れた事にとっても驚いていて、その後に孟徳様が本隊を率いて現れたら、直ぐに逃げ始めてしまった。
……こんな事ってあるんだ。
私はそう思った。
黄巾の人達と戦う事無く、殺す事無く、退ける事が出来たのに、私は驚いた。
朱里ちゃんが言うには、これまでの孟徳様達の行動がそうさせるらしい。
一度過激に見せしめる事で、その噂を聞いた他の人達も戦ったら必ず殺されると思って、孟徳様達を恐れる様になったみたい。
……私は見せしめとか、あまり好きじゃないけど、それでもそういう事を何故するのか理解する事が出来た。
そして黄巾党の人達との戦闘が終わった後、直ぐに孟徳様がこちらに面会しに来た時は凄く驚いた。
本当は事後処理が終わって一段落した後に、こちらから面会を求める予定だったのに、直ぐに使者の人が来たと思ったら、陣地の目の前まで来ていた。
孟徳様は私達義勇軍との共闘を提案してくれたけど、私は最初どうしたら良いのかわからなかった。
何故なら大陸に流れる孟徳様の噂は良いものも悪いものも沢山あったから。
歴史に類を見ない天才である。
しかし才に驕る傲慢である。
民を憐れむ仁君である。
しかし儒教を蔑ろにする悪政者である。
……なんて、色々。
でも噂は噂でしかなくて、孟徳様と協力する事になって、孟徳様といっぱいお喋りしたら、孟徳様の凄さを沢山知った。
孟徳様はとても行動的な人で、いかにも優れた君主って感じで格好いい人だ。
効率を重視していて、キビキビ動いて、判断力も優れていて、……鈍臭い私には憧れだ。
それに、何も知らない私に色んな事を教えてくれた。
中には難しい事、厳しい事も言われたけど、それも全部が民という国を想っての事だった。
朱里ちゃんや雛里ちゃん、最初は警戒していた愛紗ちゃんも孟徳様を尊敬していた。
そんな風に行軍してる時は毎日孟徳様とお喋りをしていたけど、その時に孟徳様が急に元倹さんへと話題を振る事があった。
『さて、ここ最近ずっと統治者としての在り方を話している訳だけど、……蒼夜、貴方はどう思うかしら?』
そうやって、元倹さんに話題を振る時の孟徳様は、笑いを抑えるかの様な顔をして、まるで元倹さんを試す様な物言いをしていた。
(何故急に俺に振る!?嫌がらせか!?と、とりあえず、ぶ、無難に何か言わんと___)
『……統治者の在り方というのは、必ずしも正解があり、絶対に一つと言う訳ではありません。』
『と、言うと?』
(言い訳考えろ俺ー!)
『……そうですね、……例えば、ですが、……基本的に華琳さんがそうである様に、民に対しての嵐の様な存在は統治者に対する答えの一つだと思います。民に対して敢えて厳しくする事で、民がそれを乗り越えようと強くなるでしょう。民衆一人一人が強くなり全体を発展させるには望ましい在り方じゃないですかね?』
(多分そんな感じ!英雄王とかそんな感じじゃなかったっけ?)
わぁ~凄い。そんな考え方もあるんだ。
『ふむ。そうね、私はそう在りたいと思うわ。……では、他にどんな在り方があるかしら?』
(まだ聞くの!?)
『先程も言いましたが、正解がある訳ではありませんが、……民の願い、想いを体現する在り方もあると思います。民の統治者に対する理想を叶える在り方ですね。』
(多分騎士王がそんな感じだった筈。)
私はハッとした。
そうなりたい。
皆が想い描く、皆の為の統治者になりたい。
……私は最初そう思った。
『……しかしそれは、___』
『まぁ自分で言っといて何ですが、無茶苦茶ですよね。いつか言った、個を捨てて人である事を捨てた統治者ですよ。』
(名君論懐かしいなぁ。)
私は孟徳様達が言っている事を理解出来なかった。
何が間違っているのかわからなかったから、後で朱里ちゃんに聞いた時は愕然とした。
元倹さんが言っていた統治者の在り方は、まるで絡繰りの様に自分というものを持たずに、民の為だけにある存在らしい。
……私には出来ない。
『まぁ妥当な所で、民に寄り添う在り方でしょうか?積極的に民の意見を聞き入れて、法案を考える時なんかの議会でも民の代表者を呼んで聞いてみる等。……まぁ効率悪い事この上ないですが。』
(民主政治なんざ無理だよなぁ。)
『ふむ、そうね。結局は全てを叶える事も出来ないだろうし、あくまで代表者の意見なのだから、公平とも言い難いわね。』
『まぁ所詮はあくまで一例ですよ。何度も言いますが正解はないんですから、自分で探すしかないでしょう。一生懸けて。』
元倹さんはそう締めくくったけど、私には一筋の光が見えた気がした。
孟徳様の言う通り、全てを叶えるのは難しいんだろうし、必ず公平と言う訳でもない。
……けれど、それが私の目指す在り方かもしれない。
皆の意見を聞いて、それを纏めて、皆に納得して貰えたら……。
……馬鹿な私でもわかる。
それはきっと凄く難しい。
でも、それでも。
私は目指す価値があると感じた。
朱里ちゃん達が言っていた事がわかる。
元倹さんって、とっても凄い!
─────
全く、華琳さんは何故俺に話題を振るのだ。
適当な事ほざいて速攻で逃げて来たけど大丈夫だよな?
……劉備の視線は気のせいだろう。うん。
「ん?どうしたんだい蒼夜?」
あ、姉さんの所まで来てしまったか。
「いや、華琳さんが俺に話題振るから逃げて来た。」
「あはは。華琳さんは君の独特な持論が好きだからねぇ。」
笑い事じゃねぇって。
「あっ、でもそうか。……その理論で行くと、華琳さんが何で玄徳さんを気に入っているのかわかったわ。」
自分に無い価値観を持っているからだ。
庶民出身の劉備は、名家生まれの華琳さんとは根本的に考え方が違う。
知識があまり無い事も相まって、たまにトンチンカンな答えを出す劉備は、確かに凝り固まった考えを払拭する事がある。
……まぁ稀にだが。
「……良い娘だよね、玄徳ちゃん。」
「……まぁな。……姉さんは、あぁいう娘好きだろう?」
優しく人の良い姉さんは、きっと劉備の事は好きだろう。
「そうだね。あぁいう優しい娘は好きだね。」
「……あっちに付きたかったりする?」
……非常に複雑だが、きっと気が合うのは華琳さんより劉備だろうし。
「ん~、……それは無いかな?」
「ほぅ、それまた何で?」
「あの娘は友達にしたい人であって、君主にしたい人ではないのさ。」
……成る程。
「これは僕個人の感性だけどね、……僕は自分の君主には、僕に持っていないものを持っていて欲しい。……華琳さんの場合だと、厳し過ぎる程の苛烈さだね。僕自身、忌諱すべきものであると同時に、尊敬に値すると思っているよ。」
……成る程。
自身に欠けているものの何か、か。
逆もまた然り。
華琳さんに無いものを俺達家臣が埋めるってのも、正しい主従の在り方だな。
はは、劉備の場合、埋める所が多過ぎて大変そうだな。
……俺関係ねぇけど。
まだまだ甘く未熟な桃香ですが、たまにこんな感じで登場させつつ、成長させたいです