“プロモーター序列第一位”里見蓮太郎の物語   作:秋ピザ

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この作品における現状最大級の伏線を少し回収してみた結果……
前中後編くらいになる可能性が出てきた。

しかしやりたかったことをやるためなら延びまくっても構わないのだぜ……!
みたいな感じで本編どうぞ。


覚める英雄/前編

凄まじい数のガストレアたちが押し寄せてくる。

その様はまるで砂浜に打ち付ける波のようで、しかし引いていくことはない一方通行のそれだった。

チャージは完了せず、ティナはスコーピオンと一対一で拮抗している状態、そこに無数のガストレアだと……ふざけんのも大概にしやがれ。

普段ならステージI程度意識せずとも容易く殺せるのに、莫大な電気を溜めるために全身全霊を懸けているせいで戦うことすら出来ねぇってのに、どうしろってんだ。

逃げるなんて無理だ。逃げる先はあるにはあるが時間がもう遅すぎて間に合わない。

アレがこっちに着く前にチャージを終わらせてスコーピオンを仕留める?

おいおい、出来るわけがないだろう。

俺は自分の考えを否定する。

現在のチャージ率と相手の距離から考えてもこれじゃフルチャージには至らん。

だったら一か八か完璧じゃないチャージで撃つ?

……それこそ稼いだ時間が無駄になる。

あぁクソが……何も思い付かねぇ……

この状況をなんとかしなくちゃいけないのに、どっちを片付ける方法も思い付かねぇよ!

俺はイラつきながら脳内でその言葉を反響させていた。

そんなことをしてる場合じゃないのは分かってる。

だがここで俺が判断を間違えば失われるのは俺の命だけじゃ済まないという事実がただでさえ低い思考力を奪っていく。

「DRAAAAAA!!!」

 

しかし、そんな思考の間にもガストレアたちは確実に歩を進め、足の速いガストレアに至っては俺の目の前まで移動していた。

 

こうなったら仕方ない、と俺はチャージした電気を解放して雑魚を一掃しようとするが……それより一瞬早く弾丸がガストレアの頭を撃ち抜き、命を奪う。

思わずその弾丸の飛んできた方向を確認しようと考えるが、すぐにそれがティナの援護であると理解すると、礼を言うより何よりこのスコーピオンを仕留めてさっさと帰れるようにするのが一番のお礼になるだろうと考えてチャージを再開した。

今度は少しずつ移動しながら、だ。

なるべくティナの戦闘の負担にならないような位置を考えて動くのは流石に難しいので、ティナが仕掛けた武器を当てられる位置から出ないようにだけ気を付けての移動はそれなりに頭を使うが……まぁ大した負担にもならないので大丈夫だろう。

しかし、ここに長居するとティナへの負担が恐ろしいことになる。

正直な話もしものことがあってしまってはならないから負担は掛けたくないのだが……今はこうするしかないのが痛い……

俺はそう思考を巡らせつつ、現在どれほどチャージが完了しているかを計測する。

 

……約96%。

どうやらあと少しのようだ。

この調子ならあと30秒くらいでチャージが完了するだろう。

そして幸いにも足の早いガストレアの数が少なく、その30秒でここに辿り着けるガストレアは10体といない。

普通なら10体なんて荷が重いだろうが……すまんティナ、ここは踏ん張ってくれ……

そう祈りつつ、常にチャージ率を確認しながら俺はスコーピオンへと向き直った。

チャージ完了とともにその電力を全て攻撃に変換し、命中させるためである。

チャンスは一度きりだ。

これを逃せばもう体は動かせないから戦えないし、逃げるしかない。

その時は逃げ切れなきゃ死ぬ。

その上それでスコーピオンを仕留められないか、外せば俺もろともティナも死ぬだろう。

死ぬ確率が高過ぎだっての……

そして、そこまで思考したところでついにチャージ率は98%になり、残り15秒程度となる。

 

……しかし、いつの世も偶然とは最悪のタイミングで起こるものだ。

俺はその時偶然、ティナの死角から接近しようとしている一匹の醜悪なガストレアに気付いてしまった。

それもただでさえ醜悪極まりないガストレアの中でも特段に酷いやつを。

全身がタコの足から吸盤を取ったような赤い触手で覆われているためにどこに目があるのかは分からないが、とにかくそのガストレアはまっすぐティナに向かって全速力で前進していた。

見たところその速度は凄まじいものだし、恐らく俺がチャージを終えると同時にアレはティナを仕留めてしまうだろう。それこそトラック事故とかの見本のように。

俺は、そいつを見た瞬間に今溜めてある力を全て身体強化に回し、即座にそのガストレアを殺害しようとした。

しかし一歩手前で踏み留まってしまう。

『今ここでティナを救えば救えるはずの命が救えなくなるぞ』と誰かが俺を引き留めたかのように感じたのだ。

……しかし、そこまで考えてから不意に思い至る。

あれ?俺ってこんなにも他人のことを考えるやつだったっけ?と。

きっと普段の俺ならここで迷いなくティナを救っただろう。それにきっと、スコーピオンとも真面目に戦おうとせず多くの人間を囮に一人だけ生き延びることを選択したに違いない。

いや、あれに関しては仮面野郎を仕留めるという目的もあったからつべこべ言わないことにしよう……それでも今の俺はおかしい。

ティナを救うためなのに動けない。今動かないとティナを救えないのに。

これ以上失うわけにはいかないのに。

頭沸いてんじゃないのか?

それともバカがとうとう精神に侵食を始めたか?

あぁもう、愚かだ。

今の俺に取ってティナ以上に優先するべきことはないはずなのに。

ティナを失ってまで護るべき人間なんて……

 

存在するはずが、存在していいはずが、ないのに。

 

……あれ?じゃあ俺は、なんでティナが危険なのを承知でスコーピオンを葬ろうとしているんだ?

おかしい。おかしい。

こんなの“里見蓮太郎”の行動じゃない。

まるで絵に書いたような英雄の行動だ。

最愛の人を失ってまで、みんなを救う。

おいおい、待てよ、俺。

延殊も木更さんも失ったあの日から、キャンサーをブチ殺したあの日から、この力を手に入れた、あの日から!

俺は英雄なんてものを捨てて別のものになったはずだ。

最初は憎しみと絶望と空虚さに駆られてただただ純粋な破壊者に。

そしてティナと出会って、ただの頭がおかしいロリコン野郎になった筈だ。

なのに何故……何故ティナを失うリスクを負ってまで俺はスコーピオンなんかを殺そうとする?

 

ゾディアックだからか?

 

違う。確かにゾディアックは憎いがティナを失ってまで殺すほどじゃない。

 

それじゃあ、自分の名声のためか?

 

当然違う。そんなものはもう要らない。ティナと一緒に居られるなら、ヒーローでもなんでもない、ただの最強になったって構わない。

ティナ以外の全人類が俺を憎もうと、恨もうと、なんだって構わないんだ。その、筈なんだ。

 

……それじゃ、護るためか?

延殊も木更さんも護れず、ついにはティナすらも護れないかもしれないお前が一体何を護るって言うんだ?

もしかして……顔も知らねぇ一般市民、だなんて答えないよな。

 

俺は自問自答を繰り返した。

気付けば視界の中の光景は止まっているかのようにも感じるから、考える時間ならある。

さぁ考えろ、里見蓮太郎。お前は何故ティナを失うリスクを負ってまでアレを殺そうとする?

何か殺さなければいけない理由があるのか?それも絶対に失えないティナを失ってでも殺さなければいけない理由が?

 

あるいは……忘れているのか?

なにか、ティナを失ってでもアイツを殺さなきゃならない理由を。

 

……いや、ありえない。俺がティナを失ってまでアレに固執する理由は、もうない、残されてもいない。

 

でも、もしかしたら忘れているというのはありえるかもしれないな。

ゾディアックを殺さないといけない理由が、もしかしたらそこにはあるのかもしれない。

俺としては真っ向から否定して、拒否して、ノーと言ってやりたいが……

まぁ、どうせそんな物はないだろう。

俺はそれを確かめるように、自分の脳にチャージしながらでも使えるような電流を流した。

脳の海馬をいじって、無意識に整理して思い出せなくなっている記憶から、ゾディアックに関することを引っ張り出す。

あとはそれを全部チェックすれば良い。

思考は加速しているし、あっという間に終わるだろう……

 

そして、それを終えて俺はようやく理解するのだ。

ティナを失ってまで得るべきものはない。殺すべきものも、壊すべきものも、等しく存在しないのだと。

 




現状最大級の伏線とは言っても、何がなんだか分からない方のためのちょっとしたヒント……サブタイ。そこに実は少し伏線を作ったことがあったり。



それはそうとして、今回の蓮太郎の加速感覚についての解説をしておきます。
はっきり言うとアクセルワールド的方式。
詳しい原理等はアクセルワールドの原作で語られていたと思うので要約すると……
・人間の血流を機械の電気信号に置き換えたものとして扱い、機械の電気信号を加速
・それを脳に送って加速を人間の思考に反映
的な方法で意識を何千倍に加速していたというものを、
・蓮太郎自身の力で微弱ながら通常より何千倍も速い速度の電気信号を生み出す
・脳に送って加速を思考に反映
に置き換えただけのものです。

原理が難しい等の部分は……まぁ、無意識+元々は義眼のコンピュータで行っていたため加速感覚に慣れていた。
ということでご容赦を。

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