ちなみに浮気は(相手を)許さない系で。
隠居みたいなこの生活を始めてからつくづく思うんだが……英雄ってもんのネームバリューがマイナスに働くのは、基本的に表に出せる動きをするときだ。
買い物すれば人だかり、散歩をしても人だかり。
マトモに顔を出して歩けない。実はこれがいくつかある隠居の理由の1つだと言ってもきっと信じる人はいるだろう。
まぁ当然ながら隠居の理由は違うが。
で、表に出せないことをするなら英雄のネームバリューは最高の道具になる。
いくら顔が割れていようと、人類がどうやっても勝てないようなバケモノをぶっ殺した奴相手に戦おうなんてやつは居ないから、何をやろうとも誰一人止められない。
そして、脅迫の時に殺害をチラつかせるなら信憑性になるし、戦いの時相手の緊張を極限まで上げる要因になる。
しかし、英雄のネームバリューってものはやはり不便な面の方が大きい。
だから外出時には必ず変装するのだが……それでもある程度見られるとバレるし、今日なんてティナがずっと抱き付いてたりするから注目を集めてしまう。
俺は目立ちたくなんてないのに、俺の意思に関係無く目立ってしまう。
いっそ泣きたいくらいだ。このせいで何度外出時の行動を妨害されたか。
……と、いうわけで今日は1日家に引き込もっていようと思うんだ。
なに、俺もティナもその気になれば一週間くらい余裕で引き込もって(その間に連続では最高三回、合計七回ほど飯を食い忘れて終盤死にそうになるが)いられるからな。
別に好き好んで引きこもる訳じゃないけどさ。まぁいわゆる、ただなんとなく引きこもりたいから引きこもる的な矛盾を感じるよ。
「なぁティナ、今日は一日家に居ようと思うんだ」
「そうですか」
とりあえず手短に今日の予定を伝える。
ただ引きこもることを予定と言うのか、それともただの宣言というのかは定かでない所だ。
引き込もってるのはあまり体に良くなさそうだがな……いくらなんでもそれだけのために出掛けてもみくちゃにされるのだけはゴメンだ。
いやでもな?もみくちゃにされたところで実は周囲に不快指数を上げまくる類いの電波を出して差し上げれば別に問題はないのよ?
だがそこであえて引きこもるのは、不快電波を放つとティナを巻き込んでしまうからであって……要約すると、俺は悪くない。
強いて言うならティナが苦しんでしまうのを一切容認出来ない俺の気質が悪い。
あれ?これじゃ俺が悪いのと変わらなくないか?
……無視しよう。この世にはあえて無視した方が良いことだってたくさんあるはずだ。
例えば今ティナがソファに座った俺の腹に顔を埋めようとしていることとか、なんというか女の子っぽい香りがしてることとか、ね。
ただ個人的に言わせてもらうなら、俺ってそこそこに体を鍛えてるから、腹に顔埋めたら固くて顔痛めんじゃないか?という心配があるぞ。
「おにーさんの匂い、イイです……」
……そうだった、忘れていたな。この世で意図的に無視した方が良いことを1つ言ってなかった。
ティナの変態っぽい発言は全部聞かなかったことにした方が良い。
腹に顔を埋めてるのは匂いを嗅ぐためだという事実からは目を背け、ただただ甘えに来ていると思っていた方が精神衛生上良いんだよな。
俺はティナがいくら変態的でも構わんが、全部の行動を見ていたらとても精神が耐えられなさそうだ。
だからあえて、変態的なことをされている現実からは目を背けて逃避する。
「撫でてください……」
そうだ、変態的な発言は無視して、こういう可愛らしい発言だけをある程度記憶に残しておいた方が精神汚染が遅い……
ところでティナさんや?
君、頭を撫でようとした俺の手を何処に向けさせているんだね?
「撫でるのは、頭じゃなくてコッチでも……」
……ゴメン言わなくていいよ。
撫でてとか言われて頭かと思ったら位置を下にズラされるなんてねー。なんてこったー。ただ可愛いから許しちゃうぜー(もはや投げやり)
ただ、それでも幼女に手を出すような絵面はどうにも色んな意味でアウトになりそうなので、自重して撫でるのは頭にしておこう。
期待してたっぽいティナは少し不満気にしているが……まぁそこはあまり気にしない。
怒った顔も中々に可愛いし、それでも撫でられて気持ち良さそうにしているのは、中々にそそられる物があるな。
いや、俺がロリコンって訳じゃないぞ。だってティナは誰がどう見ても贔屓一切なしで可愛い。
美しい金髪も、碧色の眼も、ぷにぷにとした肌も、一切合財全部まとめて可愛い。そういうことなのだ。
……え?それがロリコンってことだ?
何言ってんだか。ロリコンってのは俺がつい数日前に殴ってタイーホさせたとあるおっさんのような奴を言うんだよ。
確かその日は、やたら特徴的な悲鳴があったんだよな。確かどんなんだっけ……
「ガンダァァァァム!」
あ、そうそうこんな感じ。なんか中身は違うが、とにかくこんな感じの……
って、ちょっと待てまさか来ちゃった!?
復活のFならぬ復活のロリコン!?
全然嬉しくない!むしろめんどくせぇ!
だけど俺のポリシーというかプライドが助けにいけと言っている!
正確には、なんか面白そうだから首を突っ込めってな!
窓を開け、自分の肉体を電気で強化しつつも飛び出す。
行き先は前回と同じく……隣の家。
「うぇ……?おにーさーん……」
あらやだ困惑したティナ可愛い……じゃない。
とにかく良く分からんが謎過ぎる正義感の元(理由など定まっていない)、罪を憎んで鉄拳制裁の精神に基づいて殴りにいくぞー!
ドカン。
しかし意気込んで空中へ飛び出した俺が見たのは、どういう訳かやたらデカい蝶もどきみたいなガストレアに襲われている幼女で……
つーか、なんでこんなに襲われる確率高いのよ君。なんか誘引フェロモンでも出してる?
まぁ、それはともかくとしてさっさとガストレアはお掃除しちゃいましょうかね。
全身を強化するために使っていた電力を、別の形で放出する。一応どっちも使うことは出来るけど、こっちの方が精度もコスパも良いんでね。
とにかくコストはある程度抑えておくとして、ここで手軽にやらせてもらいますかね。
「……磁力操作による理不尽な砂鉄アターック」
あまりにショボい技名だが気にするな。
やってることはそれなりにエグいんだからな。
蝶はその羽についた隣粉の模様で空気を捉えて上昇気流を起こし、飛ぶ。だからそこに砂鉄を撒き散らして模様を乱して差し上げれば飛べないというわけさ。
フハハハハ。褒めないで結構。このくらいの頭脳プレーは当然なんだぜ。
それに、蝶ならちょっと前に来てたからな。対策はすでに出来ているんだよ。
俺は飛べなくなったガストレアに追い討ちをするかの如く、ポケットから一発の銃弾を取り出し、人差し指に乗せて角度を調整する。
今はコイツがまだ動けないから良いが、動き出したら厄介だからな。
一撃で終わらせよう。
……そして銃弾を、電気と磁力をもって一気に音速以上の速度へ加速する。
速度はせいぜいが音速の5倍程度。
ソニックブームが出るには出るが、弾が小さいからそれもそこまで被害が大きくないし……この技、【超電磁砲】の厄介な副次効果に比べればまだマシだ。
うっかり地面に刺されば巨大なクレーターが出来てしまうという効果に比べれば、な。
ゆえにこの技は基本上に向かって撃つ訳だ。
今回はガストレアが虫系で触りたくなかったからちょい遠くから消し飛ばすやり方にしたが、本来であればこれは間の距離を0にしてから確実に当てる方が好ましい。
確実に当たるし、何よりガストレアを恐怖させられるってのもある。
何より、相手の体の真下から超電磁砲で撃ち抜けばカッコいいからな。
垂直にならばせいぜい200mほどしか飛ばせない超電磁砲だが、真下から真上に向かって撃てば天に向かって弾丸が登っていくことになる。
なんとも幻想的じゃないか。
だから俺は真下からガストレアを撃ち抜くのだ……
ドン。
超電磁砲が放たれ、射線上にあったフェンス(ギリギリ当たってしまった)など様々な物を貫いて直進していく。
その過程ではガストレアの体が射抜かれ、生き絶えているが……しかし超電磁砲は止まらず、そこそこ遠い地点で消滅した。
大気があるせいで、超電磁砲は空気摩擦などで弾丸が熱されて弾丸自体がその温度に耐えられなくなり燃え尽きてしまうのだ……
その点においては、バラニウムの融点が鉄よりは高いことだけが救いだな。
鉄並みだったら100mも飛ばんだろうし。
「……」
あー、ヤバい。
ついうっかりすぐそばに幼女が居たのを忘れてた。
どーしよーどーしよー。ガストレアに襲われちゃうなんてトラウマものの体験のあと、追撃のように超常現象なんて見ちゃったら心の傷になるよなー。
あーそうだー。俺が連れ帰って心のケアでもしよーかなー(棒読み)
俺は、内心この子をお持ち帰り、もとい保護する口実が出来たことに嬉しさを滲ませつつも、自然に手を取って声をかけようとする。
しかし、その少女はこちらを見た瞬間、何かを恐れるように逃げていってしまう。
えっちょ何よ?なんかあったの?
そんな疑問を抱えるも、まぁ俺が見れば分かるよな……とか思って後ろを確認する。
「おにーさん?」
……するとそこには、光を映さない眼で俺を見るティナの姿があった。
やばいな、これは反論の余地がないぞ。DOGEZAをかました所で無意味だろうし……どうすれば良いんだ!
次回はちょっとだけお説教タイム。
ただこの小説はティナちゃん可愛いが基本コンセプトのため、長くはならない予定です。
おまけ・蓮太郎くんの能力解説
【超電磁砲】
レールガン。とある的なそれよりちょっとだけ強いが、本物の兵器としてのレールガンよりかは弱く、音速の五倍程度。
しかし威力はステージIVであってもアルデバランみたいな回復力がなきゃ確実に死ぬ程なので、とりあえず頭おかしい。
欠点は地面に向かって撃てないし、水平にも撃てないこと。
なお蓮太郎くんの基本技であり、大抵のガストレアはこれにより一撃で葬られるのである。