なんか調子に乗って詰め込みすぎた感はありますがね。
まぁお陰で次回からは混沌と書いて番外編と読むside story(やたら完璧な発音)を書ける訳ですが。
まぁ、そんなわけで一巻部分最後の一話、どぞ。
「……祝勝会とか言ってもよく考えたらむしろいつも通りダラダラしてた方が楽しい気がする」
アイツ……聖天子の電話から数十分後、全員で一応祝勝会の準備をしている最中につい、そんなことを口走ってしまう。
事実祝勝会なんてせずとも常に祝日みたいなもんだし、そもそも何もしないで過ごしていても結構楽しいのが俺たちだからなぁ……あの時は適当に言ってしまったが、失敗だったかもしれない。
いや、言い訳がましいことを言わせてもらうと別に祝勝会が楽しくないと思っているわけじゃないんだ。
ただ単純に何もせず1日を部屋に引き込もって母親に甘える赤ん坊と勝負できるくらいティナに甘えまくっていた方が心地いいし楽しいってだけで。
この状況でそんなことを言うのは異常かもしれんがな。
まぁそもそも俺の思考回路は異常なもんだからそれを異常とは思えないのだが……いや待てすでに俺はこの状況を異常なんじゃないかと思っているし、実は意外と俺ってマトモだったり……
無いな。
つーか俺がマトモだったら全人類が皆常識人になるっての。
そういうことだからつまり俺はきっとマトモじゃない。証明完了だ、多分。
「……おにーさん、正直言うと私もそう思います……」
そんなくだらない思考を一人で回していると、隣でピザを作っていたティナが同意してくれた。
よし、いっそこのまま普通に祝勝会中止のお知らせということにして今日はただの祝日、ただただ怠惰に過ごすだけの日ってことにしようか。そうだそれがいい……多分。
「ちょっとお二人とも……ノリが悪すぎますよ?」
しかしそこに現れる第二の勢力、拾ってきた少女。またの名を……身体的特徴で表すと銀髪。
彼女はどうやらこの祝勝会が楽しみで仕方ないらしい。
よく見ると口角が僅かに上がっているし目がいつもの三割増し(ただし会ってから数日も経っていないし目が復活してから時間が経っていないので検証不可)くらいで輝いている。
あとは……なんとなく楽しげだ。雰囲気が。
まずいな、こう言われると話の流れ的に祝勝会中止は言いにくいぞ。
正確には言ってもまったく問題ないが現在の楽しげな感じの反動で完全に意気消沈すること間違いなし、だろう。
それで何かがどうにかなるわけじゃないが、まぁとにかく気分は高い所から低い所に落ちて甚大な被害を受けるに違いない。
流石に可哀想ではあるな……
「(どうする?)」
俺はこの状況の対応に困り、ティナに助言を求めた。
きっとティナであれば同年代だし同姓だから角を立てず禍痕を残さずに済む方法を思い付いてくれるに違いない。
そうしたら祝勝会を中止して何もせず、何も考えずに一日中ティナとイチャイチャして甘えよう。
「(……流石に無理です。すみません)」
だがしかし頼みの綱のティナですら解決策を思い付かない。
どうすれば良いんだ?
数秒ほど思案し、いくつか案を浮かべ……てはすぐに消す。
そして7つほど廃案を作ったところで、ちょうどいい策を思い付く。
話題を逸らそう、ってな。
つまり露骨な時間稼ぎ、ただの時間の無駄遣いでもある。
それで稼いだ時間の間に打開策を打てれば俺の勝ちだが……どうなるだろう。
「あぁ、そうだ。……今思ったんだが名前がなくて呼びにくい。名前を教えろ。なければ考えてくれ」
「……ふぇ?」
俺が選んだ時間稼ぎは名前。
コイツの名前を知らないから、とりあえず適当に聞き出すついでに話題を変えようという魂胆である。
まぁ時間稼ぎにしてもお粗末すぎる物だから稼げても数秒だろうし、すぐに元の話題に戻される可能性もある。
だからその裏に1つ忍ばせておこうと思うんだ。更なる時間稼ぎ……祝勝会を中止する口実を。
俺はティナの背中に手を当て、先生に教えてもらったモールス信号の改変版で『ごり押しする。話合わせろ』と伝える。
別に伝えなくても大丈夫だろうが、まぁ保険だ。
なんせ俺がやるのは……ただちょっとコイツを騙してグダグダさせ、眠らせて片付けてうやむやにする……なんて手抜きも良いところなものだからだ。
正直もう少し作戦を練りたかったが時間がないから仕方ない。
どうせ名前くらいなら数秒もあれば思い付くだろうしな。
俺がそう思って見ていると、拾った少女は思い出したように自分が元々来ていた服のポケットに入っていたハンカチを手に取り、凝視し始めた。
自分の名前でも書いてあるんだろうか。
俺は何がそのハンカチに書いてあるかを確かめるために三歩ほど前に出て近付き、書かれている(と思われる)文字を確認する。
だがそのハンカチには何も書かれていない。
意味がないだろ、こんなのを見ても……いや待て。
そういえば確か一部の因子が発現したイニシエーターは常時視力が強化されて異常な視界を手に入れたりするケースが存在してるって話を聞いたことがある。
まさかコイツがその一人だったり?
「何も書いてないハンカチを見て何をしてるんだ?」
俺はその真偽を確かめるため、自分では割と優しげだと思う声でそう問い掛けた。
すると少女はなんでもないことのようにこう答える。
「……え?蓮太郎さんには見えないんですか?」
と。
どうやらコイツは自分の特殊な視界を特殊だと思っていないらしい。
しかし、俺がハンカチに書いてある内容は読み取れないってことを言ったところで信じてもらえる気はしない。
だったらどうするべきか。
……俺はハンカチを不意に二本の指で摘まみ、持ち上げる。
そして電磁波で表面を分析する。やり方は単純だ。
ただ電磁波をハンカチに通して、違和感があるところを探る。
そうしたらその違和感があるポイントを並べていくとあら不思議。文字が浮き上がってくるってわけさ。
まぁ上から塗り潰されでもしていたらお仕舞いだが、スラム暮らしだったコイツがそれをやる義理はない。
だから結果が出たらあるかなしかだけで判断できる。
ほれほれ、浮かびあがるのじゃ~(悪代官的なノリで)。
そして浮かび上がるまで待つこと約0.2秒。優秀な電磁波はすぐにハンカチに書かれていた文字の内容を探り出した。
どれどれ……コイツの名前は一体なんだ?
俺は軽い気持ちで浮き上がった文字を読む。
「天橋或守?」
天橋 或守。
中々に個性的な苗字と名前だな。
天橋ってのは今のところ見たことがなかったし……或守なんて名前は聞いたことがない。
俺が無駄に判明した名前に感嘆していると、不意に横から……或守?が覗き込んで来た。
「へぇ……それが私の名前なんですね」
……だがそこで驚きの真実が判明する。
コイツ、熱心にハンカチを見てたくせに何も見えてなかったらしい。
なんだよ、特殊な視覚とかなんとかカッコつけて言ってみた俺がバカみたいじゃないか。
チクショウ恥ずかしすぎて祝勝会をやる気も起きねぇぜ(こじつけ)。
よしそれじゃ中止だっ!
俺は内心の恥ずかしさを打ち消す為にそんなことを言おうとして、ギリギリで留まる。
言ったら自分がそんなことを考えていたのがバレと気付いたからだ。
しかしそれ以外に祝勝会を中止する理由がない。
しまった。完全に手詰まりだぞこれは……
……だがそんなとき、突如として家の鍵がこじ開けられる音がした。
敵襲か?
そう判断した俺はティナと或守を庇うような体勢になってから右手で一気に発電する。
さぁ、来るなら来い……!
右手の電気が運次第では一生全身麻痺が残るレベルの電圧にまで上がったところで、俺はそれを多少改変し、一度撃っても完全には消えないようにして連射力を高める。
相手が複数ならこれをバラバラにして放ち、一人ならまとめて放つ。その二択に絞った。
あとは侵入者がこっちに来るまで待つだけだ。
「HAHAHAHAHA!この前の手術以来だね!蓮t」
「紛らわしい真似すんなクソアマァ!」
……しかし、侵入してきたのは意外にも先生であった。
何故か一升瓶を抱えていることからして、祝勝会に混ざろうとしているのだろうか。
先生にしては殊勝な心がけじゃないか。
感動的だな。あの先生が他人の勝利を祝えるだなんて。
だが無意味だ。
俺は侵入してきた先生へ向け、チャージした電気を多少調整して喰らわせる。
威力は常人なら一月ほど右手が動かなくなるくらい。
そして電流を流し込まれた先生は倒れ、最後に紛らわしい一言を残す。
「ぐはっ……酷いじゃないか……蓮太郎……私と君の仲だろう……?」
まるで俺と先生の仲が良いみたいな言葉をな。
先生は本当に俺に面倒事だけを招いてくれるんだな……死ねば良いのに。
俺はひとまず先生を投げて庭に捨て、二人の方を向いてこう言った。
「念のため言っておくが、俺と先生は犬猿の仲のお手本のような関係だからな?」と。
今考えると完全な蛇足というか、余計な一言だったと反省している。
……なお、その言葉のせいでティナと或守へ逆に誤解を招き、説明に二時間ほどを費やしてしまって祝勝会はうやむやの内に消えたのだが……果たしてそれはラッキーなのかそれともアンラッキーなのか……
どっちなんだろうな?
今後の予定。
次回からしばらくサイドストーリー&gdgd、そして番外編。
ある程度気が済んだら二巻に入って色々回収とバラ撒きやって……と、なります。
なお個人的には番外編でifとかやってみたい。
具体的にはティナちゃんヤンデレ狂化ルートとか……誰がとは言わないけれどハイパーヤンデレルートとかね?