“プロモーター序列第一位”里見蓮太郎の物語   作:秋ピザ

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1週間くらいぶりの投稿です。
……うん、まぁあれですわい。
お気に入りの数が気付いたら一月で100以上増えていて一瞬我が目を疑いました。えぇ。
それになんだか日刊ランキングにまで……
なにこれ怖い。でも本当にありがとうございましたっ!

そんなわけでグダグダパートに戻る本編どーぞ。


慣れないことをすると疲労するという真理

慣れないことって、するべきじゃないと思う。

俺は伊熊との交渉を終えてようやく帰宅できたことに謎の達成感を覚えながら、玄関でぐったりしていた。

動きたくない。というか正直なところしばらくは寝て過ごしたい。

菫先生に俺のクローンとかホムンクルスを作っていないか聞くのも大事だがそれよりもまず、寝たい。

体が重いんだ。そしてなんというか……

「ティナぁ……」

 

ティナ成分が足りない。

普段ならここまでティナ成分が枯渇することはないのに、おかしい。

それもこれも交渉や怒りを抑えるなんて慣れないことしたからだろう。

自分でも少しくらいは我慢するのも必要だとなんとなく思ってはいたが、むしろそれはやめた方が良いかもしれないな。

毎回ここまでのティナ成分枯渇に悩まされていたら命がいくつあっても足りない。

……今膝の上で頭撫でられたらあっという間に回復したけども。

「今回は頑張りましたね、おにーさん」

 

「もっと褒めてくれ……」

 

ただ、枯渇状態から脱したのにまだ足りない。

いつもならこれくらいは簡単に回復するというのに。

だからとりあえずいつもより二倍くらい甘えて、とても15、6の野郎が出しているとは信じられないような甘えた声でもっともっとと催促する。

 

はっきり言って端から見ればこの有り様は普段より数倍、いや数十倍情けないだろう。

だが今はこうでもしないと足りない気がしてならない。というかまったく足りない。

「ん……なんだかいつもより積極的ですね」

 

「…………」

 

「可愛いですよおにーさん。特に……欲望に素直すぎて一点の曇りもない眼とか、痛いくらい強く抱き締めてくる腕とか……ふふ、まるで赤ちゃんみたいです」

 

もはや言葉を交わすことすらもどかしく、ただただ自分が満たされるように一心不乱に甘える。

まるで赤ちゃんのよう、とティナは言ったが、まさにその通り……いや、少なくとも下手に知恵が回る分こっちの方が随分と悪質だろう。

ただただ自分の思い通りにことを動かそうとする部分は共通しているが、俺みたいな人間がやると影響が甚大なんてものじや済まない。

唯一の救いがあるとしたら、欲望の対象が一人しか居ないから周囲への影響が少ないということだろう。

そもそも人間関係が完全クローズドだから関わりのある相手がほとんどいないというのもあるが。

まぁ、たとえ人間関係が完全にぶっ壊れてもほとんど修復不可能になっても気にはしないさ。

そんなことを考えつつ、とにかく今はこの満たされない状態を解消するため無心に甘える。

気付いたら背中に或守が乗っていても気にせず、ただただ自分の欲望を優先する。

言葉を交わすのも億劫で、無言のまま撫でられて、抱き付いて、理性もなにもかも蕩けさせていく。

まさに堕落の極みだろう。

たしか一週間くらい前にテレビでどこぞの政治家が言ってたっけ………

『あれが英雄?とんでもない、あれはただの災害だ』ってね。

 

………嫌なことを思い出した。

何やってんだ俺、せっかく癒されてんのに自分で自分の気分を悪くしてどうする。

「うぁ………」

 

今日はもう本格的にダメかもしれない。

動きたくないし、ふとしたことで思考がネガティブな方向に逸れる。

前にも何度か似たような気分になった日があったが、その時より何倍も辛い。

この場から一歩だって動きたくないし、ティナと離れたら途端にショック死するんじゃないかとすら思うほど離れたくない。

むしろこのまま一生、ティナに甘やかされて過ごしたい。

 

なにも考えず、無為徒食を貪り、自分の大事なものだけを守る以外はこの力も使わない。

実に楽で素晴らしい生活だろうなぁ。

俺がありもしない、というかむしろやろうとしても出来ない可能性の高い理想的な未来を思い描いていると、ずっと無言で抱きついていた或守が珍しくお願いをしてきた。

「蓮太郎さん、1つお願いしても良いですか?」

 

「……ん?」

 

或守からお願いしてくるなんて珍しい。

まぁこの状況自体が珍しいんだから珍しいことに珍しいことが重なったという訳だろう。

別に無条件で断る理由もないし、聞いてやるかね。

「本当にちょっとだけでも良いので、抱き締めてもらえますか?」

 

「へ?」

 

……と、思ったらちょっと予想の斜め上だった。

自己主張が激しくないというか、あまりないタイプだと思ったらそこはかとなく積極的だったらしい。

ただ、ちょっと今はティナから離れたくない。でも或守が珍しく(出会って11月も経っていないが)お願いしてきたんだから答えてあげたいと思わなくもない。

そんな2つの相反する気持ちに挟まれ、俺は少しの間意識を30倍程度に加速してしまうほど、悩んだ。

その間約6秒。体感に直すと3分。

それほど悩み続け、ようやく俺は2つとも叶えられる気がする方法を思い付いた。

選ぶのではなく、欲張りにどっちも取る方法。

二兎を追う者は一兎をも得ずとは言うが、しかし二兎を追わなければ二兎とも得る可能性は完全なゼロだ。

ゆえにどっちも取ろう。ダメだったらどっちも無理矢理手に入れてしまおう、それが答えである。

 

まず俺は軽く体を動かしてうつ伏せでティナに抱き付いていた状態から仰向けになる。

そして自然に乗ってきた或守をクッションのように抱き締めて、その上でティナの膝枕を楽しむ……贅沢な状況だ。両手に花どころじゃないな、これは。

「……おにーさん、今日は積極的なたけじゃなくて随分と欲張りなんですね?妬いちゃいますよ」

 

ただ、ちょっとティナ的には嬉しくないようだ……

まぁ、確かに俺がもしティナが俺以外の奴に甘えられているのを見たらマトモな思考能力を保てずに『気付いたら雷が落ちて事故死していた』なんて状況を生まれさせてしまうかもしれないからティナのことは言えないわけだが。

「ティナのことは他の何よりも好きだぞ?」

 

「それは知ってますよ。そういうことじゃなくて……」

 

とりあえず純粋に好きだと伝えてみると、ティナの予想とは少し違ったのか驚くような顔をしてから数秒ほど返答に悩み、そして言った。

「……まぁいいです、おにーさんが私のことを好きで居てくれるなら満足ですよ、私は」

 

言葉を紡ぐのに少々苦労している感じがしたことと目のハイライトがどこにも見えなかったのはきっと気のせいだろう……

なんか気疲れして眠いし、玄関は暗いからどちらも偶然だよな。

 

そんなことを考えつつ、俺はティナと或守に(多少変則的に)挟まれる状態のまま、眠気に抗うことをやめ、ゆっくりと意識を闇に沈めていくのだった。

 


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