供養の意味をこめて初投稿。
神々の栄光の時代は過ぎ去り、人の王らの選択によって人と神は別たれた。
神の子の誕生を経て、人類は繁栄と侵略を星の地平で謳歌する種となった。
その果てに星の命運すらも握り、その歴史を星に刻み付ける。
人類をより長く、より確かに、より長く繁栄させるための理にして基準なるもの。未来へと突き進まんとする人類の航海図。
これを魔術世界では『人理』と呼ばれ、また量子記録固定帯とも称されるそれは唐突に、そして完全に2017年を境に観測が不可能となった。人理継続保障機関『カルデア』はこれを人類存続の危機と捉え、過去への調査に踏み切る。
そして近未来観測システム『シバ』によって観測された歴史の歪み、七つの特異点。
人理定礎値 C+
第1の聖杯:“救国の聖処女” AD.1431 邪竜百年戦争 オルレアン
人理定礎値 B+
第2の聖杯:“薔薇の皇帝” AD.0060 永続狂気帝国 セプテム
人理定礎値 A
第3の聖杯:“嵐の航海者” AD.1573 封鎖終局四海 オケアノス
人理定礎値 A-
第4の聖杯:“ロンディニウムの騎士” AD.1888 死界魔霧都市 ロンドン
人理定礎値 A+
第5の聖杯:“鋼鉄の白衣” AD.1783 北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム
人理定礎値 EX
第6の聖杯:“輝けるアガートラム” AD.1273 神聖円卓領域 キャメロット
人理定礎値 A++
第7の聖杯:“天の鎖” BC.2655 絶対魔獣戦線 バビロニア
これを人理崩壊の原因とし、カルデア最後のマスターの少年は歴史を修正し、歪みの原因となった聖杯を回収するために過去への旅に出たのである。
それがいかなる英雄、いかなる神々すらも知りえぬ旅路となることはいまだ知らずに。
存在せぬはずの竜が舞い、よみがえった復讐の魔女が蹂躙するフランスを英霊として呼ばれた聖女とともに駆け抜けて。
滅びたはずの皇帝達が敵となり、自らが君臨した帝国を滅ぼさんと攻めくるのを薔薇の皇帝とともに食い止め、果てに待っていた始まりの神祖と破壊の大王を打ち倒し。
閉ざされた大海にて王にならんとする愚かな者と、何も見ぬ幼き魔女の英雄達を、怪物と女神、そして世界を制覇した海賊とともに踏破した。
霧に閉ざされた街では反逆の騎士とともに成れの果てとなったものたちが作り出した幻想と戦い、人理を滅ぼした魔術王と邂逅した。
新大陸と呼ばれた地にあった特異点。そこでは様々な神話が入り乱れ、人類の英知と古き神威が激突するのを鋼鉄の天使とともに治療した。
死ねなかった騎士王の成れの果て。それに追従する騎士らが支配し、聖槍が閉ざさんとする世界。それを打ち崩さんと王命を果たせなかった騎士は妖精境より帰還した。最後のマスターとともに女神を止めるために。
そして最後のたどり着きし神代の地。未だ神の息吹が強く残り、人と神が割れぬ時代。ここにて少年は人類が生み出し、滅ぼした悪を見た。
いずれも地獄と呼ぶにふさわしき歴史の変わり目。
英雄らが生き、怪物がその姿を残し、誰も彼もが懸命に生きた時代。
人類の未来の行く末を決め、歴史の定礎となるにふさわしき導。
それらを少年は盾の少女とともに駆け抜けたのだ。
その旅路に魅せられた英霊が彼らにその剣を、その槍を、その杖を預けるにふさわしいと思うほどに。
その旅路の果てにはいかなる賞賛も、褒美も、記録も残らない。
人理の焼却がなくなれば、それをなした偉業もなくなるが故に。
されども人類最後のマスターは歩みを止めることは無いだろう。
魔術王を倒し、人理焼却を防ぐその時までは……。
しかし、ここでひとつの疑問を提示する。
人類の滅びを観測した2000年代。神秘が影に潜み、科学が隆盛を極め、人類の英知がその頂に届かんとするこの時代。果たしてこの現代に特異点がないと何故言い切れるのだ?
確かに神秘は無い。神秘の担い手たる魔術師達は時を経るにつれその力を失いつつある。到底世界を滅ぼすにはよほどのことが無い限り不可能であろう。
確かに怪物はいない。神々が去り、神秘が消えるにあたり、地上からはその姿も痕跡も消えはてた。存在せぬものに滅ぼせるはずは無い。
確かに事実は無い。人類の滅び。そのようなものが起きかけたとすれば情報伝達手段に優れた現代のことだ、たちまち世界に伝わり衆目にさらされることになるだろう。
……本当に?
当たり前に生き、当たり前に存在し、当たり前に続くと妄信する今。それが実は滅びかけたことがあったとしたら?
大衆が知らないだけ、気づかなかっただけで滅びかけたことがあったとしたら?
それは特異点と呼ぶにふさわしき、歴史の極点となるのではないだろうか?
ではここに世界を混じらせる。消えた英雄譚を今一度ここに。誰もが忘却し、当事者のみが知る滅びを招来するのだ。
魔術王の聖杯は不要である。すでにそこに聖杯に匹敵するものが存在しているが故に。
さぁ、人類最後のマスターよ。それに付き従う英雄らよ。
汝らに問いかけよう。
人類に存続する価値はありやと。
「君達を呼んだのは他でもない。実は西暦2000年以降、つまり現代に特意点が観測されたんだ」
魔術王の神殿に乗り込む前に観測された特意点。それは驚くことに現代に発見された。
「魔術王の神殿に乗り込む前にできる限り不安要素は排除しておくべきだ。カルデアの指揮官としてもこの特意点を放置しておくわけにはいかない」
その時代は2016年12月24日。神の子の誕生を祝う聖なる日。
「それにこの特異点の揺らぎはいままで観測したどの特異点よりも強く、そして不確かだ。気をつけていくべきだ。といっても今までの特異点をクリアしてきた君たちなら何があっても驚くことはないだろう。さすがにビーストクラスも出てこないと思うし」
「ロマニ、それフラグフラグ」
その特異点にて最後のマスターの少年は人類の、否、大衆の欲望を見る。
『なんなんだあの怪物は!? こっちの観測データに該当する存在は無い! まったくもって未知数の存在だ!』
「先輩、こちらの攻撃がほとんど通じてません。撤退を進言します!」
「命あってのなんとやらともいうしね。とっとと退却しよう」
レイシフトした先は地下鉄のような迷路であった。そこに潜む怪物に少年達は襲われ危機に陥る。
「敵、消滅しました。彼らが使ったあの力は一体……?」
「いよーう、お二人さん。怪我は無いか?」
「ちょっと何警戒無く話しかけてるのよスカル! 敵だったらどうするわけ!?」
「ふむ。鎧を身にまとった大盾の少女か……中々に芸術意欲を掻き立てられるな」
「おいオイナリどっからそのスケッチブックと鉛筆出した」
「もう、彼がいないと本当にカオスね……」
「あはは、でもあの人たち、誰だろうね。見たところ私達と同じペルソナ使いじゃないみたいだし……」
そんな彼らを救ったのは自らの分身を操る不可思議なコスチュームをまとった怪盗団を名乗るものたちであった。
『つまりメメントスとは大衆の願望が生み出した心の迷宮であると……。そんな話信じられるか!』
「だが実際にここにある以上認めるしかないよ、ロマニ」
「本当は我輩たち怪盗団がクリスマスイブに核であるオタカラを盗んだおかげで崩壊したんだけどな。どうしてまだメメントスがあるかは我輩でもわからん。ジョーカーも行方不明のままだしな……」
『おそらくそのオタカラというやつとは違う聖杯がここを生み出したんだろう。ここの一番下に聖杯らしき反応がある』
現地の強力な助っ人を得た少年は、リーダーが不在だという怪盗団とともに迷宮の最深部へと降りていく。
『そんな……何で現代に神霊、それも主神クラスが存在しているんだ!?』
「まさかまた、お前と戦う羽目になるとはな」
「それはこちらの台詞だ怪盗団。今度こそ絶対なる統制の世界を作るために、最後のマスターともども打ち倒してやろう!」
そこにありしは大衆が求めし願望そのもの。諦めと怠惰の果てに生み出されし統率者。人類最後のマスターは大衆が生み出せし偽神に勝てるのだろうか。
「反逆の時は来た。奪いつくせ、アルセーヌ!」
人類定礎値 A
第―の聖杯:“仮面の反逆者” A.D.2016 大衆願望迷宮 メメントス
「先輩大変です! 猫が歩いてしゃべってます!」
「まさかのキャッツの親戚!?」
「我輩は猫じゃねー! 人間だ!」
誰が特異点が一つだけだと言った?
例え大衆の望みを打ち倒しても、人類の愚かしさは止まらない。
再び認識せよ、その業を。
「すまない。またしても現代に特異点が発見された。場所は日本の地方都市だ。調べてみたところ奇妙な連続殺人事件が起きた地らしいんだけど……」
人理定礎値 A+
第―の聖杯:“大神の討伐者” A.D.2012 霧雨封印世界 ヤソイナバ
人類の愚かしさを知ったか?
ならばその始まりを見るがいい。
絶対に覆せぬ運命を。滅びの定まりし、歴史の影に消えた救世主の痕跡を。
「二度あることは三度あるっていうけど……。これで最後だ。あの男が言っていたことが正しければこれが現代における最後の特異点。心象無意識にまつわる戦いの幕引きとなるだろう。恐らくはこれまで攻略してきた二つの特異点以上に危険に満ちていることだろう。だけど
人理定礎値 EX
第―の聖杯:“月に捧げられし救世主” A.D.2009 月影時刻封塔 タルタロス
すべてを見た上で改めて問おう、人類最後のマスターよ。
自ら滅びを望みし今の人類に、存続の価値はありや、と。