武装ジェットコースターが二人に迫ってくる。
赤黒い肉片が宙を走り、即座にレールが構築。作成された簡易レールを走り、武装ジェットコースターが走ってきた。
流線形の機体が高所から落下した。
ジェットコースターが動きながら、それと同時に赤黒い肉片が現在進行形でレールを作っていく。
トトとドロシーが走ってる位置へよりも少し前にレールが作らた。すぐにジェットコースターが突撃を敢行。
しかし、あっさりと避けられた。レールが先に作られ、その上をジェットコースターが走っているのだからレールが敷かれていない位置にずれればいいのだから、当然であった。
すぐに複数の紐状の肉片が伸ばされ、新たなレールが構築される。その上を他のジェットコースターたちが滑ってくる。
あるものは肉片に引かれ上昇し、あるものは下降しはじめ、また別のものは二人に迫ってきていた。
位置も厄介であり、二人を直接狙ってレールが引かれているものもあれば、左右から挟むように肉片が伸ばされているもの、前から走ってきたと思ったら急降下するものなど、様々な種類のレールが引かれていた。
しかし、悲しきかな所詮はジェットコースター、次にどこに来るのかはレールが教えてくれるため、二人はそれを避ければ容易く避けることが出来る。
トロッコの様な騒音、高速の者が隣を通り過ぎることに身が竦みそうになるが、それだけであった。来るコースが読めるのなら、怖くとも避けるのは難しくはない。
直角に曲がったり急転換するようならあるいは触れてしまうこともあるかもしれないが、レールの上を走る遊具の都合上、急な角度で動きを行うと車輪がレールから外れてしまうためできなかった。
「あーもう、どうしてこうわけのわからない仕掛けが多いかなっ。あれとかどう考えても趣味以外考えられないのだけれど」
「何らかの試験なのかもしれないでありますな。まぁ、最初の小銃のほうが効果的であると思われるでありますが」
「やっぱり、時間が来たからこうなったのかな」
「でありましょうな。パレードが開始された瞬間から襲撃が始まったのでありますから」
「もう、今回は平穏でに行けると思ったのに、これだよ……」
閑散とした雰囲気だった遊園地は騒がしく変貌していた。
雑音と共にスピーカーから吐き出された『時間となりました、パレードを開始します』という音声と共に周囲は一変。
遊具や施設に隠されていたと思われる小銃で撃たれ、遊具に近づくと、遊具自体が変化した敵に襲われていた。
最初、不意を撃たれた際はドロシーが勘で棺桶を盾に防ぎ、それからトトが鍵爪で防禦しながら突破した者の、跳ね返った弾丸や破片により細かく傷が付き、服に小さな裂け目がついていた。
その後、移動した先、ジェットコースターがあったところを通り抜けようとして二人は現在、ジェットコースターに襲われていた。
「うん、けど、このままならここは簡単に行けるね」
「ええ、なにせレールが先に敷かれますから、レールを避けるだけであります」
赤紫色の肉片でできた線路が前後から交差するようににひかれる。
それをドロシーとトトは右に避けて、次の場所へと走っていく。
あとはこれを繰り返していくだけ、と思った瞬間、背中に感じた悪寒にドロシーは「ダメッ!」と声を上げた。
今回も避けるだけと思っていたジェットコースターの側面から飛行機の羽の様な刃が生える。
それは勢いそのままに途中にあった鋼鉄製のマスコット像を切り裂くと、二人に前方から迫ってくる。
ドロシーが右側にアンデッドガンを撃って加速、トトを左から抱き着くように組み伏せ、ギリギリで刃を避ける。
そのまま通り過ぎていったジェットコースターが急上昇。別のレールが、地面に接触せんばかりに敷かれ、その後ろを新たなジェットコースターが追随してきた。
さらに悪いことにもう1台、新たなジェットコースターの上を新たなレールが敷かれ、追加のジェットコースターが急落下してくる。
新たなジェットコースターを跳んで避けようものなら、追加のジェットコースターに轢かれるか、切り裂かれるだろう。
いち早く立ち上がったドロシーが棺桶を盾にしようとしたが、トトが横から奪うように棺桶を掴むと、ドロシーを庇うように身を滑りこませ、逆の鍵爪を地面にめり込ませた。
棺桶とジェットコースターが激突する。轟音と共に火花が散り、トトの腕からみしりと音がする。鍵爪がめり込んだコンクリートの罅が深まる。
蓋にも同じく罅が入るが、なんとか耐えきる。右側の障害物に激突した形となり、ジェットコースターが右方からめくり上がり、線路から脱線した。
勢いを殺すことが出来ず、剛音と共に鉄柵に突っ込んだ。鉄柵が拉げ、折れ、無残な姿をさらしている。
「トト、大丈夫!?」
「問題はないであります」
慌てるドロシーとは対照的にトトは落ち着いている。鍵爪を軽く振り調子を確かめてみるが、痛みや違和感は感じない。
これが生身であったら肉片になっていたことを考えると、今だけは怪物の腕であることにトトは感謝した。
しかし、ジェットコースターは停まらない。レールを轢くという工程がある都合上、一度に迫ってくるジェットコースターの数には限りがあるため、攻撃を防ぎ切った今はほんの少しだけの休息があった。
「あれで防げるのなら、防ぎながら進めないかな」
「いえ、無理でしょう。今はなんとか防げましたが、前後から挟まれたり、連続で攻撃を受けるとなるとさすがに持たないであります」
「となると……」
ドロシーはしばし、考え。何かを閃いたように、間が抜けた声を上げた。
「あれ、乗れない?」
「気が狂ったでありますか」
「狂ってないよっ。そうじゃなくてジェットコースターが突撃するのにレールを敷かないといけないのだから、ジェットコースターに乗っちゃえばそもそも攻撃を受けないんじゃないかなーって」
「先ほどのように席から刃がでてきたらどうするでありますか」
「あ、そっか」
「まったくドロシーは……。しかし、その案は悪くないかもしれないであります」
「どういうこと?」
「ジェットコースターではなく、レールの上なら脅威はジェットコースターだけになるのではないか、と」
「あのレールが乗った途端に途切れたらどうするの?」
「その場合、ジェットコースター自体も落ちて行動できなくなるので、防ぎ切れるなら問題はないであります」
「うん。問題は防ぐ手段がないことだよね」
「そうでありますな」
「まったくトトは……」
走っている二人の左右にレールが敷かれる。赤黒い肉が二人の傍を奔り、レールを形成した。
音は2つ、前後からジェットコースターの迫る音がする。トトがドロシーを真上に投げ、自らもレールを踏みつけ、跳躍した。
二人が居た位置を前後から迫ったジェットコースターが通過し、その間に会った木や鉄柱、電灯などが切り裂かれ、倒れる。
数mは上空にいる二人であったが、ジェットコースターの方が長く、このままではジェットコースターが通り過ぎるより早く、二人が地面に落ちて切り裂かれるだろう。
先に上空に投げられたドロシーが反転し、アンデッドガンを右手のジェットコースターに乱射。
一、二、三、四、五、無数のマズルフラッシュと共に、数多の薬莢が地面に落ち、遮二無二乱射した弾幕がまき散らされる。まるで弾丸の壁だ。
そのうちのどれかが、ジェットコースターと連結部にあたったようで、右側のジェットコースターの後ろ半分がレールが外れ、吹き飛び、左側のジェットコースターにぶつかった。
鈍い大音を立て、ジェットコースター同士がぶつかり、互いに脱線したジェットコースターが辺り一面の遊具へと激突した。
硝子が砕け、鉄柵が拉げ、コーヒーカップが曲がり、鋭く尖った断面をさらしていた。
折れ捻じれた刃が地面に突き刺さり、激突の衝撃飛び散った破片がドロシーとトトにも飛んでくる。
ドロシーの服が切り刻まれ、柔らかな肌に破片が突き刺さる。トトは腕を重ねるようにして破片を防いだ。
重々しい音共に二人が着地する。
「ドロシー? 怪我の程度はどうであります?!」
「動くには問題ないよ!」
新たなレールが敷かれる。今度は3つ。
1つはまっすぐと二人の上方をまっすぐと通る様に。
1つは二人の右側、斜め上側から傾斜をつけて降りてくる。
1つは二人の左側、斜め下側から傾斜をつけて登っていく。
トトはレールを見て、すぐに近くのコーヒーカップの残骸を掴むと、左右のレールの上に放り投げた。
ドロシーがアンデッドガンのポンプを引いて排莢、中折れ式の間アンデッドガンを開き、新たな弾薬を詰め込んだ。
「今のうちであります」
「急いでかけよう!」
迫ってくるジェットコースター。しかし、左右のレールの上には残骸がのっており、今から障害物を避けるために途切れさしても間に合わない。
結果、ジェットコースターは残骸にぶつかり、脱線した。
上方を進むジェットコースターは2人が、左右に分かれて避けるだけで容易く無効化される。
2人はこの隙を狙い、この地域を駆け抜けた。
†
「ちょっと遊びすぎじゃないかな、これ!」
「むぅ………、先ほどとは別の意味でやりづらいであります」
ジェットコースター地帯を抜けて走った先、城へと続く道は回っていた。
城へと続く地域への一帯の地面がまるでメリーゴーランドのように回転している。
それらは何層かに分かれて、速度もまちまちに城を中心にするように移動していた。
一定の区域が右側にゆっくり回っていたと思えば、次の区域は左側に高速で回転している。
さらに次の区域は左側に低速で回転しており、その後ろは左右へと一定周期で回転方向が変わっていた。
そのようにいくつかの地域に分かれながら、地面自体がくるりくるりと回転し、まるで巨大なメリーゴーランドのようであった。
「さっきから思うのだけど、少しふざけすぎじゃない、これ?」
「自分たちを壊すだけならもっと効率的な方法もあるはずでありますしね」
「トト違うよ」
「なにが、でありますか?」
「壊す、じゃなくて、殺すだよ。わたしたちは物じゃない。まぁ、殺すと言うのもよくはないんだけど」
「……失礼。とりあえず、これは何か試験ではないでしょうか」
「試験?」
「初めのピエロが言っていたようにサイケデリックの試験の一環なのではないかと思うであります」
「あー……。けど、こんな大掛かりで回りくどい方法にどんな意味があるのだろう」
「わからないであります。ネクロマンサー自身の趣味やすでに発狂してる可能性もあるので」
「そっか」
2人が物陰から辺りの様子を探る。
ぐるりぐるりと動く地面のうえを無反応なアンデッドが佇んでいる。
表情がなく流されるように回転に吹き飛ばされ転がるそれらは、粗製乱雑されたゾンビのようだ。
襤褸切れのような古びた服、青白く生気を感じさせない肌、白濁した眼はただ機械的に目の前の物を写しているだけで何の感慨も持ってはいない。
何処に潜んでいたかわからないが、昼間みなかったことから、パレードが始まってから現れたのだろう。
それらも回転してる地面にはついていけない、またはそもそも反応してないようで回転に押し流され、外の地域へと放り出されたり、建物にぶつかったりしていた。
「あれはまぁ避けながら行けるのだけど……」
「問題は建物から発射される銃弾でありますね」
「あれだけ、殺意高すぎじゃないかな」
ドロシー達の潜んでいる売店の壁には幾多の穴が開いていた。
回転した地域を突っ切ろうとした際、回転している地域の建物、遊具などから銃撃されたのである。
自動的に撃つ装置があるのか、スナイパーという狙撃銃を扱うアンデッドが潜んでいるのか。
どちらかはわからないが、銃撃された2人は何発が撃たれつつも、後退し、トトが近くに会った売店の壁を破壊して中に避難した。
トトは撃たれた傷がすぐに再生するため現在、無傷の状態にまで回復しているが、ドロシーは肩や下腹などに穴が空き、赤いドロリとした血が流れていた。
地面自体が常に動いているためか射撃精度自体は高くないのだが、いかんせん数が多く、銃弾の壁とも言える状態であった。
さらに困ったことに、城を中心に回転しているため、城に行くためにはどうやってもあの地帯をくぐっていかなければならない。
「困ったな。あれ、どうやって突破するんだろう」
「ちょっと、手が思いつかないでありますな」
「無理やり棺桶を楯に進んでみる?」
「回転してる地面に足を取られて止まるのがきついでありますな。それさえなければ、行けないこともないでありますが」
「地面の回転は止めらないかな」
「自分の鍵爪で地面を掘ることはできそうでありますが、回転してる機構が浅いところにないと止めることは難しいかと」
「そうだ、トトの鍵爪で地面を掘って地下を通ろうよ」
「阿呆でありますか?」
「じゃあ、トトは何か案があるの?」
「そうでありますね……。硬度のあるものを盾に突破するのはいかがでありましょうか」
「回転する床はどうするの」
「気を付けながら進むぐらいしかないでありますね」
「それでいけるかなぁ……、あっ」
「どうしたでありますか?」
「いいことを思いついた」
ふむ?と疑問に思うトトの前に、ドロシーは棺桶から出した地図を広げる。
鉄の板がぼろぼろになっているが、遊具の位置を確認する分には問題はない。
城を中心に近くの遊具を指さして、ドロシーが説明すると、トトが珍しく呆れたような表現を浮かべた。
「正気でありますか?」
「けど、成功すればいけるんじゃない、近いし」
「……まぁ、失敗しても損はないでありますな」
2人が立ち上がる。ドロシーが玄関を開けた。
†
「これでいいでありますかな」
トトが鋼鉄でできた巨大なマスコット像を持ち上げる。
ピエロをかたどったどこか不気味なそれは2人の背丈の四倍以上あるが、トトは持ち上げるのに苦戦してる様子はない。
「うんうん、いい盾になりそうだね。それじゃ、やろっか」
「……本当にするのでありますか?」
「うん」
呆れた視線をトトが贈る。
目の前には城の近くにあるフリーフォールがあった。二人でどうすればピースがもらえるか検証した遊具である。
トトは溜息を一息つくと、大きく手を振りかぶり、鍵爪で薙いでフリーフォールの柱を1つ抉った。
握ったり殴ったりして潰すように運用することの多い鍵爪であるが、実は凄まじく鋭利なのである。まるで剃刀のごとき鋭さを持った鋭利な金属の塊である。
まるで乱杭歯で食い千切られたかのような破壊痕。正直、この手を握れるドロシーの度胸はすさまじいとトトは思う。
そして、トトがすぐにその場から退避する。
自重を支える柱の一部を壊され、フリーフォールが傾きはじめ、轟音を立てて、崩れ倒れた。耳を劈くような音。土煙が舞い上がる。
観覧車と比較しても並び立てるほどの、天に聳え立たんばかりの遊具が崩れ落ちた先には城が。
城そのものには届かないが、回転してる床の上に巨大な鉄の棒が叩きつけられる。
そして、回転している建物にぶつかり、互いに拉げ、砕け、破片が散らばり、でこぼこにへこむ。
間にいたアンデッドは巻き込まれ、肉が飛び散り、骨がばら撒かれ、赤黒い血が辺り一面に散らばった。
トトとドロシーはマスコット像の後ろに隠れ、その様子を窺っていたが、フリーフォールがつっかえ棒になったのか、回転が止まり、地面が何かつかかっているように小刻みに震えている。
「よし、いまのうちに行こう」
「まさか成功するとは……であります」
トトとドロシーが走り出す。
まだかろうじて残っていた防衛装置が銃弾を吐き出すが、トトが持っているマスコット像に阻まれ、あるいはドロシーが棺桶を盾にしてやり過ごした。
†
全ての回転床が止まっているわけではなかったため、いくつかの回転床に引っかかりながらも、トトとドロシーは城の近くまで走ってきた。
下からライトアップされた城が2人の眼前に聳え立つ。
白色に塗られた煉瓦作り。に見えるように塗装された壁である。いくつかある塔の先端は槍のように細く尖っており、青色に塗られている。
城の前面に巨大な鈍色の扉がついている。目的地はあそこのようで、前に来たときにはなかった光が扉の中心部に灯っていた。
城へ向かって走る2人の後ろを迷宮の時と同じ挽き肉機が追いかけている。キャタピラを高速で回転させ、頭上の長く伸びた鉤を振り回し、地面に落ちているアンデッドの死体を口のような中心部に放り込んでは内側で挽き肉に変えていた。
溢れ出た赤い液体が中心部の収集口から垂れ、地面にぽたりぽたりと落ちている。
「見えた!あとちょっとだよ、トト!」
「気を抜くの早いでありますよ」
「そうだね、城にたどり着くまでが冒険だよね」
「何か違う気が……、……っ!」
城へ走る二人の足元が揺れる。まるでとてつもなく重鈍なものが歩いて来るかのような地響き。
ドロシーとトトが足を止め、それを見上げる。
本来が丸みを帯びたそれは、真ん中から半分に分かれ胴体を形成している。
2つに割れた上半分は腕の様に横に広がり、丸みを帯びた観覧席がゆらゆらと揺れている。
それは人型の立ち上がった観覧車であった。
人型観覧車は城の前で立ちふさがる様に2人と相対する。
それは鉄骨でできた腕を地面にたたきつける。
ドロシーとトトはそれぞれ左右に転がり避ける。が、背後から追ってきていた挽き肉機は避けることがかなわず、拉げた蛙の様に無残な姿となった。
鉄片が飛び散り、自らや内包物の血潮、そしてオイルが地面にじわりと広がる。外れた車輪が道端へと転がっていく。
「あーもう、いっつも最後はあんなのだよ!」
「まぁ、毎回毎回、巨大物というのもの芸がないでありますね」
「厄介なのは同じだからね!?」
それは振り下ろした拳を右側へと薙ぎ払う。進行方向にいたトトは伏せつつも巨大な手甲を交差させて防御。僅かに掠る程度で済んだ。
しかし、その巨大な質量を殺し切ることは出来ず、弾かれた様に転がり2、3度地面をバウンドすると壁にたたきつけられる。
肺から空気が漏れるがすぐに立ち上がる。
よろめく足を必死に立ち上がらせつつ見上げると、人型観覧車は切り返しの左腕をふりあげられていた。
それが振り下ろされる前に、ドロシーのアンデッドガンが火を噴き、左腕の連結部を撃ち抜く。5度ほど連射したところで弾切れ。
トトとは逆方向に移動しつつも、中折れ式のアンデッドガンの尾栓を垂直に回転させ、薬室を開放、弾の排出と装填を行う。
使い終わった弾が地面に転がる。
トトに向って観覧車の左拳が振り下ろされる。しかし、先ほどの射撃で関節部がひずんでいるせいか正確な狙いをつけることはできず、トトは右に大きく跳ぶことで回避することができた。
地面にたたきつけられた左腕、その衝撃が最後のトドメとなったのか、みしりと音を立てて関節部が壊れ落下した。轟音。土煙が上がる。
その隙にドロシーが観覧車に近づく、狙いは足。アンデッドガンを構えたところで、自身が何かの影に隠れていることに気付く。頭上に視線を向けると、丸いものが飛来してきた。
観覧車の席だ。腕についている観覧車の席が発射されたのだ。
ドロシーは射撃諦め、その場から引く。数瞬前までドロシーがいた位置に観覧席が落とされ、割れた窓ガラスが周囲に飛び散った。
落とされた観覧席は1つではなく、10前後の席が地面へと落とされる。
ドロシーは一度後方へと離脱。トトと合流した。
合流したトトは先ほど触れた右腕が壊れたのか、右腕をだらりとぶら下げていた。
「トト!?」
「どうやら先ほどの一撃で骨が折れたようであります。まぁ、千切れなかっただけましかと」
「痛くない!? 大丈夫!?」
「アンデッドですので、問題はないであります。強いて言うなら戦力の低下が問題でありましょうか」
「そういう問題じゃないからっ」
ドロシーの心配そうな視線に居心地の悪そうなトト。
地面に落とされた観覧席がワイヤーに引かれて元の位置へと戻された。
聳え立つ城よりも2回りほども大きな観覧車であった、いまは上位半分が分かれ人に近い形をとっているため、城の半分程度の高さしかない。
人型といったもののそれはシルエットの問題であり、脚部は2本で立っているだけで、地面には無数の観覧席が接している。複数面が設置しており、元々の支えもあるため、実質四本以上の脚で自らを支えていた。
半分に分かれた鉄骨は腕のような役割を果たしており、先ほど左腕が壊れたため、いまは右腕だけである。それは途中にある丸い関節でつながっており、細かい動作はできないが、大雑把程度に人のように腕を動かしたりできる。
ライトアップされた光に照らされ、城を護る様に2人の前に立ちふさがっている。
「うーん、どうしたものかな……」
「はっきりというでありますがが、正面突破しかないかと」
「勝てるの、あれ?」
「勝つ必要はないかと……最悪、城の中に入ってしまえば追ってこない、といいでありますな」
「確証ないのっ」
「自分たちが城の辿り着くのが目的なので、来ないとう希望的観測でありますね」
「其れじゃダメだと思うのだけど」
「では、ドロシーになにかいい案があるのでありますか?」
「よくある方法だけど、脚狙いかな。あの観覧車が怖いのって巨体だからよね。けど、さっきの動きを見る限り、巨体で押しつぶそうとしてるだけだから、脚を壊して動けなくすればあとは壊すまで時間かからないと思うのだけど」
「………確かに、それしかなさそうでありますね」
「まぁ、そのために右腕を壊せればだいぶ楽だと思うのだけど」
「さきほどは攻撃しようとする隙をついたでありますが、馬鹿正直にうったところであたるでありましょうか」
「んー、正直、始めはびっくりしたけど、あんまり動きは早くなさそうだよ、あれ」
「ふむ」
「いまのところは巨体を振り回して、小回りは観覧席でカバーしてるって感じかな」
「なら、まずは腕をどうにかするであります」
「それができたら簡単なんだけどねー」
降ってきた観覧席を左に走って避けながら、ドロシーが困ったように観覧車を見る。さきほどは遮蔽物がなかったため腕を狙うのは難しくなかったが、今は連続的に観覧席を射出しているため、それらが邪魔をして弾が届く変わらない。
加えて、大雑把であるが、右腕を振り回しているため、油断していると一撃で先ほどの挽き肉機のようになってしまいそうであった。
トトの頭上に落ちそうになった観覧席をアンデッドガンで射ち弾きつつ。
「うん、無理。まず、観覧席か本体か、どっちの動きを止めないと攻撃に移れないかな」
「リスクが高いでありますが、自分が突撃するでありますか」
「正直、あんまりさせたくはないのだけど……ごめん、頼むね」
「諒解であります」
トトが弾けるように突進する。犬耳が周囲を探る様に動き、観覧席の音を事前に探る。フードの下から上空を見上げて、危険な観覧席を避けつつ前へと進んでいった。
隣で耳をつんざくような音が響き、破片が飛んでくるが気にしない。肌に当たった鉄片は肌の下の薄く強靭な素材でできた装甲に弾かれ、地面に落ちた。細かな傷などほうっておけばすぐに再生する。
自身の頭上に落ちてきた観覧席を残った左腕で薙ぎ、弾き飛ばす。足元がぱきりと音を立て罅が入るが、トトは気にしなかった。痛みは操作できるの問題にならない。
ドロシーはその場から離れ、大きく後退。観覧席が落ちてこない、かつ観覧車よく見える位置まで下がった。
観覧車はまずトトを迎撃しようと腕を無茶苦茶に振り下ろす。
トトがそれを左に右に動き、なんとか回避。爆撃されたような音と共に舞い上がる砂埃。一撃でも当たってしまえば命がない。トトは必死に回避に徹する。
少し話は変わるが、ドロシーの持っているアンデッドガンは対アンデッド用のショットガンを5つ連結したものだ。
それらは一度引き金を引くだけで5丁のショットガンが火を吹き、ばら撒かれた弾が銃弾の壁を形成するのだが、逆に射程距離が伸びれば伸びるほど弾が放射状に広がってしまう。
即ち、全く狙撃には向いていないのである。
であるがゆえに先ほど左関節を破壊した際も、その周囲ごと狙い連射することで損傷を与えた。
しかし、今、引き戻される観覧席が邪魔をしてばら撒かれた弾が右腕に当たるかは怪しいところである。
ならば、やることは腕を狙う事ではなく。
「トト、もうちょっと頑張って!」
先ほどから降ってくる観覧席、その引き戻すためのワイヤーを狙い、ドロシーはアンデッドガンを連射する。
叩き落されてから引き戻されるまでの一瞬を狙いドロシーの弾丸が次々と命中。まとめて数があるためかある程度大雑把に狙ってもどれかには当たっている。
トトが必死の時間稼ぎをしているなか、落ちてくる観覧席の数はみるみると減っていった。
あと少し、と思ったところで、ドロシーが思わず声をあげた。
「トト、駄目!」
観覧席がトトの周りにまとまって落ちてくる。トトはとっさに前方に転がるが、そこに観覧車の鉄骨の腕が落ちてくる。誘い込まれた。
間一髪でアンデッドガンを撃ち放つ。弾の雨が右腕にあたり、僅かに軌道をずらす。トトが残った左腕で観覧車の一撃を迎撃する。
巨大な杭が撃ち込まれた轟音と共にトトが弾かれた様に宙を飛ぶ。ドロシーがその先に必死に走る。
すごい勢いで転がるトトをドロシーが受け止め、あまりの威力によろけて尻もちをついた。
慌ててトトを確認すると残った左腕が無残にも曲がり、拉げ、鋼鉄でできた骨がはみ出ていた。
断面から覗く傷口には機械と肉片が混じった構造が見える。ばちりばちりと電気が走り、千切れた配線が外に露出していた。
いつも可愛らしく動く犬耳は片側が大きく千切れ、今にも取れそうな有様。
普段まとっているくたびれたローブもぼろぼろとなり、その下の身体全面を覆うボディスーツにも幾重からの傷が入っていた。
他に目立った外傷は少ないが、それでも満身創痍といっていい状態であった。
「ド……ロシ―、すまないで、あります……」
「しゃべらないで!トトなら治る、はずだから!」
「アンデッド、なので、そこらへんは大丈夫……のはずでありますが。それより、は前を……」
ドロシーが背負っていた棺を開け、パズルとピースを除き中身を急いで放り投げ、トトを入れ込む。その時、腰にいつもついている人形に気付き、トトと一緒に棺桶の中にしまった。
そして、慌てながらも棺桶を背負いなおし、その場を飛びのき、観覧車から距離を取った。
地響き。観覧車が緩やかにドロシーに近づいて来ている。
ゆっくりと一歩一歩。まず、自らの支えの部分が一歩動き、それが地についた後に、後ろの観覧車でできた足が進み、そして、最後に残った支えが進んでいく。
ドロシーが撃ったためか、引き戻せないワイヤーがずるりずるりと地面に垂れたまま、引き摺られる。
やはり動き自体は早くはないが、巨体は厄介であった。
後退はできない。
目の前の巨人が追ってこないかどうかの判断がつかず、加えて回転床の機構も完全に止まってはいないため、脚を止められる可能性もある。
加えて、建物からの銃撃を止める手段がない。これらの機構を壊したわけではなく、防いでここまで突破してきたのである。
行きはトトがマスコットを盾に、ドロシーが棺桶とアンデッドガンで援護しながら来たが、今はトトが倒れているためそれは使えない。
棺桶を盾にしようにも中にトトが入っている状況では、中のトトに悪影響が出る可能性が高かった。
であるゆえに、残された道は――。
「邪魔をしないで」
ドロシーが中折れ式のアンデッドガンの尾栓を回し、5つの薬室を開く。中の残弾を排莢し、新たな弾薬を1つ1つ詰めていく。
そしてアンデッドガンを再び元の形に戻すと、ポンプを引いて弾を装填した。アンデッドガンを構えて巨人を見据える。
巨人はライトアップされた城の光に照らされていた。
灰色に曇った空、星が見えない夜にその姿はまるで山が動いているようであった。
後ろに道はない。故に、ドロシーは前に進むしかなかった。
上方より観覧席が降ってくる。
幾度も落とされたためか硝子は砕け、丸っこいボディには凹凸が入り、扉が拉げ半分ほど開いていた。
それをドロシーは左右に避けながら前へと進んでいく。
落とされた観覧席を目隠しにして、腕を一転させた巨人の一撃が下から救い上げられる。
咄嗟に跳躍してドロシーが避けようとするが、高さが足りない。
必死に宙を足でけり上げると、何もない宙に足場がある様に何かを蹴り上げ、さらに右へと跳躍できた。
ドロシーがいた虚空を巨大な鉄塊が薙いだ。ドロシーはこの瞬間を逃さない。
アンデッドガンが火を噴く。5つの銃口からマズルフラッシュが輝き、下から振り上げた腕の関節部に向って連射が叩き込まれた。
重々しい音を立て、関節部に罅が入る。鉄骨でできた腕がだらりとぶら下がった。
動かそうとしているのだが、耳障りな雑音とともにわずかに持ち上がるだけで、いままでのように自由に動かすことはできないようだ。
片手を地面につけて着地する。急いでアンデッドガンの栓尾を開き、新たな弾薬を補給する。
そのまままっすぐに前に進んだ。観覧席がドロシーを狙って落ちてくるが、影が濃ゆくなるほど近づいた瞬間、ドロシーが後ろに引いた。
引きながらワイヤーを狙って射撃。回収中に制御を離れた観覧車がどこかへと飛んでいく。
いくつかの観覧席が近くに落ちて来たので、ドロシーは少し慌てた。
もはや残っている観覧席は数えるほどだ。
ドロシーが駆ける。背後の棺桶が上下に揺れるが、今は気にしている余裕はない。心の中でトトに謝りつつも必死に前へと進んだ。
上から落ちてくる観覧席に気を付けて避けながら巨人の横を通り過ぎようとする。
もはや薙ぎはらう鉄腕もなく、観覧席も避ければ脅威にならない。
ドロシーが走った。あとはあの門をくぐり、鉄扉の中に入りさえすれば、どうにかなるかもしれない。
希望的な観測に過ぎないが、いまはそれに縋るしかなかった。
観覧車の横を通り過ぎながら脚を撃とうとした瞬間、それを見た。支えにしている前後の柱で自らを支え、観覧席で形成されている脚をドロシーに向って高速で繰り出してくる姿を。
上にばかり気を取られていたドロシーは、横から放たれた巨大な蹴りに身を晒された。
既に互いに死力を尽くした身。そして、不意を撃たれた形となったドロシーにこれを避ける術はない。せめて、上から降り注いでくる観覧席に気を取られていなければ、避けることが出来たかもしれない。
当たれば本人のみならず、棺桶にいれたトトの命も潰える一撃が降り注いだ。
「だから」
それを。
「邪魔を」
ドロシーが突き出した右腕が受け止め。
「しないでよ――――!!」
そして、そのまま押し返し、観覧車を投げ捨てた。
今なら理解できる。自らの頭の中にある何かが外れて、自分の中からあふれ出た意志が世界を曲げる。
そこに理屈はなく、常人にとって手を動かすのが当たり前の様に。ドロシーにとって当たり前に重力を捻じ曲げたのだった。
ふと思えば、先ほど宙を蹴れたのも同じ事だったのだろう。
足元を揺らさんばかりの衝撃、思わず身を竦ませる地響き。今の音を持って、戦闘が終わったことをドロシーは確信した。
気が付けば何か身体の感覚は元に戻り、先ほど見せた力は使えなくなっている。
「トト、大丈夫……?」
棺桶を地面に降ろし、柩を開いてみるが返事はない。
どうやら眠っているようでトトは目を閉じて安らかなな寝息を立てていた。
左腕は痛々しく壊れたままであるが、その他の部分は再生が進んでいる様で先ほど見た時よりも傷は少なくなっていた。
千切れかけていた左の犬耳はピタリとくっつき赤い筋を残すのみ。身体に幾重に走っている傷も肉が抉れている部分が蠢きつつふさがりつつあった。
傷口の断面から見える機械はどのように治っているかはわからないが、しばらくは放っておくしかなかった。
見る限り大丈夫そうであることに安堵し、息を吐くと、ドロシーは門をくぐって城の中へと入っていった。
†
城の中に入ると通常の城の内部の様であった。
ドロシーに城暮らしの経験はないが、映画などで見た光景に近い。豪奢な階段があり、それに高級そうなカーペットがしかれ、木製でできた質素で格式ある扉が並んでいる。
大理石でできているのだろうか、白く冷たい石は顔が写りそうなほど綺麗な面となっている。
品の良い調度品が置かれた中できょろきょろと迷っていると、1つの扉がライトアップされ面食らう。
「ここに行けってことかな」
ひとり呟き、ゆっくりと扉に向って進んでいく。
あたりにアンデッドの気配はない。背中に背負っている棺桶からはトトの安定した安堵の感情が伝わってくる。
さきほどのような超能力は使えないという確信はあるのだが、普段から感応能力は元から持っている物なのだろうか。
その答えはこの先に進めばあるかもしれない。
ドロシーがそっと扉を開けた。
扉の先には下に降りていく階段があった。
そっと周囲を窺ってみるが、怪しいものは何もない。勘も安全だと告げている。
その直感に従い階段を降りていく。一段降りていくごとに、肌に感じる寒さが強くなる。
こつりこつり、誰もいないせいか、静寂の空間に自身の足音が響く。
普段はトトが隣にいてくれるがいまは背中の棺桶の中だ。もし腕を負傷していなかったら大きすぎる腕のせいで入らなかっただろう。
階段を降りた先には人工的につくられたトンネルがあった。
均されコンクリートでできたらしき地面、天井は丸く作られており罅一つない。綺麗に作られたトンネルであった。
地面の端にはライトが設置されており、それが光源となっている。
白一色で造られたトンネルは人工の色が濃ゆく出ており、一切の暖かさを感じない。
まるで医療棟に続く道みたい、とドロシーは思った。
そこを一歩一歩踏みしめるように進んでいくたびに、胸中の期待と不安が膨らんでいく。
何故、このような状態となっているかの期待。そして、今から何が起こるか、トトを守り切れるかの不安である。
それでもドロシーは前を向いて歩いていった。
†
進んだ先、コンクリートからタイルでできた床に代わって行くも歩みは止まらなかった。
薄暗い照明の中を歩いていく。
分かれ道はなく、やがて1つの扉の前に辿り着く。
黒い金属でできた自動式の扉。きっとそこが旅の終点なのだろう。
そう思いながら、ドロシーが扉の前に立つ。扉が自動的に左右に割れた。
そのまま部屋に入って目に入った光景は脳みそでできたクラゲであった。
各部位が巨大に膨れ上がり球体のようになっている。その下にある無数の赤い目がついており、全てがドロシーをぎょろり見た。
眼玉の群生体の下からは脊椎らしき神経がそのまま露出しており、宙にぶらりぶらりと浮いている。
ドロシーはあれが超能力により浮き、生きたまま稼働していることを感じ取った。
しゃべれると思ってはいなかったが、機械の合成音に似た音が空間に響く。
「プログラム”マンチキン”の終了を確認。被検体2名の無事を認識。工程に従い、記憶をすべて返還します」
光がドロシーを包む。