まだ物語は序章でございます。
今回は第一次ネウロイ大戦についての私なりの独自解釈と捏造設定があります。
とある宇宙。■■世界では地球と呼称されている惑星に酷似した星にて、宇宙単位で物を測ればごく小規模な戦いが勃発した。
戦いの原因となったのは正体不明の怪異。20世紀初頭にかけて頻繁に発生するようになったそれは、瞬く間に辺りを蹂躙した。
怪異達は金属の装甲を身に纏い、当時の科学力を凌駕した武装を有し、圧倒的な火力と金属を吸収する術を持つ。よって通常戦力では遠距離から狙って倒さなければならない戦術を執らざるを得なかったのだ。通常戦力がほぼ役に立たない以上、防衛の手段が限られてしまった国々は苦戦を強いられることになる。
そしてこの怪異は北欧にて初めて出現した為、当地にあった狼男伝説から『ネウロイ』と命名された。
これに対し、ネウロイを倒せる唯一の戦力が『ウィッチ』と呼ばれる少女達である。
この世界には魔力というものが存在する。それに干渉し、魔力を我が物として使い敵を倒す強力な存在だ。このウィッチは遥か古代から存在していたとされ、ローマ皇帝・カエサルを暗殺の危機から救ったウィッチがいる。それ以外で有名なのは織田信長の歴史が記された『信長公記』に登場する森蘭丸だ。
この伝承から多少は察せられるだろうが、ネウロイと呼ばれる怪異と人類は古代から度々衝突してきた歴史がある。ネウロイによって消失した国が存在しているのだ。最早人が住める場所ではないだろう、と科学者達は言う。当時の怪異は凄まじい科学力など無かったらしいが、それでも脅威である事に変わりはなかったのだ。
本題に入ろう。
そのような怪異であればとうの昔に全てが征服されていてもおかしくはない。ネウロイの出現数が限られているのならば話は別だが、当時はその制限が無かったらしく、幾らでも怪異が溢れ人類側は消耗と疲弊の一方を辿り、最終的に人類側が打ち破られる筈だった。
では何故人類は古い歴史において怪異を退けられたのか。答えは至極単純──
怪異を退けた『英雄』がいる。
古代の伝承によれば、その人物は男性。その時代にはありえない服装に身を包み、両手には赤銅色に染まった歪な形状の剣を持っていたらしい。
そして当時の人々は、その武器に
伝承、伝記には男性のウィッチも存在していたとされている。特に有名なのは扶桑皇国の歴史に登場する弓の名手、那須与一だ。
男性のウィッチは強大な魔力を持ち、古代のみならず神話にも語られている存在である。しかし怪異がネウロイと命名された20世紀初頭の現在は、ウィッチは女性しか存在していない。故に男性のウィッチは伝説として語り継がれているのだ。
では、その英雄も男性のウィッチだったのかと問われれば、それは否だと歴史が答えるだろう。
ウィッチには魔力を使う時にそのコントロールを補助する使い魔が存在する。外見は犬や猫などの動物の姿だが、一部の使い魔は人間並みの知性を持ち、言語を使う事が出来る個体もいる。彼らと契約する事によって初めてウィッチとなれるに等しい。
ウィッチの特徴は魔力を行使する際に使い魔の耳と尻尾が生える事。中々に可愛らしいものだと言える。
だが彼は違う。力を行使する時に使い魔の耳や尻尾は生えなかったという。そもそも魔力を使って戦うというものでは無く、別次元の力を使って戦っていた。その戦いぶりは誰もがウィッチではないと断言するほどの圧倒的な強さだったと記されている。
戦いが終わった後、英雄は忽然と消え去ったらしく、彼と対話した者はいない。
この英雄は古代の伝承だけではなく、上記の『信長公記』、ナポレオンの伝記にも登場しており、いずれも怪異に遭遇し軍勢を率いて戦争を行った出来事が類似している。
彼の特徴はどの伝承、伝記においても全て一致しており、同一人物である説が最も有力視されている。同一人物ならば彼は不老不死なのでは、と推測する学者もいたらしい。
そして、それらの歴史上の人物の誰もが実感し語り継がれたものがある。
──時が凍りつく感覚。
──彼の武器が時計の秒針を幻視する感覚。
──自然に
理解不能、意味不明だが、全員が同じ事を言っている。そうならざるを得ないのだと語っている。
──その姿は神そのもの。
時計の秒針、時が凍りつく感覚、圧倒的な強さ、神そのものだとしか思えない要素。これらの伝承をまとめ研究した19世紀のとある歴史学者が彼の事をこう呼称し、崇めた。
──『永遠の刹那』、と。
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──第一次ネウロイ大戦。
20世紀初頭において不意に出現したネウロイと呼ばれる怪異は非常に強力な科学力を持ち瞬く間に辺りを蹂躙し始めた為に、それを脅威だと認識した人類は彼らとの戦争を余儀なくされた。それが始まったのが1914年の事。
金属の装甲に驚異の科学力。そして空を飛ぶ怪異となれば、歴史に登場した今までの怪異とは明らかに一線を画するものがあり、人類は防戦一方になってしまう羽目になる。
これは単に人類側がネウロイに対する攻撃手段が限定されてしまっているのと、決め手が何もないからである。だがこれは不利に不利を重ねるものとなってしまっており、唯一の戦力であるウィッチ達も反撃の機会を失ってしまっている。
そして、1916年の冬。今日もネウロイに対して苦戦を強いられているウィッチ達が懸命に戦っていた。
「ぐぅっ!」
一人の少女が苦悶の声を上げた。敵の放つ怪光線を魔法陣による防御シールドで防ぐ衝撃が身体中に駆け巡る。
その光景を視界に入れつつ、他の少女がネウロイに向かってGew98の銃口を向けて発砲する。
だがネウロイの装甲を傷つけるだけで砕く事は敵わず。発砲した少女はその様子に思わず舌打ちした。
「ちっ! 小型なら何とかなりますけど、大型だとコアを狙わないとどうにもなりませんね!」
「弱点がある、という事は分かっている。だが──」
「地上からでしか攻撃手段がないから長期戦必至ですし、戦線維持も難しいったらありゃしない! 投げ出したくなりますよあんなもん!」
悪態を吐きつつ、少女はネウロイに再度Gew98を発砲する。銃弾はネウロイの左翼に炸裂し、今度は装甲を砕く事に成功した。
しかし戦闘機のようにそのまま墜落することはなく、その場に浮遊しつつ砕かれた装甲が再生を始める。
小型のネウロイは全て駆逐し終えたが、大型ネウロイとなるとそうもいかない。弱点であるコアを破壊しなければ、消滅することはない。
「また再生……はて、これで何度目か」
「もう数えてませんよゲルリッツ中佐。魔眼持ちでもない私達じゃあ虱潰しに探すしかないですし」
「だが弾薬も長くは保たない。しかしコアがあるだろう場所は特定出来た」
ゲルリッツと呼ばれた少女は、ネウロイの右翼の部分に指を指す。
恐らくそこが、コアがある場所。
「右翼だ。付け根の部分にコアがあるに違いない」
「中佐の観察力はよく冴えますからね。なら私は支援、シュミット軍曹が注意を引きつけますね。その隙に中佐はとどめをお願いします」
「わ、私も頑張ります……!」
「良いだろう、囮は任せた。ブラウナー曹長、シュミット軍曹……では行くぞ!」
ゲルリッツの号令の瞬間、三人は足下に魔法陣を展開。進むべき方向へ運動の推進力を働きかけ、弾かれるように飛び出し散開した。
陸戦高速移動用魔法陣。陸戦を強いられているウィッチ達が大戦初期に編み出した技術である。コアを特定する魔眼持ちのウィッチが非常に少なく、陸から虱潰しにコアを探すしかなかった為に走りながらでは機動力に欠ける。よってネウロイの攻撃を避けきれない危険性も生まれてしまう。
故にその危険性の排除と機動力の問題を解消する為に熟練のウィッチ達が開発した技術だ。それがウィッチの間で瞬く間に広がり、今に至る。
「えいっ!」
シュミットがネウロイに接近し、手に持つMP18を連射。ネウロイの装甲に銃弾が浴びせられ、目標がシュミットに集中しようとする。
「ふっ!」
だがネウロイの右翼、コアのすぐ近くの装甲が銃弾によって貫かれ、シュミットへの集中攻撃が中断される。ゲルリッツのスプリングフィールドM1903小銃によって狙撃されたのだ。
ネウロイは狙撃された地点へ身体を向け、一番の脅威になるだろうゲルリッツを先に排除しようとした。
しかし狙撃地点に当のゲルリッツの姿は見当たらない。すると怪光線を発射する部位が再度の狙撃によって破壊される。
「■■■■■■■■■■■!!!」
ネウロイが声にならない悲鳴を上げる。それは痛み故か、それとも塵風情に良いようにされている怒り故か。
だがそんなものは知った事ではない。ゲルリッツは次々に怪光線の発射部位を狙撃していき、ネウロイの攻撃力を削いでいく。
さて、徐々に装甲が削られていくネウロイに対しゲルリッツはどのようにして狙撃しているのか。
狙撃地点を即座に転々としつつ、寸分違わず目標に命中させている凄まじい精度。しかしピンポイントへの狙撃は基本的に立ち止まり照準を合わせなければならない。
それに加え、ゲルリッツの持つスプリングフィールドM1903の作動方式はボルトアクションだ。狙撃地点を頻繁に移動し、次弾を装填してピンポイントに照準を定め、的確に狙撃するという一纏めの動作を極めて短時間で行う事は難しい。なのにゲルリッツはそれを十秒以内で行えている。
ではゲルリッツが何故それを可能にしているのか。それは現在戦っている彼女の行動にあった。
──
彼女の取っている行動は単純だ。陸戦高速移動用魔法陣で高速移動しつつ次弾を高速で装填、そのままネウロイに向けて狙撃。それのみ。
では何故照準を定めずにピンポイントで命中しているのか。それはゲルリッツの固有魔法にある。
『自動追尾絶対命中』
これがゲルリッツの固有魔法。撃てば対象に弾丸が吸い込まれるように向かい、必ず命中する。その際の弾丸の物理法則はゲルリッツの思うままだ。極端な例だが、弾道を垂直に曲げる事も可能となる。
(流石はゲルリッツ中佐。“魔弾の射手”の異名は伊達じゃない)
ブラウナーは微笑し、右翼に向けて手榴弾を思い切り投擲する。そしてゲルリッツとすれ違いさまに装弾を完了している予備のM1903と弾切れのM1903とを交換した。
ゲルリッツの固有魔法は聞けば非常に強力だが、弱点もある。それは高速装填に高速移動、そして固有魔法の狙撃を同時にこなしている為、防御シールドが一切展開出来ない。
一度でも被弾すれば、重傷は免れない。故にこそゲルリッツを支援する者が必要となる。それがブラウナーとシュミットだ。
シュミットは囮と陽動。ブラウナーは意識外からの攻撃と仲間達への支援。これらがあってゲルリッツは本来の力を十全に発揮出来るのだ。
そして──
「そこだ」
ブラウナーの手榴弾によって削れた右翼の装甲にコアが露出し、それをゲルリッツが撃ち抜いた。
「■■■■■■■■■───」
コアが砕かれ、その巨体が粒子へと霧散する。消滅を確認し、ゲルリッツの元に二人が集まった。
「ふむ、何とかなったか。『HQ、こちら“魔弾”。大型ネウロイ撃破及び消滅確認。戦闘を終了する、以上』」
「あー、もう疲れましたよ……。今日はもうネウロイと戦うのは勘弁です」
「お、お疲れ様です……」
ゲルリッツは淡々と本部に事後報告を連絡。ブラウナーは気だるそうに呟き、それをシュミットが苦笑しながらも
そして、シュミットが珍しく自分からゲルリッツにとある質問をした。
「あの、中佐」
「どうした、シュミット軍曹」
「第一次ネウロイ大戦が勃発してもう三年。戦況が膠着した状態が続き、我らカールスラント軍も疲弊しきっています」
「……確かにそうだな」
「この戦いは、いつまで続くのでしょうか?」
「………」
それは純粋な疑問だった。
防戦一方の戦争、一向に好転しない戦況。あるのは辛うじて維持出来ている戦線と、ネウロイを撃墜していく戦果のみ。何かしらの攻勢をかけられるきっかけを掴まなければ、士気は落ちていく一方だ。
「ふむ。それに対する答えは『分からない』、だな。私も知りたいよ」
「……です、よね」
「ま、分かってるのはこのままだと此処も保たないという事ですね、シュミット」
「うん……」
彼女達が防衛している拠点はカールスラント軍の要の一つ。そこには“魔弾”の分隊を除いたウィッチ達も所属しており、彼女達には防衛を任せている。
三人しかいない“魔弾”の分隊がネウロイ相手に何故三年も維持出来たかと言えば、ひとえに“魔弾”の実力がほかのウィッチと一線を画しているからだ。
それ以外だと、戦力を極力疲弊させぬようにゲルリッツがウィッチ達にローテーションで哨戒任務に当たらせている、というのも一つ。そして直接ネウロイを叩く役割を“魔弾”が請け負い、消耗を一部分のみに抑えているのだ。
「中佐は良くやっている方ですよ。他の防衛拠点はこっちより酷いみたいですから」
「だが、悲鳴を上げているのはどちらも変わらん。いずれにせよ、あと一年持ち堪えられれば良い方だろう」
「うぅ……」
数こそ極端に少ないものの、二日に三度ネウロイが侵攻してくる為、休息を与える時間がない。加え、侵攻してくるネウロイは必ず大型がやって来る故に、弾薬の消耗が大きい。
三年もこれを続けているからこそ補給もままならない。ゲルリッツの言う通り、長くて後一年
最早、防衛ラインが崩壊しかかっているのだ。
「昔の人々はあんなおっかない奴らと戦争して生き延びているんですよね。凄いですよ」
「で、でもそれは『永遠の刹那』と呼ばれてる英雄がいたから出来た事らしいし、一概には言えないよ……」
「あー、その人がいないととっくに詰んでるって事か……やだなぁ。嘘でも良いから現れてくれないかなぁ〜」
ため息を吐きながら呑気な事を言うブラウナーの側で、ゲルリッツはその英雄の事を思い出していた。
(……『永遠の刹那』か。伝説上の人物だが、彼が現れてくれれば確かに戦況も変わるだろう)
──正に神頼みだな。
らしくないことを考え苦笑する。
正直、侵攻して来るネウロイの数が極端に少ないからこそ防衛ラインを維持出来るのであって、一度に大群が攻めて来られるとどうしようもない。
これは予想したくない事だが、仮に第一次ネウロイ大戦を切り抜けても、第二次でカールスラントが存続出来るだろうか。
恐らく不可能だ。どう考えても第二次は今まで以上の数で攻め入る筈。そうなればどの道カールスラントは陥落する。そしてカールスラントだけに留まらず、他の国もそうなるのではないだろうか。
(もし彼が現れても、我々が不甲斐なければ意味がない)
攻撃手段が陸戦のみで限定されている。これが一番大きな問題だ。下からでしかネウロイに攻撃出来ず、必要以上の弾薬と人員を消耗・疲弊させてしまう。未だに攻勢に出られない理由がそれだ。
例え『永遠の刹那』が現れても、彼に依存していては人類は攻勢に出られるだけの戦力を発展させられず、結果何の意味もない。
(せめて、
そう考えた時だった。
「『こちらカイザーベルク防衛拠点本部! 聞こえますか中佐!?』」
無線から突如として声が発せられた。ゲルリッツはそれを取り出し応答する。
「どうした。何があった」
「『緊急事態です! 北東の方角に“大多数”のネウロイ発見! 此方に向かって侵攻して来ています! 数は大型10、中型約50、小型はおおよそ100以上!』」
「……何だと」
絶句。それしかなかった。
カールスラントが落とされる可能性として十分にありえる大多数のネウロイによる侵攻。まさか、それを考えた直後にこの報せが届くとは。
あまりにも不運極まりない、と思ってしまった。それはゲルリッツだけに限ったことではない。
「……無線で聞きましたけど、これは流石に拙いですね」
「そん、な……」
ブラウナーは顔をしかめ、シュミットは驚愕を隠しきれない様子だ。
三人は第一次ネウロイ大戦初期に大多数のネウロイと交戦した過去がある。その一戦を分かりやすく例えるなら総力戦。幸い、ウィッチ達は陸戦高速移動用魔方陣をものに出来ていた為、ウィッチの死傷者は三割程度で済んだ。これをハンブルグ総力戦と呼んでいる。
それでも大多数のネウロイを退けられたのはまだカールスラントが疲弊していない時期であり、物資が行き届いているのと、迎撃には大多数の兵力を編成していたからに過ぎない。
今の状態では、ネウロイの大群に勝てる見込みは薄い。ゲルリッツはこの状況で最善の方法が何なのかを考えた末、防衛拠点に指示を出す。
「『此方“魔弾”、カイザーベルク防衛拠点の皆に告ぐ。ベルリンにこの事態を伝えた後、直ちに撤退の準備だ。──防衛拠点を放棄、第二拠点まで撤退せよ』」
「『ッ! ですがこの拠点を放棄すれば、首都ベルリンに直接攻め込まれる可能性も出て来ます!! それを考えてない訳ではないでしょう!?』」
これは苦渋の決断。防衛拠点の現状を最も把握しているのはゲルリッツであり、歴戦の猛者だ。何も考えていない訳がない。
「『分かっている。現状を把握した上での判断だ。大多数のネウロイとなれば、かつてのハンブルグ総力戦と同等の兵力・物資が必要になる』」
「『ハンブルグ総力戦……』」
「『あの総力戦を経験した私から言わせれば、現存の防衛戦力では太刀打ち出来ん。守っても必ず落とされる』」
ハンブルグ総力戦は大半の戦力を注いでやっと大群を全滅できた戦いだ。その時の魔眼持ちはたった二人。その内一人をゲルリッツ直属の分隊に組み込み、遠距離から狙撃して一機ずつ撃墜していった。
総力戦とは言うものの、魔眼持ちとゲルリッツがいなければ逆に敗走していた可能性も十分にあった瀬戸際の戦いでもあったのだ。そしてその魔眼持ちは総力戦の後、別の部隊に配属され一年前に戦死している。
「『総力を挙げてなお拠点が落とされるという事は全滅と同義だ。この戦争がいつ終わるかも分からん現状で、みすみす兵士達を死なせるような馬鹿げた命令は下せんよ』」
「『──分かりました。ベルリンへの報告と防衛拠点の皆に撤退準備の旨を伝えます。中佐は?』」
「『我ら“魔弾”は殿を務める。今の内にでも奴らの戦力を削ぎつつ足止めしなければ、撤退する前に攻め込まれるだろうからな。なに、そう簡単に死ぬ気は無い』」
「『……中佐、ご武運を!』」
向こうの通信の声の最後は、苦悶の声を上げそうになっていただろう。たった三人の分隊で大多数のネウロイを足止めすることがどれだけ絶望的な戦いなのか、考えるまでもなく理解出来る。
そして通信を終えたゲルリッツは二人に向けて申し訳なさそうな表情を僅かに浮かべる。あまり表情を変えることがないゲルリッツだが、この事態ではどうしようもない。
「すまん、お前達。私の独断でお前達までも巻き込む羽目になった。私は単独では何も出来ん無能だからな」
「……まぁ、分かってましたよ。それに逃げ出したければもうとっくに此処にはいませんし。今更です」
「私も、死にたくないです。でも、仲間を見捨てて逃げるのはもっと嫌です……!」
「お前達……」
この二人は当に覚悟を決めている。ハンブルグ総力戦から今までゲルリッツの分隊に属し、付き従って来たのだ。大多数のネウロイが攻め入るだろう可能性も考えていた。それが今やって来ただけ。
三人だけでは幾ら保つか分からない。三十分、一時間保たせれば上等だと言える。
「どうせ死ぬなら格好良く死にましょうよ。無様なまま死ぬなんて私の趣味じゃないですし」
「そ、そこは必ず生き延びるって台詞じゃないのかなぁ……?」
「……確かに死ぬなら格好良く死にたいがな。我らの最重要目標は生きて帰る事だ。カールスラントの未来の為にもこの戦いを生き残らなければならない」
「そうですよね〜……。流石に耐えられなくなったら私達もさっさと退きましょう。中佐もそのつもりですよね?」
「無論だ」
不敵に笑い、ゲルリッツはネウロイの大群がいる方向に歩みを進める。それに付き従う形でブラウナーとシュミットも続く。
ゲルリッツは思う。この二人が部下で良かったと。最早彼女達の仲は上司と部下の関係だけではなく、友人としての関係も生まれていた。だからブラウナーは上官にも関わらずゲルリッツに気さくに話しかけているし、シュミットも過剰に縮こまる事なく輪に溶け込めている。
この縁は生涯、切っても切れぬものになるだろう。
「ふむ、あれだな。双眼鏡を使わなくとも肉眼で認識出来るとは、ますますハンブルグを思い出す」
「うひゃ〜、三年前と同じおっかない数だこと。おぉ怖い怖い」
「うぅ……」
距離にしてざっと5km。その距離を肉眼で確認出来るほどの大群が押し寄せていた。
「さて、あれをどれだけ倒す事が出来るか……。半数は無理だが、せめて三分の一は減らしておきたい」
「それも難しいですね。最低でも二割減らせるかどうか」
「あの数を相手に捌き切れるかなぁ……」
圧倒的戦力差。こちら側は絶望的状況。あのネウロイの大群を三人で相手するのだから、撤退する前にほぼ確実に戦死するだろう。
だが自分達は死ぬ気など更々ない。何があろうと食らいつき、生き延びてみせる。未来の為に。未来に生まれてくる子ども達の為に。
「──行くぞッ!」
「「了解!!」」
死の空間に等しい戦場へ向かい、一歩を踏み出す。
生き延びるか敢えなく戦死するか。どちらに転ぼうが無事では済まされない地獄。
死は怖い。だが恐れてなるものか。
嘗めるなよ、化物。
私達の勇気を、魂を見せつけてやる。
彼女達は勇敢に立ち向かっていく。
これが、今を生きる人々の勇気だ。
そして──
『──■■──』
──見せ場を奪うのは気が引けるが、お前達だけでは荷が重い──
何かが、聞こえた。
それは音でもなく、声でもなく。どちらとも判別がつかないもの。
怪異が発する叫び声よりも理解不能なもの。理解する事すら
『■■、■■■──■■■■■■』
それは美しい祈りであると共に、万物を凍りつかせる呪詛そのもの。
少女達も、怪異も、戦場も。陸、海、空、自然、空気、空間、微粒子、総てが凍る。
それは星天の動きすら止める、凍てつく風。巻き込まれたら永劫解く事が出来ない絶対的な“理”。
時が止まるかのような静けさを帯びた空間で、誰とも知れない声が聞こえた。
──それに今、この場所を奴に奪われる訳にはいかない。悪いが倒させて貰うぞ──
刹那、怪異の大群が悉く両断されていた。
寸分違わず、コア諸共斬り裂いて。
「何が、起こった……?」
目の前の光景を目の当たりにした彼女達は自分が何をされたか、誰が何をしたか理解が及ばなかった。
まるで時が止まったかのような感覚。だがそうではない。時が止まったと錯覚する程の速さでネウロイが斬り裂かれたのではないかと、
「中佐、あそこに誰かいませんか?」
「誰かが……?」
ブラウナーの声に、ゲルリッツは霧散していくネウロイの場所に向けて双眼鏡を覗き込み確認する。
そこには──
「男……?」
男性が一人、空中に佇んでいた。
首には白いマフラーを巻き、見た事もない服装を身に纏っている。少なくとも戦場にいるような服装ではない。
両手には歪な形状の剣。日本刀にも似て、その剣身の幅は異常な広さ。日本刀にあるべき鍔は無く、海賊刀のように反り返っている。そして剣の腹には解読不能の文字が刻まれており──
──時計の秒針を幻視した。
「あれは、まさか……」
歴史書に載っていた特徴と、一致する。
先程まで考えていた、あの英雄──
──男が此方に顔を向けた。
「───ッ!?」
思わず双眼鏡を投げ捨て、勢いよく後方に下がり咄嗟に身構える。
「ど、どうしたんですか中佐!?」
「え、えぇ?」
ゲルリッツの突如の行動に二人は混乱する。ここまで取り乱したゲルリッツは始めて見るからだ。
(……今、確かに此方を見た)
当のゲルリッツは冷や汗が止まらず、男がいた方向を睨みつけている。
確実に気付いた上で此方を見た。その視線は己を凍りつかせ全身が砕かれるかのような未来を想像し、反射で身構えてしまった。
此処まで危機感を持ったのは初めてだ。ハンブルグ総力戦で経験したものが全て幼稚に見えるほどの凄まじい圧。
男が殺気を放った訳ではない。脆弱な哺乳類が巨大な恐竜に出くわし、勝手に恐怖しただけに過ぎないのだ。軍人としての経験がそうさせてしまったと言うべきか。
(……あの男は?)
双眼鏡を拾い恐る恐る再確認するが、もうそこには誰もいなかった。
「いない……」
「……何かされました? あの男の人に」
「いや、違う。私が勝手に警戒しただけだ。お前達はどう思った?」
「そ、その。一応ネウロイだけを倒してくれたので敵ではなさそうですね……」
「うーん。何と言うか、あの人は私達とは
ゲルリッツが最も彼に反応したが、ブラウナーとシュミットの二人も彼から何かを感じたらしい。
「とにかく、今は報告を最優先しよう。……出来事が出来事だけにどう報告すれば良いか分からんがな」
「あはは……それは同感です」
「はぁ〜……」
困惑顔のゲルリッツにブラウナーは苦笑し、緊張感が解けたシュミットはその場にへたり込む。
(取り敢えず今は危機を脱した事を喜ぶべき、か──)
無線機を手に、ゲルリッツは空を見る。ネウロイはおらず、そこには美しい青空の僅かな雲だけが彩られている。
これは、もしかすると何かの兆候か。
(もしかすると、この戦争は近い内に終わるのやも知れん)
彼女はそう願う。
これが、良い形の兆候である事を。
──そして三ヶ月後の1917年。
第一次ネウロイ大戦は終結した。
この大戦を境に、『永遠の刹那』と呼ばれる英雄の姿が頻繁に発見されるようになる。
※ヨハンナ・ブラウナー
16歳。
性格はマイペース。堅苦しいのが苦手で上官であるゲルリッツに気さくに話しかけており、シュミットは妹分として可愛がっている。
支援のエキスパートで、ゲルリッツの狙撃をよりスムーズにさせている。一般兵が相手なら、気づかせぬ内に懐に弾薬を忍び込ませたりも出来る。器用なので頼りにされる事が多い。
階級は曹長。
※ヴァルター・ゲルリッツ
18歳。
冷静沈着。厳格そうに見えるが、部下思いで慕われている。
固有魔法は『自動追尾絶対命中』
撃てばゲルリッツがマークしている目標に弾丸が自動で追尾し、必ず命中させる。
その固有魔法故に“魔弾の射手”という異名を持つ。現時点でネウロイ撃墜数世界二位。
固有魔法を使わなくとも普通に狙撃の腕は高いので、後に狙撃の名手として歴史に名を刻むことになる。
階級は中佐。
※マルコ・シュミット
14歳。
人見知りな性格だがとても優しく、仲間思い。どんな状況でも絶対に仲間を見捨てて逃げる事はしない。
その性格とは裏腹に囮や陽動が得意で、負傷も省みず確実に役割を果たす。
負傷する可能性が高い危険な役割だが、意外にも彼女が囮や陽動で負傷した事は指で数えるほどしかない。
階級は軍曹。
さて、diesファンなら分かると思いますが、この三人はdies本編序盤で登場したドイツ兵の三人です。
同姓同名ですが、魂は全くの別人ですので獣殿の爪牙だった記憶がある、なんて事はありません。
彼等はドイツ兵だったので、ストパン世界の彼女達はカールスラント軍所属ということになります。
因みにストパン世界だとこの三人は強キャラ仕様です。
-追記-(12/22 17:42)
三人の名前を女性名にしていなかったので修正。
しかし、ヴァルターは女性名にするとヴァルトルートになりますが、この名前だとブレイブウィッチーズに登場するヴァルトルート・クルピンスキーと同じ名前になってしまう事が判明。
特にクルピンスキーとの血縁関係はないので、クルピンスキーとの差別化を図る為にあえて男性名を使用する事にしました。ご了承下さい。
ヨアヒムはヨハンナに改名。マルコは女性名として使用される事もあるらしいので変更無しです。
武器は第一次世界大戦に使用されたものを採用。でもそんなに詳しくないのでガバガバな所があるかも……
ストライカーユニットはまだ開発されていないので、ウィッチ達がどのようにして大戦を乗り切ったのか、という事を考えた末、陸から攻撃してネウロイを倒した。そして陸戦用高速移動魔法陣で生存率を上げるといった設定に。
あと、男性ウィッチで那須与一はオリジナルです。ドリフターズ見て設定しました(笑)
夜刀様──練炭がちょいとだけ登場しましたが、彼が本格的に現れるのは原作開始前後です。
何故、ネウロイの大群の前に現れ一瞬で殲滅したのか?
それは今カールスラントを落とされると原作で登場するカールスラント軍所属の主要キャラが生まれなくなってしまう、という危険性があったからですね。
選ばれし人間(主要キャラ)が近い内に生まれる事は抑止力から聞いているので、彼女達が生まれるまではカールスラント、ガリア共和国や他の国は落ちません。
まあ練炭は世界中に展開している戦線を維持しないといけないので、全てを防衛しきれる訳ではないです。なのでいずれは原作と同じくカールスラント、ガリアが陥落する事は避けられません。
次は一気に原作開始前まで飛びます。