永遠の刹那と空駆ける魔女達   作:安全第一

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どうも、安全第一です。

今回は“歪み”が本格的に登場します。

その何たるかをご覧下さい──


4.歪み・『魔弾之射手』

 ヴァルター・ゲルリッツの戦線復帰。この情報は各国を揺るがした。

 第一次ネウロイ大戦を生き残った英雄にして、三年も防衛拠点を守り抜いた功績は大きい。

 元々陸戦のウィッチという事もあって、陸軍の中佐であった彼女だが、第一次ネウロイ大戦後に空軍へ転属。時たま侵攻するネウロイをたった一人で国境から退けつつ、自らの経験と戦闘技術を以って若い兵士達を育成する手腕を発揮するなど、今となっては空軍の要とも言える存在となった。

 また、新人達の活躍を奪う訳にはいかないと考えたヴァルターはこれ以降の自身のネウロイ撃墜数を非公式として扱い、新人の功績を掻き消してしまわない事でメンタル面においても不満が残らないように配慮している。

 現在も軍人である彼女のネウロイ撃墜数は非公式だが四桁に突入している。四桁という数字は彼女しか達成しておらず──ロートス・ライヒハートというイレギュラーを除けば──ネウロイを撃墜するだけで新人達の功績が掻き消えてしまうのは必然とも言えた。

 他にはウィッチの専用兵器ストライカーユニットを上手く扱う為の基礎的な訓練法を築いたのも彼女であり、それを基にしてアドルフィーネ・ガランドなどがより効率的な訓練として昇華させたエピソードもある。

 このようにヴァルターの功績は数知れず、枚挙に暇はない。十歳で軍学校を卒業し、第一次ネウロイ大戦を経て四十三歳の今まで築き上げた功績は、巨大な山のようなものだからだ。

 

「──まあ私は功績を積み上げるつもりなど欠片も無かったのだがな」

「それでも中将は未来の為に奔走した事実は変わりません。皆からの支持が高いのもそれが理由ですから」

「嬉しい事を言ってくれるじゃないか、ロスマン」

 

 ホークエッジ基地より先、戦線となっているネーデルラント領空にてエディータ・ロスマン率いる第52戦闘航空団第4中隊と侵攻しようとして来るネウロイを迎撃する為に単独出撃したヴァルターは苦笑した。

 語れば語るほど溢れ出て来る己の功績にヴァルター自身が呆れ返っており、その様子にロスマンは微笑を浮かべる。

 

「それにしてもすまない。単独で出撃した私を一時的に中隊に加えて貰って助かったよ。指揮権も奪ってしまった形になったのは気が引けるがな」

「いえ、中将ですからそれは良いのですが……。宜しいのですか?」

「構わん。空軍から無理矢理許可は貰っている」

「中将の権限を最大限に活用しましたね……」

 

 中将ともあろうウィッチが戦線に復帰しようとするのだから、カールスラント軍の一部はそれを止めようとしただろう。最も、愛弟子が重傷を負った出来事で修羅と化している彼女を止めようとした者は全員叩きのめされていたが。

 本来なら軍規に反するものなのだが、カールスラント軍の兵士及び上層部の大多数が彼女の戦線復帰を支持していた為、何のお咎めも無しという訳だ。

 最早カールスラント軍の要となり今でも十分過ぎるほどの活躍を見せている彼女だ。戦時中にも関わらず退役させるなど愚の骨頂であることは自明の理と言えるのだが。

 

「まあいきなり出撃とは言うが、肩慣らしはしなくてはな」

「その所為で中隊の皆の緊張状態が凄いことになってるんですから、少しは反省して下さい!」

「はっはっはっ! 私にそこまで言えるのはラルかお前くらいだぞ。だからこそ私も気が楽なのだがな」

 

 頬を膨らませて可愛らしく起こるロスマンに珍しく豪快に笑うヴァルター。この二人は軍学校の生徒と教官という関係だ。そして曹長という階級の筈であるロスマンが中将のヴァルターにここまで言えるのは、ヴァルターがロスマンを可愛がった過去があるからだ。

 そもそもヴァルターは時と場合によるが、軍特有の上下関係が嫌いという珍しいタイプな為、師団や旅団又は連隊の司令官でもない限り部下にプライベートに近い話し方を許している。

 それ故にロスマンは中将のヴァルターに対しても気軽に言えるのだ。最もこれはヴァルターだけに限る為、他の中将であれば軍規違反ものだが。

 

「この事は許してくれ。お前が怒ると説教が怖くてな」

「今回限りは許しますけど、貴女は中将なのですから無茶は禁物です!」

「全く、上に行けば行くほど戦線から離れてしまうから困りものだ」

「反省してなさそうですね……」

 

 ちなみにこの光景、ロスマンを除くウィッチ達はヴァルターに対して未だに恐れ(おのの)いており、プライベートに近い会話をしているロスマンの胆力に称賛すら送っていた。

 恐れ慄くのは無理もない。単なる一個中隊に中将という階級持ちが現れ、尚且つその中将は英雄と来た。教科書にすら載っている生ける英雄を直で見られるとは光栄である事は言わずもがな、その戦いを見れるとなると一生に一度しかない出来事なのではないか。

 恐らくロートス・ライヒハートでも彼女達は同じ反応を示しただろう。

 そしてヴァルターが右腕を上げ、中隊に進行を停止させた。

 

「ふむ、ここから8km先にネウロイがいるな。数は大型も含めて36といった所か」

 

 ヴァルターがまだ見ぬ先にいるネウロイの数を把握する。

 ロスマンを除く、中隊のウィッチ達はこれまた驚愕した。

 実はこの中隊に複合魔法視力の固有魔法を持っているウィッチはいない。数キロ先の敵を捕捉するには双眼鏡よりも遥か先を見通す複合魔法視力持ちでなければ不可能なのだ。

 であるならば、ヴァルターはその固有魔法持ちなのか。

 否である。

 

「中将は複合魔法視力を持たないのに、よく先のネウロイを捕捉出来ますね」

「ふふ、これは今までの経験と技術の賜物だな。私くらいになるとこれくらいは分かるようになるぞ」

「貴女を超えるウィッチがいるかどうかも怪しいのですが……」

 

 軽く言ってのけるヴァルターだが、経験と技術だけで複合魔法視力並みの能力を発揮するなど世界中のウィッチの中で恐らくヴァルターしかいない。例外ならあの『永遠の刹那』くらいだ。

 

「とは言うがな、私くらい軽く超えてもらわなければ我々人類の勝利などやって来ない。ライヒハート卿に頼ってばかりでは我々は脆弱なままなのだからな」

「……ディアブロ型は現状、ライヒハート卿しか倒せない。それを加味すれば必然ではありますが」

「何にせよ、これからの若い奴らが未来を切り開かねばならないのは変わりないさ」

 

 年功序列なんざ今の時代には古過ぎるからな、と不敵な笑みのまま独り言に近い言葉を零す。

 1941年の現時点で個人のみで多大な戦果を残しているのはヴァルターを除き、ハンナ・ルーデルくらいのものだ。恐らくこれからルーデル並みのウィッチが現れるのも時間の問題ではあるが、やはり戦死者も多い為に戦力の増強は急を要する。そして戦死者の殆どはディアブロ型によるものだ。

 やはりと言うべきか、そのディアブロ型を圧倒でき尚且つ討伐出来るのはロートス・ライヒハートのみ。彼がいなければ戦死者はおよそ二倍から三倍に上り詰めるだろう。

 ロートスに頼らず、ウィッチの力のみでディアブロ型を打倒する。人類はそれを目標にしてウィッチを育成しなければならないのだ。

 ネウロイを捕捉した後、ヴァルターの指示で再び進み始めた中隊。数分後、目視出来る距離にまでやって来た。

 

「よし、もう一度止まれ」

 

 命令により、中隊はその場に留まる。そしてヴァルターは中隊へと振り返った。

 

「これより、特別授業を始める」

「特別授業……?」

 

 新米ウィッチの一人がそう呟く。

 

「そうだ。新兵のお前達は数ヶ月前に居た軍学校で習った筈だが、我々ウィッチはディアブロ型の打倒を目標として戦力の強化を図っている。そして現状、我々ウィッチにはディアブロ型を打倒出来る力は無い」

「ヴァルター中将でもですか……?」

「そうだな。恥ずかしい限りではあるが、奴と交戦した時は経験と技術を総動員してなんとか退けた程度で討伐は出来なかった。その時は軽傷で済んだが、そうまでやらなければ即死していたよ」

「……っ!?」

 

 現時点において人類最強であるヴァルターですらその程度。いや、ディアブロ型と交戦して軽傷で済ませつつ退却させるという事は凄まじい戦果なのだが、ヴァルター自身は自分の敗北と見なしていた。

 

「これから先、“歪み”を持つウィッチが未来を切り開いていく要となる」

「“歪み”……」

 

 新米ウィッチ達とロスマンはその単語を聞き、思い出す。

 それは現存のウィッチ達と一線を画する力。未知の力だが、それはディアブロ型の討伐ひいては世界中のネウロイを駆逐出来る唯一の力である。

 

「諸君らにはまず、その“歪み”の力の一端を見せよう」

「えっ……!?」

 

 これには新米ウィッチのみならず、ロスマンまでもが驚愕する。

 肩慣らし程度の戦闘とは予想していたが、“歪み”まで使用するとは思っていなかったのだ。

 “歪み”とはどれほど凄まじく悍ましいのか、そして“歪み”を持つ者とはどういうものなのか。ヴァルターはそれを見せようと言うのだ。

 

「つまりこの戦闘は私一人で行う。諸君等は見学だ」

 

 そう言うとネウロイの大群へと振り返り、愛銃であるスプリングフィールドM1903を()()()()()()()

 

「皆、これから起こる光景をしかと灼きつけておきなさい」

 

 ロスマンは頬に汗を伝せながら言う。

 戦場でしか見られない強者の戦い。人類最強の戦いがどれだけ凄まじいものなのかを若い者達は知らなければならない。

 自分達にはこの戦いを見届ける義務がある。大きな一戦でもないのに、そうしなければならないと全員が思わされた。

 そして──

 

 

 

 ──Hier bin ich.(我ここに在り)

 

 ──謳が聞こえた。

 

 

 

 それは祈り。

 それは呪い。

 それは怒り。

 一節に込められたそれは単なる言葉に非ず。尋常ではない祈りの密度が其処に集約し、周囲の空気が一変する。

 この世界には魔法なるものがある。それによってある程度の物理法則は無視する事が出来る。魔女にとっては常識だ。

 しかしここから先は魔女にとっても非常識の領域となる。

 刮目せよ、と中将が囁く。

 

 

 

 ──Das Wild in Fluren und Tritten,(森々の獣ども 牧場の畜生ども)

 

 

 

 謳の一節を綴り、右手に握っていたM1903を発砲。それは単なる銃弾の発射に過ぎず、単体のみを駆逐するもの。それが必然だ。

 

「──は?」

 

 それ故、三十近くは居ただろう小型ネウロイが()()()()()()()出来事に彼女達は理解が追いつかなかった。

 

 

 

 ──der Aar in Wolken und Lüften,(空を駆ける荒鷲どもに至るまで)

 

 

 

 謳を紡ぎ、次は左手に握られてあるM1903を即座に発砲。

 次は()()()()()()()()()()()()()()()() 、何故か()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(──何、これ)

 

 ロスマンは荒唐無稽の出来事に思考が停止しそうになっていた。

 まるで理解が及ばぬ、理解出来ぬ。いや、これは理解させる気など更々無いにも等しい。

 今まで倒して来た自身の戦果が塵となって消えてしまうほどの、それほどまでの光景。

 

 

 

 ──ist unser, ist unser der Sieg, ist unser Sieg──(勝ち鬨は我らが物なるぞ──)

 

 

 

 残るは大型ネウロイ二体。通常のウィッチならばエースウィッチを数人投入しなければ倒すことすら困難を極める。

 

 しかし、既に勝敗は決していた。

 

 作動方式がボルトアクションである筈のM1903はヴァルターがボルトを手動で操作する事もなく()()()()()()()()()()()()()()()、右のM1903を発砲。

 次は大型ネウロイの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、攻撃力と機動力を奪っていた。

 

(まるで()()()()()()()()()()()()()()()()──)

 

 

 

 ──Lasst lustig die Hörner erschallen!(角笛よ 高々と鳴れ)

 

 

 

 刹那の出来事に理解が追いつかないのはウィッチ達に限らず、ネウロイもまた同じ。

 何故攻撃されていたのか、何故損傷を負っていたのか、()()()()()()()()()()為に何も出来ずにいた。

 その哀れな怪物に対し、ヴァルターは何も思う事なく左のM1903を構える。

 

 

 

 ──Wir lassen die Hörner erschallen──(角笛よ 森々にひびけ──)

 

 

 

 謳を紡ぎ終えたと同時に、発砲。

 瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ──“Der Freiscütz(魔弾之射手)

 

 

 

 即興劇は、これにてお仕舞い。

 ヴァルターの戦闘時間は三十秒にも満たなかった。その短い間に三十六、遥か後方のネウロイも含めて六十もの数を撃墜していたのだ。

 

「こんなものか。所詮は腐臭極まりない化外、この程度では塵掃除にもならない」

 

 まるで戦闘など無かったのようにヴァルターは呟く。

 そしてウィッチ達はヴァルターの戦闘を見て、恐怖の余り涙を浮かべ身体を震わせている。

 謳を紡いでいるヴァルターは世界法則に従っている人間ではなく、自身が作り上げた異界法則の権化へと変貌していたのだ。

 ウィッチ達は知らぬであろうが、それを本能で感じ取り必死に耐えていた。更に背筋が凍り、今にも発狂しそうになる程の圧力を受け続けている。

 

(あれが英雄の力。“歪み”の力……)

 

 化物としての力を有し、ネウロイを駆逐する。それがどれほど恐ろしい事なのかを第4中隊のウィッチ達は思い知った。

 しかしそうしなければネウロイは、ディアブロ型は倒せない。

 近い未来にて設立されるであろう統合戦闘航空団とは、“歪み”を持つ事になる化物の集団と同義。

 いつ誰が“歪み”に目覚めるか分からない。もしかすると、統合戦闘航空団に配属されるのは自分なのかも知れないのだと、第4中隊の面々はそう思わされた。

 

「さて、ほんの僅かな時間の授業になってしまったな。

 諸君。“歪み”とはどういうものか、理解出来たか?」

『─────』

 

 返事は無い。誰もが言葉を失っているから。

 しかしその目には恐怖と理解の色が混ざっている。ヴァルターはそれを見抜いた。

 

 ──そう、それで良い。

 

 恐怖している事はつまり理解が出来ているという事。それこそが“歪み”を持つきっかけとなる。

 恐怖し、理解しなければ“歪み”は得られない。後天的に“歪み”を得るにはこの方法しか無いから。

 かつてロートス・ライヒハートの力に恐怖した自分の様に、恐怖を得て、理解し、その仕組みを本能に組み込む。

 後は自身の内にある渇望を自覚し発現せよ。さすれば祈りとなり、“歪み”と化す。

 この中だと、ロスマンが最も“歪み”を得られる可能性があるだろう。

 

 

 

「諸君等の様子で察した。それで良い。これよりブリタニアへ帰還する」

 

 

 

 ヴァルター・ゲルリッツは願う。

 願わくば、この第4中隊から“歪み”持ちが現れん事を──




※歪み
『魔弾之射手』

ヴァルター・ゲルリッツの歪み。
永遠の刹那の戦いを見て『全てを刹那に撃ち抜きたい』という渇望を発現し、それを元に得た。
能力は「結果のみを生み出す」ものであり、ヴァルターが放つものは過程という事象を無視し、結果のみを生み出す弾丸と化す。
この能力の最たるものは1体につき1発ではなく、「相手が格下であれば効果範囲は無限」だという事であり、捕捉さえしていれば距離すらも無視する。
格下に対して絶大な効力を発揮し、それがどれだけの数であろうと関係無い。
だが格上には効果が薄く、ディアブロ型なら擦り傷のみに留まる程度しか効果を得られない。
因みにロートスにこの歪みを発動した場合、互いの格が隔絶としている為、無傷でやり過ごされる。
詠唱はHELLSINGに登場するリップヴァーン・ウィンクルが歌う「魔弾の射手」から。



今回はエロスm……ゲフン。ロスマン先生が登場。
ロスマン先生可愛いなぁ……可愛い(確信)
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