今回は謎回。この先の物語のちょっとしたヒントになる回です。
──『
少女は生まれながらに一つの世界観を持っていた。
何故そのようなものを持っていたのか、何故そう想うようになったのか。しかし彼女はそれを微塵も疑問に思わなかった。それが当たり前なのだと認識していたから。
両親が居るが、二人は少女と同じ世界観を有していない。それ故、両親の影響でこの想いを抱いた訳ではなかったという自覚はあった。
己が他人と違うという自覚も有る。しかし他人は他人であり自分は自分、何も他人に合わせなくて良いのだし、自分の想いを他人に植え付けようとしている訳でもない。故にこの想いは唯一無二なのだと自負し、貫いた。
元々それは他人と共有できるものでは無い。いや、厳密に言えばこういった想いを抱く者は居るだろうが、それらとは何かが違うのだ。
こう、何と言えば良いのだろうか。
そして彼女は生まれながらに天性の才能がある。軍に志願し、軍学校に入った当時でも既に他の者との実力の差が開いていた。
何故、とは思わない。何せ他人とは全く異なる世界観を抱いているのだ。
そして感じたのだろう。軍は自己抑制や自己犠牲を尊ぶ。それこそがまるで正しいと言わんがばかりの律。彼女はそれを心底嫌った。
そんなものをして何が楽しい。くだらない。生命を尊ぶからこそ自由でなければならない。だからこそ
自分には他人にない力がある。なればこそ己が前に立ち、他人の為に戦い生命を守る。誰一人として死なせない事こそ我が使命であり、自己満足などでは無い。そうであると少女は自覚し、さらなる力を得た。
──とはいえ、それは自己犠牲なのではないかと指摘されればそれまでなのだが。
しかし彼女は揺らがない。自分は自由な風で在るから、その答えを否定などさせない。内に秘めたる渇望は無謬であるから、少女は軍に配属された今でも自分の気ままで動いている。だが知り合いにかなり危うい存在がいるから、目が離せない。
後は、戦うきっかけさえあれば存分に力を発揮しよう。そう思い過ごしている。
──その少女の名を、エーリカ・ハルトマンと言う。
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「──成程。
多少なりとも、
誰も知らぬ何処かで、得体の知れない誰かが独り言を零す。
しかしそれは必ず無視してはならぬもの。それは正に
「聞けよ、若いの。それがお前の渇望で無謬の想いであるのならば、それを曲げるなよ。それこそ自由に対する最大の侮辱と知れ」
彼の言う自由とは何を指すものなのか分からないが、決して忘れてはならぬと思った。彼の過去で、誰かが『自由』を求めて戦ったかの様に。
「だが勘違いするなよ。自由とは
それは言われるまでもない。生命を尊ぶ自由の風とは、他者の可能性を尊ぶと同義。守るこそすれ、それを害するなどと誰が言えようか。
その想いに嘘など吐かない。
「──それで良い。『奴』の細胞も直に強くなる。お前の渇望が揺らげば、周りも死ぬだろう」
──それを肝に命じておけ──
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──『唯一無二の存在を守りたい』
彼女は幼い内に両親を亡くし、妹と二人きりで暮らしていた。
責任感を持ち、世話焼きな人柄であった為に妹だけは守りきなねばならぬという心情と妹の笑顔だけが彼女の支えだった。
私にはこれだけあればそれで良い。たった一人の家族だ、愛してやらねばならないだろう。それに彼女は幼いのだから、健やかに育って欲しいと願った。
しかし第二次ネウロイ大戦が勃発。今までの生活はもう出来ないと考え、両親の遺産の一部を使い、軍へ入隊。せめて妹を養える金と彼女を守れるだけの力を得なければならないと判断したのだ。
あぁそうだ、唯一無二の可愛い妹だ。
それだけ愚直な想いを抱き、その想いだけで愚直に生きてきた。これからもそうするし、変える気は無い。
しかし、現実は非情だ。
帝政カールスラントが陥落し、本国から撤退しなければならない戦いにて、妹は巻き込まれ自身が撃破したネウロイの破片によって重傷を負った。
何たる失態、何たる愚昧。彼女を守るつもりが、逆に傷を付けてしまう。そして妹は意識不明となってしまった。
ネウロイの襲来、妹の災難、自身の戦闘、その破片。彼女の世界はたったそれだけの外的要素によって脆く崩れ去る。
自分の不甲斐なさが許せなかった。ネウロイの存在が許せなかった。妹は死んでいないが、それでも妹を喪失したかのような感覚に陥ってしまったのである。
唯一無二の存在への愛情をありったけ注いでいたあまり、それを害されただけで何もかもを見失うほどに視野が狭くなっていたのだ。
愛は盲目と言うが、正にそれの典型例。その結果、彼女は憤慨し、自身とネウロイへの容赦を悉く無くした。
こんな自分など滅んでしまえ。そして死なば諸共、貴様等ネウロイも地獄に叩き落としてやる。
──『塵屑たる自分と害悪な怪異を許さない』
一人を守る愛は、自分自身と怪異を徹底的に廃絶する渇望へと変貌した。
許さない、許さない、許さない。こんな自分も、貴様等ネウロイも、認めてなるものか──
自由の風である少女によって辛うじて止められているが、それももう持たないだろう。自滅と廃絶の渇望を持つ少女は今にも最前線に飛び出そうとしている。
──その少女の名を、ゲルトルート・バルクホルンと言う。
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「──お前の渇望は曖昧だな。奴らを廃絶する覇道に見えるだろうが、それは単なる自滅衝動による求道に過ぎん」
誰だ、お前は。そう反発しようとしたが、何の要素があるのか、それをする事すら出来ない。
絶対的な強制力を前に、彼の話を聞かなければならない状態にあった。
そう、煩わしいと思う事すら出来ない。
「元々の渇望もそうだ。唯一人を愛し、守りたいと願うそれは確かに他人への思いやりなのだろう。しかしお前は
何を言っている。
お前は彼女へ捧ぐ私の愛を否定すると言うのか。それは私ではなく、彼女への侮辱に他ならないだろうが。あぁそうだ、彼女も私の愛を否定されれば必ず憤慨するだろう。
侮辱するな……侮辱するな侮辱するな侮辱するな侮辱するな侮辱するな侮辱するな侮辱するな──
──停止。
「そら見ろ。お前は
影も形もない相手への怒りが無理矢理停止させられている。何も出来ない、何も抗えない。ただ聞かされるだけの彫像と化した。
「自覚が無い、正に無知蒙昧だな。今のお前は■■■寄りだが、きっかけさえあればどうとでもなる」
彼が示唆したそれはどういうものなのか全く分からない。現在か、過去か、未来か。
あぁ分からない。何故私にそのような事を言うのか理解出来ない。教えてはくれないのか。
「お前の自滅衝動は自分の渇望の矛盾から生まれているものだ。それさえ取り除いてしまえば、自ずと本当の
渇望の矛盾とは何だ。一体何処に私の矛盾があるというのだ。
私の矛盾は一体──
──それこそお前が為すべき事だ──
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──『大切な人をもう失いたくない』
少女には愛している男がいた。これ以上にない唯一の宝物、至高の宝石。
ウィッチは純潔でなければシールドを展開出来ない。それを知っていた男は彼女がウィッチである事を尊重し、清い付き合いとして彼女と過ごしていた。少女にとって、その気遣いは少し心苦しいものがあったが、それを上回るほどの嬉しさに満たされていた。
元々、彼女は歌手を目指し音楽学校への留学を考えていたのだが、ネウロイの侵攻によって断念。だが彼女の精神的ダメージが少なかったのは男が上手くメンタルケアしてくれたからに他ならない。
そして愛する男も軍に志願し兵士となった。しかもその理由が君を支えたいからだと。気遣いが出来る男だが、一度決めた事は頑なに曲げない頑固な性格でもあった。この時は流石に困り顔になったものだ。だからこそ今まで清き付き合いが出来ているのだが。
これからも上手くやっていける。そう確信めいたものが彼女の心中にあったから。二人でこの先も生きていくと決めた。
──そして死んだ。
愛する男はパ・ド・カレー撤退戦にて戦死。無情にも告げられた報告に少女は絶望した。
悲嘆、嗚咽、そして叫喚。愛する者を喪う痛みは彼女を大きく傷つける。己の世界は暗闇に閉ざされ、自分自身を憎悪した。
あぁ、自分は軍人だからいつまでもこうしていてはいけないと分かっている。だが理屈じゃない。脆くなってしまった私はこうする事でしか己を保てなくなってしまったのだ。
憤怒するのではなく、逃避する。逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げ続けなければ自分を自分が殺してしまうから。
──それを何時まで続けたのだろう。いつの間にか自分の自我を保てるようになっていた。何故、という言葉はいらない。それを求めれば即座に己は
彼女は再び銃を取る。
愛した彼は
なら私も戦える。こんな所で挫けている場合じゃない──
──何故挫けていた?
──忘却。
長い間何をしていたか忘れたが、皆には迷惑をかけた。その分の働きはこれから返していこう。皆が戦っているのに、私一人が泣き喚いていても仕方がない。
──何故泣き喚いていた?
──忘却。
彼女は残酷な真実に向き合うのではなく忘却する事で逃避し、何を目的に生きていたのかすら忘れ去る事で自分を哀れな操り人形へと変貌させて戦う道化。
──その少女の名を、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケと言う。
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「──あぁ、愛する者を喪うというのは俺もよく分かるとも」
誰、とは思わない。
彼が何者で、どのような存在であろうとこちらには関係無いのだから。
しかし、話程度は聞いておこう。そうするだけの価値はあるに違いない。
「それは求道だ。諸共忘却し、自分自身を
その言葉の意味がどういうものなのか理解が出来ないが、何も無いという事には大いに賛成だ。
大切な者を失った私には何の価値もないのだから、当たり前だろう。
──大切な者を失った? 何故私は──
──忘却。
「成程、自覚はあるようだな。そして自覚している事実を忘却し、振り出しに戻す。ある意味では回帰とも捉えられるな」
……回帰、か。成程、言い得て妙だ。
回帰ほど都合の良いものは無い。それはつまり過ちを正せるのだから。回帰は幾度も繰り返せば地獄だが、それだけ回帰する精神力があるのだろう。羨ましい。
──過ちを正せる? 何故私は──
──忘却。
「往生際が悪いのは別に悪い事ではないがな、それとこれとでは話が違う。お前の力が真実を忘却出来たとしても、力の根源が
真実? それは一体何なのだ。
私の事は私が一番よく分かっている。それ故に何も問題は無い。現に私は戦えているし、これからも戦える。
「自己欺瞞だな。前を向いているフリをして自分に満足する。これもある意味では■■■の影響か」
私が私を偽っていると、そう言うのか。
私は自分を偽ってなどいない。私の愛する男は今でも生きているし、彼が死んだなどという証拠は無い。だから彼は生きているし私は今でも戦えている。彼が生きているから私は存在出来る。彼が生きているなら私が自分を偽る理由など無い。彼が生きていなければ私はこの世にいられない──反転──彼が死んだのを知ったのは彼の死体を見たから。だから私は戦えなくなった。彼が死んだのなら私は逃避しなければならない。彼はもういないのだから私に生きる価値は無い。彼は彼が彼の彼に彼彼彼彼彼彼彼彼彼彼彼彼彼彼彼カレカレカレカレカレカレカレカレカレカレカレカレカレカレカレカレカレカレカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ──
──停止。
「滑稽だな。だからこそ、お前と同じ結末を辿った俺から一つ言わせて貰おう」
──失ったものは戻らない。故にこそ
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「まずは三人、か」
独り言の様に呟く赤髪の偉丈夫。
彼が居る場所は何処にでもない場所。誰も感じ取れず、誰も辿り着けず、誰も知らない空間。
「自らの内に秘めた渇望、魅せてくれよ。魂を輝かせる為の
不敵に笑う。
それは彼女達が困難を乗り越えてくれるだろうと信じているからなのか。それとも足掻く事こそが必要であると思っているからなのか。
「曰く、俺は心配性の爺だそうだが、その通りだとも。俺が直接出られないのならお前達がやらなければならん」
何も■■まで到る必要は無い。重要なのは自分自身を見つける事だ。それこそがこの世界を救う光となる。
「まあ、俺の
──時よ流れろ、光在る未来まで。
※今回の要約
・EMT(エーリカマジ天使)
・TMK(トゥルーデマジ怖い)
・MYG(ミーナヤンデレ気味)
この三人の渇望がどのような歪みとなるのか。
お楽しみに。
次回からは「ストライクウィッチーズ エーリカ・ハルトマン1941」の物語を進めていきます。
理由はストパンの中で一番初めに手にした漫画なので思い入れがあるからですw