とりあえずここまでで、この物語の体育祭は終わりとなります。
第三種目?
ご覧になりたい方は原作をどうぞ。( ・∀・)つ
本当にただじゃ終わらなかった……。
雄英体育祭の放送が始まって、数十分弱。悲鳴をあげ、涙を流すインコさんを宥めながら平静を取り繕ってみていた俺だが、流石に叫び出したい衝動に襲われていた。
(あれ?学校行事って、こんなに危険なものだっけ??)
第一種目。障害物競走で次々と生徒がゴールする映像を見ながら、俺は出てきた障害物という名の危険物の羅列に目頭を抑えた。
巨大ロボット。崖の上の綱渡り。地雷原。
一つ一つは確かに危険度は少ないが、問題はそれにプラス、生徒間でなら個性を使った妨害が可能という点だろう。
いくらプロヒーローが教師として監督していると言っても、いくら治療に特化したリカバリーガールというプロヒーローがいると言っても、甘いとしか言いようがない。
(一人一人が個性を持つ現代では、人を殺すのは考える以上に容易いのに……)
そのような
「いや……入試の時点でそういう危なそうな者はおとすのかな?」
大体本当に危険なものをかぎ分ける鼻は鋭いだろう。でなければ、何を持ってヒーローというのか。
(でも本当に危険な存在って……そういう匂いさえさせないんだけど)
ふと俺の頭を過ぎったのは、数日前に思い出した死の瞬間の記憶……男の愉快そうに笑う顔。
(変だな……。今まで思い出す事なんてなかったのに……)
死の瞬間の記憶はあまり思い出したいと思うものではない。それなのに先日から前触れも無く、断片的とは言え嘗ての記憶が脳裏に思い浮かぶようになっていた。
(その前後に何かあったって言ったら……あれしかないけど)
それは死柄木の計画した襲撃と、その同日の夕方にここにいるインコさんの息子に会ったこと。
(緑谷、出久……)
障害物競走で一位をとった彼の第一印象は、何故か怖いと言うものだった。
あの玄関先でのあの一幕で何故そう思ったのかは俺自身分からなかったけど、今日この体育祭をみて彼の怖さを断片的にではあるが理解できる気がした。
(この子は……己の命を軽視しているのでは無いかと思えてしまうんだ……)
それだけが理由とは言えないが、おそらくそれは理由の一環だろうとは思う。
綿密な計算を行っているのだろうとは分かる。
しかし彼は危険に直面した時の、この年頃の子どもが誰もが持っている筈の迷いというものが極端に無いのだ。
(本当に……何なんだろう)
改めて俺はテレビの上部に映る、彼の姿を見つめていた。
(この子は……とても危うい。とても……)
そこがとてもこわい。心からそう感じた。
第二種目。騎馬戦。一種目目の結果を反映されたポイントを合計した数をそれぞれの騎馬に振り分け、より獲得ポイントの多い上位のチームが第三種目目に出場出来る。そこまでのルールはまだ良いが……。
「第一位……一千万……?」
何という鬼畜。血も涙も無いとはこういうことを言うのかと俺は怖気を感じていた。
雄英の校訓「
壁を越えた者ほど、大きな壁に迎えられる。それを乗り越えるだけの精神を持つものだけが、在籍を許されるとは。
(人外魔境……!)
心の中でそう毒づく俺の周りには、くしゃくしゃになったティッシュの山がそこらかしこに出来ている。
そしてその山を今も作り続けている当人は窮地に陥っている息子の活躍に嬉し泣きしていた。
「凄いよ!クロ君!!一位よっ!?出久ぅぅっ!!」
抱きついて来るインコさんに若干引きそうになりながらも、何とか彼女の溢れんばかりの大量の涙を拭っていく。
「さあ、十五分間のチーム編成兼作戦タイムもいよいよ終了!……おい!起きろ!イレイザーヘッド!!」
何とか溢れ続ける涙をせき止め、一息ついた時、どうやら騎馬戦の為のチーム編成の交渉は制限時間を迎えたらしい。
「なかなか……面白いチームが揃ったな」
解説席にいるのは、明らかにそちらが本業だろうと突っ込みたくなる見た目口調
(あれ?あの二人って、どちらも先生なんだよね?)
俺の知っている先生のイメージは、「先生」だけの事も相成り、どうも教師という風には見えない。
(恐ろしさが無いよな……取っつきやすいって感じで)
最もヒーローという職種ならば、それはどちらかと言えば長所になり得るのだろうが。
「今!狼煙を上げる!!」
テレビ画面越しであっても伝わる盛り上がっていく熱に当てられるように、涙声でインコさんも息子の名前を呼んでいる。
皆が心を一つにして盛り上がるこの歓声の中で、己だけが置き去りにされているように感じて、俺は僅かに視線を下げた。
しかし胸に去来した感情を理解する前に……。
「スタート!!」
第二種目は始まった。
この競技に歓声が返される理由は分からない。
そして嬉し泣きで浸水を起こしそうなインコさんの心情も間違っても理解できるとは言えない。
「インコさん」
グジグジと涙を拭う彼女に、俺は気づけば問いかけていた。
「何で出久君を、雄英高校に入学させたんですか?」
テレビの向こうでは、十二組の騎馬による激闘が繰り広げられていた。
火花と土煙。異形の個性や、攻撃に特化した個性。様々な力のぶつかり合いにより、フィールドは変形しており、未だ怪我人が出ないのが不思議に思えるほどだった。
「クロ君?」
俺はただならぬ雰囲気でも出していたのか、自覚は無いが、インコさんは驚いたように目を見開いた。
「心配なのに、何でヒーローなんかにしようって、思ったんですか?」
たとえヒーローになりたいと志しても、たとえなれるだけの努力や、なり得るだけの強力な個性を持っていようとも、彼らは子どもだ。
大人である彼女ならば、簡単に阻むことは出来るのである。
学費を入れなければ学校には通えないし、先ず家から出さずに監禁し続ける事も出来るだろう。
片親ならば、それは更に容易い。
(先生ならきっと、迷わずにそうする……)
いやと、俺は意識して思い直した。
(あの人は……そうした)
死の瞬間と同じように近頃思い出すようになったのは、今生の、目が醒めてから今までの記憶だ。最もそれもまた断片としてのものが多いが。
先生とドクターと俺しかいない場所。
現実としては、外へ出ればそれ以上に人はいただろうが、ここへ入れられるまでの俺が見ることの出来る場所には、真実彼らしかいなかった。
彼ら以外の存在を何一つ教えられなかった。
戦う術を学んだわけでは無い。個性の使い方も、そもそも己が個性を持っているか否かも俺は分からない。
あの場所で彼らに教えられたのは、実際の所たった一つしか無い。
「クロ君……!?」
肩を揺すられる衝撃に、俺は目を開けていた。
いつの間に閉じていたのか。そもそもどれほど思考の中に沈んでいたのかはわからない。
しかし、目の前にはインコさんの心配げな顔がドアップで映っていた。
「そろそろ時間だ!カウント行くぜ!エヴィバディセイヘイ!」
テレビからは聞こえるカウントを聞き流しながら、俺達はただ無言で見つめ合っていた。
「タイムアップ!!」
その声でわあっと更に高まる歓声を背景に、インコさんの声が小さく聞こえた。
「クロ君。出久ね」
「一位!」
テレビ画面の音が被さり聞こえづらくも有る中で、俺の耳は正格にその情報を拾っていた。
「無個性だったの」
「轟チーム!!」
高い調子の解説と観客の歓声とは異なり、インコさんはまるで泣き出しそうな顔で、テレビ画面を見つめていた。そこには今、一位通過を果たした一組の騎馬が映し出されている。
「……無個性って」
言葉としては俺も知っている。
生まれつき、何の個性も持たない常人。
今でも人口の約二割を占める彼らは、現状差別の対象ともなっていると聞く。
個性は現在では、親から子へ受け継がれるものがほとんどであり、その中でも片親の個性をそのまま受け継ぐことが最も多いとされている。
その次に多いのが、両親の個性が合わさって、新たな個性として生まれる複合個性である。
どちらが良いかに関しては甲乙つけがたい所ではあるが、どちらにしろ個性であることには変わりは無い。
「あの子はヒーローになるのが夢だったのに……個性が無いと、ヒーローになることは難しい……それでね。私は出久よりも先に、出久の夢を諦めてしまったの……」
まるで懺悔のように続けられたインコさんの言葉の後ろで、場違いとなったテレビの音が騒がしく奏でられている。
「以上四組が最終種目へ……進出だぁ~!!」
一段と激しくなる歓声の画面の中には、俺も数日前にいちどだけ会った、インコさんの息子、緑谷出久が映っていた。
流れる涙の勢いだけで地面をめり込ませている姿は、ここでティッシュの山を次々と作り出していたインコさんの姿と似通う部分があり、確かに二人は家族なのだと確信させられる。
そんな現実逃避じみた考えにぼんやりと浸っていると、インコさんがズズッと、鼻をかむ音が響いた。
コマーシャルに入ったのか、一気にテレビの音量が小さくなる。
「ゴメンね。若い頃から涙もろいの……」
笑い混じりにそう続けた彼女に、俺は何も言えなかった。
「あの……」
ごめんなさい。もう良いです。そう申し出ようとしたのがニュアンスで伝わったのか、インコさんがそっと俺の肩に手を置いてくる。
「ごめんなさい。クロ君。……最後まで聞いてくれる?」
そしてインコさんは、俺にこう続けた。
「出久を心配してくれて……ありがとう」
その言葉に俺は息をのんでいた。
(違う……!)
真っ先に脳裏に過ぎったのは、そんな言葉だ。俺は彼の心配をしたわけではない。
しかしそれを否定するよりも前に、インコさんは口を開いていた。
「確かに出久は、見ていて危なっかしい所もあるわ。私もわかっているの。……でもね。止めようとは思わない。だって出久は子どもの時からの夢を、無個性だからって、私が諦めてからもずっと諦めずにここまで来たんだもの。だからこれからは、手放し全力で!応援しようって決めているの!!」
誓いを立てるように、言い切るインコさんの声は、どこか晴れ晴れしているもので。
「でも私、失格かもしれないわ。保護者としては。止めるのも一つの道かもしれないけど」
しかし、止めたくは無いのだと。言外にそう伝えられた俺には、もう立ち入る術は無い。
(最初から、お節介だったのかも……)
何であんなことを言ってしまったのか、今となってはわからない。……正直に言えば、さして考え無しに言った言葉であったけれども。
(必要なかったよな……)
そう考えると、ここにいること自体が場違いな気がして、俺は席を立った。
「クロ君?」
どうしたのと顔にデカデカと書いているインコさんに、思わず笑みを零しながらも、辞去の意を告げる。
用事があったのだと告げると、名残惜しげな様子ながらも、引き留めないでくれた。
「すいません。せっかくの第二種目なのに……ろくに見られなかったでしょう?」
暗に先刻の事を謝れば、彼女は朗らかに笑みをうかべる。
「大丈夫よ。録画はしてあるから……よければ出かけ先でも見てあげて。家電屋さんとかだと今日は、どこもこのチャンネルだと思うから!!」
暗にそれだけ視聴率が稼げるということなのだろうか。
その真偽はわからないまま、俺は自分の住処へと戻っていった。
それに気づいたのはドアを開けた直後だ。
物音は一つもしない。しかし何故かわかった。……
そのまま黙って進むと、開けたリビングルームの場所で……同じ間取りである緑谷家ではちょうどテレビが置かれていた部屋で、その探し人は寛いでいた。
「不必要な外出は控えるようにとは、命令されていませんでしたか?」
そう呟くように尋ねたのは、あの襲撃の日以来の邂逅となる、黒霧さんで。
「……電話で無いとは、珍しいですね」
無断侵入されていたことも加え辛辣に返すと、やれやれと肩を竦める動作を見せてから、微かな笑い声が部屋を満たした。
「傍受をされる可能性が有ったので、直接ここへ転移しました。今から移動を。先生からの要請です」
言われた言葉に俺は黙って頷く。逆らおうとは考えていない。……それが出会ってから今日までの間で、たった一つだけ、教え込まれた事だったからだ。
「ヒーロー殺し。そう呼称される人物を、連合に迎え入れます」
グワリと、俺の体を黒霧さんの個性が包む。そのまま俺は……住処から消えた。
何やらクロ君の暗黒面を顧みているような……。
敵連合よりだからか、どうしても、シリアス調になってしまいますが、どうぞご了承下さい。