どうも、ごめんなさいと謝りたい雪宮春夏です。
前は短文を書くのが難しいと思っていましたが、近頃は長文を書くのが難しいと思ってしまう今日この頃です。
一体どちらで悩めば良いんでしょうか?(苦笑)
「黒霧……なんだこいつは」
バーのカウンターに座る男は俺を見て一言、疑念の色の濃い声を発した。
カウンターの内側にいる、何とも変わった風貌のバーテンダーに向ける声は心なしか苛ついている。
いや、正直に言おう。
変わった風貌では無い。
何せ顔が無い。
……いや、あるのかもしれないが見えないのだ。黒い靄に覆われて。
「仮装ですか? 貴方といい、この人といい」
取りあえず、不機嫌そうな男の人よりも、まだ表情が読めない靄さんの方が面倒ごとにならなそうな気がして、靄さんに問いかける。
靄さんはその俺の問いに答えず、なるほどと言葉を漏らした。
「……確かに、先生からお聞きした通りの方のようですね」
こちらの分からぬことで納得されるのは気分の良いものでは無いが、あの先生の紹介の時点で、いやな予感はあった。あの人と同じような人種らしい。
基本自分優先。他人のことは後で良しだ。
(あれ? でもその態度を誤魔化そうって気が無いだけ、先生よりはマシ?)
ふと、その隠蔽の有無に関する差違に思い当たって、頭を悩ませていると、面倒そうという理由で敢えて思考から外していたもう一人……こちらもまぁ、靄さんよりはマシだが、何とも変な男の子が、不機嫌を隠しもしない苛立った声で靄さんに尋ねる。
「答えろよ黒霧。何なんだ? こいつは……!」
どうやら靄さんは黒霧というらしい。
「落ち着いてください。死柄木弔」
死柄木、と呼ばれた男は若く見えた。青みがかった鼠色の髪に赤い瞳、身だしなみを整えれば美丈夫かもしれないが、顔全体に貼り付けている数対の手がいろいろ台無しにしている。
(いや、どんなファッションにするかは個人の自由だ。……あんま追求しない方が良いぞ。俺! …ファッション、だよな? あれ……)
考え込む俺をよそに、表情のわかりにくい死柄木は、それでも不機嫌を隠そうともしないで、俺を示した。
「黒霧。今すぐこいつ殺って良いか? …俺の大嫌いなものセットで持ってやがる……!」
あまりにも穏やかでない言葉に、俺は眉を寄せるが、俺の反応など知ったことでは無いと言うように、死柄木は続けた。
「ガキで、礼儀知らずだ」
「…………」
その時俺の脳裏を過ぎった感情は、ひと言では言い表せないだろう。
なるほど。確かに今の俺はどう見ても死柄木よりは年下である。
しかし、生前も合わせればその年齢は間違いなく死柄木よりも上なのだ。
第一。
「俺は先生の命令でここに来ただけだ。だからここにいるだけのお前を敬う気なんて無い。そうして欲しければそれ相応のことをしてから言えよ」
気づけば真っ向から喧嘩を売っていた。無意識に唇を吊り上げた俺の姿は、後から思えば確かに、礼儀知らず……を通り越して、憎たらしくも見えたことだろう。
ガリ、ガリリと、死柄木の手が顔を首をひっかく音がやけに大きく聞こえた。
「冗談だろ? こんな奴を使うのかよ!? ……何でもっとおとなしく出来ない……!?」
苦々しい声音で呟く死柄木を宥めるように、黒霧が彼の耳元に口を寄せる。
その内容は僅かに距離が有るこちらには届くことは無かったが、おそらくそれは折り込み済みだろう。
(さて……どうしよう。怒らせたよなぁ。これ……)
勿論ここで死柄木が怒りのあまり俺を使いたくないとクーリングオフしてくれたら、俺としては万々歳だ。
俺が先生に頼まれたのは「彼に手を貸してくれ」の一言のみ。
逆に言えば彼に断られたと言う言質さえ取れば、俺はそのままお役御免になる可能性が高いだろう。……希望的観測で言えば。
(いや、でもあの事聞かされた時点で、協力するか殺すかの二者択一か?)
入った直後に彼らから聞かされた、ある計画を思い起こし、俺は重く溜息を吐いた。
もしやこれも、彼等は見越していたのか……或いは単なる偶然か。
(雄英襲撃及び、オールマイト殺害計画ねぇ……)
それを聞いた瞬間、驚愕よりも呆れが先に立った。
国内でナンバーワンとされる英雄。普通は考えても実行することは無いであろうそれ。
それを実行することをカリスマととるか無謀ととるか。
(うん。無謀だな……)
空気を読むならカリスマと言うべき何だろうが、俺は自分に嘘はつけない。
まず、自分以外は靄さん……もとい黒霧さんしかいないのに、何故態々雄英という英雄集団の牙城を狙うのか、社会を混乱に陥れると言うならまだしも、死柄木の話を聞く限り、完全な私怨に近い代物。
彼のオフを狙えば成功率が、グンと上がる。
「……訳でも、無いですね。寧ろ子どもを人質に取った方が勝機はあるのかな?」
……いや、ある意味余計な怒りを買いそうな気がする。
「……それ以前にオールマイトの私生活は一切謎に包まれているのです。よって、彼の弱味は見つからず、オフの過ごし方も謎のままです」
頭の中で考えていただけのつもりがいつの間にやら声に出していたのか、黒霧さんが丁寧に注釈を入れてくれた。
「その前に、てめぇの意見は聞いてねぇ。雄英襲撃は決定事項だ。てめぇの力を貸して貰う」
俺と黒霧さんが話している間に落ち着きを取り戻したのか、苦々しい顔は隠せていないが、平然を装った声音で、死柄木が口を挟んできた。
「……了解」
ここまで言われてしまっては俺としては不本意でも頷くしかない。先生との約束がある以上しょうがないことだ。
「……んで? 詳細は?」
「おって連絡します。住処の方の連絡先は先生から渡されていますので、そちらへ連絡を」
死柄木の前に黒霧さんが口を開いた。
俺と死柄木をなるべく会話させたくないのか、まぁ妥当な処だろう。
(しかし、連絡先まで筒抜けですか……)
面倒なとは思うが、予想の範囲内でもある。元々、俺の住処を整えたのは先生だ。
目を覚ましたあの時からずっと世話になっているのだから、今更どうこう言う気はない。
(ずっと? ……あれ? いつから俺、あそこにいたんだ?)
フッと頭を過ぎった僅かな違和感に、俺は眉をひそめる。しかし、それが何かの答えに辿り着く前に、その違和感は無くなっていた。
(何だろう……釈然としない)
結果として残ったのは、そんな何とも言えない、消化しきれないもやもやとした感覚だけだった。
死柄木は呼び捨て、黒霧はさん付け。
この違いはそのまま、好感度の違いです。
おそらく……。