繋いだ手と手が 紡ぐもの   作:雪宮春夏

20 / 30
内容は題名の如し。ネタバレになりそうなので、詳しい話はまたいずれ。

それではどうぞ、よろしい方だけご覧下さい。


急転直下

「何でお前がそこにいる!?」

大通りに出てきた出久達は、逆方向の裏道から大通りへ出たグラントリノと鉢合っていた。

出久の受け入れ先であるグラントリノは出久の姿を確認するや否や、彼が身動きがとれず、プロヒーローネイティブさんに背負われている事さえ気にしていないように、軽い蹴りが出久の顔面に当てられた。

「座ってろって言ったろ!!」

しかしその後、彼らの雰囲気から大事には至っていない(一概にそうとも言いきれないが……)とは理解したのか、「まぁ無事なら良いが……」と、小声でぼやかれる。

心配されるような事をしてしまったという自覚はあるから、出久も謝罪の言葉を口にしていた。

その様子に触発されたように、一番後ろを歩いていた飯田が静かに頭を下げる。

「皆……俺のせいで、本当に済まなかった」

思わず飯田を見やる轟と出久の顔も見られないまま、飯田は悔恨の涙を流していた。

「何も……見られなくなってしまっていた」

轟に言われた一言。出久と轟の目の前で見せられた決意。

この戦いは彼らにとっては、多くのものを得られた戦いだった。

そして、多くのことをそれぞれに考えさせられる戦いでもあった。

「僕こそゴメンね。君が追い詰めていること、まるで気付かなかった」

気付く機会は、いくらでもあったのに……。

言葉の裏に自らを責める言葉は隠して、まっすぐに飯田の目を見つめる。

「しっかりしろよ。委員長だろ?」

ぶっきらぼうな轟の励ましに頷きながら、飯田は涙を拭った。

時間としてはその戦いは5分から十分程度のものだったのだろう。

しかし、何もかもが初めてであった出久達にはその何倍も長く感じられる戦いだった。

一件落着。そうとも言える結果に、彼らが互いに笑い合おうとした時……。

「誰だっ!?」

グラントリノの激しい声が響いた。

「え……?」

「………!」

「………!?」

三人の子供達は誰一人気配など感じてはいなかった。

だが、グラントリノが出てきた反対側の方向。

その道路を挟んで出久達と反対側にある道からヒラリと一つの影が舞った。

「予想外だな」

抑揚の無い、涼やかな声音。

「まさかヒーロー殺しがやられるとは思わなかった」

ぶわりと、風に煽られて、火の粉が舞う。

「……嘘だろ」

無意識に、そう呟いたのは誰だったか。

しかし、USJでその姿を目の当たりにしていた三人の子どもは一様に言葉を失っていた。

敵連合とヒーロー殺しの繋がりを予期していた出久でさえ、その姿に反応できなかった。

ヒーロー殺しを眼前にした時とは、明らかに違う威圧感。

言葉を発することさえ躊躇われるような空気がそこにあった。

以前の戦いの中で両手に灯していたものと同じ煌々と燃えさかる額の炎と、それと同色の両眼は、辺りの薄暗さも相まって、彼がまるで三ツ目を持つかのような錯覚を与えてくる。

……人外。

逢魔が時に近い時間帯の今、その言葉こそがその姿には相応しく感じられた。

「フレイア……!」

誰も声を発せられない空間の中で、その言葉と共に息を吞んだ出久は、その嚥下の音さえやけにはっきりと聞こえていた。

「嘘だろう……ありゃあ」

初めて対峙するはずのグラントリノも、その反応は鈍い。しかし彼の理由は、フレイアに脅威を抱いたのでは無く、その容貌に関係があった。

(似ている……どういうことだ……?)

それはいみじくも、ヒーロー殺しが彼に抱いたのと同じ、懐古のような感情。

「……()()()()……!?」

自警団(ヴィジランテ)。嘗てそれを作った片割れの名を気付けばグラントリノは呟いていた。

 

真っ暗な空間の中で、俺は何かを聞いた気がした。

(なんだ……?)

しかしそれは、以前聞いた声とは違う。

ひんやりと、体の芯を冷やすような声で。

(なに……?)

ざわりと、体中の毛が逆立つような、変な感覚がした。

まるで。

(まるで……体中が、嫌がっているかのような)

漠然とした、おかしな感覚に俺は頻りに周囲を見渡す。

しかし周りには何もない。ただ……真っ黒な闇が広がるだけだ。

(真っ黒な、闇……)

「まくろ」

耳元で囁かれたように、その呟きははっきりとしていた。

息遣いさえ聞こえるほどに、それは近い。

「せん……せい?」

紡いだ言葉に、微かな違和感を覚える。

何だろう。そう思うまもなく、言葉は思考の中に流れ込んだ。周りの景色はさっきと変わらないはずなのに震えが走る。何かが違う。そう俺の中の何かが囁いてくる。

「吊り上げられた空。真黒(まくろ)な闇。それがお前だ。その意味は分かっているね?」

断じられた言葉の意味は俺には分からない。いや、この人の教授においては分かる必要など無いのだ。彼に教えられたのは、絶対的な命令の遵守。総ての肯定。……俺がしなければいけないことは、ただ受け入れる事だけ。

「まくろ。お前という「空」には何もない。朝も昼も夜も、全ては存在しない。ただ闇があるだけだ」

先生の言葉はまるで心地の良い音のように、俺の中に流れ込んでいく。何故俺を「空」と称するかは分からなかったが、質問など許されないことだ。静かに俺は頷いた。

「嵐も雨も雷も太陽も、霧も雲も虹も大地も、天を照らす星でさえ……お前という闇には不要だ」

ねっとりとした声。しかし同時に、ここにいる限り俺が聞くことの出来る唯一の声でもある。

それに聞き入る俺の頭はまるで耳障りの良い音を聴かされているようにボンヤリとしていた。

「お前はそれを……()()()()()()()()?」

「はい……勿論です」

反射のように返すと、何故か俺自身も、あたかもそれが当然のことのように感じられる。

(そうだ。俺は、真黒な闇。だからこそ、そう名付けられた……)

……だから。

ふと頭に浮かんだ言葉。それを言うよりも先に。

「………?!」

左手に走った熱に、俺は目を見開いていた。

 

「よせっ!轟っ!」

咄嗟のグラントリノの制止も空しく、炎が地を撫でていた。後方から伸びた炎に気付いたのか、ふるりと僅かに揺らいだ眼が、轟炎司……エンデヴァーの姿を認める。

視認されたエンデヴァーは、その瞬間凄まじいまでのプレッシャーを感じていた。

(なんだ……!こいつは……!?)

反射的に臆したエンデヴァーは次の瞬間にそれを自覚して、ギリッと唇を噛みしめる。

湧いて出るのは臆した己への怒り。そして臆した事への憤り。そして己を恐れさせたものへの怒り。

その斜線上に子供達がいることさえも気付かないまま、エンデヴァーは再び高火力の炎を放っていた。

 

眼前に迫るエンデヴァーの炎から目を逸らして一瞬、背後にいる相手に目線を流した。

高齢のプロヒーローに、三人の子ども。

そして彼らの後ろにはヒーロー殺し。

ヒーロー殺しとエンデヴァーをつぶし合わせるつもりだったが、ヒーロー殺しは三人の子どもにやられてしまったようだった。

実力差を考えれば本来はあり得ない。

おそらく油断か何か……負の要因でもあったのだろう。

(このままじゃ、フレイズが暴れられなくなる……!)

再び思案をすること一瞬、弾かれた答えに従って、青年は両手から僅かに噴射した炎で、空中へ飛んだ。

「何!?」

驚愕に歪んだエンデヴァーの顔。最後まで己の背後にいた者達に気付かなかった所は愚かとしか言いようが無いだろう。

(ヒーロー候補生、そう思われる子どもを…()()()殺してしまったとなれば、これ以上は現場にいることは出来ないはず。上手くいけば、ヒーローの資格を失うかもしれない)

一瞬ではじき出したその答は、適切のように感じた。

死柄木弔の殺害対象はオールマイトだけだが、障害は少ないに越したことはないはずだ。

(間違って、ない……)

そう思われる。それが正しい筈なのに、青年の頭の中を過ぎったのは焦燥感だった。

(焦っている?……何故……?!)

ズキッ。

次いで頭に感じたのは僅かな疼痛。

(な……に……?)

その直後、頭の中に響いた声に、強い痛みを感じて、青年は固くを閉ざしていた。

“目を覚ませ!“

その声を聞いた瞬間、ざわりと体に広がったものが何かは分からない。

(熱い何か……何かの毒物?……違う。エンデヴァーはそんなものを使うという情報は無いし、この場にいる他の面々には一方的に話しかけただけだ。仕込めるような要素は無かったはず……)

しかし死柄木や先生にしてはこのタイミングはおかしい。グルグルと空回りする思考の中で、しかし青年はその場から逃げることはしなかった。いや、逃げることは出来なかったと言う方が正確だろう。ヒーロー殺しが使えない以上、暴れないまま、己はここに彼を引きつける必要がある。

(どうする……どうすれば……!)

明確な指針は全くと言っても良いほど定まっていない。眼前の向こう……子供達を嘗めようとする炎を眺めながら忙しなくその先へと青年の思考は移っていく。あの子供達はここで死ぬだろう。それが、青年の理性が訴える結論だった。

引きつる彼らの恐怖に怯える顔を見るのが恐くなり、瞬間目を瞑った。そこに一瞬だけ……ふくよかな女性が見える。

「……っ!!」

その瞬間青年を襲った痛みの理由は、青年には最後まで分からなかった。

眉間に皺を寄せ、覚えた嘔吐感を堪えるが、苦痛が自我を持ち、居座るかのように消えない。声にならない悲鳴を零した瞬間……その声は届いた。

「関係の無い子どもを殺す……それはお前が最も望まなかったことのはずだ……違うのか?()()()()

凛と響いたその声には、僅かな怒りのような物が込められているように感じられた。こちらに向けられた橙色の瞳が、青年の中の何かを刺激する。

エンデヴァーから発された炎が薙ぎ払われる。

見ると息絶えると思われていた三人の子供達が、顔を青ざめながらも息をしていて。

……三人の子どもの左端、その真ん前に一人の男がたっていた。

「なんだ……!お前は……っ!!」

声音を震わせた青年は、その男の瞳に言い知れない何かを感じていた。

あの瞳は……嫌いだ。

それだけは……断言できた。

 

迫り来るエンデヴァーの炎に、子供達は声を上げることさえ出来なかった。No.2と呼ばれる力は伊達では無く、ヒーロー殺しと対峙した時と同等の、死の気配を肌で感じた。

その中にいた出久には迫る炎がやけにゆっくりと感じられた。正確にはゆっくりなのでは無く、それ以上に己の思考能力が上がっているのかもしれない。俗にいう走馬灯と言うものもこのようなものなのだろうか。

(もう…ダメ……!)

肌に感じる痛みに似た熱の熱さに、目を閉じようとした時、それを見た。

炎の中に見えた幾つもの影。それは体育祭の最終種目のトーナメント、その初戦に見た、ワン・フォー・オールを受け継いできた者達の面影によく似ていた。

(誰……だ?)

ただ、その時見た面影と違うのは、彼らが皆一様に、エンデヴァーのような炎の仮面を被っていることだ。

ある者は目元を、ある者は顔面を、その形は多々あれども、皆が示し合わせたかのように。

(あれ?色も、皆同じ……橙色?)

その色は、何度も見たものだ。

フレイアと同じ橙の炎。だが、痛みさえ感じるほどに、鋭利な形状をする彼の炎と異なり、彼らの炎は皆どこか丸みを帯びている。

何か関係があるのだろうか。そう明後日に行きかけた思考に、その声は響いた。

“つながりましたね“

“ギリギリといったところですがの“

“本当に行かれるおつもりですか“

頭に響くその声達には、一様に不安の色がある。

その中の一人が僅かに動いたのが見えた。頷いたのだろうか。以前見たワン・フォー・オールの個性に染みついたと言う面影は誰一人身動きなどしなかったのに。それが出久の中に妙な印象を植えつけた。

(そうだ。まるで……まだ生きているみたいって言うのかな?)

こんな絶望的な状況で考える内容では無いだろうが、これも一種の現実逃避行動だろうか。

出久の思考は止まらない。最も彼らはそれっきり誰も動く様子は無いので、出久に分かるのは誰かが何かをしようとしている。それだけだ。

“……皆、後は頼むぞ“

最後に聞こえたその声は何故か出久の耳元で。出久が振り向くよりも前に、再びその声が出久の頭に鳴り響いた。

“済まない。勝手なのは分かるが……お前の炎を……少し借りるぞ。()()()()()Ⅸ世(ノーノ)よ“

その直後、己の眼前に映ったのは、黒いマントで。

「……へ?」

直後に開けた視界に、炎が消えた事実だけは分かった。

「関係の無い子どもを殺す……それはお前が最も望まなかったことのはずだ……違うのか?Ⅹ世(デーチモ)

耳に届いた声は、頭の中に響いた声と全く同じもので。

「なんだ……!お前は……っ!!」

空中に留まるフレイアの声は、心なしか震えているように感じた。

(何が……起きているんだ……?)

自分の知らない間に進んでしまった事態に対応出来ている訳では無かったが、体を包み込む奇妙な倦怠感に浸りつつも、出久は懸命に思考を回していた。しかし考えようとすればするほど、その出所がいまいち明確にならない倦怠感の影響か、思考自体に切れがない。

周りからは何一つ音がしない異様な状況下で、出久はただ、その場の流れに身を任せる事しか出来なかったのである。

 

左手に感じた熱は、一瞬で消えた。

何だったのだろうか?

首を傾げて漸く俺は、さっきまで俺と話していた先生がいないことに気が付く。

誰もいない、一人の空間。今し方の先生との会話が、何故か頭を過ぎった。

『嵐も雨も雷も太陽も、霧も雲も虹も大地も、天を照らす星でさえ……お前という闇には不要だ』

改めて思い返して見ても、訳が分からない。

先生は無駄なことなど言わないのだから、単に俺の理解力が乏しいだけだろう。

闇の中に何もないのは当たり前だ。

星が照らせば、それは夜空であって闇じゃない。

(そうだ。……俺にはそんなものは不要なんだ。先生がそう臨むんだから……)

まるで己に言い聞かせるかのように心の中で呟いた言葉は、声になど出ていない筈だった。なのに。

“本当に……?“

その声は、何も見えない空間の中から聞こえた。思わず顔をあげるが、そこには誰もいない。

“本当にそう?俺はそれを望んでいるの?“

更に聞こえた声に、俺は耐えきれずに声を上げた。

「なんだ……!お前は……っ!!」

この時俺の頭を占めたのは、明確な怒りだ。それと同時に、胸の中にグルグルとした何かが渦巻く。

(ここは俺の中なのに!俺はそれを望んでいるのに……!お前は!!)

何も見えない真黒の世界。それが己の世界なのに、誰かが無遠慮にそこにいる。

まるで己の心の中に入り込まれたかのような苛立ちで荒らげようとした声は次の言葉で止まってしまった。

“本当に俺が望んでいるなら……何で俺達は泣いているの?“

そこにいたのは、俺と瓜二つの男の子。その子は大粒の涙を浮かべたまま、へにゃリとこちらに笑いかけた。

“ねぇ?……“

何事かを言った、その言葉は聞き取れない。

ただ雑音だけが耳障りに響いた。

 




さて何やらポロポロと波状攻撃が起きているようですと、それらしく実況してみます。雪宮春夏です。
とりあえず、ヒーロー殺し戦は後半、綺麗にカットさせていただきました。見たい方は……(以下略)
今回は一応プロットは考えたのですが、途中からあちらへ逸れこちらへ逸れ……多分次回で決着はつくと思いますが(苦笑)

では、ここまでどうもありがとうございました。よろしければ次もご覧頂ければ嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。