繋いだ手と手が 紡ぐもの   作:雪宮春夏

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どうも……予定よりも早く力尽きました。雪宮春夏です。
今回の最後に入れようと思っていた部分は次話へ繰り越しとなります。
どうぞお楽しみに!(多分楽しみにしている人は少ないでしょうが)


これからの話

「何ですか。この空気は」

ボンゴレファミリーアジト、並盛基地。並盛町の地下に広がるその地の会議室に足を踏み入れた綱吉の霧の守護者の片割れ、六道骸の開口一番がそれであった。

「君たち、()()沢田綱吉の通夜でもするつもりなんですか?」

何とも不穏な単語を呟いた彼に、声を震わせて噛みついたのはやはり獄寺だった。

「バカも休み休み言え!十代目の通夜なんざ古今東西開いた覚えはねぇぞ!!」

「おやそうなんですか?棺桶まで用意したのだから、通夜と葬式位開いているものだと」

心底意外と言う心情を隠そうともしない相手に、流石に他の守護者達も苦笑いだ。

「まぁ、正確にはする暇もなかったんだよなぁ。「ボンゴレ狩り」とか起こったし」

頬を掻きながら説明する山本であったが、それ以外にも守護者の誰もが当時それの開催を言い出さなかった理由はある。

皆、その事実を認めたく無かったからだ。

だからこそ、入江正一から事のあらましを聞いたときは歓喜と、それを上回る安堵に襲われた。

失われていなかった事が、ただ嬉しかったのに。

「何か……繰り返してるみたいなのな」

ぽつりと呟く山本に、クロームとランボも顔を俯ける。

「それより悪いだろ」

吐き捨てるように続いた獄寺の言葉は真理だった。

以前は、「白蘭」と言う明確な敵が居た。

しかし今はそれすらいないのだ。

自然と重く漂う沈黙に、うんざりとしたように骸は溜息を吐いた。

()()()()()

その言葉は、重い空気を纏った沈黙の中で、鋭い刃物のようにその場にいた者達の耳に届いた。

「…………は?」

しかし、その場にいた誰もが、一時、その言葉を理解できなかった。そこまで骸にはしっかりと伝わったのだろう。吐き出す溜息を隠そうともせずに、骸は続けた。

「バカじゃ無いですか?あなた方は」

その言葉に、真っ先に動いたのは獄寺では無かった。

鬼のような形相で掴みかかる山本に、骸は余裕の笑みを崩すこと無く、薄笑いを浮かべている。

「入江正一如きの言葉に振り回され、一喜一憂、ピーチクパーチクと。今時、野生の鳥でももう少し自我をもって行動しますよ?」

常にはない、饒舌なその姿は、自覚していなかったとは言え、骸が彼らに対して、怒りを抱いていたことの証左であった。

(綱吉君が共犯者に雲雀を選んだ理由……あの作戦を雲雀に()()打ち明けなかった理由……分かるような気がしますね……)

山本に対して薄笑いを浮かべたまま、骸は彼らのボスに思いを馳せた。

今まで復讐者の牢獄にいたことで、物理的に距離をとっていたからだろうか。気づかなかったことではあるが。

(何ですか?彼らのこの、お気楽なまでの思考停止状態は……)

昔はどうだったか。そう明言できるほど、元より骸と他の守護者達の距離は近くない。

元々の間柄は綱吉の体を狙った相手という敵同士であり、ボンゴレの守護者となったのも、復讐者に狙われる犬と千種の保護を得る為だ。

いわば、利用し、利用されるだけの関係。

だからこそ、必要以上のなれ合いをするつもりは当初から無かった。

そんなこちらの事情を、あの男は……沢田綱吉は最初から悉く無視しきって来たけれども。

(本当に……彼が謝罪する必要など、始めから無かったというのに…)

骸が思い出すのは、ボスになった当初に、ボンゴレの上層部に対して己の守護者である六道骸を復讐者の牢獄から解放したいと言う要求。それをすげなく彼が断られた時の事だ。

その時は前触れも無く、クロームの元を訪れ、泣きながら己の無力を詫び続ける綱吉に対して、骸は憮然とした態度で彼を眺めていたように思う。

骸からしてみればそれはいちいち知らされる事などでは無く、当然の結果と言えただろう。

ボンゴレファミリーの中でも暗殺独立部隊ヴァリアー所属のマーモン……霧のアルコバレーノであるバイパーと並ぶほどの実力を持つ骸、その依り代であり、霧の守護者の代理であるクローム。彼の弟子であるヴァリアー所属のフランはともかく、二人がボンゴレに所属し続けている理由は、偏に骸の体が牢獄に繋がれているからだ。

その大前提が無ければ、骸とてマフィアであるボンゴレに協力する義理は無い。

仲間意識等と言う無駄なものを抱く綱吉とは異なり、上層部の者達はそれをよく理解していたのだろう。

黒曜組の頭である骸の存在は、彼らからすれば繋いでいるからこそ使える存在なのだ。

(マフィアなどにそこまで期待を抱くことも、元より無い……)

だからこそあの時は、()()()()()()涙を流す綱吉がただ滑稽だった。

(あの時は本当に……その程度だったと言うのに、僕もよく絆されたものですね……)

自覚しているが故に、このような形でも彼らを立ち直らせる為に言葉を紡ごうとしている自分を、滑稽と嘲る事はもう出来なかった。

「骸?」

ここに来て漸く、理由は分からないながらも、骸が立腹している事は分かったのだろう。

彼が向ける以前は無かった視線の意味が分からず、困惑から眉を寄せる了平に、気にした様子も無く、骸は続けた。

「敵が誰かも分からない?沢田綱吉の安否が不明?……だからどうしたんです?」

グルリと見渡した守護者達の、一様に不安げな表情を、当たり散らすかのように鼻で笑っていた。

「心配したところで、何か変わるんですか?」

もしそう思うのならば、それは救いようのない阿呆でしかない。

最後にあの装置の中で、沢田綱吉の分子貯蔵装置を確認したのかがいつかは知らないが、アルコバレーノの言うとおり、既に浚われた事は確定なのだ。

今更、何も変わりはしない。

だいたい、と常に己の喉元を塞いでいた異物がいきなりとれたのかと思うほど淀みなく、骸は言葉を紡いでいた。

「抗争初期に敵が分からないのは当たり前でしょう?沢田綱吉の安否など白蘭の手にかかってからはずっと不明だった。それを突きつけられただけでしょう?それで今更取り乱すとはあなた方は頭のねじでも緩いんですか?」

説教等己の柄では無いと、分かってはいたが止められなかった。

突然始まった骸の怒濤の口擊に、その場にいる守護者達が皆啞然としているのが分かるが、今更止められるものでも無い。

「……てめえは……十代目の事が心配じゃねぇのか?」

呆然とした様子のまま独白のように呟く獄寺に、骸はフンと鼻をならしていた。

「生憎……僕は自分の目で見たものしか信じませんよ」

 

並盛基地、その一角にあるコンピュータールームにて、一人の青年が作業をしていた。

現在のボンゴレ十代目ファミリーと共に、十年前の世界から過去の自分を呼び出す為に彼らと同じ装置に送られていたチェデフ所属の青年、バジルである。

「今の所は……ここまでが限界か」

現状の報告を終えたバジルは、緊急暗号文とした報告書の送信を完了させて、ふぅと息を吐き出した。

しかし、その表情に、やるべき事をやりきったと言う達成感は薄い。

(寧ろ、今体の中を巡っているこれは、何も出来ない事への焦燥感や無力感かもしれないな)

冷静な部分では、己は何も出来ていないわけではないと思う。

それを言うのは、一般人である笹川京子や三浦ハルの方だろう。

チェデフにて情報の取り扱い方に秀でた己にできるこれが、己の持つ一番の力だと言うことも分かっている。

守護者やヴァリアーのように武器を振りかざし敵を倒すことだけが戦いでは無い。迅速な情報のやりとりが勝機を分けることもあるのだから。

それを理解している己がここまで無力感に苛まれるのは、今回のあまりの情報量の少なさにも理由はあるのかもしれない。

最初の一報を受けてから並盛基地ではジャンニーニが、例の装置の前では制作者である入江正一が必死で手がかりを探していると言うのに結果は芳しく無いのだから余計にだ。

(沢田殿……)

己の思考の中に沈み込んだバジルは、自らの不甲斐なさに唇をかみ締めていた。

今回の計画、雲雀、入江正一以外の全ての者が蚊帳の外であった事が、そのまま十年前と比べて、沢田綱吉との間に開いてしまった溝なのでは無いかと、バジルは感じていた。

十年前は、当然ながらもまだ、沢田綱吉はドン・ボンゴレでは無かった。ボンゴレ十代目とは呼ばれていたが、それはあくまで候補筆頭、と言うだけで何かしらの権威がある訳でも無く、責任もそこまで大きくなく……己も、守護者達も今よりずっと気安かったように思える。

(もしかしたら、だからこそ……沢田殿は十年前のご自分達に、この世界の命運を託されたの知れませんね)

無意識下に壁を作った自分達では無く、壁など一つとしてなかった、意見する事への躊躇いも、目上の存在となってしまった()()に対する無意識下の遠慮も無い彼らだからこそ、その真価を発揮できると思ったのか。

(それは……沢田殿にしか分からぬ事)

今のバジル達に分かるのは、起きてしまった現実だけだ。

(立ち止まることは出来ない……!)

己に言い聞かせるように、バジルは他には誰一人として人のいないここで、己の心を鼓舞していた。

(立ち止まったら本当に……!)

沢田綱吉に、手が届かなくなってしまう。

己の中の直感が囁くそれに勇気づけられるように、再び強く頷いた時……まるでその動きを待っていたかのように、今まで……海外のある地点で倒れてから、装置から目覚めて現在までの間、腕に装着したままになっていた通信機から、連絡が入る。

「何だ?……これ」

この通信機に情報を送るやり方を知っている者はそう何人もいない。ほとんどはチェデフ所属の面々であるが。

「……え?」

開封した連絡の内容に、バジルは目を見開いた。

正確には、そこに隠語で書かれていた、宛先にだ。

連絡自体は、一件単なるエリアメールの類である。

しかし、この通信機はそんな凡庸な電子手紙が送られてくるような代物では無く。

「……本部、から?」

隠語によって隠されていた宛先はさっきまでバジルが報告書を送っていた己の上司。門外顧問の沢田家光からで。

そこに書かれていた事はたった一つ。

間もなくから、ボンゴレ本部の九代目より、十代目ファミリーに向けての暗号通信が届く筈だと言うものだった。

 




今回の話は一言にすると……骸が出張りました!!
春夏の中では現実主義の骸ですが、その良さを少しは表現できていればと思います。


……それではここまで長々ありがとうございました。
こんな不定期更新ですが、それでも良ければこれからも宜しくお願いします
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