死柄木サンタと黒霧トナカイを先日思い浮かべてしまいました、雪宮春夏です。
因みに渡す物は色々な種類の危険物。
薄ら笑いを浮かべて、お世話になっている皆様(主に雄英関係者)に配ろうとするのです。……個人的には絶対に受け取りたくないが。
そんなこんなで、最新話、お楽しみ下さい。
USJ
雄英高校ヒーロー科1年、緑谷出久がそれを聞いたのは、夕食の席であった。
「えっ?!お隣の家に人ってもう入ってたの!?」
緑谷家の隣宅に、新しく人が入ると言う話はこの2、3ヶ月前から何度か話されていたことだったが、引っ越し業者を見かけるでもなく、いつまでも人の出入りしている様子がなかったため、隣接していた出久達もまだ、人が住んでいないのだと思い込んでいた。
その家の住人に遭遇したのだと話した母に、出久はつい興味本位から前のめりになり、聞きたがる。
情報収集は、元々ヒーローになりたいという思いからヒーローに憧れ、その情報を書き出したのがそもそもの始まりだが、今はもう習慣に近い癖となっている。
「名前は吊空真黒君。今は一人暮らしみたいね。ご両親の事は少し聞ける雰囲気じゃ無かったから聞いてないけど、年は出久よりも年下よ。多分……まだ中学生じゃ無いかしら」
「え……?」
彼女がもたらした情報に、思わず出久も目を丸くした。
ヒーロー飽和社会と呼ばれる現代だが、それは犯罪が起きないと言うわけではない。
ここら辺はそうでもないが、それでも出久よりも年下の子どもが一人暮らしというのは、少し異常な事態だった。
「その子ね。凄く寂しそうな顔をしていたの。どんな事情があるのかは分からないけど、きっと、心に傷を負っているんだと思うわ」
我知らず同情に満ちた目になってしまった母の姿に、出久も未だあったことのない住人に思いを寄せた。
出久の父も海外に出張しているため、ほとんど母子家庭のような環境で育ったが、それでも傍にはいつも母がいてくれた。苦しいときも悲しいときも……雄英に合格するために努力した一年間は、母が食事の面から十分なサポートをしてくれたからこそ、合格までこぎ着けたのだと思ってる。
そんな存在がいなかったら、自分だったらきっと耐えられないだろう。
「お母さん。これからも気にかけてみた方が良いよ。……何が出来るかは、分からないけど。気にしてくれる人がいるだけでもきっと」
そこで出久が思い浮かべたのは現在雄英高校にて教鞭を振るっている、ヒーローとしての出久の可能性を、最初に見いだしてくれた人。
今から一年前、幼なじみである少年の危機に、咄嗟に体を動かした己を見て「君はヒーローになれる」といってくれた恩人だった。
「きっと……違うと思うから」
己の経験も交えた言葉に、母も何やら思うことがあったのか、もちろんと続ける。
「会う機会があれば、出久にも紹介するね。本当に良い子なの。きっと仲良くなれるよ」
しかし彼らはその翌日、思いもしないところで対面することとなるのだが、それはまだ、誰も知る由はない。
翌日、午後一番で始まったヒーロー基礎学に教壇の上に立ったのは、受け持つオールマイトではなく出久達の担任、相澤先生だった。
彼の話によると、本日のヒーロー基礎学はオールマイトと彼を含む三人で見ることになったのだそうだ。
なったと言う言葉に、出久はそれが特例として急遽決まったことだと悟った。そこで頭を過ぎったのは昨日の突然昼休み中にマスコミが学校へ侵入してきた出来事だったが、それと今のこの決定を繋げることは出来なかった。モヤモヤとした物を抱える出久に構わず相澤が続けるには、コスチュームの着用は自由であること。また距離があるためバスで移動するという言葉に、皆が各々の用意を整えるために動き始めた。
行われるのは「救助訓練」。
緑谷出久にとっては、憧れのヒーローに近付くための第一歩だった。
嘘の(U)災害と(S)事故(J)ルーム。
数多くの災害規模を模した現場のセットを、まるで遊園地に喩えた男子の期待に応えるかのように、打ち明けられた名前に、思わず全員が突っ込んだ。
図らずもその一幕で、生徒の緊張を解したのは、相澤、オールマイトと同じ、雄英の教師陣にしてヒーロー。スペースヒーロー13号である。
全身を宇宙服を着込んだ外見がコスチュームで、その素顔を見た者はいないらしい。
個性「ブラックホール」でどんな物でも吸い込み、チリにすることでどのような災害からでも人を救ける、紳士的なヒーローともいわれていた。
姿が見えないオールマイトについては小声で何やら話し合っているようだが、その声はこちらにまでは聞こえてこない。
生徒が一所に集まっている前で、13号先生の注意が入るが、それは注意と言うよりも心構えを解く授業の講話に近く、出久を含め、生徒達の心に深く刻まれる言葉だった。話が終わった直後に思わず拍手が巻き起こる中、改めて相澤先生が、指示を出そうとしたその時、施設の電気が僅かに点滅した。
「何だ?」
生徒の一人の誰何に被さるように、相澤先生の切羽詰まった様子の指示が飛ぶ。
「全員!一かたまりになって動くな!!」
その直後、皆が集まる正面から一段下がった施設内の噴水に、黒い歪みが生まれ、渦を描くように大穴へと変わり、姿を見せた。
そこから出てきたのは、ぎらつき、飛び出さんばかりに迫り上がった赤い瞳。顔面についた人の手がいっそうの不気味さを醸し出していた。
青みがかった鼠色の髪のその男を先頭に、ゾロゾロと黒い穴の中から人が現れてくる。
「何だ何だ?」
「また、入試の時みたいにもう始まっているパターン?」
事情が分からない生徒達が軽口を叩く中、相澤先生の声が、やけに大きく聞こえた。
「動くな!……あれは」
大穴から最初に出てきた男がその場に立ち止まる。だが後ろに続く者達に止まる素振りは無く、また、次々と現れる数にも際限がないように感じられた。
「
相澤先生の声に続くように、低い男の声が届く。
「13号に、イレイザーヘッドですか」
見ると大穴に、瞳のように2つの空隙がうまれていた。そこから続々と人が出続けていることは何も変わりないのに、横の男もその穴の変化を気にすることなく、辺りを見回している。
「先日頂いた教師側のカリキュラムでは……オールマイトがここにいる筈なのですが」
淡々と事実を確認するような大穴……正確にはその個性の持ち主に、相澤先生は苦虫をかみつぶしたような表情で吐き捨てた。
「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」
状況を漸く呑み込み、息を呑む生徒達を背に、相澤先生は完全に戦闘可能状態を整えていた。捕縛用の拘束具を襟巻きのように巻き付け、目の動きを悟られないように付けられたゴーグル。
それ越しに未だに溢れるように現れ続ける
「どこだよ……せっかくこんなに大衆引き連れて来たのにさ」
その様子に気づいているのか否かは定かでは無いが、ガリガリと主犯であろう男は爪で首元を執拗に掻きむしりながら、言葉を零し続ける。
「オールマイト……平和の象徴……いないなんて」
そこでピタッと男の手の動きが止まる。
大穴からは人が出尽くそうとしているのか、数が切れ切れになっていた所だった。
「予想外も良いところだよなぁ?『フレイア』」
フレイアと男が呼びかけたのは、黒いスーツを身に纏った、青年だった。
(こいつらが、主格か……!)
遠目に見ていた出久でさえ分かる。それほどフレイアと言う青年、主犯であろう男、大穴の個性の持ち主。
彼らの纏う空気は他の
主犯の男と、大穴の個性の持ち主とは違い、フレイアと言う青年について顔で視認できたのは、橙に似た色の瞳を持つことだけ。他は無骨な仮面に覆われていて、近くから見ても詳細な情報を知ることは容易では無いだろう。
尋ねられた筈の青年は何も答えないが、男も気にすることなく相澤先生に、正確にはその背後にいる出久達に目を向けた。
「子どもを殺せば……来るのかなぁ?」
そこに宿っていたのは、純粋なる殺意。
この時、出久達は知ることとなった。
……プロが何と戦っているのか。
そして、何と向き合っているのかを。
相澤先生が個性を発動させるための予備動作と見られる、逆立った髪の毛の動きに、ゆっくりと、フレイアと呼ばれていた青年が目を瞬く。
そこには……何の感情も見いだす事が出来なかった。
分かるのは、その周囲から向けられる、途方のない悪意……!
USJ襲撃編は出久や他の人の視点で書こうと思います。何故主人公本人の視点でないかというと……種明かしになってしまうので、後は本編での説明をお待ちください。
どうぞよろしくお願いします。