東方超越歌──Il Trovatore 作:堕天奈落
死は突然訪れる。
一年後、一ヶ月後、一週間後、あるいは今この瞬間にも死ぬかもしれない。
呆気なく、葛藤や悲しむ間もないかもしれない。
事実そう思ってる奴らは相当数いるのだろう。だから死を怖れる。
知らないモノは怖い。知ってるモノは怖くない。
だから不老不死などというモノに憧れを抱く者達はいる訳で、きっと一度は誰しも思ったのではないだろうか。
かく言う俺もその一人だが、その中でも俺は
永遠に憧れた、未知を怖れた。
変わらないでくれ、と願い続けた。
しかし人は、世界は変わる。
ずっと変化しないという事はあり得ず、成長や衰退を繰り返す。
だから、せめて………何も変わらない、変哲もない生活を送ろうと願っていた。
だが、死は突然訪れるのだ。
呆気なく俺の
事故だった。建設中のビルの鉄骨が深々と腹に突き刺さり、身体中の骨が砕け、折れ曲がっている。
もう、助からない。感覚で分かる。これは致命傷だ。
アドレナリンが大量に分泌されてるだろうが、そんなモノはないと言わんばかりに痛い痛いと痛覚が喚き散らしている。
しかし、
「い、や……だッ、じに、だぐない……ごんな
死にたくない、未知が怖い、永遠になりたい。人の度量を超えて渇望する。
このようなモノを許容したくない。
しかし、いくら願っても、いくら祈っても現実は変わらない。
そのまま暗い、
☆★☆★☆
気づけば自分は白い空間に居た。
しかし、自分には今
これは如何なる現象か、そう思案しようとした時だった。
『よお、お目覚めか?』
声が聞こえた。
恐らくは自分と同じくらいの年齢の男の声だ。
『お、一端に頭が回るのか。ああ、別に褒めてないぞ?
遅いくらいだ、俺の手を煩わせるなよ塵』
声の主の方向に視線を向ければ、其処には如何にも傲慢そうな金髪の青年が一人。
しかし、ただの人間とは思えなかった。
その身から溢れる、在るだけで圧し潰すような威圧感は決して普通の人間が出せる代物ではない。
怖い、
無い筈の身体が、自分のか細い精神が、貧弱な魂が警鐘を必死で鳴らしている。
『おいおい、少しは落ち着けよ。神の御前だぜ?』
───神、神だと?
『ああ、だからこんな事も出来る』
自称神が指を鳴らすと、眩いばかりの光と共に身体がまるでパズルのピースを嵌めるかのように再構築されていく。
とてもじゃないが人の
言うなれば、人外、神の為せる
「……! あ、貴方が神だと、いうのなら……俺を、僕を蘇らせて下さい」
『あ? ああ、その事なんだが……その前に言う事があるんだが』
「言う事……?」
『ああ、お前の死因だが……
悪いな。アレ、俺の所為なんだわ』
空気が凍った。
神の所為、彼は確かにそう言った。
俺の永遠を、不変の日常を崩したのは神だと?
『理由としては暇つぶしだな。神々の遊びってヤツだ』
声が出せない。
心がぐちゃぐちゃになっていく。
『お前と同じ様に死んだ奴らを集めて殺し合いやら人間ドラマやらを演じて欲しいんだよ、俺は』
知らない、知らない、知らない、知らない!
そんな事はどうでも良いんだよ!
『喜べよ、お前はまた不変の日常とやらを謳歌できるかもしれないんだぞ?』
「巫山戯るな! 元の世界、に戻せ! 俺の、不変を返せ!!!』
『だから、返してやると言ってるだろう?
お前の愛した
目の前の神は傲慢な態度を崩さない。
許せない、認めない、■■■しまえ。
『じゃあ、健闘を祈ってるよ』
そして、俺を取り囲む様に闇が身体に覆い被さってくる。
この様な現実を認めたくなかった。
神の高笑いが響く。
そして、俺は闇に飲まれていった。
わからない、恐ろしい、だから永遠に……!
───わからないものは嫌かね。
声が聞こえた。神の声ではなかった。
無明の中で響く正体不明の何某か。
当たり前だ、未知は怖いのだ。
───では君は既知感を望むと。
是。不変の既知を望む。
───成る程、我が愚息に似た渇望だが、その本質はまるで違うようだ。
愚息? 渇望? 本質?
知らん、そんな事は知らない。
俺の永遠を侵す者は許さない。
───ふふふ、面白い男だ。では君にこの言葉と贈り物を一つ。
───
その言葉を受け取り俺は……
『なんだ? 何が、起きた?』
先程の人間の転送術式に起きた異変。
不備などない。何者かによる介入を許してしまった。
つまり、何某かが、神の遊戯に手を出している。
『面白いな、面白いぞ。ああ、心が踊るよ。やはり
既に、奴と同じ様に人間を転生させている。
その所為で元の世界が多少歪んでしまったが、仕方あるまい。娯楽に失敗は付き物だ。
最終的に自分が楽しめれば良いのだ。
かの世界に送ったのは、自身が力を授けた者ばかり。
各々が欲する力を、智恵を、望むもの全てをくれてやったのだ。
どれもやり過ぎた感は否めない、しかしそれはそれ。
もし、先の男が仇なすならばそれで良い。
身の程を弁えさせてやろう。だから、彼らがもっと愚かな姿を見せてくれる事を祈っている。
☆★☆★☆
「アレは女神の治世下の中で、とくに面白い
時の狭間で彷徨う影法師は一人、言葉を紡ぐ。さながら歌劇の道化の様に。
先程、神と名乗る男によって死した人間の青年。
女神の治世の中で、一際目立つ程、この蛇の目に止まるほどの渇望を有していたのだ。
「何事もなければ求道のままでいる可能性があった」
あの愚神により、彼の渇望は求道から覇道へ、内から外へと移りえる可能性を孕んでしまった。
それは許容できない、だから放置しておく訳にも行かなかった。
あのまま愚神の手にかかっていれば、女神の治世を揺るがす要因となりかねない。
その様な未知を望んでいる訳もない。
その為には
丁度、彼が送られた世界には丁度良い逸材が居る。それで事足るだろう。
故に───
「
そして蛇は指揮棒を振るう。
今宵の歌劇を始めるために。