東方超越歌──Il Trovatore 作:堕天奈落
永久、久遠、永劫、悠久……
永遠を意味する言葉は数あれど、本当の意味で永遠なモノなど、この世の何処にも存在しない。
そう、
人間は勿論、世界にも、
だから願わずにはいられない。
永遠が欲しい。不変でありたい。
■■す■共など■え■■ろ、■■■■ォォ……
だから、目の前の白髪の少女目掛けて拳を振るのだ。
幻想的な世界に土足で踏み込み、全てを蹂躙するかのように。
俺の■■を侵すモノは■■■■。
☆★☆★☆
眼を開けた時、知らない天井が眼に映った。
妙な夢だと、そう思わざるを得ない。
まるで明晰夢の様に、リアルに感じるほどの迫力、現実感を持った戦いを反芻しながらゆっくりと身体を起こしながら、身を捩る。
しかし、───
「痛てェェェェッ!?」
身体の至る所が悲鳴をあげていた。
良く見れば身体中包帯だらけ、さらに所々血が滲んでいたのだ。
なんだこれ、何故寝て起きたら全身傷だらけなんだ?
辺りを見渡せば、此処が和を基調とした家だと分かるが、此処は何処だ?
まさか、あの異形共の巣か?
否、あり得ない。あっちゃいけない。
頭の中で、幾つかの仮説が俺の頭に羅列する。そして、最悪の答えに行き着いた。
急いで布団から飛び起きて、俺は外目掛けて駆け出した。
恐怖が身体を支配する。未知が訪れる事を忌避し、■■の悉くを■■したいと願っているからこそ、部屋の襖を蹴破ろうと足を振り上げ───
「起きたみたいだな。ほら、飯を持って───」
───襖が開いた。
その先にいたのは夢で見た白髪の少女。
しかし、もう遅い。放たれた蹴りは止められない。
「怪我人が動くもんじゃないよ」
そのまま俺は足を掴まれ、床に叩きつけられた。
「全く、飯を持ってきて早々、蹴りをかまされるとは思いもよらなかった」
「………すいません」
俺は白髪の少女の目の前に正座させられながら、無愛想に謝った。言い訳をするようだが、俺は人付き合いというか交友関係が乏しいのだ。どう足掻いても初対面の少女に対して社交的に接するなど出来そうにない。
「そういや名乗ってなかったね、私は
お前の名前は、と彼女が俺に問う。
しかし、妙だ。俺が思うに、妹紅と名乗った少女はあまり人付き合いの良い人物に見えないのに何故───
「あ、お前今、私のこと人付き合いの悪そうな奴とか思ったろ」
「──────」
「図星かい? まあ、凡そ当たってるよ。見ての通り、友人や理解者と呼べるような奴は少なくてね。それもあって、この迷いの竹林で住んでるのさ」
「で、アンタも私と似たようなモンだろ。私、意外と親近感湧いてたりするんだぞ?」
どうやら妹紅は俺と似たような奴らしい。
かくいう俺自身も彼女に親近感を覚えているらしい。そして、彼女が名乗ったら此方も名乗るのが礼儀だと弁えて、
「
静かに、彼女に聞こえる声量で一言。
妹紅は微笑を浮かべる。
「で、蓮香は外来人かい?」
「………外来人?」
「ああ、この幻想郷の外から来た者達を指す言葉なんだが………説明すると多少長いんだが───」
「問題ない………聞かせて下さい」
すると妹紅は一枚の紙と筆を用意して説明を開始する。
「簡単に言えば、此処は二つの結界の内側にある世界、外では幻想と呼ばれる者達の楽園ってのが幻想郷の住民の認識だ」
妹紅は紙に円を描き、話を続ける。
「まず、この結界の一つである『博麗大結界』は常識と非常識を隔てる結界。この結界のお陰で妖怪達は力を保ってられるのさ」
妖怪とは人間より産まれたモノ。
この結界があるからこそ、妖怪は弱体化せずに今の状態を保っていられる。
つまり、人間に存在を否定されれば、彼らは存在できないらしい。
「そして『幻と実体の境界』は外の世界で幻となったモノを幻想郷に引き込む結界だ。この二つがあるからこそ、幻想郷は存在できるんだよ」
「…………」
幻となった者達の最後の楽園。
成る程、これ以外に形容する言葉はないだろう。
つまりこの結界の内、一つでも消えてしまえば妖怪や幻となった者達も共に消えてしまうのだ。
捉え方次第では俺自身が此処に来たのは必然だったかもしれない。
元の世界で死んでいるのに、蘇っている非常識の存在であり、忘れ去られても可笑しくない幻の存在なのだから。
「まあ、昔は外来人とか珍しかったんだが、最近は外来人が多くてね、博麗の巫女は連日連夜大忙しなのさ」
だから自分が妖怪退治や異変解決の真似事をしている、と妹紅は言う。
つまり、自分が此処に居るのは迷いの竹林で俺を見つけたからなのか?
「なあ………なんで、俺を此処に連れてきたんだ?」
すると妹紅の表情が変わる。
まるで、俺の一言が不可解だと言わんばかりに。
「蓮香、突然ですまないが……お前、本当に人間なのか?」
「────は?」
意味が分からない。
確かに、幻想郷に来た時点である程度、非常識の存在なのだろうが、人間かどうかなど見れば分かる筈だ。まごう事なく人間だろうがよ。
「言っちゃなんなんだが、お前の魂は常人のそれを超えてるよ。確かに、この幻想郷にも特異な人間はそれなりにいるが、お前のソレは全く違う」
ただの人間などでは断じてない。
否定したい、否定したいのに───
「ただの人間が妖怪を撲殺し、その魂を喰らうなんて、あり得ない。
蓮香、お前は何を渇望した?」
「渇望………」
正体不明の何かが言っていた言葉が俺の頭をよぎる。
確かに、不変の既知を望んだ。
ただ、望んだだけなんだ。
「まあ、昨日今日会った私なんかに話せる訳もないよな」
妹紅は立ち上がり、笑みを浮かべる。
まるで、安心させるかのように。
「安心しなよ。とって喰おうなんてしないさ。とりあえず、此処で怪我が治るまで大人しくしてな」
妹紅は俺の背中を思いっきり、平手で叩き、傷に響く。情けない声を上げてしまいそうなの己を噛み殺し、歯を食いしばっている様子を妹紅は一瞥して、出て行った。
☆★☆★☆
誰も居なくなった部屋で、俺は考え続けた。
転生、渇望、変わってしまった己の容姿、幻想郷、外来人………そして、正体不明の何者か。
おそらく、転生させられたのは俺だけではない筈だ。
妹紅は言っていた。最近は外来人が多いと。
些かこじ付けになるが、俺と同様に幻想郷に転生させられた外来人も中にいる可能性がある。
ただ転生させられただけなら別に関係はない。しかし、彼らが俺の不変に踏み込んで来るなら話は別だ。
何としても、守らねばならないのだ。
此処に来て、また奪われてはたまらない。
渇望に関しては意味がわからない。
あの男も妹紅も口にした渇望という単語……
意味なら分かる。
心の底から強く、強く望む事など、俺には不変の永遠しかない。
しかし、願っただけで何になるのだろうか?
真に不変なモノなど、ましてや永遠なモノなど存在しないのに………
などと、存在しないモノを守ろうとしている俺も頭が可笑しいのだろう。
だが、これで良いのだ。
こうしたいから、俺自身の願いでやってるのだから。
しかし、
しかしだ。誰だけ時間を掛けて考えても、あの男がわからない。
俺に無明で語りかけ、ある言葉を授けた男。
わからない、わからない………次第に恐怖が湧いてきた。
「
何気なく、与えられた言の葉を口にした。
「───ん? 焦げ臭いな」
そう、まるで何かが燃えているような………
………
…………
……………
「え、ちょ、燃えてる!?」
我に返った時、手を着いていた床から小さな黒煙が上がっていた。
慌てて手を引っ込め、火元を消そうと俺は、周囲に目を向けた時、気がついたのだ。
この黒煙の出火元が存在しない事に。
床に手を着いていたのだ。火が着いていたら嫌でも気がつく筈だ。
そもそも、火など着いていない。
だが、床は焦げている。
わからない、幻想郷に来てからわからない事だらけだ。
己の変容、渇望、他の転生者の有無。
俺には何も、わからない。
☆★☆★☆
やっぱり彼奴は何処か私に似ていた。
外見が、とかそんなチャチな話なんかじゃない。まあ、外見は全く似てないんだが。
魂……とか、その渇望が願った先、そういう面が私に、かつての私に重なって見えるのだ。
それに、彼の魂は内から外へと視線を向けようとしていたのだ。
これは求道から覇道へ至ろうとしているのかもしれないが、これがどのような結界になるのか大方検討は着く。
絶対に碌な事にならない。
これは、蓮香が下衆、外道という訳ではなく、渇望の方向性故だろう。
復讐なんかを渇望しては自分の様に絶望してしまうだろう。だから、出来る限りの事をしてやりたいと感じてはいるんだ。
「さて、どうしたもんか………」
とりあえず、慧音にでも相談してみるとするかな。