東方超越歌──Il Trovatore   作:堕天奈落

5 / 8
やはり急展開な感じが否めない……!


4話:理想

 一歩踏み出すだけで肉が、精神が、心が焼け焦げていく。

 白かった肌は黒へ変色する。

 まるで進む度に呪われるかの様な………

 いや事実、呪われてるんだろう。

 この灰は、蓮香が使う能力はそういうものだと身体が感じている。

 幾百、幾千、幾万の呪詛を纏った遺灰。

 

 

 その範囲から逃れる事は簡単だが、蓮香を止めるなら、この策はまず論外だ。弾幕を放ったところで、蓮香に当たるまでの間にあの灰に掻き消されてしまう。

 ならば、零距離から、避ける間も与えずに蓮香を取り押さえる。

 一瞬、たった一瞬あれば良い。隙を作るために妹紅は月を背に、滞空し続ける。

 咒で紡がれた炎を放ち続けてはいるものの、彼に傷一つつかない。

 

 

 永劫破壊(エイヴィヒカイト)の霊的装甲は強固だ。傷を付けるのは容易なモノではないのだ。

 

 

「埒があかないねぇ………」

 

 

 そうして妹紅が取り出したのは一枚の符。

 それは幻想郷に於ける揉め事や紛争を解決する為に用いられる決闘に使用されるモノ。

 名をスペルカード。

 一言で称するなら必殺技だが、このスペルカードルールは()()()()()()()()()()()モノ。

 遊び、弾幕ごっこ。

 現状の様なルール無用の状況では、攻撃や美しさを競うスペルカードではナンセンス。

 ある少女は、これをこの世でもっとも無駄なゲームと言った。

 だが、傷をつけられない訳ではない。

 スペルカードの根底にあったのは殺し合いなのだ。当たりどころが悪ければ死ぬし、致命傷を与える事だって可能だ。

 

 

「不死『火の鳥─鳳翼天翔─』」

 

 

 咒と共に放たれたのは巨軀の火の鳥を模した炎弾。

 見る者全てを魅了する美しき幻想。

 しかし薔薇に棘がある様に、美しきモノにはそれに相応する何かを秘めている。

 

 

 火の粉を振り撒きながら飛び交う火の鳥は灰の中を突き進み、蓮香めがけて飛翔する。

 

 

「おおおおォォォォォオオオオ!!!!」

 

 

 蓮香の咆哮と共に灰が爆ぜる。

 まるで、彼の怒りを表すかの様な豪炎。

 

 

「まあ、予想はしてたよ。アンタのそれは怒り………自分の渇望を踏み躙られた復讐心だ」

 

 

 変わらない日々を謳歌したい、だから死にたくない。知らないモノが怖い。

 小さく、人間らしい、ささやかな渇望は、いとも容易く蹂躙され続けた。

 

 

「なら………これならどうだ?」

 

 

 火の鳥は再誕する。

 妹紅の周囲を旋回する三羽の火の鳥。

 さあ、此処からが勝負だ。

 放たれた三羽は灰へ突入、それと共に爆ぜる炎と咆哮。

 

 

 ああ、これだけでは終わらないだろう。

 知ってるとも。

 だから妹紅は次の咒を紡いだ。

 掌に収束される閃光は、正直者の死を描く幻想。

 

 

「滅罪『正直者の死』」

 

 

 放たれた閃光はレーザーとなって、横薙ぎに全てを焼き払う。

 更に、蓮香の周囲を小さな弾幕が囲む。

 万象を焼く炎の閃光を前に蓮香は、

 

 

「鬱陶しいんだよォォ!」

 

 

 その黒腕で真っ向から受け止める。

 避けるなど愚策、レーザー以外の弾幕は己に当たらないと看破し、徐々に妹紅への接近し始める。

 

 

「ああ、絶対そうだろうと思ったよ」

 

 

 妹紅は灰の中に踏み込んでいた。

 弾幕だけで制圧できるとは最初から考えていない。

 焦げた臭いが鼻腔を満たす。

 身体が黒く染まっていく。

 

 

 拳に力を込め、蓮香の顔面目掛けて───

 

 

「いっ、けぇぇぇぇえーーッ!!!!」

 

 

 吸い込まれる様に放たれた拳は蓮香の顔面に突き刺さる。

 だが、

 

 

「────────」

 

「痛くも痒くもないんだよォォ、間抜けェェェェ!!!!」

 

 

 そんなモノ知らぬと言わんばかりにモノともしない。

 黒腕が妹紅の胸を貫く。

 

 

「これが、本来の人間の辿る末路だ。

 嫌だろう? 未知()など恐ろしいだろう?」

 

 

 だから己は不変を求めるのだと蓮香は言う。

 これにて幕引きだ。

 そのまま、腕を引き抜こうとした時だった。

 

 

 ───生死(しょうし)すなわち涅槃なれば、さらに階級なし

 

 

 迷いの竹林に、膨大な咒が満ちる。

 しかし、目の前の妹紅の口から聞こえたモノではない。

 

 

 ───煩悩すなわち菩提なれば断証を労することなし

 

 

 そう、妹紅の魂そのものが謳っている。

 まるで、妹紅そのものを依代に新生せんと言わんばかりに。

 

 

 ───心の海岸に達せんと欲すれば、船に棹さんには如かじ。(いかだ)の虚実を談ずるべからず

 

 

 炎が渦を巻き、妹紅の身体を包み込む。

 この身は不死鳥。

 ならば………やる事は一つだろう?

 

 

 ───生まれ生まれ生まれ生まれて、生の始めに暗く、死に死に死に死んで、死の終わりに冥し

 

 

 さあ、再誕の時は来た。

 新生の炎を纏って現出せん。

 

 

 ───『リザレクション』

 

 

 光が収束し、不死鳥の身体が再構築されている。ここに彼女は蘇る。

 妹紅は変生し、ルールを創造してみせた。

 

 

 開いた口が塞がらない。

 本当の永遠など存在しない、そう思っていた。しかし、───

 

 

「さて、自己紹介からやり直すかい? 蓮香」

 

「嘘、だ……!」

 

 

 お前は死ぬ、死ぬ筈なんだ。

 

 

「嘘じゃない。現にこうしているだろう?

 アンタに殺されて蘇ってきた。ほら、嘘じゃないだ」

 

 

 馬鹿げてる。

 死んだモノが蘇る? それじゃまるで……!

 

 

「不死身じゃないか、か? まあ、お前の言う通り……!?」

 

 

 妹紅は次の言葉に繋げられなかった。

 理由は簡単だった。

 

 

「あぁ…………」

 

 

 蓮香が涙を流していたのだ。

 死は突然に訪れる。その先は真っ暗で何も見えない。

 だから願った。未知が怖いから変わらないで。変えようとする事は許さな。

 でも、心の底で思ってしまっていた。

 不死や不変なんて存在しない、と。

 

 

「あった……! あったんだ……!」

 

 

 でも存在していた。

 それも目の前に。無意識下で感じていた印象はこれか、これなんだ。

 漸く、求めたモノを見つけた

 故に、蓮香は流す。歓喜の涙を。

 

 

「な、あ? お前……調子狂うなぁ……」

 

 

 今までの殺気は薄れ、どうしようもない雰囲気の中、妹紅はあたふたしながらも、蓮香と共に帰路に着いた。

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

「すいませんでした」

 

 

 家に着くなり蓮香は妹紅に頭を下げ謝罪した。

 しかし、その謝罪はまるで神に対する様なモノに近く感じて、多少引いている事に蓮香は気づいていない。

 

 

 いや、気づいていても変える気は無いだろう。彼にとって妹紅の様な存在を存在しないと思っていたのだ。

 だが、神に対する崇拝ともまた違う。

 

 

 すると、蓮香は妹紅の手を取り跪く。

 満面の笑みを浮かべて……

 

 

「妹紅さん、俺は…………」

 

 

 蓮香は顔を紅く染め、

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女に恋をしました。跪かせて下さい、我が女神」

 

 

 恥をかいたよ。笑いたいなら笑ってくれ。

 この身は絵に描いた様な愚者なのだ。

 されどこれで良い。

 後悔などない、あってたまるか。

 チョロイン? 前に言った事と矛盾する?

 知らない知らない見えない聞こえない。

 これが彼の偽らざる本音なのだ。

 

 

 対する妹紅はというと……

 

 

「お前なぁ……そういうのはもうちょいマシな奴にやれよ。私に恋をしたって、お前の目は節穴なのか?」

 

 

 あり得ない。

 チョロいにも程があるだろう。

 ただ、お前の渇望の果てに近い地点に居たのが私だけと知ったからだとしても、それは可笑しい。

 

 

「告白、ってのはもうちょい考えてからするもんだぞ?

 それに告白されたからといって、ハイ宜しくお願いしますともならないからな? 捕捉しておくと、幻想郷には私と同じ蓬莱人いるからな?」

 

 

 それも傾国の美姫とか。

 私みたいな奴のどこが良いんだか。

 

 

「良いんです。俺は貴女が良いんだ。

 月夜に輝く永遠の女神……ああ、なんて素晴らしいんだろう」

 

 

 あ、きっと此奴、馬鹿だ。

 そう思わざるを得ないだろう。

 キャラがブレ過ぎているし、そういうのはこう……もっとシチュエーションとかを考えるべきだと思う。

 

 

「ああ、シチュエーションとかは結構考えてたんだけど……自分の考える究極に近づくにつれて陳腐になった。

 それに、答えはまだ聞きません。

 妹紅が応えたい時に言ってください」

 

 

「ごめんなさい」

 

 

「早いね!?

 もうちょい考えてくれるとありがたいんだけど!?」

 

 

「ふふふ、まあ……冗談だ。そうだな。その告白の答えは後々」

 

 

 そう、もう少し、もう少しだけ先送りにしてやろう。

 馬鹿の面倒を見るのも、悪くないかもな。

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 

 神々しい光が降り注ぐ大地で神を名乗る男は虚空に映る映像を見つめながら笑みを浮かべた。

 

 

「さあて、皆。頑張ってる様で俺は清々しいぞ」

 

 

 神は複数のモニターから一つ、赤髪の少年の映ったモニターを拡大する。

 すると、何をどうやったのかは分からないが、彼の心の内が抽出される。

 

 

『くそ! なんでだ! なんで俺は負けたんだ!?

 神を名乗る男に力を与えられた。

 そんな力を持ってしても同じ転生者に傷一つ付けられない体たらく。

 情けない、悔しい。

 こんな筈じゃなかった。

 それに何より何故、何故この特典の目玉と言うべき力が使えない!?

 アレが使えれば勝てた。

 勝てた筈なのだ。

 前世の記憶と、神が与えた彼の、いや()()の記憶を頼りに詠唱しても、再現しても使用できない。

 何がいけない? 何が悪い? 俺は何処かで間違えたのか?

 いや、間違える筈も無い。

 だってこの身は正義の味方。

 俺は、正しい……筈なのに』

 

 

「馬っ鹿じゃねえの? お前はアレらじゃねえだろうが。

 正義の味方に憧れるのは結構だが、真似るならもうちょいクオリティ上げろや塵。

 願えよ。もっと乾けよ。祈れよ、心の底から」

 

 

 更に別のモニターを見る。

 

 

「此奴は………ああ、求道の渇望か。でも駄目だダメダメ。祈りの度量が足りねえよ阿保。

 何? 触れられたくないから、全て流す? こっから先は一方通行だぁ? 概念を打ち消す(くう)には勝てなくて当たり前だろうが。其奴と比べたら最初から渇望の深度が足りねぇんだよ」

 

 

 駄目だ駄目だ駄目だ。

 落第、失格。お前は塵だ。

 それでこそお前らだ。

 呪詛を吐きながらも、その姿こそを愛おしいと言わんばかりの神。

 

 

 ───貴女に恋をしました。

 

 

 ふと、聞こえた告白。その声を聞いた瞬間。モニターを拡大。

 穴が開くほど見続けた。

 

 

 そうだ、此奴だ。

 顔は変わっているが、確かに此奴だ。

 己以外の何物かから、恩恵を賜った男。

 不変を願う、死を恐れた愚か者。

 

 

「お前は誰に力を貰った? お前は一体なんなんだ?」

 

 

 興味が尽きない。

 平々凡々な男だろ?

 それが何故、死んでいない?

 俺の当初の目論見では転生者の中では早め目に死ぬと踏んでいたのに。

 

 

「さて………どうするか」

 

 

 故に趣向を練る。

 転生者同士の殺し合いを示唆するのも良い。

 馬鹿騒ぎさせても良い。

 だが………

 

 

「それじゃ楽しくない」

 

 

 そう楽しくない。

 神が望んでいるのは欲望に塗れた人間のありのままの姿を眺めたいのだ。

 それこそが愛でるべき塵の真だ。

 

 

「そうだ。こうしよう。きっとこれなら面白い」

 

 

 すると神は無から御使を作成し、一つの伝令と共に放った。

 その内容が、後に恐怖劇の幕開けとなる事を誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何処かで、影法師が嗤ったような気がした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。