東方超越歌──Il Trovatore 作:堕天奈落
迷いの竹林を静寂が包み込む。
響くのは風に靡く葉の音だけ、これだけで絵になる程の自然の調和。
それはまるで大自然が作り上げる至高の芸術品。
「ノォォオオオオオッ──!!」
その作品を引き裂く、絶叫めいた悲鳴が迷いの竹林に響く渡る。
声の主は妖怪殺しと呼ばれた転生者、俺、こと藤代蓮香。
「わ、我が女神よ、少し、少しだけで良いので弁解をォォ!!!!」
「五月蝿いぞ蓮香。なあ、知ってるか? 馬鹿は死ぬと治るらしいぞ」
俺は妹紅にコブラツイストを掛けられていた。
「俺は、ただ単純に妹紅の風呂を覗いただけだなのです!」
「それが言い訳になるわきゃないだろう!?」
そう、元々の原因は俺なのだ。
我が女神が風呂に入ると聞き、妹紅が風呂に入るのを確認し、覗きを敢行した。
気配を殺し、自分のスペックの全てを行使し、妹紅の肢体を拝もうとしたまでは良かった。
外から木の柵より風呂場を覗いた。
そう、その肢体を見た。
透き通る様な艶のある白い肌。
程良い大きさの胸。
そして、やはり一番目を惹くのが、赤く輝く瞳。
美しい、美しい。
やはり究極に近づくほど陳腐になるというのは正しい。
無駄な言葉と飾らずとも、たった一つの言葉だけでも究極だと理解できるのだ。
それに無駄な装飾をする事が無粋そのものだろう。
永遠に見てられる。流石は女神。
そう、見惚れているだけなら、良かったのだが、
妹紅と目が合った気がしたのだ。
馬鹿な、気配は殺した。何もかも己のベストを尽くした筈なのに、何故?
「鼻血が風呂の水に垂れてきてるのに気付かないわきゃねえだろうがァァァァッ!!!!」
妹紅は手に取った桶を投擲。それは寸分違わず顔面へと吸い込まれる様に当たった。
そして、服を着た後、コブラツイストをして今に至る。
「大体、よく風呂場が赤く染まる程、私の身体で興奮できるもんだな」
「それは妹紅が謙遜しすぎているだけだ。美しい、まるで芸術品だった」
「はいはいそうですか」
そう言って、気分を削がれた妹紅はコブラツイストを解いた。
蓮香を馬鹿だと理解しているのもあるが、彼が嘘を吐いていないから、怒る気にもなれない。
大体、この身は愛してるもらう価値すらないのに、何故此処まで言えるのかがわからない。
「そうそう、蓮香。少し外出するからお前も準備してくれ」
「外出? 俺もか?」
「ああ、お前も此処ばかりで飽きただろうからな」
「いや、飽きてなんか────」
「飽きたよな?」
有無を言わせぬ妹紅に気圧され、仕方ないと言わんばかりに外出の準備を開始する。
準備と言っても、ちょっとした、そう、ちょっとしたモノを持っていくだけだ。
☆★☆★☆
迷いの竹林は一度迷えば出られない。
それは人間だけに限らず、妖怪や妖精さえも迷う。
此処の地理を熟知しているのは妹紅を除けば永遠亭の住人である兎だけだ。
つまり、今現在は妹紅に着いて歩かねば、蓮香はすぐにでも彷徨うこととなるだろう。
「さて、妹紅。そろそろ行き先位教えてくれても良いんじゃないだろうか?」
「人里だよ、人里。お前に会いたがってる奴がいてね」
「へぇ………」
上空の霧が晴れる。
徐々に、竹の数は減り、光が射す。
「さあ、アレが幻想郷の人里だよ」
妹紅が指を指す。
木造平屋が軒を連ね、人は賑わっている。
成る程、此処がそうなのか。
人里、人の住まう土地。
妹紅の話では、幻想郷で里と言えば、此処だけと言っても過言ではないだろう。
何故なら、此処にいる人々に、恐怖と言った感情が希薄過ぎる。
さながら安住の地と言ったところか。
「さて、寺子屋まで後少しだ」
しかし、そんな恐怖心が希薄な彼らが俺達を見つめてヒソヒソと、何かを呟いている。
まるで蔑む様な、まるで危険視している様な。
「おい、どうかしたか?」
「………いや、何でもないよ我が女神」
「………そうかい」
そう言って、歩く事数分。
「───────」
女性の声が聞こえる。
鈴の音の様な、凛とした声。
「さあ、此処が目的地の寺子屋だ。そろそろ終わる時間だから少し待ってろ」
暫く待つと、寺子屋の戸が開き、子供達が一斉に外へと駆け出して行った。
その光景は、どこか外の世界の学生に似たものがあると感じた。
「蓮香、入るぞ」
妹紅は寺子屋の戸を潜り、後に続く。
そこには───
「やあ、妹紅。そして藤代蓮香。こんにちは、そして初めまして」
先程聴こえた声の主が居た。
腰まで届く青いメッシュが入った銀髪。
そして、何より。
「どうかしたかね?」
イメージと多少違った。
俺も日本人としての平均的な身長だが、目の前の少女は妹紅と同じくらい背が低い。
予想としてはもう少し背が高いと思ったのだが予想が外れた。
「………ああ、何でもないよ。そして初めまして。貴女は、慧音さんで宜しいですか?」
「ああ、
立ち話もなんだ。私の書斎で話そう、着いてきてくれ」
☆★☆★☆
「さて、今回二人を招いた件についてだが………最近、外来人が多いのは知っているな?」
慧音の問いに二人は頷く。
妹紅と慧音は知らない事だが、最近幻想郷を訪れた外来人はおそらく転生者だと蓮香は断定している。
あの夜、英樹と名乗った男は同胞だと言った。
蓮香自身、該当するのが転生者のみ、それ以外に同胞と呼ばれる謂れはない。
「その外来人の内の数名が昨夜、人里である事件を起こしてな」
その言葉を聞くと、妹紅の目つきが変わるのを感じた。
またか、またなのかと、まるで呆れているかの様に。
「昨夜は私が撃退したんだが………奴ら全く懲りてない様でな、こんな手紙が人里中にばら撒かれたんだよ」
すると慧音は懐から一枚の紙を取り出し、二人はその内容に絶句した。
『人里の諸君、昨夜の出来事は我々としては全く遺憾である。まさか愛しの上白沢慧音から熱い頭突きを喰らうとは思いもよらなかった。
そして、昨夜の出来事で我が堪忍袋の尾が切れた。
夜中にでも人里は火の海と化すだろう。
許してほしくば、我がハーレムに加われ、異論は認めない』
………
…………
……………
「此奴ら馬鹿じゃねぇの?」
全く、外来人というのはこんななのか?
そう思わざるを得ない。
愚か過ぎるだろう。
「まあ、慧音が言いたい事は大体分かった。つまり、人里が火の海になる事は避けたいんだね?」
「ああ、妹紅の言う通りだ。私の所為で人里の皆が危機に晒されてしまっては大変だ。
そこで、前々から話を聞いていた君にも手伝ってもらおうと思ってね、妖怪殺し」
「………その名だと、貴女も殺しそうですよ?」
「ははは、これは手厳しいな。大丈夫さ。私は君を信頼しているんだよ」
意外だった。
慧音が俺の事を妹紅から聞いていたとしても、初対面だぞ?
それに、俺とて外来人の一人だというのに何故、無条件に俺の事を信頼できる?
「ああ、勘違いしないでくれよ。私は人間を信頼しているんだよ。まあ、昨夜の外来人には裏切られる結果となってしまったがね」
「それなら、尚の事────」
「我も人、彼も人、ならば対等。基本の事さ。私は人間が大好きだ、だから信頼しているんだよ。故に君にも信頼している」
きっとこの人、馬鹿なのかもしれない。
頭が良い、悪いとかの話ではない。頭の螺子が幾つか抜け落ちているかの様に感じる。
「ま、まあ……今回の件は外来人の撃退、という事で良いんですね?」
「ああ、妹紅と君、そして私の三人だけでとなるが───」
「あの、それなら俺達以外にも応援を呼んだ方が良いのでは?」
慧音が昨夜遭遇した外来人。
それらだけなら、俺達三人だけで対応できるかもしれないが、仮に、そう仮に彼らがさらに大人数を連れてきたら俺達三人でもキツイかもしれない。
「………呼ばないんじゃない、呼べないんだ」
「………やっぱり、なのか? 慧音」
慧音と妹紅の顔色は浮かない。
「博麗の巫女も、妖怪の賢者たちも、皆別件で動いている。こちらに割ける余裕がないんだ」
博麗、妹紅が話した結界の話したモノと同じ名称。話の流れからして、おそらくはこの幻想郷の重鎮なのだろう。
「外来人達の中でも過激派とも言うべき奴らが各地で襲撃を繰り返しているらしい。応援は見込めない」
「そう、ですか………」
「なに、心配するな。私達ならきっとできるさ。………夜まで時間がある。二人とも人里の宿に泊まっていけ、支払いは私が出しておくよ」
そう言って、慧音は立ち上がって、部屋を後にした。
☆★☆★☆
「さて、お前ら。準備は良いな?」
「応とも」
「………無論」
幻想郷にある、とある洞穴。
俺たち三人は人里を襲撃する準備を終えた。
元々、襲撃するつもりもなかったが、堪忍袋の尾が切れたのだ。
頭突き、頭突き、頭突き、相次ぐ頭突きの嵐。いくらハーレム要員、俺たちの嫁だとしても許されたことではない。
喘ぐ姿を晒して、絶対服従させる。
歪な笑みを浮かべて、矮小な夢に溺れる。
神にもらった特典、転生、矮小な夢しか描けない事を自覚していない。
下卑た笑い声が洞穴、すると、───
「何か来た」
仲間の内の一人が、来訪者がいる事を告げる。だが、一体誰だ?
人里の者達が警告通り女達を連れてきたのか?
「何人だ」
「………一人だ」
舐められているとしか思えない。
俺達は神から力を授けられた選べた人間だぞ!?
「もうすぐ近くに来てるが……どうする?」
「………女なら捕まえる。男なら見せしめに使う。俺達と同じ転生者でも同様だ」
意見は固まった。
そして、人影が現れるまで待ち───
それは白髪の女だった。
細い腕、細い身体、赤い眼。アルビノと思われる高校生ほどの少女。
だが異様だ。
白い肌から滲む赤い斑点、鉄の様な臭いが充満する。
三人は目の前の少女は転生者だと確信する。
「お、おい………どうするよ」
「………決まってんだろ」
相手は手負いの獣。此方は三人。簡単に組み伏せられる。
「なあ、そこの君。怪我してるじゃないか。
すぐに手当しないとなぁ」
一人が、下卑た笑みを浮かべながら近づき、少女の肩に触れようと手を伸ばす。
「………触るな……」
すると少女は小さな声で拒絶する。
「………やれ」
俺は指示を出す。
拒絶しても良いが、後悔するまで痛めつける。それは彼らの総意だ。
そして、その内の一人が能力を発動する。
彼が授けられた力は、とある作品に登場する武器。名を
神格震動波駆動術式と呼ばれる術式を組み込まれた武装である。
そして、そのまま、振り下ろした。
「私に、触れるなぁァァァァッ!!!!」
しかし、その軌道はまるで見えない何かに逸らされる様にズレた。
「此奴ッ!? 殺せ殺せェェェェッ!!!!」
何かヤバイ。言葉に言い表せない様な異様なまでの雰囲気。
そう、あの少女がまるで何かに変わっていく様な………
「スクラップの時間だぜ、劣等共ォォ────!!」
狂った獣が咆哮を上げる。
皆殺しの天を讃え上げ、周り全てを殺し尽くすと此処に誓う。
洞穴に、狂気の歌が紡がれた。