東方超越歌──Il Trovatore   作:堕天奈落

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7話:狂乱

 狂乱は終わらない。

 白の少女が大地を砕き、ありとあらゆる物を兵器へと昇華させる。

 一度(ひとたび)地面を蹴れば、それは散弾になり、

 人体に触れれば、赤子の手を捻るが如く殺せる。

 

 

 人殺しという概念が人の形をとったかの様に、その一挙一動が他者を殺す業になる。

 

 

 これこそ彼女の世界。

 これぞ彼女の創造(かつぼう)だ。

 触れようとするモノに救いを決して与えない滅殺の祈り。その様は獣と見紛う程に荒々しい。

 あまりにも獰猛なそれは慧音が放つ弾幕の牽制など意に介さない。

 

 

 周囲に甚大な被害を齎しながら駆ける少女を追うは炎を纏う不死鳥。

 彼女は白の少女と戦える。否、同じ土俵に上がれる。同じ位階に到達している者同士、鬩ぎ合う。

 

 

 少女の拳が妹紅の身体に深々と刺さる。

 更に、妹紅の身体の血液、生体電気を逆流させ、破裂させる。

 

 

 ────リザレクション。

 

 

 だが、不死鳥は死なない。

 炎に身を投じ、灰の中より新生する火の鳥、妹紅は何度でも復活してみせる。

 その魂が燃え尽きるまで。

 彼女ら蓬莱人に肉体的な死などあり得ない。

 

 

「チッ────」

 

 

 目障りだ。消え失せろよ三下が。

 再度振るわれる滅殺の拳。

 死なぬなら、死ぬまで殺し続けるのみ。

 だが、それは叶わない。

 

 

「私達を忘れられては困るな。

 国符『三種の神器 剣』」

 

「おおおおォォォォォオオオオッ───!!!!」

 

 

 飛来する剣状の弾幕と連鎖する爆発が白の少女を逃さない。

 蓮香の放つ爆発は形成位階の術技ゆえに、全くという程効いていないが、剣状の弾幕は違う。

 当たるたびに七色の閃光を放って後方へと逸れていく。

 

 

 そう、()()()()()()()

 慧音は考える。その頭脳で、歴史の編集者たる彼女は仮説を打ち立てる。

 目の前の少女の渇望、創造の全てを見透かす様に。

 

 

「君の渇望、それは他者を廃絶する事……などではないな。そのまま突き進めば、()()()()()()()()()は手に入らないぞ?」

 

 

「黙れェェェェ──!!!!」

 

 

 地団駄を踏み、慧音達の足元を吹き飛ばす。

 

 

「妹紅、お前や私なら多分、彼女を物理的に殴り飛ばせる」

 

 

 相当痛いがな、と慧音は付け加える。

 そして、彼女は既に白の少女の創造(ルール)を看破している。

 

 

「君の渇望、内への願いを外へと向けた求道型の渇望だな。接触を忌み、触れようモノなら反射、もしくは逸らしているのか。

 さしずめ『ベクトル操作』と言ったところか」

 

 

 正解だ、と言わんばかりに放った弾幕が七色の閃光と共に解答を告げる。

 

 

「私達と同じ位階にいるからなのか、もしくは弾幕のベクトルは操作し難いのかは分からないが……まあ、何方でも構わない」

 

 

 慧音は告げる。

 

 

「とりあえず、殴るから殴り返せよ。

 共に触れ合う喜びを再認識するのも悪くはないだろう」

 

 

 そう、通じるか否かは問題ではない。

 慧音は白の少女と理解し合えると思っているのだ。

 我も人、彼も人、ならば平等。

 何より慧音自身も少女の拳を味わいたがっている。

 敵として対面している今、彼女が何を思い、何を成すのか。その輝きを感じたいから。

 それに、今なら彼女達は全力を出せるのだ。

 襲撃の予告を受けた時から既に、人里の者達は避難を開始しており、現在人里に残る者は一人もいない。

 被害を考える必要も何もない。

 だから────

 

 

「俺を忘れてんじゃねぇよ」

 

 

 再度、爆ぜる灰燼。

 精々が目眩しい程度、だがこれで妹紅の傷を減らせるならば俺のプライドなどくれてやろう。彼女は不変、この世の何よりも重いのだから。

 

 

「Aaaaa、Aaaaaaaaaaa───!!!!」

 

 

 鬱陶しい、邪魔くさいぞ、私に触れるな。

 皆諸共に吹き飛ばしてやろう。

 白の少女は()()()()()

 

 

 手を天に掲げ、少女の頭上目掛けて暴風が吹き荒れる。

 

 

「なんだ………?」

 

 

 圧縮、圧縮、空気が圧縮されて行く。

 風は閃光となり、万象を滅するプラズマへと昇華する。

 

 

 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄、全てが無駄なのだ。お前ら、私の轍になれよ。

 

 

 たった三人を殺す為だけに、彼女は全力を絞り出し、目の前の三人に視線を向ける。

 だが────

 

 

「───────は?」

 

 

 少女は何故か、夜空を見上げていた。

 よく見れば、少女は仰向けに倒れ込んでいるではないか。頭の中で疑問符が乱立する。

 そして、その答えを知っている女が口を開く。

 

 

「やはり、痛いな………首の骨が、持っていかれそうだ。だが……それでこそだ」

 

 

 その美しい顔立ちを赤く染め、血塗れの顔で笑みを浮かべる慧音。

 少女の視界が、片側だけ赤く染まる。

 手で触れれば、それは生温かい自分の血が…………

 

 

「あ、ああ………」

 

 

 少女の声が木霊する。

 嫌な予感が頭をよぎる。今まで警鐘を鳴らし続けた俺の本能が、本当の狂気の出現に逃亡しろと告げる。

 

 

 そして、黒が創造される。

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 

 私は誰も信じられない。

 親も家族も友達も恋人も、誰も彼もが信じられない。

 母は私を毎日の様に殴り、父は私を慰みモノにした。親友は私の恋人を奪い、恋人は私を殺した。

 何で?

 何で私がこんな目にあってるの?

 他の人達はこんな目にあってないじゃない。

 

 

 血の滴るナイフが私の死を告げた時、狂おしい程殺意が湧いた。

 だが、幾ら願おうとそれで奴らが死ぬ筈もなく、私は無明に沈んでいった。

 否、沈んだのではない。引き上げられたのだ。神を名乗る何者かの手によって。

 

 

 神からは色々と説明を受けた。

 転生者、特典、幻想郷。

 どうでもよかった。

 そんなモノ要らないから一人にして下さい。

 懇願した、心の底から。

 けれど神は嘲笑いながら、私を幻想郷へと導いた。

 

 

 其処でも、また地獄の様な日々だった。

 妖怪達に弄ばれ、泥にまみれ、人としての尊厳など皆無。私は完全に玩具同然だった。

 

 

 ───触れられたくない。

 

 

「Verraten, Schicksal, Gott, gerecht verraten alles」

 

 

 血が流れる。

 

 

 ───触れられたくない。

 

 

「Ist zerbrechlich, wie wahre Liebe und falsche Liebe Schicksal versprochen hatte」

 

 

 殺意が芽生える。

 

 

 ───私がこんな目に合うのなら、

 

 

「Schmerzhafte, traurig, verfluchte ich meine hässlich」

 

 

 目の前の不愉快な塵共を跡形残らず消し飛ばす力の奔流が溢れ出る。

 

 

 ───私は、人じゃなくなっても良い。

 

 

「Schöner Traum ist zusammen mit dem Klang der Glocke verflogen」

 

 

 この世のありとあらゆるモノを消し去ろう。

 

 

 ───獣ではない。天の御使となって、遍く万象を殺し尽くそう。

 

 

「So hoffe ich. Liebe mich」

 

 

 だから願う。お願い、触らないで。

 

 

 

 

 

 

創造(Briah)

 

 

 

 

 

 

 

 ───私に優しく■■■■■■。

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 

 

 何だ?

 何が起きている?

 慧音が少女に頭突きを放った後、白の少女から黒い何かが現れた。

 それはまるで翼。だがその不気味さが、俺達の身体に突き刺す様な痛みを錯覚させる。

 ゆっくりと糸のついた人形の様に不気味な動きで少女は起き上がる。

 そして、殺意に満ち満ちた赤い瞳を俺達に向けて、

 

 

「inbf殺wp」

 

 

 よく分からない言語を発した瞬間。

 見えない何かに俺の身体は押し潰され様としていた。

 

 

「がッ……ギィ、ッ……!」

 

 

 抵抗しても意味がなく、永劫破壊に蓄積された魂が秒刻みで削られていく。

 

 

 黒い翼が脈を打ち、その10m程の偉容が100mに及び、そのまま地面に向けて振るった。

 

 

「ッ……!? 妹紅、飛べ!!!!」

 

「─────」

 

 

 慧音の警告を聴き直様、妹紅と慧音は上空へと退避。

 その後を追うように、先程二人が居た場所に、黒い暴力が振り下ろされた。

 地面に黒翼が触れた瞬間、大地がいとも簡単に砕け散る。

 アレに触れれば即座に砕ける。あの翼自体は異能のそれだが、その実態は圧倒的なまでの力、ただの力の奔流に他ならない。

 質量、質力共に振り切れた何か。それがあの翼の本質だと慧音と妹紅は察す。

 だが、二人に考える時間はない。こうしてる間にも暴虐は終わらない。

 

 

 俺には分かる。今の俺では勝てない。

 しかし、あの二人ならどうだ?

 俺という足手まといのない二人なら、この白の少女に勝てるだろう。否、勝つだろう。

 だが現状、俺は奴の力を前に、何も出来ずにいる。

 

 

 ───死が近づいてくる。

 

 

 ほら動けよ。動いて彼女の役に立て。

 彼女は舞台の主役。俺もその主役の傍にいる為に奮起するのだ。

 

 

 ───未知がこの先に待っている。

 

 

 手足が潰れている?

 魂が潰える?

 なんだそれは。 理屈臭く負けを認めて己は悪くない。弱いから仕方ないと諦めるのか?

 

 

 ───要らない。そんなものなど望んじゃない。

 

 

 ならどうする?

 決まっている。彼女を、我が女神の為に腕や足など───

 

 

 

 

「てめえに……くれてヤラァァァアッ!!!!」

 

 

 ───彼女の為に捨ててやる。

 

 

 ブチブチと、俺の身体から嫌悪感を催す音が聞こえる。腕が裂け、千切れ、傷口から鮮血が飛び散るも俺は抗う。

 身体の欠損など永劫破壊に蓄積されている魂で補填出来るからこそ取れる行動。

 まだ俺は戦える。戦えるのだ。

 聖遺物の使徒と化した身体が悲鳴を上げ、血飛沫を撒き散らしながら、力の奔流に真っ向から歯向かう。

 

 

 力の差は歴然。

 だから、今の俺に出来る最高を発揮するのだ。彼女達の勝利の為に。

 

 

「づ、オラァァァァァァァァッ───!!!!」

 

 

 骨が砕け、肉が千切れ、肩から腕が離れていく。呆気なく俺の左腕を引き千切る事が出来た。

 もう片方の腕も、と力を込めるが、

 

 

「ぐ、ギィ……ガッ……!」

 

 

 力の奔流が俺の身体全体に襲いかかる。

 大地に身体がめり込み、すり潰される様な痛みが奔る。

 まだ俺の身体が原型を留めている事が奇跡だった。

 

 

「蓮香!?」

 

 

 愛しい女神の悲痛な声が聴こえる。

 奮起して、彼女の為に頑張りたい……のだが、俺の所為で彼女は本来のポテンシャルを引き出せていない。

 ならば───

 

 

「来るな!!!!」

 

「……え?」

 

「二人は、此奴……を倒すッ……こと、だけを考えてく、れ。大、丈夫……俺は貴女の為に、堪えてみせるから……!」

 

 

 だから勝て。

 俺は信じているんだ。

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 蓮香の瞳が、勝てと告げている。

 最早、一刻の猶予もない。急がねば蓮香が死んでしまう。

 

 

「くそ……!」

 

 

 身体を覆うように炎が包み込む。

 だが、これは()()()()ではない。

 炎で身体が焼け爛れる。己さえも焼き尽くす自傷の炎。

 

 

「おおおおおおぉぉぉッ──!!!!」

 

 

 炎は爪の形を成し、少女へと振るわれる。

 黒い翼と炎の爪が交差する。

 その隙を突く様に、慧音が弾幕を放つ。

 

 

 焦って攻撃が、弾幕が雑になっている。

 そんな攻撃が、白の少女に通用する訳もなく───

 

 

 そのまま、蓮香にトドメを刺そうと黒の翼が蠢き────

 

 

 

 

 

 

「───見つけた」

 

 

 翼の動きが止まる。

 蓮香に行使されていた暴力の奔流は消え、少女の標的が蓮香から声の主へと切り替わる。

 そう、彼女にとって蓮香は優先順位はかなり下の部類であり、この声の主こそ今一番殺したい者だから。

 

 

「それにしても結構荒れたわね、此処」

 

 

 紅白の巫女は空に滞空し、人里の惨状を一瞥して溜息を吐いた。

 だが、彼女にとってはそんな些細な事はどうでも良い。

 妹紅と慧音は驚愕した。

 彼女は此処に来れないと思っていたから。

 

 

 蓮香は疑問符を浮かべた。

 彼女が何者なのかも何も知らないから。

 

 

 白の少女は理性のない身で殺意を迸らせる。

 だって彼女はこの身に触れたから。絶対に許さない。

 

 

 紅と白の巫女服を身に纏った少女。

 楽園の巫女、永遠の巫女、八百万の代弁者と彼女を称するモノは数多い。

 幻想郷随一の求道者にして異変解決の専門家と言っても過言ではない。

 彼女は無自性空。

 この幻想郷に於いて今、最も神格に近い少女の名は───

 

 

「そこの白いの───」

 

 

 

 

 

「───覚悟は、できわよね?」

 

 

 少女の名は博麗(はくれい)霊夢(れいむ)

 空を駆ける少女がその真価を発揮する。

 

 

 

 

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