久しぶりにも関わらず、今回は時間軸的には進んでも話自体はあまり進まないかもしれません。今作を楽しみにされている方、本当にすみません。
「招待状……ですか?」
突然切り出された話題にジャンヌは疑問の声をあげた。
偶々午前の職務を終え、休憩も兼ねて食事を摂っていた時にギルガメッシュが自身を訪ねてきた時は何事かと身構えたが、いざ話を切り出されると一刻を争う事態でないことに緊張を解く。
もちろん、ギルガメッシュに対する臣下の礼は失しない。それはジャンヌにとって呼吸する事と同義だ。至極当然のように行われる。
「ああ。先日、俺宛に送られてきた礼の品に同封されていてな」
ギルガメッシュ宛に先日三大勢力からお礼の品が送られてきたのは記憶に新しい。
送られてきた品は様々だが、その中で有用だと判断したのは人工神器に関する資料とまだ保護されていない異能力者や神器使いのおおよその所在地だった。
ギルガメッシュ達は三大勢力に逐次報告しているわけではないため、記載された人間の中には既に保護した者も多く存在したが、少なからずまだ保護できていない人間もいた。
それらをもとに多くの幹部や実働隊が出払って、ジャンヌが別の業務を行っているというのが現在の英雄派内の様子だった。
「内容はーー」
「未来を担う若手悪魔の中で最も注目される一戦だそうだ。バアルとグレモリーのことだろう」
何故そんなことがわかるのか、とギルガメッシュが相手でなければ聞くところであるが、ギルガメッシュならばそれも必要がない。彼が他勢力の内情に詳しいのは全てを見通す『眼』を持っているからに他ならない。必要以上に関わりを持たない同盟相手の内情もギルガメッシュの前では全てが詳らかになっている。
「ご覧になられるのですか?」
詳しい事は聞き及んでいないものの、レーティングゲームが特殊なフィールドで行われ、観戦するには冥界に出向く必要があることはジャンヌも知っている。
もちろん、人間界でも見られるように出来るだろうがーー。
「ああ。
興味のあるレーティングゲームを観戦しつつ、一応同盟相手の顔も立ててやる。
いずれは敵対する相手だが、それでも相手を無下にしないところにジャンヌはギルガメッシュの器の大きさを感じた。自身ならこんな上辺だけの同盟をしている相手の招待など一蹴しているところだろう。
「そこで、だ。ここからが本題だ」
「と、申しますと……」
「俺は一人で冥界に赴いても良いが……それでは誰も納得すまい」
「……申し訳ございません。ですが、ご容赦を。これらは王に仕えるものとしてーー」
「よい、それは俺もわかっている」
だからこそ、こうしてギルガメッシュはジャンヌに話を持ちかけている。
幹部の中で最も忠誠心が高く、ギルガメッシュの事となると少しばかり融通の利かなくなる彼女が納得すれば、周囲も納得する。
もっとも、並大抵のことであればギルガメッシュに反論する者などまずいないのだから、その時はよほどのことであるが。
「それにちょうどいい機会だ。未来を担う若手悪魔などと宣っているが、バアルもグレモリーも現段階で既に十分な力を有している。若手悪魔の中でも飛び抜けて強いバアルと格上との戦いで成長を続けるグレモリー。お前達にとってはレベルの低い戦いやもしれんが、得るものがないと切り捨てるのは早計だろう」
前回ロキとの戦いで共闘したヘラクレスはともかく、他の幹部はグレモリーとその眷属の力量と驚異的な成長力を知らないのが現状だ。
それは決して彼等が無知というわけではない。
現状では彼等一人でグレモリーとその眷属を相手にしても絶対に負けないという自信があり、誰の目から見てもそれは揺るがない。それほどの差が彼等にはあり、彼等よりも他の強者を警戒するのは必然と言える。
故に幹部の面々から見れば、レベルの低い試合に映るだろう。まだレーティングゲームトップ5に入る者達の試合を見た方が悪魔の戦力を知るという意味では有用なのも確かだ。
しかし、ギルガメッシュが見ておく価値があるといえば、話は変わってくる。
今は取るに足らない存在だとしても、ゆくゆくは脅威たり得る。
特にグレモリーの『兵士』。赤龍帝たる兵藤一誠の成長速度を考えれば、一年と経たずに英雄派の幹部を下す実力を身につけるかもしれない。或いはギルガメッシュを倒すことはできなくとも、手傷を負わせることのできる存在にーー。
もちろん、可能性としては砂つぶにも等しいものだが、ゼロではない。ゼロでないのなら、王に仕えるものとして見過ごしていいはずがない。
そしてギルガメッシュが直々に『視る』というのだから、自分が観ないわけにもいかない。
椅子から立ち上がり、一歩後ろに下がるとその場でジャンヌは跪く。
「わかりました。では、不肖ジャンヌ・ダルク。王に同行させていただきます」
「これで一人決まったな。さて、俺としてはもう一人連れていきたいところだが……」
「……っ」
言葉に出さなかったものの、ジャンヌは内心驚きを隠せないでいた。
ギルガメッシュは
それは決して傲慢ではなく、己が出向くべきであると判断し、また民や臣下の身を案じ、敢えて単独行動を心がけているのだと、ギルガメッシュと旅をしていた曹操が語っていたことをジャンヌは覚えているし、ギルガメッシュが『なに、くだらぬ些事だ。お前達にはもっとやるべきことがあろう』と言っているのを何度も聞いた。些事であるなら尚の事ギルガメッシュの手を煩わせるわけにいかないと言うのがジャンヌ含め臣下の心情だが、その悉くをギルガメッシュが聞いた試しがない。終いにはこっそり赴いて派手に終わらせてくるということもあった。
そのギルガメッシュが、進言するまでもなく、もう一人連れて行く、といったのだ。驚かないわけがない。
(将来的に危険度が最も高いのはやはり赤龍帝、と考えておくべきね。数ヶ月前まで規格外の神器を持っていただけの一般人にしては『成長速度が異常』だとヘラクレスも言っていたのだし……可能性は十分にあるわね)
基本いい加減なヘラクレスだが、こと戦いにおいては的を射ている事が殆どだ。そのヘラクレスが実際に共闘した上での感想だと言うのなら、無視できないものだ。
そうなれば一応不測の事態に備えて対策を練っておくべきだろう。
ギルガメッシュに軽傷さえも与えないよう、その可能性を摘むためにも。
「……決めたぞ。あやつを連れて行くとするか」
「それで、自分に声をかけに来たというわけか」
「ええ」
「王のご命令とあらば断るわけにはいかない……ただ、俺は魔術師であって、戦士じゃない。彼等との直接対決の可能性は限りなく低い」
決して戦闘能力が低いわけではない。幹部に相応しい実力は有している。
ただ、本人が言った通り、ゲオルクは優れた魔術師であって戦士ではない。前線に立つよりも敵の妨害や味方の支援に回った時に真価を発揮するのだ。
それはジャンヌもわかっている。当然ギルガメッシュも。
「私もそう思うわ。いざという時、あなたに求められるのは前線に立つことじゃないし、グレモリーもバアルも戦争に参加する可能性は低いわ。けれどーー」
「ああ。わかっているとも。王が他の幹部ではなく、敢えて俺を指名した、というのであれば、そこに必ず意味はある」
無意味、無価値はギルガメッシュの最も忌避するものであると彼等は知っている。曹操達の他にもまだ数名の武闘派幹部がいる中で敢えてゲオルクを指名したことにはゲオルクの心情も含め、必ず意味がある。
(冥界に一度赴いてみたいと常々思っていたが……まさか見抜かれていたとは。やはり王に隠しごとは不可能ということか)
隠していたつもりはないが、あくまでも個人的かつ興味本位であったためにゲオルクはギルガメッシュに伝えていなかった。
かといって、露骨に出ていたわけではないので、知らず識らずのうちに言動の端々に表れていたところで察したのだろうと舌を巻く。やはりギルガメッシュはどの英雄の子孫や魂を継ぐ者たちとも一線を画している。
そんなことは当たり前のことか、と苦笑しつつ、ゲオルクは立ち上がる、
「ところでここを発つのはいつ頃になる?」
「……………………明日よ」
「……………………そうか」
額に手を当て、溜息を吐いた。
失念していたことが一つあった。
基本的に完璧すぎる英雄王の困った一面。
「何故我らが王はこのようなサプライズを好まれるのか……」
「別にいいでしょ?王は計画的に為されているのだし」
「それはそうだが……」
突然の思いつきで、ということもままあるが、そういうことは決まって拠点内における祭りや行事などのイベントだけだ。後は計画的に行動しているのだが、それでも仕掛けられた本人は堪ったものではない。
迷惑ではない。
ギルガメッシュは己よりも臣下や民を優先するきらいがある。それを鑑みればその程度の我が儘はこの拠点における全ての人間が許容してしまうものだ。いや、それどころか賞賛の声さえあるだろう。
仮に度肝を抜かれるとすれば決まって幹部達である。主にギルガメッシュの単独行動とかに。
(まぁいいか。王が知らぬ間に旧魔王の血族を葬った時に比べれば。我らを同伴させてくださる分だけ幾分かは)
そう自分を納得させ、ゲオルクは準備に取り掛かり、ジャンヌもまた自室に帰り、身支度を整えていた。
一方その頃ーー。
「仕上げの方はどうだ?」
「上々だ。初めはどうなることかと思ってたが、案外なんとかなるもんだな」
「無論だ。俺はーー」
「あー、わかってるよ。お前にやってやれねえことなんざねえよな」
分かりきっていると言わんばかりのアザゼルに俺は眉を顰めた。
やってやれないことなんてあり過ぎるわ。これでも結構頑張ったんだぞ、この野郎。
何せ、『誰かを鍛える』のは転生前後合わせて初めての経験だったんだから。こっちも色々神経を使わされた。おまけに鍛える相手が
何故俺がこんなことをしていたのかというと、少し時間を遡らねばなるまい。
ほんの一ヶ月前にアザゼルからとある話が持ちかけられた。
最初は『え?アザゼル?無視しようかな』と思っていたし、なんなら二回は無視したのだが、一時間おきに掛かってくるもんだから、仕方なく出てやった。そんな頻繁に掛けてくるなら重要な案件かもしれないと。
で、いざ電話に出てみれば、二、三言交わした後にアザゼルはこう言い放ったのだ。
『赤龍帝を鍛えてやってくれないか?』と。
もちろん聞き直した。聞き間違いとか、アザゼルの正気を疑ったとかではなく、何故俺にそんなことを頼んでくるのかという意味でだ。
同盟を結び、仲間になったといえるが、彼ら三大勢力は基本的に三大勢力内で物事を解決すると先日サーゼクスから聞いたばかりであるし、アザゼルやミカエルも承知の上だと聞いた。巻き込まれる形になったとはいえ、ロキとの戦いに引っ張り出してしまったことをそれなりに負い目に感じているようだったし、俺も人間が被害を受けず、かつ原作には全く影響のない小競り合いとかに手を煩わされるのも面倒なので頷いた。
その矢先にこれである。舌の根も乾かぬうちにとはまさしくこれである。
理由を聞いた。
仮にも鍛える相手が主人公である。うっかり致命傷を与えて殺した日には洒落にならん上に下手すれば戦争案件である。それ程までに兵藤一誠という人間は短期間で悪魔界隈に無くてはならない存在たり得てしまった。まして、原作のタンニーンとの山籠りよろしく半ば強引に、というのであれば、いくらなんでも可哀想過ぎる。
しかし、返ってきたのは予想外の一言。
『本人も危険は承知の上だ。その上でお願いしたい』と。
どこまで追い詰められとるんだお前らはと言いたかったが、そこでふと思い当たる節があった。
俺がトップとなったことで英雄派は三大勢力を脅かす存在では無くなり、それどころか原作で現れた敵の悉くを葬ってきた。なんなら旧魔王派のトップは俺たちが全員無に帰した。
更にはつい先日戦ったロキさえも俺が葬ってしまった。
その結果どうなるか。原作においてそれらの戦い全ての渦中にいたグレモリー一行は死線を超えるごとに強くなったというのに英雄派という助っ人の登場によって割とあっさり超えてしまったのだ。
終いには修学旅行で襲撃するはずだった英雄派が正義の集団になっている。あり得ない成長速度を誇ったグレモリー一行もその相手がいなければ強くなりようがない。原作に比べてかなり成長速度が落ちてしまっているわけだ。いや、それでも大概化け物じみてるんだけど。
だが、原作程ではないというのが致命的だ。
確かに原作を崩壊させないために敵対する者達を俺たちが葬ってきた。それは仕方ないことだ。原作組を育てる為に犠牲者を許容することはできない。
ただ、レーティング・ゲームになると別であるし、もっと言えば俺たちにも限界はあるのだ。なんだかんだ言って、兵藤一誠の無自覚カリスマによって築かれる交友はバカにならない。
…………そう考えると、俺たちの所為というわけではないにしろ、原作より彼らが弱いことに対する遠因が無いわけでもない。兎にも角にも原作より弱いといろいろ支障を来しそうだ。
という結論に至った俺はアザゼルを通じて兵藤一誠のお願いを聞き入れた。
その結果ーー。
「『
発現させた新たな力を使い、同じ眷属である木場祐斗と修行に励む姿を眺めながら言う。
「だろうな。奴には才能があるとは言い難い。だが、伸びしろはある」
何と言ってもバトル系主人公の
「成長のきっかけを……と思ってたが、まさか二段……いんや、五段飛ばしくらいの勢いで成長するとは思わなかったぞ。その辺りは流石、としか言いようがねえな」
「褒めるなら兵藤一誠を褒めてやれ。今のやつがあるのは他でもないやつ自身が折れなかったからだ」
大概根性あるのは原作でも知っていたが、それにしたって根性があり過ぎた。
加減と教え方を知らない俺の無茶苦茶スパルタ特訓に疑問を持たず、挫折せず、遂には『
……まぁ、原作のおっぱいゾンビによる儀式のようなものを見れなかったのは残念だったが、英雄派が正義の集団である以上やむなしだ。目を瞑っておこう。
「だとしても、私の眷属のお願いを聞き入れて下さったことには感謝していますわ。英雄王ギルガメッシュ」
アザゼルのすぐ隣で満足そうにしていたリアス・グレモリーが言う。
最初のうちはいくら兵藤一誠本人が言い出したとはいえ、俺の無茶苦茶スパルタ特訓に
「気にするな。俺がこのような事をするのは此度だけだ。幸運が舞い込んだとでも思っておけ」
変に頼られても成長の仕方とか変わりそうだし。後は内々でなんとかしてもらいたい。それか原作通りのバトルでこれまた原作のような展開で。
「まして今は『王』でなく、『ただのギルガメッシュ』として来ている。そう畏ることはない」
「あなたがそう言うのならそうさせーーんぐっ!?」
「そ、そう言ってやるなよ。これはリアスなりにお前に敬意を見せてるんだ。仮にもグレモリーの次期当主だしな。いくらお前がプライベートでも礼を失するわけにはいかねえだろ?」
リアスの口を塞ぐとアザゼルがまくし立てるように言う。さっき何か言おうとしてたみたいだが……まぁ、そう言うことなら深く追及はすまい。同盟相手とはいえ、悪魔にも悪魔なりの礼儀感はあるわけだし貴族だと尚更。
「ギルガメッシュさーん!……あれ?部長?先生?何やってるんですか?」
模擬戦の決着がつき、こちらに歩いてきた兵藤一誠が首を傾げる。
「べ、別になんでもないぜ。なぁ、リアス」
「え、ええ。……後で覚えておきなさい、アザゼル」
お互いに引きつった笑みで首を横に振る……リアス・グレモリーの方は声が心なしか震えている気もするけど。
「そ、それよりギルガメッシュに用があるんじゃねえか?イッセー」
「そうだった。ギルガメッシュさん。今日までありがとうございました!」
綺麗なお辞儀をする兵藤一誠。だからそんな畏る必要ないと言ってんのに。
修行(という名のいじめ)を始めた頃から兵藤一誠の俺へのリスペクト……じゃないな。なんというか懐き度?みたいなものがうなぎ登りな気がする。
どんなにやんちゃな犬も強大すぎる相手にはすぐに服従するというし……それに近い理論だろう。命を脅かされすぎて。アザゼルがふざけた発明品を作って被害を被った時にはすぐ文句言うのに俺の修行に文句を言わなかったのは多分文句言ったらヒートアップして殺されるかもしれないみたいな感じに生存本能が働いてるんだろう。
「おかげでサイラオーグさんとのゲーム。なんとかなりそうです。それもこれもギルガメッシュさんのおかげです」
うーん。そう考えると嬉しい以前にものすごい申し訳なさが。
もしこれが偶々の行き当たりばったりってわかったら、こいつはどんな顔するんだろう。ギャグもできる主人公だしさぞ良いリアクションをしてくれるに違いない。
「気にするな。俺がお前に出来ることといえばこれぐらいだろう」
英雄派の面子を改心させたことに対して悪いなんて思ってないけど、成長の機会を奪った以上、その責任くらいは取らなければいけない。この世界の存亡に関わる。
でも、必要以上に介入すると予想だにしない方に原作崩壊しかねないし。流石にそれはマズい。後から出てくる敵に対して先手を打ちまくった挙句に予想の斜め上の敵が出てきて対処法わからないみたいな感じになると俺の知識なんてものは毛ほどの価値もない。ある意味与えられた特典よりも転生者の利点の一つである原作知識をどう使うかで自分の立ち位置が変わってくる……というのが俺の持論。尚、上手く扱えなかった結果がこれであるので説得力は皆無。
さて、用は済んだし帰るか。そろそろ勝手に抜け出してここに来ていたのがバレそうな頃合いだから帰らないと。バレるとまたジャンヌが四六時中一緒にいるとか言い出しかねない。
「ではな。お前達のゲーム。楽しみにしているぞ」
そう言って、俺は拠点にある自室に転移した。
余談だがゲオルク作の簡易魔方陣を使っていたので全部バレていた。
ー◇◆◇ー
「くそ、またすぐ帰りやがった。折角俺の最高傑作を見せてやろうと思ってたのによ」
「余計なことをするってわかっていたからでしょう?くだらない企みはすぐに見抜くって言っていたのはあなたのはずよ、アザゼル」
懲りずにトラブルの元凶を生み出すアザゼルをリアスはジト目で睨む。
これならギルガメッシュがさっさと帰ったのも頷けるというものだ。暇を持て余してはトラブルばかり起こすアザゼルはオカルト研究部の間でも悩みの種だ。
もちろん、堕天使総督の肩書き通り、ただのトラブルメーカーではないものの、毎度巻き込まれる側としては溜まったものではない。
「くだらなくねえよ。この性転換光線銃はそこらのイケメンをあっという間に美少女に変えられる男の願望が詰まったモノなんだぞ」
「先生!その話詳しくお願いします!」
「おう!流石はイッセー。このアイテムの素晴らしさがわかってるな」
過去何度もハーレムを形成した事があるアザゼルを師と仰ぐイッセーはすぐに鼻の下を伸ばして話に食いついた。とてもギルガメッシュとの命がけの修行をこなして来た戦士とは思えないほどのだらしない顔つきだ。
とはいえ、このスケベ心もイッセーが強くなるには必要なモノであるし、イッセーに想いを寄せるリアス達には大いに構わない。
「おおっ!ということは木場もこれを喰らえば美少女に!?」
「ああ。流石にどんな体型になるかは運次第だが、見た目のレベルはそのまま反映される。あいつレベルのイケメンならリアス達に負けず劣らずの美少女確定だ」
「うおおおおっ!すげええええ!」
「因みに俺の予想だとギルガメッシュは更にその上を行くはずだ。それにあいつが十中八九当たりを引くだろうしな。黄金比は間違いねえ」
ギルガメッシュもかなりのイケメン。というか、最早イケメンと呼んで良いかすらもわからない美貌を持っている。そんな人間が女になれば絶世の美女なのは間違いない。……というアザゼルの見解である。
「マジですか!?………あ、でも流石にそれはマズい気が……」
「そんな事したら間違いなく殺されるわよ……」
いきなり性別を変えられて喜ぶのはごく一部だろう。そしてギルガメッシュが喜ぶはずがない。その場で堕天使総督を使用したリアル黒ひげ危機一発が始まりかねない。もちろん、刺さったら飛び出さずに血が噴き出すが。
「いいや。案外わからねえもんだぜ?今回もそうだったが、あいつはあれで結構ノリはいい方だしな。笑って流すかもしれねえぞ。なんだかんだ言って、祐斗の方にも助言してやってたしな」
「それとこれとは話が違うと思いますけどね……」
そう言って祐斗が苦笑する。
確かにそれとなく助言は貰っているし、そのおかげで戦術の幅が広がったのは確かだ。
だが、それをノリがいいと一緒くたにするのは絶対に間違っている。
「ま、よっぽどじゃなけりゃあいつはキレねえだろうぜ。態度は傲岸不遜なやつだが短気じゃねえのは確かだ」
「……その割には私に敬語を使わせているのは何故かしら?」
「プライベートつってるが、仮にもあいつは人間代表だしな。それ相応の態度を振舞ってしかるべきだろ?俺みたいに公的にタメ口が許される立場ならいいが、あいつにはやめとけ。本人が強制でもしない限りな」
「別に構わないわ。私の下僕の願いを聞いてくれたのだから、それぐらいは当然の礼儀だもの」
「その事ですが……何故あの方はイッセーくんのお願いを聞き入れてくれたのでしょうか?」
更にいえば自分にまで助言を与えたギルガメッシュに祐斗は感謝しながらも疑念を抱いていた。
同盟相手なのだから断る理由がないとも思えるが、ギルガメッシュは『王』だ。
仮にもいくら魔王の妹とその眷属とはいえ、ギルガメッシュにしてみれば『一介の悪魔』でしかない。『王』としての責務に比べればイッセーの願いは最も重要度の低いものだろう。同盟相手でも他の陣営であることに変わりはないし、イッセーが強くなることのメリットがない。無論、祐斗が強くなることもだ。
デメリットもないが、それではギルガメッシュにとって今回のことは徒労でしかない。
そんなことをして何の意味があるのか、と思ってもおかしくないだろう。
「ま、イッセーにダメ元でって提案した俺が言うのもなんだが、正直最初は突っぱねられると思ってたしな」
サイラオーグの強さを目の当たりにして、更に強くなることを決意したイッセーの相談に乗っていたのはアザゼルだ。その時に半分悪ふざけに近い形でギルガメッシュの名を挙げ、それに同意したイッセーにも驚きだが、数秒の沈黙があったとはいえ了承したギルガメッシュにも驚きを隠せなかった。
ただでさえ、日頃蔑ろにされている(自業自得)の身としては余計に。
「ただ……あいつがイッセーや祐斗の面倒を見る理由があるとすりゃ……そりゃ二人が『神器持ち』だからなのかもしれねえな」
「確かに……イッセーに『俺がお前にしてやれるのはこれぐらいだ』と言っていたものね」
「あの人もしかして、ずっと俺たちのことーー」
「……かもしれないね」
ギルガメッシュは『神器』を持つ者、異能の力を持つ者を保護することを目的としていた。
多くの人間を保護しているとはいえ、必ずしも全ての人間というわけにはいかない。イッセーやアーシアのような例外も当然のように存在する。
そしてその事をギルガメッシュの臣下である曹操は悔いていた。
ならばギルガメッシュもまた救えなかった彼らのことを悔いていたとしてもおかしくない。
曹操達の絶対的とも言える信頼度を見れば、ギルガメッシュが同じ人間に対してどれ程慈悲深く、愛情を抱いているか。情に深いグレモリーとその眷属である彼らにはわかった。
「……サイラオーグさんに勝たなきゃいけない理由がもう一つ増えたな、木場」
「そうだね。どんな理由であれ、仮にも一勢力の長が二人も直々に指導してくれたんだから負けるわけにはいかないよ」
「俺は別に気にしてねえよ。ま、勝たなきゃ流石のギルガメッシュも説教ぐらいはするかもしれねえけどな」
面白そうに笑うアザゼルだが、それを笑って流せないのがイッセーである。彼の脳内で再現されるのは今回なんとか五体満足で終えることが出来た修行の更に上を行く最早拷問レベルの修行。一歩間違えたら死ぬ、という状況を意図して生み出し続けるギルガメッシュの修行は精神的に辛すぎた。
今回は自分から言いだしたことであるし、サイラオーグとのレーティングゲームに勝つためという目標があったがそうでなければ二度とやりたくないというのがギルガメッシュへの感謝や尊敬その他諸々を抜きにしてのイッセーの本音だった。
「安心なさい、イッセー。英雄王直々ではないけれど、私達も以前より強くなっているから勝算は十分あるわ」
イッセーほどの爆発的な成長度を見せたわけではないものの、リアス達もまた強くなっている。リアスとしてはギルガメッシュにだけは師事したくないと思う反面、自身がどのように成長するかを見抜いているであろう彼に何か強くなるためのヒントを得ようと思っていたのだが、『お前はダメだ』と突っぱねられている。
理由としては純血の悪魔であり、ギルガメッシュの『民』である資格を持ち合わせていないからであろうとアザゼルは推測し、リアスもそれには納得した。
結果、普段通りアザゼルに指導される形となったが、ギルガメッシュがイッセーに付きっきりだったため、思った以上にレーティングゲームに向けての修行がより充実したものとなっていた。
「後はゲームの形式だけですね」
「お前らのことだから最終的に小細工抜きでやり合うことになるだろうな。ま、観てるこっちにしてみりゃそっちの方が面白えからいいけどよ」
「別に私たちは観客のために試合をしているわけじゃないのだけれど……まあいいわ。勝敗はどうあれ、終わった後に悔いのないゲームだったと言えるように全力を尽くすわ」
「俺も今度はサイラオーグさんに負けませんっ!」
いっそう闘志に火をつけ、イッセー達は修行に取り組むのだった。
「英雄王……どうか、どうか我々に内緒で外出するのだけはお控えください。このままでは私の胃が持ちません」
「キミのプライベートに難癖をつけられるような立場じゃないが……少しゲオルクも可哀想だ。やはり専属を何人かつけるべきかな?」
「むぅ……次からは(バレないように)気をつける」
((多分一月も持たないな、これ……))