「どうだった、ジャンヌ。王の護衛は?」
「完璧……といいたいけど、残念ながら賊の一人にしてやられたわ。まさか、よりにもよって、堕天使総督の付き添いが裏切り者だなんて」
ギルガメッシュとジャンヌが帰った翌日。
トレーニングルームで鍛錬をしていたジャンヌは、その相手であるジークの問いに苦虫を噛み潰したような表情で答えた。
先の会談でのテロ。
予期せぬ事態での対応は万全だった。黒幕を一太刀で、雑魚を悉く斬り伏せていった。
それもこれも、全ては王のため。
いかような相手であるとしても、王に刃を向けるものがあれば、これを斬り伏せるのが自身の役目だと、ジャンヌは自覚している。
だが、それもヴァーリの裏切りによって破られてしまった。
確かにヴァーリの裏切りは、予想できなかっただろう。アザゼルでさえも、全く予想外の出来事であったのだから。
しかし、それで終わる問題ではない。
王に敵を近づけさせたという許しがたい事実に、自然と剣を握る力が強くなっていく。
「ストップ、ジャンヌ。殺気が漏れているよ」
「今この話を振ってくるそっちが悪い」
「ははは、確かに。……それで?その裏切り者くん。よく王に刃を向けて、殺されなかったね。白龍皇なら弱すぎて殺されなかった。なんてことはないだろう?」
「関係ないわ。どんな奴でも、王に敵う存在なんているはずがないもの……っ!」
唯一にして絶対。
如何なる存在であったとしても、ギルガメッシュに敵う存在いるはずがない。
ただーー。
「仮にいるとするなら、オーフィスか、グレードレッドぐらいだろうね。それでも王の負ける姿が想像できないのが不思議なところだけど……っ!」
互いに剣先を首元数センチ前で止めて剣を下ろす。
基本的な剣技の上では二人は互角であるために、こうして引き分けになることが多く、神器を使用すれば、綺麗に勝敗が決まる。最も、その場合はトレーニングルームがめちゃくちゃになり、ギルガメッシュからおしかりを受けることになるため、滅多にしない。
「この際、王が白龍皇を見逃した理由はどうでもいいわ。けれど、次に会うことがあったら、絶対に細切れにしてやるんだから」
「全く……君の忠義には恐れ入るよ」
呆れたとも、感心するともとれる息を吐くジーク。
ジャンヌのギルガメッシュへの忠義ぶりは英雄派内でも他の追随を許さない。
過去の出会い方から来るものであるのだが、それ程までにジャンヌはギルガメッシュに厚い信頼と敬意を抱いていた。
(いや……ついでに好意も、かな?)
確証はなかったが、英雄派内でも何十人もギルガメッシュに好意を寄せているものはいる。敬愛しているという点で言うのなら、男女は問わないが、『王』としては当然の事。『異性』として好意を抱いている人間は少なくない。それはひとえにギルガメッシュの放つ圧倒的なまでのカリスマが影響しているからだが。
「ともあれ、王のお蔭で、同胞達の保護が一層しやすくなった。彼等が暴走して、三大勢力に討伐されないように、早く迎えに行ってあげないとね」
「それもいいけど、その前に会議があるでしょう。王もじきにお目覚めになる頃でしょうし」
「これより会議を始める……と言いたいが、何故ヘラクレスがいない?」
「『用事がある』だそうだ。まぁ、十中八九サボりだろう」
ギルガメッシュの問いに、曹操が苦笑しつつ、そう答えた。
ヘラクレスは幹部の一人ではあるものの、基本的に肉体労働担当で、頭は悪くないが脳筋であるために会議には参加せずにいることが多い。無論、最初はゲオルグやジャンヌが非難していたものの、最近では言っても無駄だと悟り、半ば諦めている状態だった。
「ヘラクレスがいても、話がややこしくなるだけです。後で僕から伝えておきますよ」
「すまぬな、ゲオルグ」
実際、ヘラクレスがいるとややこしくなるのは確かだ。ヘラクレスは話し合いイコール殴り合いに発展しかねないほどの単細胞。軽く戦闘狂のきらいさえあるために、穏便に事を済ませようという気がないのだ。
「では、今回の会議だが、ジャンヌから聞いているだろう。王は一時的に三大勢力とは和平を結んだ。これによって、神器所有者の保護はやりやすくなるだろう。これであちらは迂闊に手を出せない。無論、暴走すればその限りではないが、そこは我々の仕事だ」
「違いない。王が我々の為にわざわざそのような場にまで出向いた以上、僕たちにできることは一人でも多くの同胞を保護することだ」
「一つ気になるんだけど、いいかな?」
「どうした、ジーク?」
「一時的に同盟を結んだということは、必要がなくなれば、その和平を破棄するということかい?」
ジークの問いは、幹部全員が気にしていることだった。
元より、ギルガメッシュの元に集いし英雄達は人間社会からあぶれたものもいれば、人外の手によって、家族や友人を殺された者もいる。
その為、人外には激しい憎悪の念を抱いているのだが、ギルガメッシュの和平はそれらを飲み下せというものだ。和平を結んだ以上、無闇矢鱈に仕掛ければ、即戦争に繋がりかねない。
もちろん、それがギルガメッシュの選択だと言うのなら、彼等はそれを受け入れる。
しかし、ただ和平を結んだだけで終わるはずがないのが、ギルガメッシュだ。
だからこその問い。
必要以上の事を話さないギルガメッシュには、自分達が問いを投げるしかないのだ。
「和平の必要がなくなれば、そも破棄をする必要もないだろう。和平というのは契約だ。今は利用しているに過ぎん」
ギルガメッシュの言葉に曹操達は息を飲んだ。
愚問だったと言わざるをえない。
英雄王が、ギルガメッシュが、人外達と肩を並べ、偽りの平穏に甘んじるなど、あり得るはずがなかった。
今は神器所有者達をより安全に、より確実に保護することを優先しているだけに過ぎず、和平は人外達を牽制するための手段に過ぎないのだと。
「聞きたいことはそれだけか?」
「うん。妙な質問をして申し訳ない、王」
英雄派内における誰もが、ギルガメッシュの真意を理解することは出来ない。
仮に誰が一番理解できるかと問われれば、やはり付き合いの長い曹操だが、その曹操も全てを知ることは難しい。
それを理解してか、ギルガメッシュはどのような些細な問いを投げかけられても、必ず答え、咎めることを決してしない。
「話を戻すが、神器所有者の保護はしやすくなった。とはいえ、その和平の席に現れたというテロリスト達。『
「和平に反対する人外達の連合軍……。神器所有者達を自分達の都合で利用しそうな連中ということか……。王、仮にその者達と遭遇した場合はーー」
「構わぬ。お前達の好きにしろ」
煮るなり焼くなり神器の実験に使うなり、何をしても良いとギルガメッシュからの許可が出た。
テロリズムというのはギルガメッシュが最も嫌う行いだ。過去に曹操がそれと似たような思想を持ち、それをギルガメッシュに矯正させられたという話は、英雄派内では有名な話だ。
ギルガメッシュはテロリズムの思想を持つ相手に容赦はない。全力で殺しに行くことはないにしろ、塵一つ残さず、殺されるのは目に見えていた。
だからこそ、白龍皇ヴァーリを生かしておいた事が気になるが。
「一先ず三大勢力については保留。最優先は神器所有者の保護。『
「良い。だが、派手にやり過ぎぬよう心得ておけ」
「ふっ、わかっているさ」
例え人間だとしても、その実力は最上級悪魔と闘っても全く引けを取らない。周囲を気にせず、力を振るえば、周りがどうなるかなど火を見るよりも明らかだ。
「今日のところはこれで終わりだな。俺は王と話しておきたいことがある。少し席を外してくれ」
ギルガメッシュと曹操以外は各々に出て行った後、曹操はギルガメッシュに問いかける。
「さて……君の『本気』を知る身として一つ聞いておきたい。件のテロリストは君が『本気』を出すに足る相手か?」
「さあな。下はともかく、頭がその気になれば嫌でも本気を出す」
「頭?黒幕はジャンヌが斬り捨てたと聞いたが?」
「アレはあの時の黒幕だ。あのような有象無象が頭なら、そも危険視するまでもないだろうよ」
「確かに。ジャンヌも相当な実力者だが、まだ禁手も使っていない彼女にやられるのなら、大した事はないな。……それなら、黒幕は一体誰だ?他の旧魔王一派か?」
「……オーフィスだ」
「っ……
「もっとも、アレがやる気になる事など滅多にないだろうがな」
そう言うとギルガメッシュは席から立って、部屋から出て行く。
その背中を見送って、曹操は溜め息を一つ吐いた。
今でも忘れられない。
誰にも話してはいない。
ただの脅しであったにもかかわらず、死を覚悟した。
心の底から屈服した。それと同時に圧倒的なカリスマ性に惹かれた。
自分が英雄を率い、人間の限界に、人外に挑むための組織を作るつもりだったが、今はそれとかけ離れた組織になった。
とはいえ、それは曹操自身には良い転機となった。
少なくとも、英雄らしい、英雄の子孫であると胸を張れる存在になっていた。
ある意味順風満帆と言える。
強いて言うなら、ギルガメッシュの性格上、物言いはともかくとして、全員に甘過ぎるということだ。一見甘やかしていないように見えるが、ギルガメッシュにとっては英雄派の人間全てが家族のようなものであるからだろう。おかげでギルガメッシュの事で相談される事も多い。
「まあいいか。独裁の王よりはよっぽど良い。何れ来る戦の為にも、王の為に立ち上がる人間がいるにこしたことない」
そう。何れは戦わなければならない。
悪魔も、天使も、堕天使も。滅ぼすべき相手なのだから。
ー◇◆◇ー
会議を終え、何の気無しに街をぶらぶらと歩いていた。
もう八月……夏休みの時期か。とふと思う。
感慨深いというか、なんというか。
学生でもなく、社会人でもない俺は世間一般で言うところのニートなのだろうか。年齢的には成人であるし。
でも、養っていることには養ってるし、金儲けは割と暇つぶしにやったな。株も土地売買も投資した金額の百倍を超えた辺りで考えるのがバカらしくなってやめたけど。
流石に王様で通すのはマズいし………何か肩書きだけでも持っておこうかな。
その為には、まず何をしたいか決めないと……ん?そういえば、ギルガメッシュがレジャー施設を運営していたっけな。アレは子ギルの状態だが、悪くない考えだ。金が絡んで負けた事がないって事は黄金律はあるだろうからな。つまり、経営すれば知識なくても勢いだけでなんとかなるんだ!………きっと。
よし、そうと決まれば、早速土地を押さえ……何?
携帯が鳴った。つまりこれは奴しかいない。そう、堕天使総督のあの馬鹿野郎。
「……何故お前はそうタイミングがーー」
『ーーよう、冥界に行く気はあるか?』
「……」
こいつ、いきなり電話をかけてきたかと思ったら、何を言い出すんだ。
「何故俺が行かなければならん。用なんぞ欠片もないが?」
『案外そうでもないぜ』
「何?」
『「禍の団」の事だ。あいつらの素性が大体わかってきてな。それについてーー』
「いらぬ」
即答した。いや、そんなのどうでもいいし。というか、原作と違って、英雄派の無い『禍の団』なんて、大した脅威でも無い。
これで話は終わりだろう……と思いきや、アザゼルが電話の向こう側で笑った。
『だろうと思ったぜ。正直な話、お前さんに会いたがってるのがいてな』
「なら直接来いと言え。何故俺が出向かねばならん」
『そうも言ってられない。何せ、北欧の主神だからな』
……オーディンか。
そういえば、そんなのがいたな。確か下心全開のドスケベジジイだったような気がする。この世界の偉い奴って、クソ真面目な奴が苦労する世界だよな。トップはどいつもこいつもプライベートが緩すぎるというかなんというか。
……なんだろう。猛烈に会いたくない。魔王はともかく、オーディンとアザゼルとか絶対にロクな会話をしなさそう。
レーティングゲームには興味なくはないが、面倒くさいなぁ。
「北欧の主神であろうが、なんであろうが、関係ない。会いたければ、直接会いに来いと伝えろ。その時に俺がいるかは知らぬがな」
『……まぁ、予想通りっちゃ予想通りだな。伝承通りっていうか、なんていうか……やっぱ神は嫌いか?』
「当然だ。好む理由がない」
考え無しだし。転生させてくれたとはいえ、下手をすればあの世行きな世界に放り込まれたし。なんで学園ラブコメな世界に送ってくれなかったのか。
『わかった。オーディンには俺から言っておく。お前も気が向いたら、また駒王に来いよ。今度は真面目に飯奢ってやるからな』
「だといいがな」
そういった後、電話を切った。
ふぅ……もう少し最後の真面目感があれば冥界に行くのも良かったんだが。なんていっても生きているうちに冥界なんて行けるものじゃない。大変貴重なのだ。
まぁ、どうこう言っても何が変わるわけでもない。一先ず、表の世界でも通じる肩書きをだな。
「待て」
意気込んだところで、何者かに呼び止められた。
顔に刺青を入れた見知らぬ男。何の用だろうか。
「お前が人間共を集めて、王様気取ってるヤローだな」
「気取っているわけではない」
単に担がれているだけです。王様になる気は全くございませんでした。
それよりもーーこいつ、人間じゃないな。
「はっ。ま、んな事はどうでもいい。単刀直入に言うぜ、人間。禍の団にーー」
「断る。死にたくなければ失せろ」
そんな事だろうとは思っていた。過去に再三打診してきたのを一蹴していたが、それでもなお懲りないらしい。第一、旧魔王の血族の一人を殺しているというのに、何故勧誘してくるのか。
しかし、そいつは俺の言葉を聞いても笑うだけだ。何?どMなの?
「いいのか?俺達が拉致った神器使い共がどうなっても」
「……」
人質か……うん、これはアレだな。痛いところをつかれたなんてものじゃない。
俺達英雄派は神器所有者の保護に重きを置き、それを最優先事項としている。
もちろん、自分達が危険ならやむなしと曹操達には伝えている。なので、命懸けで保護を優先するような事はしない。
これは今回に限っても同じことが言えるのだが……。
「シャルバ様は協力の意思があるなら神器使い共を引き渡すと仰られている。だが、もしもテメェが断ったり、俺を殺したりすれば、本部にいる神器使い共は間違いなく殺されるだろうぜ」
ですよね……なんで悪い事って大体予想通りなんだろうか。何も嬉しくないんだけど。
このままこいつをぶち殺してもいい気はするが、それだと英雄派の人間達に示しがつかない。それに神器所有者の保護も頑張ってもらってるし。ここらで俺も一つ、体を張っておかないといけないな。
「良い。連れて行くがいい、そのシャルバとやらの元に」
「へっ。わかりゃいいんだよ。所詮人間なんて、俺たちにとっちゃ家畜みたいなもんだしな」
流石はテロリスト……というよりも、旧魔王よりの過激派といったところか。悪魔が種族における頂点であると心の底から思っている。滑稽極まるが、少し黙っていよう。
「おら、行くぜ。ありがたく思いな、シャルバ様がお会いになってくださるんだからな」
そいつが魔法陣を展開すると、ちょうど俺まで入るほどの大きさに広がり、次の瞬間、見た事のない場所に転移していた。