陽だまりの君へ   作:Mi-Me-2

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おまけ
14.白夜/黎明


『もう十二月も終わり、今年も終わる。

 このところ毎日、カチューシャはほとんど毎日見舞いに言っているそうだ。アイツにも、何かの心境の変化でもあったんだろう。』

 

 

----------

 

 

 ある病院の、とある廊下。マイペースで同僚からも患者からも人気のある看護師は、ある部屋の前でこんな会話を聞いた。

 

 

「俺の絵、どうすればいいのかな」

 

「え?要らないの?」

 

「いや、そういう訳じゃない。あんまり多すぎて保管しきれないんだ」

 

「ああ、アトリエに置いてあったわね。あれ、どれくらいあるのかしらね?」

 

「アトリエ?……カチューシャ、倉庫のも見た?」

 

「そ、倉庫……?もしかして、まだあれ以上に絵あるの……?」

 

「ある。俺より大きいのも何枚かあるし」

 

「ねぇ、それってもう手放してもいいの?」

 

「ん、捨てないで、どこかに保管できたらそれでいいんだけど。俺の感情が残ればいいんだから、残ってさえいてくれればいいんだ。どこかでトランクルームでも借りられるかな」

 

「……じゃあ、ちょっと私に預けてもらえる?」

 

 

 聞こえてくるそんな会話を聞いて、彼女は微笑んで廊下を歩いていく。彼女は、人間が好きなのだろう。快復に向かっている患者を見るのが、彼女の喜びなのだ。

 あんまり嬉しくて、彼女は口笛を吹いた。

 

「ちょっと、病室の近くで口笛なんて吹かない!」

 

「あ、すみませーん!」

 

 これも、まぁいつもの光景である。

 

 

----------

 

 

『そういえば、病院で働いている姉が、少し前に運ばれてきた患者の人がイケメンで惚れてしまいそうだと言っていたような。見舞いに毎日妹さんが来ていると言っていたが、……姉の恋が早く冷めることを祈っている。』

 

『そういえば、明日は夜一の退院日だ。カチューシャとノンナが迎えに行くそうだし、俺は受験勉強に勤しむとしよう。』

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 かくて俺―――白沢夜一は、後遺症もなく退院することが出来た。年の明けた、一月中旬のことだ。

 退院の日に来てくれたのはカチューシャとノンナさんだった。小此木も来たがっていたらしいが、受験間近なため来なかったらしい。入院中も一度も会いに来なかった割に、心配してくれていたようだ。

 

「遅いわよ、ヤイチ!」

 

「すまない、色々手続きが煩雑で」

 

 謝りながらカチューシャの頭を撫でようとして、思い留まる。

 もし触れてしまったら、俺はまた倒れてしまうのではないか。そんな思いが脳裏をよぎったが、まぁそれでもいいと俺はカチューシャの柔らかい髪の毛に指を埋めた。

 

「ちょっと、ヤイチ!?」

 

 案の定、体から力が抜けた。

 簡単に言えば、転倒した。近くにいたカチューシャもろとも。とっさに支えようとしたが、カチューシャの小さな体では支えきれなかったらしい。

 

「退院直後に何をしているのです、貴方は!」

 

 立ち上がれない俺に、ノンナさんが肩を貸してくれた。ピクリとも動けないので、ほとんど背負われていると言っても差し支えない。

 

「…………」

 

 そんな俺を、立ち上がりながらカチューシャが恨めしげな目で睨み付けていた。

 その目に、ほんの少しばかり非難の色が混じっているような。

 

「……見てなさい、すぐに大きくなってヤイチなんかひょいっと片手で持ち上げられるようになるんだから」

 

 どうやら、支えきれなかったことを気にしているらしい。身長がどうというつもりはないけれど、今のままでカチューシャは十分だと思う。いろんな意味で。

 

 もう十分、その存在だけで十分支えられてるんだから。

 

 そんなことを思ったとたん、凄まじい眠気が襲ってきた。ノンナさんの長い髪の毛から漂ってくる清涼感のある香りを感じながら、俺の意識は薄れていった……。

 

 

----------

 

 

『よく話すようになった。よく笑うようになった。

 それでも、白沢夜一という人間の本質は変わらないのだろう、違和感は正直感じなかった。いや、あれがアイツの地なのだろう。

 受験はしないらしく、どこか長閑な場所で農業でもするつもりらしい。あの絵の才能だ、画家になればどうだと言ってみると、それもどうするか悩んでいるとか何とか。』

 

『ファンクラブは存続している。むしろ、親しみやすくなったためか会員数は受験直前だというのに増えているという噂もある。カチューシャもその熱心さに免じて黙認しているとか。けど『渡す気は無い』と大勢の前で言い張っていたし、羨ましい限りだ。』

 

 

「アキラ、何を書いてるんです?」

 

「うおッ!?」

 

 後ろから覗き込まれ、小此木は思わず悲鳴を上げた。クラーラは、そんな彼を見てクスリと笑う。

 ちなみに、二人がいるのは小此木の部屋だ。二人だけだが、勉強会をしているのである。初めて部屋に入ったときはクラーラも興味深々で色々探って回ったが、ある出来事を境にしなくなった。その出来事については、割愛する。

 

「……人の日記を見るのは、感心しねェぞ」

 

「ごめんなさい、なかなか返事をしてくれないものですから、つい」

 

 小此木は日記帳を閉じた。今まで小学生の頃からつけてきて、何冊になったかわからない日記帳。勿論、今までの分も捨てずに保管してある。

 夜一が描いた絵を残らず家に置いてたのもこういう気持ちだったのかもなァ。そんなことを思いながら、クラーラに向き直る。

 

「で、何の用だ?」

 

 クラーラはなにやら挙動不審な様子で、

 

「そろそろご飯にしませんか?」

 

「あァ、もうそんな時間か。さて、今日はどうするかねェ……」

 

 小此木は立ち上がった。受験直前というのもあって、小此木は毎日の夕食を外食や出来合いの弁当で済ませている。

 だが、今日はクラーラの様子がおかしい。何かを確認しつつ、チラチラと小此木の様子を探るように見ている。

 

「どうした、クラーラ?金でも忘れたか?」

 

「いえ、そうではなく。……あの、ですね」

 

 息を吸い込む。雪のように白い彼女の頬が、ほんの僅かに赤みを帯びているのに小此木はようやく気が付いた。

 

「台所を借りて、作ってみたんですけど……」

 

 いつも自信ありげに微笑んでいる彼女からは想像も出来ないほど顔を真っ赤にして、クラーラは言った。その目はぐるぐるとして、今にも緊張で倒れてしまいそうだ。

 

「ん、えァ?飯を?作って、くれたのか?」

 

 コクコクと頷くクラーラ。一瞬胸の中で黒い感情が湧き上がった小此木だったが、何とか抑え込むことに成功した。

 

「いいのか?」

 

 またコクコクと頷いて、台所まで小走りで向かって行ってしまった。その動作をまるで子供みてェだと思いながら、小此木はクラーラの運んでくる料理を心待ちにすることにした。

 

 

----------

 

 

 時は過ぎ、季節は二月へと差し掛かる。カチューシャと同じく推薦が決まっているダージリンが、例の如く応接室で紅茶を飲んでいた。

 

「まさか、大学は同じになるなんてね」

 

「次も負けないわよ」

 

「来年は同じチームかもしれないのだし、仲良くしませんこと?」

 

「とか言いながら手のひら返すんでしょう?」

 

「いやですわ、そんな」

 

 笑顔で言いつつ、はっきりとは否定しない。こういう人間なのだろう、ダージリンという人間は。カチューシャはそんなこと分かりきってるとばかりにジャムを口に含んで紅茶を飲んだ。

 

「そういえば、驚きましたわ。あれ、本当に高校生が描いたんですの?」

 

「当たり前じゃない。わざわざ見栄張るために描かせたりなんてしないわよ!」

 

「あんなに美しい絵を描く人間が今まで噂にもならなかっただなんて、信じられませんわね」

 

「……まぁ、色々あったのよ」

 

 カチューシャはまた紅茶を飲む。その背後には、美しい風景画が飾ってある。

 

 

 雪が降る白銀の世界の中、輪郭を暈しながらその存在を誇る校舎。息を呑むほど美しいその絵は、シンプルな額に入れられて壁にかかっていた。

 

 

 それは、『持ちきれなくなった絵をどうすればいいか』という白沢の相談に対して、カチューシャが言った考えだった。

 

 芸術品として、学校に飾って貰うのはどうだろうか、と。

 

 しかし、問題が生じた。雰囲気を壊さないように可能な限り配置してみても、気休め程度にしかならない。その問題について悩んでいるカチューシャに白沢は『気に入ってくれた人に持って帰ってもらおうか』と発言した。カチューシャはその意見自体には反対したものの、一方で良いアイデアかもしれない、と思った。

 

 その結果、最終的に決まったアイデア。

 

 『各学園艦に、飾ってもらうのはどうか?』

 

 勿論、無名の人間が描いた絵を渡して『飾ってくれ』と言っても高い確率で断られるだろう。

 だが、カチューシャには確信があった。とある聖グロリアーナの知り合いがいたからだ。

 

 

 『彼女なら、喜んで受け取ってくれるだろう』

 

 

 目論見通り、その人物は白沢の絵を喜んで受け取った。カチューシャにとっても予想外だったのは、その絵が芸術面からみて恐ろしく厳しいはずの聖グロリアーナの関係者からも絶賛されたことだ。

 

 それを聞いたカチューシャは人気の旨を白沢に報告したあと、さらに何枚かを各学園に寄贈することにした。今度は向こうから欲しがる学校がほとんどだった。サンダース大学付属、アンツィオ、青師団高校といった芸術方面に活発な学校はもちろん、伯爵高校、マジノ女学院、黒森峰などにも贈った。こっそり、大洗にも贈っている。

 その全てはカチューシャと、彼の絵に惚れ込んだ一人の少女が計画したものだ。白沢は自分の描いた絵がみんなに喜んでもらえていると知って嬉しそうにしているだけで、特になにも言わなかった。

 

 

 その当人である少女―――ダージリンは、ため息をついた。

 

「貴女からあの絵が送られてきたときは何事かと思ったわ。どこでこんな絵を手に入れたのか、って」

 

「やっぱり、()()()から見ても凄いの、あれって」

 

「勿論。あの絵、凄く評判がいいのよ?私が独占するのを許せないって人も出てくるくらい。そのせいで私の自室に飾ってあったものしか手元に残ってないわ」

 

「ふーん、そんなに」

 

 そう言いつつも、ニヤつく表情を隠しきれないカチューシャ。白沢が様々な人に認められるのが、嬉しくて嬉しくて仕方が無いのだろう。少し落ち着こうと、カチューシャは紅茶の入ったカップを傾ける。

 

「描いたのは白沢夜一さん、でしょう?お祖父さんと同じくらい、いえ、人によってはそれ以上に評価してる人もいるわ。斯く言う私もそうだけど。

 描いた本人がほとんど姿を現さないから、表立っては盛り上がっているように見えないけれど、水面下ではもうお偉い人たちやお金持ちの方が(こぞ)って欲しがってるわ。

 やっぱりお祖父さんと同じように、絵の道へ進むのかしら」

 

「それがね、『絵は描くけどそれだけで生きていきたくはない』って聞かないのよ。本人としては農業がやりたいらしいんだけど」

 

「貴女もついていくの?」

 

「まさか」

 

 そう言って、カチューシャは紅茶を飲み干した。

 

(カチューシャ)が、連れていくのよ」

 

 自信満々に言うと、にんまりと笑った。そんなカチューシャをほんの少し羨ましそうに見て、ダージリンも紅茶を飲んだ。

 

「これからも、作品は発表していくのでしょう?」

 

「発表って言うか……ヤイチはあんまりそういうことに明るくなくって。まだ部屋には誰にも渡してない何十何百の絵が残ってるわ」

 

 ちゃんと劣化とかはしないように保管してるらしいけど、という言葉を聴くよりも早く、ダージリンは目を輝かせてカチューシャに詰め寄った。

 

「何枚か、交渉とかは出来るのかしら!?」

 

「本人に聞いてみ……いや、やっぱりカチューシャに言って」

 

 ヤイチのことだから、欲しがる人がいれば大事なもの以外はあげてしまうのだろう。彼の感動が薄れず残ってくれれば彼としては良いわけで、それで他の誰かが綺麗だと思ってくれれば、彼にとっては言うことは無いのだろうし。

 

「あら、あそこにいるのが、その彼かしら」

 

 ダージリンはふと、窓の下を見て言った。そして、穏やかに微笑む。

 

「……どこ?」

 

 カチューシャも探してみる。

 すると少し離れた場所、太陽の光がたっぷり注いでいる場所でスケッチブックを広げながら、ゆっくり舟をこいでいる男子生徒の姿が目に入った。

 ガタッ、とカチューシャは立ち上がる。

 

「ヤイチったらまた寝てる!ダージリン、ちょっと待ってなさい、ちょっと起こしてくるわ!」

 

「ふふ、いってらっしゃい。待ってるわよ?」

 

 見送られながら、カチューシャは駆け出した。一人残されたダージリンは、椅子に座りなおしてカップを傾ける。

 そして、言った。

 

「我々のこの世で、初恋の意識よりも神聖なものは無い」

 

 微笑んで、窓から見える青年に目を向けた。

 

 

----------

 

 

 いつもの芝生に寝転んだ私の胸には、いつも一つの感情があった。

 それを、ノンナやクラーラは『初恋』だと言った。

 

 それは、間違いない。今ならわかる。

 

 この胸に灯る暖かさは、胸を打つ衝動は、弾けんばかりの感情は、紛れも無い恋だ。この感情を知ったのはこれが初めてなのだから、これこそが『初恋』なのだろう。

 

 色々思うところはあるが、ここは一つ大目に見よう。

 

 何せ、『恋は盲目』なのだ。

 

 

 だが―――

 

 

『まさか、このカチューシャの初恋が』

 

 

 カチューシャは。

 

 

『寝ている男だなんて、夢にも思わなかった』

 

 

 眠っている白沢に、思い切り抱きついた。

 

 陽だまりで眠る、愛しい人に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陽だまりの君へ。

 

 私も、貴方を愛している。

 

 

 

 

 

 

 

 




 ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。無事終わらせることができて、とても安堵しています。みみずりゅーです。
 とりあえず、今思っていることとしては『初めて小説書くのに変に凝ろうとしたのが失敗したかな』という感じです。最後とか、今までの伏線回収しきったんですかね……?実感がわかないです。とりあえず、あとがきと書いておけば作品に関して何を書いてもいいのでは?と思ったので色々書いていきます。肩の力を抜いて見るかもう見ないかの二通りでお願いします。


【ストーリーに関して】

 ストーリーに関してはわかった人ももしかしたらいるかも知れませんが、平沢進さんの楽曲の『Lotus』から考えたものが原型でした。そこから紆余曲折様々なものに影響されつつこのようなストーリーになりました。別に『Lotus』の歌詞を意識したわけではなく、あくまでそこから発想を得た、ということですので、曲を聞いて『全然違うじゃないか!』と言われても困ります。(いつかそういう考察小説みたいなのもやってみたいなぁ……)

 『陽だまりの君へ』というタイトルは投稿の際、ない頭をひねりつづけて絞り出したものですが意外と良かったかな、とは思っています。

 まぁ、そんなこと言いつつ、最終的な設定が出来たのは二話書き終えたくらいでしたが。なので、一話二話の夜一はちょっとおかしい感じがします。まぁ、カチューシャと出会った時点で壊れかけていたんだと思ってください。実際その通りですし。


【オリジナルキャラクターについて】

・白沢夜一(ヴィーチェル)

 苗字は先述の『平沢』進さんからとって『白沢』になりました。これに関してはすぐに決まったのですが、名前に関しては中々……。最終的に『Lotus』の印象的なワードである『夜』から『夜一』に。
 ですが、ここで「『白沢夜一』……白夜だな」と気付いてしまったが運の尽き。ストーリーが当初と全く違ったものになってしまいました。

 彼の設定は元々『昼寝好き』だけでした。そこからナルコレプシーを患い、絵を描くなどと色々詰め込まれた挙げ句、果てには『生まれながらにして人と価値観が違うことに苦しむ少年』という属性まで追加されました。盛りすぎですね。動かしづらかった主人公でした。次回があるなら反省を生かしたいと思います。


・小此木晶

 名前はいつかのあとがきに書いたとおりです。小説家という設定は、専門知識が必要な何かを説明させるためでしたが、途中からほとんど意味無くなりましたね。これも反省点です。ジョジョでいうスピードワゴン的存在ですね。怒涛の説明をしていきたかったです。白沢の自殺未遂の搬送先の病院の医師の息子……という設定にしようかどうか迷ってました。まぁ、くどいかな?と思ったのでその名残に留めておきました。
 口調ですが、あんまり拘りはなかったです。ただ『誰が話しているのか明確にわかりやすくするため』でしたね。
 クラーラとの絡みだったり、書いていてとても楽しかったキャラクターです。


・黒極崇彌

 主人公の名前が『白夜』だということに気が付いてしまった私は、その対極である『極夜』を出さずにはいられなかったのでした。
 彼は脳溢血で小説が始まる数年前に既に逝去しています。放任主義者で、その結果夜一の母親が歪んでしまいました。それを悔いているのか、夜一には親身になって世話をしましたが、すでに傷つけられ過ぎた彼の心には届きませんでした。
 夜一とは違い、『この世全てのモノの美しさに目を向けなかった』人。ですが彼も夜一と同じように大切な誰かと出会いその生き方を変えていきました。『加持』にはそんな思いが込められています。
 彼の場合は異常を持って生まれてきたというわけではなく、そういう性格をしていただけです。



 まぁ、こんな感じでした。最後になりましたが、この作品を気に入って貰えて本当に嬉しかったです。感想、評価、お気に入り数、すべてが励みになりました。本当にありがとうございました!

 次があるのか、それはわかりませんが、またいつかお会いしましょう!

 それでは、またこんど!
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