恋姫†無双外史   作:変なおっさん

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趙雲との密会

 見世物小屋から朱里と雛里を連れ、役場へと御主は向かう事にした。さすがに今の状況で丸一日休むわけにはいかないからだ。

 

「……朱里、これってさ」

 

「……そうですね。こちらの方と合わせて見ましょう」

 

「あ、あの……これはどうですか?」

 

「雛里。それでは軍部の予算が……」

 

 政務を担当する朱里、軍務を担当する雛里、軍部を担当する愛紗と話をしているがなかなかに難しい。平原は、現在の大陸の中では最も収入が多い場所である。しかし、同時に支出も大陸一なので内情はあまりよろしくない。全体的なもので見るなら洛陽は別として、華琳の治める陳留か馬騰が治めている長安が安定して上向きだ。ついでに言えば、可もなく不可もない公孫賛の北平が一番安定しており、逆に袁紹が治める南皮は波が荒い感じになる。

 

「移民への対応が難しいね」

 

 住む場所をはじめ多くの金が必要。むしろ、こんなに大勢の人間を受け入れられている彼女達の手腕を褒めるべきだろう。御主が切り盛りしていた時はここまで多くの人間を一気に受け入れる事などはできなかったのだから。

 

「反董卓連合の準備のため、備蓄しておいた兵糧を各所に売って財政を支えています。ですが、木材などの資源が高騰していますのであまり効果はないです」

 

「御主殿。木材などの仕入れを増やす事はできないのですか?」

 

「平原にないだけで各所に余剰はある。ただ、供給は今のところはできない。でも、華琳からの依頼に関しては行う。これに関しては、前から決めていた事だから」

 

 そう、華琳からの依頼は予想していた事の一つだ。華琳がこちらの動きを知っているのは十分に予想できたからだ。

 

「予想は当たりましたけど……平原の人達の事を考えると……」

 

 雛里の言葉に場の空気が悪くなる。大陸では、全体的に資源が高騰中だ。当然のようにそれを仕掛けたのはこちらになるが、別に金儲けの為ではない。

 

「予定通り、俺は公孫賛の所に向かうよ。仕込みの確認もしておきたいし」

 

「それでしたら幾つか持って行ってもらいたい書簡があるんですけど」

 

「あぁ、別に構わないよ。じゃあ、公孫賛に用がある人は朱里に言ってもらう形でいいかな?」

 

「では、今度は新兵の状況について話しましょう。雛里」

 

「は、はい……えっとですね……」

 

 それからも御主を交えての会議が続く。

 

「うぅ……私も何か話したいよぅ……」

 

 唯一人、会議には参加せずに報告書の山を確認する桃香はそんな光景を羨ましそうに見ていた。別にのけ者にしているわけではない。桃香には、最終的に承認するか否かの重要な仕事がある。これは、他の者ではできないので必然的に全て桃香が行わなければならない。

 

「桃香様は、こちらの竹簡の山を片付けて下さい。まだまだありますから」

 

「ふぇ~、御主さーん」

 

 桃香に助けを求められるが手伝えない仕事もある。

 

「お互い頑張ろう」

 

 励ましの言葉が空しい。これで今日何度目だろう。

 

「そう言えば、袁紹の所から召喚の話が来ています」

 

「桃香に?」

 

「はい。袁紹は、形だけとはいえ桃香様の上司にあたる方。報告を兼ねてあれこれと言ってくると思います」

 

 傍から見れば平原の景気は良い。何かしらの要求でもするのだろう。

 

「やっぱり、私が行かないといけないのかな?」

 

「もちろんです。桃香様には、平原の刺史としての役目がありますので」

 

「私としては、御主さんにも同席して頂きたいです。御主さんは、今や袁家の方とあまり折りが合わないのは知っています。しかし、未だに関わりがあるのも事実。桃香様と共に行ってもらえませんか?」

 

 董卓のお抱えになるまでは、袁家はある意味では何進が健在の頃からの上客であった。しかし、董卓に付いた後ではそれも当然変わる訳で。

 

「公孫賛の後でいいなら一緒に行くよ。袁紹に持って行く物もあるから」

 

「ありがとうございます。桃香様お一人では心配だったもので。私達の誰かが同席できればいいのですが、官位などがありませんので」

 

「仕方ないよ。どっちかと言えば官位を持っている方が珍しいし。でも、俺だって官位なしのただの商人だからあんまり期待はしないでね」

 

「いえ、桃香様をお一人で行かせなくてすみますので助かります。桃香様、我らは此処で無事を祈っております」

 

「なんだか怖いよぉ……」

 

 実際に怖い。董卓を討ち取れば大陸の覇権を最も手に入れる事ができる立場に居る相手だ。機嫌を損ねれば今の桃香ぐらいならなんとでもなる。

 

「その時は、お互い胃薬持参で頑張ろうね」

 

 今から気が重くなる。ある意味では、敵陣に乗り込むのだから。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 夕飯は、また華琳が桃香に料理を教えながらになった。どうやら街で珍しい調味料や料理に関する書物を見つけたようでそれを試したいのだそうだ。おかげで、愛紗に何かする時間はないようで隠れて様子を見る必要がなくなった。

 

「作り過ぎだよなぁ……」

 

 華琳の料理は、夕飯が始まっても終わる事が無かった。途中で桃香が愛紗に付き添われて先に卓へ着いたぐらいだ。御主をはじめ最初から卓に居た者達は既に腹を満たし自室へと戻っている。残っているのは、後から卓に着いた桃香に愛紗。それと、華琳の臣下たち。後は、春蘭と競って食べている鈴々ぐらいだ。

 

 寝台に横になり、窓から見える外の景色を見ながら過ごす。待ち人が来ることを願って。

 

「いつになったら来るんだよぉ……」

 

 星の土産にと買っておいた白磁の酒瓶を手で弄りながら待つ。夕飯の時に土産の話をしたから来てくれてもいいのに。

 

「来ないならもう寝るよぉ……」

 

 居ない相手に声を掛ける。空しく言葉だけが静かな部屋に零れる。

 

「そんなに私に会いたかったのですか?」

 

 何処からか声がする。しかし、周囲を見渡すが姿はない。

 

「星か?」

 

 これで暗殺者とかだったら笑えない。と言うか、警戒心が無さ過ぎるぞ。

 

「声を聞いても分からぬとは、私と御主殿の仲もその程度と言う訳ですかな?」

 

 確かに聞こえた。しかし、聞こえた場所は寝台の下。どうしよう、下をのぞくのが怖い。そもそもいつから居たんだよ。

 

「のぞくのが怖いから出て来てよ。よくあるだろ? 寝台の下に暗殺者とかいる話」

 

「まったく、仕方のない方だ」

 

 そう言いながらも星が寝台の下から出てくる。何故か怖い面を被っているが何も言わずにおこう。

 

「今日の朝はすまなかったよ。コレ、お詫びの品。星が美味いって言ったヤツ」

 

 隣へと座った星にこの前一緒に飲んだ酒を渡す。

 

「でも、真桜はそうでもなかったみたいなんだよね。星が美味いって言うからウチでも仕入れようと思ったんだけど」

 

「……そうですか。その時、真桜はどうでしたか?」

 

 星に言われて考える。

 

「忙しそうだったかな? 星が居なくなった後に仕事の話に来ただけだし」

 

「では、この酒の味が分からなくても仕方があるまい」

 

 星は、懐から自分用の杯を取り出す。いつも思うが、常に入っているのだろうか?

 

「御主殿。一献」

 

 星から杯を受け取り、注いでもらう。試しに飲んでみるが前と変わらない。しいて言うのなら杯が人肌と同じくらいに温かい気がする。

 

「前と変わらない。普通に美味いよ」

 

「そうですか。いやはや、豪商と名高き御主人も落ちたものですな」

 

 星に杯を返し、今度は御主が酒を受け取り、注ぐ。

 

「飲まなくても私には分かります。この酒は、前と同じで美味い酒だと」

 

 そう言うと、星は一息で飲み干す。

 

「酒もそうですが、誰と共にするかが大事なのですよ。真桜の場合は、忙しくそれを考える暇がなかったからそうでもないと感じたのでしょう」

 

「……星が言いたいことは分かったよ。星となら安酒でも十分美味いからね」

 

「少しうぬぼれが過ぎるが、まぁそれも仕方がないか。事実、こうして酒をダシに会いに来てしまっているのだから」

 

 また星から杯を受け取り、注いでもらう。何度もそれを繰り返し、酒瓶が少しだけ軽くなる。

 

「御主殿は、平気なのですか?」

 

「なにが?」

 

「恋たちと離れていてですよ。これでも共に居た時間は少ないですが古くから馴染みのある間柄です」

 

「そう言えば、恋と霞を除けば星が一番古い馴染みなんだよね。行商人と旅の武芸者。なんだかんだよく会ってたもんな」

 

 星の出身地は、冀州にある常山になるのだが并州に近い事もあり行商人を始めた頃に出会った。旅の武芸者として武芸を磨こうとしていた星とは、主に商団での行商の時に会うのだが恋と霞と共に商団を襲う盗賊を撃退する様は壮観の一言だった。当時の御主にとっては、恋と霞と共に戦える人間が居るとは思えなかったので星に惹かれていた。もちろん、容姿によるものも少なからずある。

 

「恋と霞、とりわけ恋に対しては強く思いが御有りのはず。なぜ、平気なのです?」

 

「……それで、こうして顔を出してくれている訳か」

 

 平原に来てから星はちょくちょく顔を出してくれている。どうやら恋たちと離れて寂しい思いをしていると思い、こうして付き合ってくれていたようだ。

 

「だったら大丈夫だよ。確かに、気にはしている。でも、その程度だよ」

 

 星に杯を向ける。それに、答えて注いでくれる。

 

「生半可な覚悟でやっている訳じゃないからね。やると決めた時に命を捨てる覚悟をしたよ。既に立場があり逃げる事ができない。なら、役目に任せ流れるだけだろ?」

 

「……失礼した。どうやら要らぬ事だったみたいですね」

 

「いや、嬉しいよ。覚悟があっても余計な事は思い浮かぶからね。こうして星が居てくれて助かるよ、ありがとう、星」

 

 恋と霞の真名が言えるだけでも十分に星の存在に助けられている。今の状況で、二人の真名を口にできる相手は少ない。

 

「しかし、武芸を磨きながら各地を自分の目で見て回り、仕える主を探していた星が公孫賛の所で、まさか無名の人間に仕えていたと知った時は驚いたね」

 

「私の見る目は確かであったろう? 御主殿もお認めになられたのですから」

 

「そうだね。きっかけは、星が仕えたからだけど今は認めてはいるよ。ただ、まだまだ心配だけど」

 

「その方が仕え甲斐があると言うもの。既に形となっている主では面白味がない」

 

「本当に変わらないね、星は」

 

「それは、お互い様でしょう」

 

「確かに」

 

 星との酒はいい。今を考えず、過去に居られる。

 

「そう言えば、一ついいか?」

 

「なんなりと」

 

「話は戻るけど、星は俺と一緒に居たいと思っているで間違ってないよね? 酒をダシにこうして来てるんだし」

 

 まだ酒の減りは少ない。しかし、星の頬は朱に染まる。

 

「なら期待に応えないとね」

 

「いや、それは――」

 

 此処は、御主の部屋。そして、寝台の上。いくら武人として上であったとしても御主の領域では、少なくとも今は御主の方に分がある。

 

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