恋姫†無双外史   作:変なおっさん

19 / 23
劉備と共に袁紹に会う

 とうとうこの日が来た。先延ばしにしてきたが今回は劉備の手伝いもある。準備はしてきたが胃がキリキリする。

 

「なんだか緊張する」

 

 袁紹が居る謁見の間に呼び出される前に待たされている貴賓室で、劉備は緊張からくる息苦しさを押さる様に手で胸に触れる。

 

「気持ちは分からなくもないけど、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」

 

 その隣に居る御主は、平気そうに出されているお茶やお菓子に手を伸ばす。

 

「御主さんは凄いですね」

 

 この言葉には、含みがある。劉備も御主が置かれている立場は理解している。袁紹の居る南皮は、袁家のお膝元。董卓と繋がりがあると思われている以上は、反董卓連合の盟主である袁紹が居る此処は大変危険な場所だ。

 

「やましい事が無いのなら堂々と。何もないのにオドオドしていれば、相手に不審がられるからね。ほら、劉備も食べなよ。さすが袁家御用達のお菓子なだけあって美味いよ」

 

「やましい事が無ければ……」

 

 実際のところ、やましい所しかない。なにせ、反董卓後に来る覇権争いの時に袁紹を裏切るのだ。大義名分があったとしても裏切る事には変わらない。それでも少しでも早く大陸の安寧を願うのならやらなければならない。

 

「堂々とします。わたしには、わたしの大義がありますから」

 

「それでいいよ。正しいかどうかは後の者が決める。今は、自分を信じてできる事をすればいい」

 

 一度決めたら真っ直ぐに進めるようになっただけ昔に比べて少しは君主らしくなってきたのかな? 先ほどまでの姿がまるで嘘のように美味しそうにお菓子を食べている。

 

「劉玄徳様。御主人様。謁見の間に御案内致しますので準備の方をお願いします」

 

 お茶とお菓子を楽しむのもここまでのようだ。呼びに来た兵に連れられ、袁紹の待つ謁見の間へと向かう。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 通された謁見の間はさすがの造りである。洛陽にある皇帝の謁見の間にすら引けをとらない程に広く豪華な造りだ。大抵の者は、何度此処に足を運んでも慣れる事はなく、畏縮してしまう。

 

「劉玄徳、此処に」

 

 そんな中、劉備は堂々と臣下の礼を袁紹にとる。諸葛亮たちと何度も練習をしてきた成果が出ている。

 

「お久しぶりね、劉備」

 

 唯一人この場で座する事が許される袁紹が劉備を見下ろしている。一見すると軽装ではあるが、よく見れば所々に贅を尽くした装飾品を身に着けている。しかし、それらも袁紹の前ではただの飾りでしかない。四代にわたり三公を輩出した名門である袁家の人間として、袁紹自身が持つ生まれ持っての格は美貌としてそこにある。

 

「よくやっていると、聞いておりますわ」

 

 そう言いながらも興味なさげに自分の髪を弄っている。金糸のような艶やかな髪を指でクルクルと足を組みながら。

 

「顔良、あなたからは何かあるのかしら?」

 

 袁紹は、傍に控えている重臣に問いかける。こちらは、袁紹に比べると落ち着きがあり大人しい印象がある。

 

「いえ、特にはありません」

 

「そう。では、文醜、あなたからはありますの?」

 

 顔良とは反対に控えている文醜にも訊ねる。

 

「特にないですね」

 

 顔良と比べ、軽い口調で口にする。こちらは、顔良とは違い利発な印象を受ける。どうやら飽きているようで、少し落ち着かないように視線が泳いでいる。

 

「わかりました。劉備、もう帰ってけっこうですわ」

 

「えっと、まだ私からはなにも……」

 

 まだ劉備は何も口にしてはいない。平原を任されている劉備としては、いろいろと報告することがある。それこそ、諸葛亮と鳳統が劉備の為に準備した物があるぐらいに長い報告が。

 

「私、言いましたわよね? よくやっていると。それで、十分ではなくて?」

 

 袁紹の言葉はここでは絶対。劉備としても問題がない以上は下がるしかない。

 

「それで、次は誰の番かしらね?」

 

 袁紹の視線が御主に向けられる。否、袁紹だけではなく顔良、文醜からも視線が御主に集まる。

 

「ねぇ、御主? 実は、こんな噂を耳にしたの。あなたが董卓と通じており、私を罠にはめようとしていると……本当なのかしら?」

 

 いきなり核心へとついてくる。しかし、その場に居る誰も動揺は見せない。

 

「私が袁本初を裏切る訳がございません」

 

 微塵も動揺を見せずに言ってのける。しかし、それで疑いが晴れるわけではない。

 

「……言い方を少し変えましょう。御主、あなたと私は何進が健在の時からの付き合いですわ。だから嘘偽りなく、真名を許したこの私に、麗羽に同じことが言えるのかしら?」

 

 命と同価値とされる真名を出される。真名を出された以上は、それに応える必要がある。それは、真名を持たない御主でも分かる。

 

「分かりました。では、麗羽様に改めて申し上げます。私、御主人は麗羽様を裏切ってはおりません。しかし、袁家は別でございます」

 

 御主の言葉に場の空気が変わる。袁家のお膝元で、袁家を裏切っていると公言したのだから当然だろう。

 

「……それは、袁家を裏切っているという事でよろしいのかしら? 答えなさい、御主」

 

 袁紹の言葉に促されるように御主は、自らの懐へと手を伸ばす。これには、控えていた顔良も文醜も袁紹を守れるように身構えるが、懐から出てきた手に握られている物が剣などではないと見ると警戒を緩める。

 

「それは、何かしら?」

 

「これに私の真意が書いてあります。是非、麗羽様にご覧いただきたいと思います」

 

「顔良」

 

 袁紹に言われ、顔良が御主からそれを受け取る。受け取った物は巻物。麗羽に手渡す前にその場で検分を済ます。その際に当然のように中身を見る事になるのだが、思わず声が出る。

 

「どうかしましたの?」

 

「あの袁紹様……コレはその……」

 

 中身を見た顔良は、袁紹にそれを渡すかどうか迷う。

 

「なにが書いてあるんだ?」

 

 なかなか渡そうとしない顔良を見て興味が沸いたからか文醜が傍により中身を見る。

 

「……これって、目録?」

 

「目録? 顔良、いいから早くこちらに!」

 

 文醜の言葉に袁紹も気になったようで顔良に早く持ってこさせる。

 

「……商品と値段。コレは、御主の所で扱っている商品ですわね?」

 

「袁紹様。多分ですけど、最後の方を見れば分かると思います」

 

 顔良に言われ、巻物の最後の方まで進める。

 

「請求書?」

 

「私は、大将軍何進の下で商いをさせて頂きました。その後を継いだ董卓の下に行くのも不思議ではありません。ですが、それを理由に袁家の方は既に納めた商品の支払いを断りました。私も洛陽に住んでおりましたので事情は知っております。しかし、それだけの金額を踏み倒されてはとてもではありませんがやっていけません。皆で協力して破産こそは免れましたが、袁家に対する恨みは決して晴れたわけではございませんので」

 

 袁紹に渡した巻物は、袁家が踏み倒した未払いの商品をまとめた目録。董卓に力を貸すことになった御主に対して袁家が行った嫌がらせである。これは、理由作りで製作したのではなく紛れもない本物。本当に破産しかけて袁家を恨んだ。商いをしていればこういう事もあるが、さすがに額が額なので水に流せない。

 

「御主の言い分は分かりました。しかし、これは多過ぎではなくて?」

 

「本来なら利息も含める所を事情があると踏まえて無しにしております。それでも本来の額から考えれば十分に安いと思います」

 

 多少の額ならともかく金額を見れば言葉を口にはできない。

 

「顔良、建て替えはどうですの?」

 

「とてもじゃないですけど無理です。反董卓の準備で入用ですから」

 

「袁紹様と同じで袁家の人達は豪勢にしてますからね。あたいは初めて見ましたよ、こんな金額」

 

「……分かりました。先ほどの発言は聞かなかったことにしましょう。御主……支払いはしばらく待ってくれませんかしら? 袁家の当主としてなんとかしますから」

 

「麗羽様の御言葉ですので」

 

 ここであれこれ言っても仕方ないので頭を下げて話を終わらせる。

 

「でも、どうするんですか袁紹様? 袁家の人達は、御主を捕えておくように言ってましたよね?」

 

 サラッと文醜が問題のある発言をする。

 

「文ちゃん、ダメだよそんな事を此処で言っちゃ!」

 

 思わず、顔良が言葉を口にする。おかげで口調が変わってしまっている。

 

「……あっ、そうだった」

 

 文醜は笑って誤魔化している。馴染みのない劉備は、状況が分からずにポカンとしている。

 

「もういいですわ。そもそも御主が私を裏切るわけがありませんわ。まったく、叔父様や叔母様たちの顔を立てましたが恥をかいてしまいましたわ」

 

「ですが、いいのですか? ここで捕えておかないと後で袁紹様の御親戚の方々から何か言われると思うんですけど?」

 

「知りません。袁家当主である私に恥をかかせたのですから。名門袁家の者がこの程度……ではなくとも踏み倒すなど袁家の名に傷が付きます。顔良、早めに返済してしまいなさい」

 

「さっきも言いましたけど無理ですよ。お金がいくらあっても足らないぐらいなんですから。前は、御主さんが物の仕入れとか手伝ってくれましたけど今は無理なんです! 少しは袁紹様も手伝って下さいよ! 袁紹様の御親戚の方々の対応だけでもいいですから!」

 

 顔良の声に必死さが滲み出る。袁家の人間の催促は、顔良の与えられている身分や権限ではむげに断る事はできない。おそらくだがほとんどを通してしまっているのだろう。袁家の人間相手に商売をしていた御主にはよく分かる。

 

「最近、あんまり眠れなくてお肌とか気にしてたもんな」

 

「文ちゃんも他人事みたいに言わないで手伝ってよー!」

 

「無理無理。あたい、そういうのは全然だから」

 

 既に劉備と御主は蚊帳の外だ。仮にも外交になるのだが、体裁が保てていない。

 

「あの、袁紹様」

 

「なにかしら、御主?」

 

「よろしければ、献上品をお納め頂きたいのですが」

 

 御主は、手を二回叩く。すると、袁紹に納める為に持ってきた品々が運ばれてくる。

 

「依頼のあったぶどう酒の瓶詰めが二十八。専用の器も同じく二十八。酒宴などで使用する酒樽が二つ。是非、お納めください」

 

 本当は、三十ずつ献上する予定だった。しかし、曹操と使ってしまったので既に無い。数に指定はなかったのが救いだろう。

 

「羅馬からのですわね。御主の所で仕入れている物は人気があるから助かりますわ」

 

「念のため、飲まれる際には毒見をお願いします。今、私が毒見をしてもよろしいですが風味と味が落ちてしまいます。それに、後から盛られても困りますので」

 

 本来なら失礼な言葉ではあるのだが今回ばかりは事前に言っておく。後で面倒事が起きる方が困る。

 

「分かりました。管理などを含め注意するとしましょう」

 

「なぁ、御主。あたいたちには、何かないの?」

 

「南皮にあるウチの店なら今まで通り好きに飲食してくれてかまわないよ。平原も……来られるのなら構わないけど」

 

「そっか。いや~、行っちゃいけないって言われてたから最近困ってさー」

 

「許可が出てもダメだよ、文ちゃん。怒られるよ!」

 

「いいじゃん別に。御主の所でしか食えないもんいっぱいあるんだし、斗詩だって好きだろ?」

 

「そうだけどさ~」

 

 斗詩は、顔良の真名だ。既に文醜の中では仕事は終わっているようだ。

 

「もういいですわ。劉備、御主、御二人ともご苦労様。今日は、もう帰ってよろしいですわ。これからも袁家のために頑張るように」

 

 袁紹も既に仕事の気分ではないようだ。軽く手を振り、二人を帰らせる。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。