恋姫†無双外史   作:変なおっさん

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南皮にて華雄に会う

 御主と桃香は、南皮にある御主の店に戻って来た。此処も他と同じで住居が付いており、護衛として付いて来た愛紗と星、それに暇で付いて来た翠が無事に帰ってくるのを待っていた。

 

「疲れたぁ~」

 

 桃香は、椅子に座ると卓へと倒れ込む。安心できる場所に戻って来たことで緊張の糸が切れたのだろう。

 

「お疲れ様です、桃香様。なにか淹れますのでお待ちください」

 

「ありがとう、愛紗ちゃん」

 

 桃香の為に愛紗だけが動く。

 

「これは、よほど大変だった御様子。なにがあったか聞かせて頂きたいものですな」

 

「そうだな。店で買ってきた物もあるし食べながら聞こう」

 

 星と翠は、南皮の店で買ってきた品々で小さな酒宴を開いていた。

 

「少しは、心配したら?」

 

「なに、御主が居るのだから問題なかろう」

 

「そうそう。ほら、御主も早く座れよな」

 

 信頼してくれていると考えるべきか。それとも単純に興味が無かったととるべきか。どちらでもいいか、楽しそうなので何があったか話しながら自分も混ざろう。

 

「――なるほど、桃香様は特に何もしなかったと」

 

「星ちゃん、その言い方は酷いよぉ……」

 

「そう言うなよ、星。あの場所に行って堂々としていたのは凄い事なんだぞ? 特に今回は事情が事情だしね」

 

「そんなもんかな? あんまり袁紹の印象って凄くないから分かんないや」

 

 翠の意見が一般的。しかし、それは間違ったものだ。

 

「袁紹を甘く見ない方がいい。なにせ、あの曹孟徳が真名を許しているんだから」

 

「ほぅ……それは、面白い事を聞いた」

 

「曹操が真名を……」

 

 星と翠の顔つきが変わる。それだけ曹操の事を評価しているのだろう。なんだろう、曹操に篭絡とかされていないよな? 正直、心配だ。

 

「桃香は、盧植先生の事は覚えているだろ?」

 

「うん、もちろん覚えてるよ。白蓮ちゃんと一緒に寺子屋で学問を学んだからね」

 

「その盧植は、洛陽の都でも教鞭をとっていたことがある。その時に曹操と袁紹は共に学ぶ事になったんだけど、成績だけで見れば袁紹の方が上だったらしい。単純な能力だけなら実は、曹操にも引けを取らないんだよ、袁紹は」

 

 この事を知っている者は少ない。御主も二人が揃っていた時にたまたま聞いただけだ。

 

「……信じられません。それでは、何故民からの評判がよくないのでしょうか?」

 

 愛紗の言葉に同意する意見は多い。それもそのはずである。

 

「袁紹は血筋だけなら確かに袁家の当主に相応しい。でも、若いんだよ。いや、違うか。袁紹は、本来よりも早くに当主の座に就いた。先代である母親が早くに亡くなったのもそうだけど、周囲が急いで当主にしたんだ。あの時期は、何進と十常侍が争っていた。袁家としては、何進に付かなければいけないんだけど均衡状態だったからね。何かあった時の為の捨て石が欲しかったんだよ。責任を取るための人間がね」

 

 まだ当時の袁紹は幼かった。そんな袁紹が袁家をまとめられるわけもなく、袁紹を盾に親族達が好きにやっていた。それは今も変わらない。

 

「袁紹は、能力はある。しかし、周囲が何もさせない。袁家の人間は、袁紹の影に隠れて好き勝手にやっている。悪い噂は、全て袁家当主である袁紹に行くようにしてね」

 

「なかなかの悪党のようで。しかし、それを見逃していれば同じで事では?」

 

「星は、厳しいね。でも、そう教えられてきたんだよ。袁紹は、袁家を誇りに思っているから無条件で信じるところがある。相手は、謀略、知略に長けた者達だ。いくら能力があろうとも幼い少女には、とてもじゃないけど抗えないよ」

 

 昔の袁紹は、今ほど悪いものではなかった。確かに名門の出であることを鼻にかける物言いはあったが身分を問わずに接していた。それこそ曹操は、袁紹と比べると当時の身分は高くはなかった。それでも他の名家の出身者と比べると誰に対しても態度は変えなかった。それこそ御主に対しても。

 

「でも袁紹さんは、御主さんを捕えませんでしたよね?」

 

「さすがに常識までは変えられないからね。筋さえ通せば、袁紹は応えてくれるよ。純粋なんだよ、袁紹は」

 

 御主は、星から杯を貰い一口飲み、一息吐く。

 

「しかし御主殿は、随分と袁紹にお詳しいようで」

 

 星の含みのある言い方で視線が辛いものへと変わる。

 

「何進と袁家は懇意にしていたからその縁だよ。別にナニもないからね?」

 

「御主の言葉だからなぁ……」

 

「そうですね、御主殿の御言葉では」

 

「御主さん……」

 

 三人の言葉が痛い。そこで話を振っておいて笑っている星は、後でお仕置きしてやる。

 

「まぁ、できる事なら袁紹とその側近である顔良と文醜は生きたまま捕らえたいとは思っているよ。袁家を滅ぼす気ではいるけど、袁家当主の袁紹はできれば生きていてもらいたいんだよ」

 

「それは、情からですか?」

 

「それもあるけど……名門袁家の力はそれだけ大きいんだ。あれば、治世の役に立つ」

 

 ここでは言えないが董卓たちの保身にも役に立つ。巨大な袁家を完全に滅ぼせるか分からない以上、袁家の当主との和解の場を演出したい。

 

「まぁ、どうなるか分からないけどね。なんでも上手く行くようなら苦労しないさ」

 

 気にしないでと言わんばかりに御主は笑って見せる。

 

「そうですね。でも……上手く行くといいですね」

 

「……そうだね。ありがとう、桃香」

 

 何処かに根を下ろしてさえいれば、アレコレと考えずに済んだのだろう。しかし、だからこそ守れるかもしれないものもある。本当に世の中は上手く行かない。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 南皮までせっかく来たのでいろいろとしておく。その一つが街の中を歩く事だ。わざわざ凪たちを護衛として連れて来なかったのは、董卓と通じてはいないから袁家のお膝元でも平気ですよと宣伝するためだ。自分の店はもちろん、知り合いの所へと寄りながらブラブラしていたのだが――思いがけない人物の登場でそれも終わる。

 

「……華雄?」

 

 見間違いでなければ間違いなく董卓配下の華雄将軍だ。いやいや、此処は反董卓連合の盟主である袁紹が居る南皮だ。まだ戦の宣言は正式にはされていないが既に互いに臨戦態勢に入っている。それなのに敵地で飯を食べているはずがない。

 

「ふぅー、なかなか美味かったぞ、親父」

 

「どもっす」

 

 その華雄将軍みたいな人物は、屋台のラーメンを食べ終わったようで席を立つ。

 

「――おっ、御主じゃないか」

 

 目が合うと手を振ってくる。人違いではないようだ。

 

「なにやってるの?」

 

 素朴な疑問。これを訊かないと何も始まらない。

 

「なに、御主が此処に来ると話を聞いてな。近くに来たから寄ってみたんだ」

 

 往来の道でそんな大笑いを。めちゃくちゃ注目されている。

 

「とりあえず、移動しよう? 此処だとほら、いろいろとまずいからさ」

 

「そうか? 御主、そこのラーメンはなかなか美味いぞ。もう一杯、一緒に食べるか?」

 

「いや、他にしよう。俺の知り合いの店があるからそこに」

 

「御主は、美味い店を知っているからな。よし、今日は再会を祝して私が奢ってやろう」

 

 注目を浴びる中、華雄を連れて落ち着ける場所へと向かう。ここまでくれば、むしろ誰も信じないだろう。何処の世界に敵地で目立つ人間が居る。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「なかなか良い店だな」

 

 華雄を連れてきたのは、一見するとボロボロの店。しかし、中に入ってみると外観とは違いしっかりとした造りになっている。此処は、御主をはじめ商人たちが密談などに使う店だ。商人が扱う情報は、それ自体に価値がある。何処の勢力もお抱えの商人を持つのはそう言った事情があるからだ。

 

「此処なら何を話しても外には漏れない。二人頼む」

 

 御主は、店の者らしき人物に指を二つ立てて見せる。すると、その人物は頷き二人を店の奥に連れて行く。

 

「あの者は、耳が聞こえないのか?」

 

「分かるのか?」

 

 さすがと言うかなんというか。華雄が今の人物の耳が聞こえない事を見抜いたことに御主は驚く。

 

「なに、少し身体の軸がぶれていた気がしてな。病気か?」

 

「正確に言えば、拷問だよ。捕らえられた時にね。しかし、それでも口は割らなかったそうだ。それで、此処の店の経営者に見込まれて――やめておこう、こういう話を今するのは」

 

「そうだな。せっかくの再会だ」

 

 二人は、店の従業員の後を付いて行き案内された部屋でくつろぐ。部屋には、注文の目録があるのでそれを指で注文する。

 

「――じゃあ、生きて再会したことを祝して」

 

「あぁ、杯を交わそう」

 

 さっそく運ばれて来た肉と野菜の煮物を肴に酒を交わす。

 

「安酒だけど、なかなかだろ?」

 

「少しキツイが悪くない」

 

「なぁ、華雄。確か、今は呂布の隊に居るんだろ?」

 

 詠からの手紙だと自分の隊を休ませている間も自分だけは呂布の隊に加わり戦場へと戻ったとあった。

 

「黄巾党の残党を追いかけまわしていたらこの近くまで来てしまってな。これが逃げ足だけは御主にも負けない程だ」

 

「ほっとけよ。でもそうか、呂布が近くに……」

 

 この近くに呂布が、恋が居る。そう思うだけでもどこか嬉しい。

 

「なんだ、会いたくなったか?」

 

「悪いか?」

 

「いや、意外だと思ってな」

 

 華雄は、自分で酒を注ぎ飲む。

 

「御主は、はっきり言って弱い。血がつながらないと言っても呂布の兄とは思えんぐらいにな」

 

「だから武人になるのは諦めたんだ。子供の頃に何度呂布に負けたか分からない」

 

「だが、人としては強い。でなければ、こんな場所で私とこうしている訳がないからな」

 

 どうやら本人も自覚はしていたらしい。

 

「何かあったのか?」

 

「なに、呂布は確かに天下無双の武人だ。私が目標とするだけの強さがある。しかし……恋は、ただの人間だ。御主と違い、強くはない。お前のことだ、上手くやっているのだろう。でもな、恋は違うぞ?」

 

 華雄の話を黙って聞く。酒の味がしない。

 

「つい先日のことだ。恋は、敵陣に単騎で突撃をした。別にそれは珍しい事ではない。しかし、その姿は必死に見えた。前とは違い、どこか余裕が無いように。誰かとの約束を守るだけで精一杯なのだろうな」

 

「……華雄、案内してくれるか?」

 

「かまわんが、すぐに出れるのか?」

 

「無理だな。行くこと自体はできるが急過ぎる」

 

「では、夜に北西の森に居るとしよう。近くに大岩がある。そこまで行けば、私から迎えに行ってやる」

 

「もう少し分かりやすい場所はなかったのか?」

 

「私の金剛爆斧と具足一式を隠すとなれば仕方がないだろう? では、此処の支払いは御主に任せてもいいのだろうな?」

 

「奢りじゃなかったのかよ。まぁ、デカい借りが出来たから別にいいけど」

 

 今すぐにでも行きたいが、急に袁紹の下を離れる事は避けたい。苛立ちを酒と共に飲み干す。

 

「そう言えば、一つ聞いてみていいか?」

 

「なんだ?」

 

「恋は、虎を拾ったか?」

 

「虎? あまり洛陽には居ないから分からんが、居ないと思うぞ?」

 

「なら、男は? 手紙に恋が驚くようなものを拾ったと書いてあったんだ。名前は、ちんきゅうと言うらしい」

 

「ちんきゅう……うむ……」

 

 なにやら華雄は考え込んでしまった。ジッと御主の事を見ているのだが何かあるのか。

 

「仮に男ならどうする?」

 

「具足の中に槍はあるか?」

 

「あるぞ」

 

「必要なら決闘する」

 

 御主の言葉に華雄は楽しそうに笑う。

 

「決闘か、なるほど」

 

「マジで男なのか?」

 

「そう焦るな。しかし……そうだな。覚悟はしておいた方がいい」

 

「今すぐ行きたいんだけど」

 

「少しは堪えろ。ほら、注いでやる」

 

 行くとするなら陽が暮れてから。それまで抑えが効くか保証ができない。

 

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