恋姫†無双外史   作:変なおっさん

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南皮での日々

 御主は、華雄に絶追の下まで送ってもらいその足で予定していた村に入った。既に仕事をしていたようにしてもらっていたので合わせるように振る舞う。それも一段落し、一眠りしてから南皮に戻ると翠が待っていた。翠に話を聞くと、桃香が帰ってくるまで待つと粘っていたらしい。さすがに安全を考えて愛紗と星と共に平原に先に帰り、翠が御主を待つことで納得したとの事だ。

 

 しかし、話はそこから続くことになる。さっそく戻って来た御主に急な知らせが舞い込んだ。どうやら昨日の今日で、文醜たちが御主の店を訪れたらしい。基本的に袁家をはじめ、身分の高い者達の対応もできるようになっているのだがなんと袁紹まで店に来たらしい。それも機嫌があまりよくないようで店を任せている者の判断で貸し切りに。その後の対応を御主に任せたいとの事だ。

 

「私は、袁家の当主なのです! それなのにアレコレと申すなんて言語道断ですわ! 御主、早く注ぎなさい!」

 

 袁紹に言われ、御主は酒を注ぐ。店にある物の中でも最上級の酒だ。

 

「おたくの大将、なんだかめちゃくちゃ荒れてるな」

 

「いやー、それがさ。御主を捕まえなかったのが麗羽様の親戚の人達から反感を買って怒られたんだよ」

 

「うぅ……絶対に私にしわ寄せが来るんだろうなぁ……」

 

 翠は、文醜に酒を注ぎ、何があったのか話を聞いている。その横では、顔良が今後自分の身に降りかかる不幸で落ち込んでいた。

 

「まったく、昔からそうですわ。私の意見を無視して」

 

 既に何杯目だろう。袁紹の目が座って来た。

 

「でも、麗羽様。親戚の方達を怒らすと大変だと思いますよ? あたいでも袁家の運営のほとんどをあっちがやってるのは知ってますからね」

 

「そうですわね……斗詩、どうにかなりませんの?」

 

「人手が足りなさすぎますよ。私は、全体の調整役をしていますけど、実際のところはただの雑用ですから。御主さんの所が使えない以上は、物を一つ手に入れるのも親戚の方々の許可がいるような状況なんですから」

 

「はぁー、あたしはよく分かんないけど随分と酷いな」

 

 翠の実直な意見に思わず御主と顔良は苦笑いが出る。

 

 袁家の中で、袁紹が個人的に持つものは少ない。それは、親戚たちが自分達のやりやすいように力を持たせないように動いたためだ。

 

「全ては、御主が悪いのですわ! 董卓などに付くのだから!」

 

「そうだよな。御主が居れば、物のやり取りぐらいならあたいたちでもできたのに」

 

「もしかして、御主って袁紹の所に出入りしてたのか?」

 

「昔ね。まだ何進が居た時から董卓に代わって少し経つまでは」

 

 袁紹が当主の座に就いた時に何進の進言で御主が袁紹専属の商人になっていた時がある。なんでこうなったかと言うと袁家の意向だ。一つ目の理由は、何進と袁家の繋がりの一つとして御主を袁紹の傍に置く事。二つ目は、自分達とはできる限り離れた形にしておきたかった事。どちらも共通して言えるのは、袁紹を捨て石として使うという事だ。わざわざ袁家お抱えの商人すら袁紹に使わせない所を見ると袁家でも当時の情勢は読めなかったのだろう。

 

「今からでもあたいたちの所に来いよ、御主。董卓とは別れたんだろ?」

 

「それは、誰の為にもならないだろ? 気持ちだけ受け取っておくよ」

 

「そうだよ、文ちゃん。そんなことしたら本当に麗羽様と袁家の人達で揉める事になるよ」

 

「元々は、叔父様や叔母様たちが何進と上手くやればこんな面倒な事にはなりませんでしたのに。面倒事ばかり私に押し付けて――御主、杯が空いていますわよ!」

 

「はい、袁紹様」

 

「……ねぇ、御主。さっきから気になっていたのだけれど、なぜ真名で呼ばないのかしら?」

 

「そうすると、翠だけ浮くだろ? 翠以外全員が真名で呼び合うと」

 

「そうですけど、気に入りませんわ! 馬超だけを真名で呼ぶのは私が許しません! 馬超を真名で呼ばないか、私たちも真名で呼ぶかお決めになりなさい!」

 

「あたしは、別にどっちでもいいよ」

 

 ここは袁紹を立てるべきだろう。しかし――

 

「申し訳ないけど翠は、わざわざ俺の事を待っていてくれたんだ。恩義には報いたい」

 

「御主……」

 

 翠は、御主の言葉に見て分かるぐらいに喜んでいる。

 

「……分かりました。では、こうしましょう。今この場だけ、真名を許し合うという事でどうでしょう? これは、本袁紹が決めた事。よろしいですね?」

 

「あたいは別にいいけど」

 

「麗羽様が言うのでしたら」

 

「いや、そんな簡単に許すのはどうなの?」

 

「お黙りなさい! 全部あなたが悪いのです! それで、馬超はどうなのかしら?」

 

「ん~、真名は大事なものだけど、皆も御主とは長いみたいだしな。あたしだけだとズルいもんな。いいよ、あたしも」

 

「では、決まりですわ! 私の事は、麗羽と呼んでください」

 

「あたいは、猪々子。よろしくな!」

 

「私は、斗詩です」

 

「あたしは、翠ってんだ」

 

「……俺は、御主で」

 

 こういう時に真名が無いと居辛くなる。もう適当でもいいから自分で作ろうか?

 

「それでは、改めて杯を交わしますわよ!」

 

 麗羽の仕切りで改めて酒宴が始まる。

 

「なぁ、斗詩。仕切り直して早々にどうかと思うけど、麗羽様は飲み過ぎじゃないか?」

 

「私には止められませんよ。御主さんがなんとかしてください」

 

 そう言いながら斗詩も自分で酒を注ぎ、浴びるように飲んでいる。あぁ……こっちもダメそうだ。既に顔が赤い。

 

「しかし、御主のとこは珍しいもんが沢山あるよな。これだってなんだっけ? ぴっつあだっけ?」

 

「ピッツァだな。ぶどう酒とかと一緒に入って来たんだ。小麦、チーズ、トマトさえあれば作れる。ぶどう酒が人気の此処だと売れ筋だね」

 

「長安や北平にはないよな。こんなに美味いなら出してくれよ」

 

「また食べたくなれば足を運んでくれるだろ? 地域で少し変えてあるんだよ。ただ、平原と洛陽でなら食べられるけど」

 

 平原と洛陽では、文献や住民、異国の者たちから集めた料理の製作方法を研究してまとめている。食は文化であり交流をもたらす。美味いものを食べれば、商談もしやすいとの考えから今も予算を出している。それ以外にも御主の産まれが分かる糸口が見つかるかもしれないと淡い期待もある。

 

「そう言えば、御主。今月発売の喜屋武喜屋武に載っていましたシャオシャオ先生の新作はまだ南皮には入らないのかしら? 私、ずっと待っていますのよ!」

 

「麗羽様の希望の商品はたぶん限定品だろ? 限定品は、数量が限られているから無いなら再販まで待ってもらう必要が――」

 

「そこをどうにかするのが御主の役目でしょう! なんとかしなさい!」

 

 シャオシャオ先生。喜屋武喜屋武と美似美似専属の衣装や装飾品の立案をする先生だ。シャオシャオ先生の意匠を凝らした品々は、喜屋武喜屋武では大人向けに。美似美似では、子供向けに考えられている。

 

「シャオシャオ先生は、気難しい人だから担当のミンミンさんを通してしか無理なんだよ。俺は、オーナーだけどあまり無理を言って阿蘇阿蘇に移られたら困るしさ」

 

 シャオシャオ先生は気難しいので有名だ。平原にある自宅からはあまり外に出る事はなく、助手であるミンミンがいろいろとやっている。

 

「御主は、私の事が嫌いなの? 昔は、私のお願いならなんでも聞いてくれましたのに……」

 

 急に麗羽が涙ぐみ始めた。酒が悪い方に入っている。

 

「やい、御主! よくも麗羽様を泣かしたな! 普段は強気でも意外と脆いんだぞ!」

 

 猪々子にまくしたてられる。翠が間に居るので胸倉をつかまれる事はないが、こちらも酔いが回り始めている気がする。

 

「わかったよ。平原に戻ったらなんとかしてみるよ」

 

「本当に? ……それでいいのですわ! 初めからそう言いなさい!」

 

 涙がひっこみ、普段の麗羽に戻る。

 

「えー、麗羽様だけズルい! あたいにもなにかしてくれよ、御主!」

 

「いつも頑張ってる私も何かもらってもいいんじゃないですか! そうですよね、御主さん!」

 

「なんだか大変だな、御主」

 

 翠に同情される。

 

「今日一日は、此処に居る予定だったけど帰ろう」

 

 袁家の方に連絡して三人を引き取ってもらう事にする。念の為、翠と共に最後まで見送るが最後の最後まで絡まれ続けた。

 

 正直に言えば、決心が揺らぎそうになる。

 

 別に麗羽たちの事は恨んでもいないのだから。

 

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