恋姫†無双外史   作:変なおっさん

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平原での日々⑤

 平原に戻って来た御主は、警備担当の凪、商品開発の真桜と会議を開いていた。

 

「黄巾党の残党もだいぶ片付いてきたようだね」

 

「はい。既に黄巾党を名乗る者も少なくなり、ただの野盗へと成り果てています」

 

「せやかてそれでも居るのは変わらんのやろ?」

 

「そんな事はない。黄巾党の体裁を保てなくなるぐらいに疲弊しているのなら討伐隊を出すまでもない。現状の警備態勢で問題がなければ、この件は解決と考えていいだろう」

 

 黄巾党が居なくなる。それは、董卓と反董卓連合の開戦が間近に迫ってきているという事でもある。いよいよ流れが分からなくなる。

 

「オーナー。前に早馬で出した張角に関する件ですが、未だに本は見つかっていないとの事です。もしかすると、本物の張角が所有しているのではないでしょうか?」

 

「にせもんの張角も捕まらなくなったしなー。そもそも生きているのかすら分からとなると手の出しようもない」

 

 討伐の知らせの中に偽物の張角に関する話もある。しかし、それも今は聞くこともなくなってきた。華佗との約束を果たす事はできないがこれ以上は難しい。

 

「情報があれば、俺の耳に届く形だけ残して終わりだろうね。生きているかどうかも分からない人間に時間も人手も割けない。二人からは、他に何かある?」

 

「私の方からは、特にはありません。今まで同様に人手が欲しいぐらいで」

 

「ウチんとこは、それに加えて材料やな。いい加減制限を解いてくれんとほんまにキツイでぇ」

 

「真桜、気持ちは分かるが今は我慢してくれ。大陸各地で不足しているのに此処だけ問題がないとおかしいだろ?」

 

「いやー、それは分かっとるんやけど、また新しいのが浮かんでなー。これがなかなかおもろいねん」

 

 おそらく報告書にあったものだ。

 

「大規模掘削くんだっけ? 今までの何倍もの効率で掘削ができるのは凄いけど予算が多過ぎないか?」

 

「なに言ってんねん、オーナー。これがあれば、百人力やで。今まで大変だったのもスイスイ楽々ちゅうもんや。なーええやろ?」

 

「予算と合えばいいけど草案だと判断がし辛いんだよなー」

 

「今まで通り、試作品を製作してもらえばいいのではないでしょうか?」

 

「それがなー、ある程度の大きさが必要やねん。だから試作品を作るぐらいなら本番一発勝負の方がええぐらいや」

 

 人手不足の解消になる。しかし、いくら市場の操作で儲けているとしても……困った。

 

「保留とする。真桜、もう少し案をまとめておいてくれると助かる」

 

「嘘やろ? これでも頑張ったのに……」

 

「真桜ならできる」

 

「凪ちゃん、言葉よりも力貸してぇ……」

 

 すがりつく真桜の対処に困る凪を見ながら思い出す。まだこの場に来ていないもう一人の側近を。

 

(喜屋武喜屋武と美似美似の売上って今はどうなんだ?)

 

 宿敵阿蘇阿蘇に追いつきそうになりながらも離されてしまった。担当である沙和は責任を感じ奮闘中だ。その意気込みは、親友である凪と真桜が少し距離を取るぐらいらしい。そう言えば、最近姿を見ていない。本当に大丈夫だろうか?

 

「失礼するなの!」

 

 勢いよく部屋の扉が開き、遅れた沙和がやってくる。しかし、その傍にもう一人居る。背は低く、床に付きそうな程に長い黒髪を持つ少女。度の入っていないおしゃれ用の黒縁の眼鏡を掛けているのは、シャオシャオ先生の助手であるミンミンだ。

 

「オーナー、これを見てほしいの!」

 

 部屋に入って来た勢いそのままで、御主の前に紙の束が置かれる。

 

「……数え役満☆姉妹企画?」

 

 表紙には、数え役満☆姉妹の企画書と書かれている。中身を確認すると、どうやら彼女達を広告塔として起用するらしい。

 

「シャオシャオ先生が彼女達の衣装の製作をするって書いてあるんだけど?」

 

「この前、シャオシャオ先生とミンミンちゃんとで見世物小屋に行ってみて確信したの。彼女達と組めば、阿蘇阿蘇にも勝てるって!」

 

「へぇー、シャオシャオ先生が外に……」

 

 何も報告が無い。確かに関わりをあまり持たないようにしているが何処からも報告が無い。御主は、説明を求めるようにミンミンの方を見る。

 

「えっとですね、先生が数え役満☆姉妹の舞台をどうしても見たいと仰りまして……御止めしたんですけど……」

 

「無理だったと」

 

「はい……申し訳ありません」

 

 ミンミンに謝られる。それはもう深々と。

 

「別にミンミンさんがいいのなら構わないけど、なんで連絡が無いの?」

 

「それはですね……」

 

 ミンミンが沙和の方を見る。

 

「そんなの決まっているの。今までコレの製作をしてたんだから。昨日から徹夜で仕上げたんだからね、頑張った沙和たちを褒めてほしいの」

 

「つまり、報告をする暇もなかったと」

 

 ミンミンの返事を聞き、もう一度中身を確認する。

 

「既に彼女たちとの話も済ませてるんだ」

 

「数え役満☆姉妹の方も乗り気でいけそうなの。これで、阿蘇阿蘇に勝つのも時間の問題だって感じるのー♪」

 

 沙和の機嫌が久しぶりに良さそうだ。しかし、上司として訊いておかなければいけない問題がある。

 

「頑張ったな、沙和。俺も嬉しく思うよ」

 

「えへへ、もっと褒めてー♪」

 

「うん、凄い凄い。でもさ、この追加予算は何なの? 馬鹿高くない?」

 

 最後の紙に書かれた予算の内訳の合計金額が凄い事になっている。真桜の提出した大規模掘削くんに引けを取らない額だ。

 

「平原を中心に宣伝してもらう必要があるの。それぐらいどうにかしてよー。沙和の頑張りに免じて。お願い、オーナー」

 

 甘えた声でお願いされるが現実的な問題としてなかなかにキツイ。

 

「沙和の頑張りは分かるけど回収できるか微妙じゃない? 確かに純粋な利益よりもウチの知名度を上げる為にやっているところはあるけどさ、これはさすがに高いよ」

 

「あ、あの御主さん」

 

 ミンミンが申し訳なさそうな表情をしながらも口を開く。おそらくシャオシャオ先生の指示なのだろう。助手も大変だ。

 

「先生は、とてもやる気になっていまして。今も衣装などの立案をしているんです。ですからその……やめるとなると……」

 

 深いため息が出る。シャオシャオ先生の機嫌が悪くなると別の問題に発展しかねない。不利益を覚悟でしなければいけないのか。

 

「わかったよ。予算を出すから沙和たちの好きにするといい。その代わり、頑張るんだよ」

 

「ありがとうなの! オーナー見ててね! 必ず阿蘇阿蘇を倒してみせるから!」

 

「すみません、すみません、すみません――」

 

 二人の反応は対照的だ。

 

 しかし、今の話を聞いていた真桜の顔が怖い。なんで自分には出さないのか考えているんだろう。

 

「真桜、大規模掘削くんの製作だけど……予算と資材を準備しておくからまとめておいて」

 

「初めからそう言ってくれればいいのに! このー、人を焦らすのが上手いんやからもー♪」

 

 真桜の機嫌が良くなる。代わりに凪が呆れている。仕方ないだろ、他に方法が思い浮かばなかったんだから。

 

「そうだ、ミンミンさん。実は、今月号のシャオシャオ先生の限定品ってまだあったりするのかな?」

 

「限定品ですか? おそらく無いと思います」

 

「申し訳ないけど、一式お願いできるかな? 袁紹が欲しいみたいでね」

 

「袁紹が……分かりました話を通しておきます」

 

 一瞬だがミンミンの表情が変わった気がする。袁家に対して少々敏感過ぎるな。

 

「それでは、今日の会議は終わり。何かあれば各自報告をお願いします」

 

 予算の捻出をしないといけないので早々に会議を打ち切る。まだまだ甘い自分は、経営者としては半人前なのだろう。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 予算の捻出に尽力を注いだ御主は、自室の寝台で死んだように横になっていた。御主としては相当頑張ったが、非常用の資産に手を出してしまった。別に他所にも分けてあるので問題はないが、少し厳しめにした方がいいのかもしれない。

 

「御主、少しいいかしら?」

 

 久しぶりの声だ。最近、華琳も忙しいようで顔を合わせる機会すらない。

 

「お疲れみたいね、御主」

 

「もうクタクタだよ」

 

 動きたくはないがそうもいかない。華琳の居る卓へと座る。

 

「なにがあったの?」

 

「いや、なんだかさ……経営者に向いてないのかなって思ってさ」

 

「あなたが向いていないなら他の商人達はどうするのよ? ほら、今日のはお店で買ってきたやつだから」

 

 華琳が持ってきた盆の上には、酒瓶と二つの杯。それに干し物と漬物の盛り合わせがある。

 

「ありがとう」

 

 華琳に注いでもらう。今更だけど贅沢な気がする。

 

「華琳の方はどうなの? 忙しそうだけど?」

 

「そうね。袁紹の機嫌が悪いそうだから一旦戻る事にするわ。まだ此処ですることもあるから一時的だけど」

 

「そうか……寂しくなるな」

 

 お返しに華琳の分を注ぐ。

 

「寂しいと思ってくれるの?」

 

「それはまぁ……こうして飲む相手が減るわけだし」

 

「御主の事だから相手には困らないでしょ?」

 

 どう答えたらいい? 肯定も否定もし辛い。

 

「なんて言えばいいのかな? 華琳との酒は、なんか退屈しないんだよ。どっちも腹の内にあるからかもしれないけど」

 

「そうね。確かに、御主とのお酒に飽きた事はないわね」

 

 隠し事はあるが、隠す気はない。不思議な関係だ。でも、だからこそ面白い。

 

「それで、何かあるんだろ?」

 

「……どうしてそう思うの?」

 

「なんとなくかな? 瞳か、声か、表情かは分からないけどなんとなくそう見えた。本当になんとなくだよ」

 

 酒を飲む御主の事を華琳は隣から眺めている。その顔はどこか嬉しそうだ。

 

「一緒に来ない? 別に勧誘とかではなくて、少し協力してほしいことがあるのよ」

 

「協力してほしいこと?」

 

「稟と風から連絡があったの。どうやら商人たちとの交渉が上手く行っていないようで困っているって。知らない仲ではないのだから助けてあげてほしいの」

 

 名を郭嘉、字は奉孝。真名を稟(りん)。王佐の才を持つと称揚される桂花が認めるほどの軍師。華琳からの信頼も厚く、本人も華琳の事が好きなため信頼の置ける忠臣である。

 

 名を程昱(ていいく)、字は仲徳。真名を風。桂花が政策、稟が軍師、風が補佐の体制を華琳の指揮の下でとっている。風は、他の二人にも負けないだけの実力を持つが真価を発揮するのは人心を読むことに長けている事である。その為、二人の考えた策に何かないかを苦言又は助言を加えたりする。

 

 二人は、大陸中を旅し見聞を広めていた時期があり、公孫賛の所に世話になった事がある。その時期に御主や桃香たちと知り合っている。ちなみに星とは、公孫賛の所に来るまでの旅の同行者として共にしていた事もあり他の人間よりも付き合いが長い。

 

「桂花も一緒に戻るんだろ? 天才三人に華琳が居て俺が何するんだよ?」

 

「荊州と益州の商人との商談なのだけど内容の吟味が難しいのよ。何処の誰かは分からないけど、本当に面倒な事をしてくれたとは思わない? 市場に介入するなんて……ねぇ、御主はどう思う?」

 

「困った奴も居たもんだな」

 

 ジッと見られているがすっとぼける。バレてはいるけど。

 

「御主なら市場の動きをよく知っているわよね? 大陸の半分近くに交易路を持つのだから。他よりも情報を大事しているのに知らないなんて言わせないわよ?」

 

 塩漬けした干し肉を噛んで間を計る。酒で流し込んだら何か言わなければ。

 

「知り合いが居るぐらいで詳しくは知らない。情報は入るけど、華琳の考える規模の取引はできないからね?」

 

「それで十分よ。どちらも情報をあまり出さないのだから。でもさすがね、難攻不落の益州にもちゃんと人はやっているのね」

 

 益州は、険しい山々に囲まれている場所。交易には不便な場所で、土地は豊かで他所との交流はそこまで重要ではない。その為、外の商人は干渉がし辛い場所なのだ。御主に関しては、元黄巾党の中に益州の出身者が居たので取引をしているぐらいだ。益州を通して入ってくる異国の商品の魅力には抗えない。

 

「情報を仕入れるのに時間が掛かる。今の情報でいいのなら別だけど?」

 

「急ぎではないからそれでお願い。私達は先に行くけど、御主はいつ頃来てくれるのかしら?」

 

「情報次第かな? どれぐらいの情報が必要かでも変わるし」

 

「そうね。桂花にまとめさせておくわ」

 

 これで話は終わりなのだろうか? 華琳も黙り込み、静かな時間だけが流れる。

 

 本当になにもない時間。

 

 それなのに退屈はしないから不思議だ。

 

 隣に居る相手も同じことを思ってくれているのだろうか?

 

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