恋姫†無双外史   作:変なおっさん

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宿敵、阿蘇阿蘇

 華佗たちと別れた足で、そのまま凪と沙和との待ち合わせ場所へと向かう。場所は、洛陽の中心から少し離れた所にある閑静な通りにある飲茶を頂ける店。此処は、値段も安く美味しいので洛陽に来た頃から通っている店だ。

 

「訊ければよかったですね」

 

「本当なの」

 

 適当に食べ物を頼み、先ほど華佗たちに出会った事を凪と沙和に伝える。

 

「まぁ、今までも適当にはぐらかされてばかりだから答えてくれるか分からないけどね」

 

 何故か産まれの事になると貂蝉は動揺する。

 

「もしかして、オーナーは人じゃないのかも?」

 

「……それは、どういう意味? 沙和、俺の目を見て言ってみ?」

 

 言いたいことは分かる。貂蝉の手によって恋の家に預けられた。つまり、少なくともウチの両親と貂蝉が知り合いの可能性は高い。そこで問題になるのが卑弥呼と貂蝉は旧知の仲になる。どちらも真名を持っていないのも加えて考えてみるとおぞましい答えが浮かぶ。

 

「俺は、あんな格好をしたいと思った事はない、決してない」

 

 小さい頃には、確かに違和感を覚えなかったのは認める。しかし、俺は少なくともあの格好をしたいと思った事はない。仮に二人が同じ国の出身で、他の者達もあんな格好を好んでいたとしても俺はしない。断じて。

 

「ちょ、ちょっと怖いの……」

 

「これに関しては、沙和が悪い。確かにあの二人は人格者かもしれないが、さすがにあの服装は私でもどうかと思う」

 

「まぁ、あれだ。あれは、漢女の嗜みらしい。漢女自体が分からないがそれを理解できないなら着なくて済むはずだ」

 

 そう願いたい。本当に。

 

「でも、仮にオーナーがあの格好をしたら大勢の女の子が泣くと思うの。沙和だって、今の関係を考え直すと思う」

 

「……ちなみに凪は?」

 

「……すみません、その時にならないと分からないです」

 

 あの素直で一途に思ってくれる凪でもこれか、気持ちが分かるのが何とも言えない。

 

「アレの話はいったん止めよう。とにかく、各所に張角が本を持っているか調べるように伝えておいてくれ。どんな本でもウチで買い取ると添えて」

 

「わかりました。明日にでも各所に早馬を出すように準備しておきます」

 

「ねぇねぇ、今日はお休みなんだからお仕事はなしにしようよー」

 

「分かってるよ。今日は、凪と沙和と一緒に過ごすことにしたからね。今まであちこちに行ったり来たりしていたから少しはのんびりしないとね」

 

「それでー、今日はどうするの?」

 

 沙和に聞かれて考え込む。運ばれて来た小籠包は熱い。代わりにお茶が少しぬるめになっている。さて、どうしたものか。何も浮かばない。

 

「こういう時は、男らしく女の子をエスコートしなくちゃいけないの!」

 

「そうは言ってもな、俺としてはこうして二人とのんびり過ごすのも悪くないし」

 

「私も特には」

 

「二人とも! せっかく洛陽に居るんだからやることなんていっぱいあるの!」

 

「やる事?」

 

「コレを見てなの!」

 

 沙和が持っていた小さな手提げカバンから一冊の本を取り出す。見間違えるはずもなく、それは宿敵阿蘇阿蘇だ。

 

「この阿蘇阿蘇の新刊には、ウチと同じフリフリが沢山あしらわれたピンクのお洋服がトレンドになるって書いてあるの!」

 

「ふーん、それが?」

 

「これは、沙和に対しての挑戦なの! 沙和が先に考えたのに場所によっては、阿蘇阿蘇の方が喜屋武喜屋武や美似美似より先に発売されちゃうの!」

 

 ちなみにだが、阿蘇阿蘇を出版している店は此処洛陽にある。当然、ウチの喜屋武喜屋武と美似美似も此処に店がある。

 

「先にって言ってもほとんど一緒だろ? 流通に関しては、ウチの商会なんだから」

 

「そうですね。洛陽から各地に交易路を持っているのはこちらですから」

 

「そんなことは知ってるの! 日用品とかは沙和の担当なんだから」

 

「いくら競合相手とはいえ妨害はダメだぞ? 流通を一手に引き受けているウチが嫌がらせとか他に悪い印象を持たれる」

 

 洛陽で出版、増刷される本の流通は決まった日に各地へと運ばれる事になっている。例外もあるにはあるが基本取り寄せか予約になる。

 

「むぅー」

 

 沙和が頬を膨らましながらこちらを睨んでいる。本人も分かっているから今まで妨害などしてこなかったのに。

 

「そう言えば、阿蘇阿蘇と出版数が並んだんでしたよね。こちらは二冊によるものですが」

 

「マジで!? 凄いじゃないか沙和! あの最王手の阿蘇阿蘇に並ぶなんて」

 

「えへへっ、頑張ったかいがあったの♪」

 

「というかだ、もしかしてそれで焦っているのか沙和は?」

 

「当然なの。あと少しで阿蘇阿蘇の首を取れるところまで来れたんだから手段なんて考えている暇なんてないの」

 

 こっちは二冊でなどとは言わない方がいいだろう。せっかく沙和がやる気になっているのだから。

 

「基本的にウチのは、ウチの商業圏内だけでの販売だからな。それ以外だと取り寄せぐらいだ」

 

「ですが、他の地域にはまだ交易路以前に支店などを置いてすらいません。特に益州などは、あちらが指定した商人との取引が限界です」

 

「どうにかならないの?」

 

「どうにかって言われてもなー」

 

 そもそも益州の有力者との接点がない。まったくないという訳ではないがあちらもわざわざウチと取引する必要などはない。既にお抱えの商人たちが居るのだから。

 

「今までの戦略が情報を制する事だったからな。未開の地に人を送る。情報を操作して受け入れてもらう。そして、売り上げを増やすがウチの基本方針だ。平原で草の者を用意してはあるけど送れないんじゃ手がない」

 

 商業圏内なら何処の街や村にもこちらの意のままに情報を集めて、尚且つ広めてくれる者達が居る。質は悪いが数だけは居るのが自慢だ。だからこそ警戒もされるのだが。

 

「とりあえず今日は、沙和の頑張りを祝おう。最近は、本の宣伝をしなくても売れているんだからさ。せっかくの洛陽だ、好きな物を買ってあげるよ」

 

「本当なの!? だったらコレが欲しいの!」

 

 そう言って沙和は宿敵阿蘇阿蘇を開きこちらへと見せる。わざわざ分かりやすく丸で書かれている場所を見せつけるように。

 

「この新作のカバンが欲しかったの! この前買物しちゃって買えなくなったから嬉しいの♪」

 

 沙和の手から本を受け取り読んでみる。

 

「なかなかいい値段ですね」

 

 凪が隣から覗き込むようにして見ている。

 

「高くない?」

 

 なんで女性物はお金が掛かるのだろう。男性物と材料などがあまり変わらないのに倍以上する。

 

「そんなこと言ったら豪商人の名が泣くの、ほら早くー」

 

 急かされるように沙和に腕を引かれる。

 

「はいはい分かった分かった。凪、先に行くから払っておいて」

 

「分かりました」

 

 落ち着かない沙和を連れ先に店を出る。せっかくだから沙和だけではなく凪のも買おう。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「コレなんて凪ちゃんによく似合うのー♪」

 

「せやな、でもこっちの方がウチは好きやなー」

 

 此処は、本に書かれていた店になるのだが道中で霞に出会った。本人が言うには、この前の詫びで凪の服選びを手伝う事になったのだが支払いはこちら持ちである。

 

「なぁ、霞。詫びの品なら自分で買ったら?」

 

「ウチは、宵越しの金は持たない主義やからな――おっ、これもえええやん、ちょっと着てみてや凪」

 

「こんな可愛らしい服なんて私には……」

 

「そんなことないの、凪ちゃんはすっごく可愛いの」

 

 所詮男は財布係、店の人に椅子を出してもらって女の子たちが服選びをしているのをただ待つのみ。

 

「しっかし、暇だなー」

 

 かれこれどれだけ経ったものか。沙和から貸してもらった阿蘇阿蘇も飛ばし気味ではあるが読み終え暇で仕方ない。

 

「何か土産でも買おうかなー」

 

 恋、月、喜ぶか分からないけど詠。それと普段からお世話になっている人に。

 

「寸法が分からないと服は買えないな」

 

 前に知っていた寸法で買ったら怒られたことがある。女性は繊細なのだ。特に身体の線が出るようなものが流行りの今の時代は。

 

「……ん? これなんてどうかな?」

 

 目についたものを手に取ってみる。銀細工の冠になる。線が細く簡単に壊れてしまいそうだ。

 

「うん、丁度いい。凪、こっちに」

 

 丁度、沙和と霞の着せ替え人形とかしていた凪が更衣室から出てきた。薄いピンクの服。まるで張り付くように凪の肢体に布が張り付き、艶めかしい線を強調している。また随分と大胆な物を選んだ物だ。

 

「可愛いよ、凪」

 

「――ッ……あ、ありがとうございます」

 

 顔を真っ赤にしている凪の頭に先ほどの冠を載せてみる。

 

「オーナーにしては、良い趣味してるの」

 

「んー、なんか腹立つなぁー」

 

 称賛と嫉妬。なかなか良いのを選んだようだ。

 

「凪、もし気に入ったら言ってくれ。日頃のお礼も兼ねて贈りたいからさ」

 

「……よろしいのですか?」

 

「当たり前だろ?」

 

 そもそも凪はあまり物を強請ったりはしない。近くに居る二人と比べると雲泥の差だ。

 

「沙和にも買ってなのー」

 

「ウチにもー」

 

「沙和にはもう買っただろ? 霞は、ツケを何度も肩代わりしてるんだからダメ」

 

 質の悪い声が上がるが聞いていられるか、商人たるもの財布の紐は固くなければならない。

 

「あのオーナー……それでは、コレを買って頂けますか?」

 

「分かった。この分の代金をウチの方に請求しておいて」

 

 店の人にそれだけ言えば買える。此処洛陽なら顔が効く。

 

「じゃあ、行こうか凪」

 

「……えっ? この格好のままですか!?」

 

「せっかくだからね、もったいないでしょ」

 

「いや、しかしこの格好は!?」

 

 確かに普段の……普段の凪の格好よりも大胆ではあるが外を歩いても問題ないだろ。

 

「行くぞ、霞、沙和! 俺に続け!」

 

「行くでー!」

 

「出発なのー!」

 

「いや、ちょっと、待って――」

 

 凪の必死の抵抗も空しく、霞と沙和に両脇を抱えられて街の中へとくりだす。羞恥に染まる凪の表情を見ると悪い事をしているように思えるが、似合っているのなら問題はないだろう。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 凪を連れまわし洛陽中を練り歩いていた頃、詠からの使いに呼ばれ街にある月たちの屋敷へと来ていた。

 

「……相も変わらずだな、此処は」

 

 通された詠の部屋には多くの竹簡や巻物、本などが置ける場所を見つけては至る所に積まれていた。それこそ寝台の上にも。月たちが洛陽での騒動を治めた時に争いに関わっていた者達を洛陽から追い出した。そのツケがこの山になる。これでも当時よりは大分マシで、新しく人を補充するまでは詠が死にかけながら処理していた。

 

「なにがよ」

 

 この部屋の主である詠の機嫌が悪い。ただ、なにも飛んでこないところをみると相当堪えているのだろう。目の下にくまがある。もしかしなくても月と詠を後宮に送り届けた後、詠だけこちらに来て作業をしていたようだ。

 

「詠も女の子なんだから無理はほどほどにしろよ? 詠に何かあったら月はどうするんだ?」

 

「……仕方ないでしょ。ボクにはこれしかないんだから」

 

 やはり普段と比べて力がない。声がいつもより弱々しい。

 

「それで、俺を呼んだのは?」

 

「少し手伝ってほしいの。此処にあるのは他に任せられないのばかりだからあんたしかいないのよ」

 

「わかった。どれからやればいい」

 

 詠の指示で積まれている物を適当に手に取り、補佐用の机に置いていく。これが全てではない。終わっても新たに此処に送られてくる。

 

「信頼のおける者は居ないの?」

 

「居ないわよ。恋が動物を拾ってくるみたいにはね。此処にあるのは本当に機密な物ばかりなんだから。月も手伝ってくれるけど、月には献帝の傍で守っていてもらわないといけないから」

 

 竹簡を開いてみる。確かに内容は機密だ。書いてあるのは暗号。朝廷から大陸中に放っている詠の密偵からだ。御主の持つ草の者とは違い、潜入、暗殺、謀殺などの危険な任務も行える精鋭たち。その者達が命懸けで得た生きた情報だ。

 

「確かにその辺で拾えるのなら苦労はしないか。だが、せめてこれの管理を任せられる者が居れば少しは楽ができるんだけどな」

 

 これに加え、通常の政なども行っている。詠でなければとてもじゃないが捌ききれない。

 

「じゃあ、あんたがやってよ。どうせ暇なんでしょ」

 

「俺はあくまでも商人だよ。こういったのはちゃんとした人の方がいい」

 

 読み取りながら必要な物をまとめていく。何が必要かは詠が選んでくれた物の内容を読んで行けば分かるが、御主が調べた内容に関する物になる。どうやら此処にある膨大な量の物を詠は把握しているようだ。

 

「商人なら商人らしくお茶でも売ってればいいのよ。ボクたちなんかに関わらないで」

 

「なんだかやけに突っかかるな。昨日渡したばかりの物をすぐに処理する必要なんてないだろうに……何かあったのか?」

 

 どうも何か変だ。少なくとも後宮に送った時はこうではなかった。

 

「……捕らえたのよ、昨晩ね。後宮に居る時に連絡があって洛陽に諸侯からの密偵が隠れてたって。月とは別れた後だったからボクしか知らないけど」

 

「それで焦ったのか?」

 

「当然でしょ。捕らえたからよかったけどもしそうじゃなかったら……考えただけでもゾッとするわ」

 

「……わかった」

 

 読んでいた竹簡をまとめてから机に戻し、詠の方へと近づく。

 

「なに?」

 

 傍に近づいても何もない。ならそのまま好きにさせてもらおう。

 

「文句なら今度聞くから」

 

 詠を無理矢理椅子から立たせ抱きかかえる。ジタバタと腕の中で詠が暴れるが知った事か。詠をそのまま寝台の方まで連れて行き、上にある物を適当に蹴り飛ばして詠を横にする。

 

「やっておくから少し休んでおけよ。無理して倒れたらその時は本気で怒るからな」

 

 普段と違い口調を強めて言う。一言二言、詠から何か言われるがそれだけで静かになる。

 

「頼れる者が傍に居る時ぐらいは頼れよ。詠だって普通の女の子なんだからさ」

 

 詠からは何も返ってこない。別にそれでも構わないので元の場所へと戻る。

 

「御主」

 

 小さいが、確かに自分の名前が呼ばれた気がした。

 

「だったら傍に居なさいよ、いつも何処かに行って……人の気も知らないで……本当にバカなんだから」

 

 その言葉にどう答えるべきか考えながら作業を進める。

 

 結局、詠が眠りにつき部屋から追い出されるまで答えを口にする事はできなかった。

 

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