恋姫†無双外史   作:変なおっさん

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曹操と劉備、師弟になる

 甘味処に着いた御主たち一行は、真桜と合流し甘味を満喫していた。

 

「甘くて美味しいね♪」

 

「噂通りの甘さやね」

 

「桃香様、私の方も美味しいですよ」

 

 甘い物を堪能している三人の姿を横目で見ながら体裁を装うために視察をする。前に来た時は、関係者を招いての開店前の食事会だったので混んでいる状況を見るのは初めてだ。しかし、こうして混むと必ずしも喜ばしい事ばかりではない。混めば混むほどやる事が増え、予め想定していた人数ではさばき切れなくなる。事実、味は変わらないが客への対応がおざなりになっていた。

 

「増やせればいいんだけどね」

 

 一時的なものかもしれないので簡単には人を増やせない。落ち着くまで様子を見るとすると今居る人数で回さないといけないので労いの言葉を掛けておく。人気店の経営も大変だ。

 

「御主さん、コレも美味しいですよ!」

 

 視察を終えて三人の所に戻って来た御主に桃香が自分のを勧める。この店で一番人気の杏仁豆腐。甘さを控えた杏仁豆腐に甘い蜜に漬けた果物を載せたものになる。

 

「ありがとう。じゃあ、一口貰おうかな」

 

 一口だけ貰って食べる。甘い。蜜に漬けた果物と杏仁豆腐を一緒に食べれば丁度いい……はずなのだが少々甘い気がする。しかし、店の様子を見ると星が言っていたように女性には人気のようだ。

 

「うん、美味しいね」

 

「そうですよね、えへへ」

 

 桃香は嬉しそうにまた一口、口へと運ぶ。幸せそうな表情を見ているとこちらまで気分がよくなってくる。

 

「しっかし、曹操さんとこまで居候すると賑やかになるなー」

 

「私は、賑やかなのが好きだから大歓迎だよ。この機会に仲良くなれればいいのになー」

 

「それは、なかなか難しいかと。曹操殿は、桃香様を君主となる器ではないと思っている節があります」

 

「そんな~」

 

 愛紗にはっきりと言われ、しょぼんと落ち込んでいる。ただ、曹操に認められている人間はそう多くはない。

 

「曹操に認められている人間は少ないよ。曹操は、実際にその人物が行った事を見て判断するからね。家柄や立場じゃ認められない。実力で認めさせないと」

 

「うーん、実力かー。そういえば、御主さんは曹操さんに真名を許してもらってるんですよね? やっぱり、認めてもらってるんですか?」

 

「んー、どうかな?」

 

 桃香の言葉に考え込むがどうなのだろう。

 

「オーナーの場合は、曹操さんが洛陽に居った時からの付き合いやからね。他とは少しばかり違うと思うで?」

 

「曹操さんは、洛陽に居たんですか?」

 

「曹操は、洛陽で役人をやっていたんだよ。その時に出会ったんだけど、当時は誘われて真桜たちと洛陽に入ったばかりの頃でお互いにまったく知らなかったけどね」

 

 まだ何進と十常侍の争いが激しくなる前の話。何進の下に仕えた恋と霞の紹介で真桜たちと共に洛陽に入った頃の事だ。当時は、何進の重臣となった恋と霞の腰巾着でしかなく、大した事ができるわけもなく細々とした生活をしていた。そんな折、行きつけとなっていた飲茶を頂ける店で曹操と出会った。きっかけは、曹操からの接触。なにか面白い商品はないかと訊かれたのが始まりだった。

 

 当然ではあるが、細々と商いを行っている商人の下にそんな商品はなく呆れさせてしまうと思っていた。しかし、それからも曹操はことあるごとに店で会う度に話し掛けてきた。その理由を知るのはそれから少し経った頃だ。曹操の話をチラホラと聞くようになったのだが、曹操は至る所から命を狙われていた。妬み、恨み、危険視によるもの。他にも理由はあったがとてもではないが安心できるような日々を送れてはいなかったはずだ。但し、それは御主たちに出会うまで。御主たちを通し、大将軍である何進の重臣である恋や霞とも知り合うと暗殺はピタリと止まった。完全に無くなったかは分からないが、場合によっては恋や霞を敵に回すと思ったのかもしれない。

 

「今思うとあの頃から曹操はやり手だったよ。気づいた時には、曹操の思惑通りになっていたからね」

 

「思惑通り?」

 

「早い話が自分の身を守るためにこちらを利用したんだよ。俺は大したことはなかったけど、親しい人間には価値があったからね。上手く利用されたってわけだ。桃香たちも気をつけないといつの間にか上手く利用されているかもしれない」

 

「利用された割には楽しそうですね」

 

 愛紗に言われて気づく。利用された割には、楽しそうに話している自分に。

 

「全然気づかなかったからね。気づいた時には、屋敷に招いて皆で卓を囲んでいたよ。呂布や張遼も曹操の事は気に入っていたし、真桜たちも打ち解けていてんだ。あれは、見事としか言えないよ」

 

「せやったなー。手料理とか振舞ってもらってたわ。またこれが美味いのなんの」

 

「曹操は料理が趣味だからね。元々は、身の安全を守るためだったらしいけど腕は当時からかなりのものだった。金が無かった時だから曹操が来てくれた時は嬉しかったもんだ」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

 桃香が面白くなさそうな顔でこちらを見ている。

 

「よし、決めたっ! 私、料理に挑戦する! 愛紗ちゃん、手伝って」

 

「料理をですか?」

 

 急な桃香の思い付きにさすがの愛紗も面をくらう。

 

「はははっ、大きく出たな桃香様も。曹操さんは、ほんまに上手いで?」

 

「それでも頑張るよ!」

 

「いいのか、愛紗?」

 

「……本当はどうかと思いますが、桃香様がやる気を出されておりますので」

 

 愛紗の許しを得て桃香は曹操に対抗して料理を始めるようだ。しかし、ある意味では君主として認めさせる道よりも厳しい気がするが愛紗の言う通り、やる気になっている桃香の邪魔はしないでおこう。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 屋敷での夕食。華琳からの提案で親睦を兼ねて華琳が手料理を振る舞うことになった。と言うのも、役場で朱里たちと話し合った結果、此処に居る間だけではあるが真名で呼び合うことになったからだ。真名は命と同価値を持っている。それを互いに預ける事で不戦を誓う事になったのだ。

 

「いろいろと面白い材料や調味料などがあったから初めての物にも挑戦してみたけど上手くできたと思うわ」

 

 皆が囲む卓には、豪華な料理から家庭的な質素な物。見た事もない珍しい料理の数々が並んでいた。

 

「うぅ……すごく美味しい……」

 

 桃香は、先ほど打倒華琳を誓ったはずなのに既に戦意を喪失しかけている。実際に手料理を振る舞わられればそれもしょうがないだろう。文武両道、智勇兼備の華琳は料理人としての才能も持っている。

 

「どうかしら、桃香?」

 

「まだ負けたわけじゃないです……これから頑張って華琳さんに勝って見せます」

 

 互いの君主が戦いとも言えない意地の張り合いをしている間、臣下たちは各々好きに過ごしている。

 

「今日は、いつもよりも豪華なのだ!」

 

 元気いっぱいで卓に並べられている料理を勢いよく食べ始めるのは、名を張飛、字を益徳(えきとく)。真名を鈴々。新兵たちの訓練を行っていたからだろう、いつもよりも勢いがある。

 

「ええい、華琳様の料理を独り占めさせてなるものか!」

 

 そんな鈴々に対抗するように春蘭も勢いよく食べ始める。見た目的には、体格が小柄な鈴々の方が不利に思えるがおそらく鈴々が勝つ。鈴々は、見た目からは想像できない程の大食女なのだ。

 

「まったく、意地汚いわね。せっかく華琳様がその御自らの御手でお作りになられた料理だと言うのに」

 

「そう言うな、桂花。これもまた一興だと思えばいい」

 

 桂花と秋蘭は、そんな二人の光景を見て各々思う所があるようだ。

 

「まったく、鈴々は……」

 

「そう言うな、愛紗。秋蘭殿も言っているが宴の席でのことだ。怒るのは野暮と言うものだぞ?」

 

「確かにそうだが……って、星いつの間に此処に?」

 

「なに、御主殿の頼みごとを終えて今帰って来たところだ」

 

「御主殿の頼み事?」

 

 愛紗が御主の方を見る。そう言えば、華琳との事があったのですっかり忘れていた。

 

「今日は、本当に俺が頼んだんだよ」

 

 星は、たまにサボりの言い訳に御主の名前を使う時がある。その為か、愛紗に疑いの目を向けられる。

 

「……御主殿の頼みならば仕方ありませんね」

 

「そうそう、仕方のない事だ。ほら、愛紗も今日はたっぷりと飲むといい。最近忙しかったのだ、少しぐらいはめを外してもいいだろう?」

 

 星が愛紗の杯に酒をなみなみと注ぐ。

 

「見て雛里ちゃん、本で読んだ事がある料理だよ。」

 

「確か、西域の方で……かれーだったかな? 辛いんだよね?」

 

 朱里と雛里は、珍しい料理を二人で調べながら口へと運んでいる。どうやらカレーは、二人には辛かったようだ。一生懸命水を飲んでいる。

 

「相も変わらず華琳さんの飯は美味いっ! いやー、洛陽に居た頃を思い出すわー」

 

「そうだな。あの時は、華琳が来た時は普段よりも食費を掛けたからな」

 

 真桜と昔を思い出しながら箸をすすめていく。料理を作る華琳には悪いが、華琳が屋敷に来た時は豪勢な食事を取ることにしていた。今思うと随分と甘えていた気がする。

 

「懐かしんでくれて嬉しいわ。しかし、相も変わらず此処の倉にはいろいろなものがあるわね。それに、料理に関する書物も」

 

「お疲れさま、華琳。此処は、元々は賓客をもてなす場所だからね。もてなしに必要な物はできる限り取り揃えてあるよ。それと、華琳の料理は変わらずに美味しいよ」

 

 料理の出す順番などの仕切りで今まで席を立っていた華琳に労いの酒を注ぐ。

 

「当然でしょ? 私を誰だと思っているの?」

 

「今や兗州の太守様になられた曹孟徳様です」

 

「よく分かっているじゃない。褒美に私と杯を交わす名誉を与えましょう」

 

 華琳に酒を注いでもらい、杯を交わし、酒を飲む。

 

「それで、華琳。いつ頃、袁紹の所に行くんだ?」

 

「そうね。少しやる事があるし、手土産も用意しないといけないから……御主、後で時間を作ってくれるかしら?」

 

「この後にか?」

 

「ええ、そうよ。なにか問題でもあるのかしら?」

 

「いや、ないけどさ……」

 

 特に用事はないので構わないが話を聞いている桂花と春蘭からの視線が怖い。おそらく受けたら殺される。

 

「大丈夫よ。別に何かあるわけじゃないし」

 

 こっちの気持ちも知らずに華琳は楽しそうだ。なにかあったら恨んでやる。

 

「あの……華琳さん」

 

「なにかしら?」

 

 華琳の下に落ち着かない様子の桃香がやってくる。

 

「お願いします! 華琳さんに勝つ為に私に料理を教えてください!」

 

「……本気で言っているの?」

 

「いろいろ考えてみたけど、こんなに美味しい料理を作られたら他に方法が浮かばなくて、お願いします華琳さん」

 

 頭を下げて頼み込む桃香に思わずため息を零す。

 

「あなたには、君主として上に立つ者の誇りがないのかしら? それに敵に教えを乞うなんて……呆れて怒る気にもならないわ」

 

「だって他に浮かばないんだもん! お願いします!」

 

「あなたね……御主、あなたのところの人間なんだからどうにかしなさい」

 

「別に桃香は、俺の部下じゃないぞ?」

 

「あなたが力を貸したから勘違いしたのでしょう? 最後まで責任をとりなさい」

 

 責任……確かに責任はあるのか。

 

「だったら俺からも頼むよ、華琳。此処に居る間だけは、真名を許し合う仲なんだからさ」

 

「お願いします! 頑張りますから!」

 

 久しぶりに見る華琳の本気の呆れ顔。ここまでのはなかなか貴重だ。

 

「……わかったわ。此処に居る間だけよ。家主である御主の頼みなら聞かないのも野暮と言うものだしね」

 

「本当ですか!? ありがとうございます、華琳さん!」

 

「その代わり、私は厳しいわよ? 今まで努力はしてきたようだけど台無しにしてあげる」

 

「よ、よろしくお願います……」

 

 先ほどまでの勢いがどこへやら。愛紗にも負けない、否、君主として人の上に立つ華琳の方が威圧感は上だ。ついでに言えば厳しさも。

 

「では、一時的とはいえ師弟関係を結んだ二人に」

 

 嫌がる華琳に、意気込む桃香と杯を交わす。

 

 これがこれからの流れにどのような影響を与えるのか、今は誰も知らない。

 

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