VOICEROID――文章の読み上げを行うソフト

本来ディスプレイの中の住人である彼女らに命があったら?

そんなIFの、とある日の切り抜き

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結月ゆかり生誕祭

ある実況動画の投稿によって、大人気となった文章読み上げソフト――"VOICEROID"結月ゆかり

 

ボイス"ロイド"と言うだけあって、彼女は命を持っていない。あくまでソフト、プログラム上の仮初の生だ。仮初、であるはずなのだ。はずなのだが……何事にも例外というのは存在するわけで。

 

ボイスロイド人気の火付け役となった投稿者のもとに現れた少女。どう見てもディスプレイの中のキャラクターと瓜二つの少女と、冴えないマスターである青年の物語である!

 

 

 

 

 

「こんな感じでどうでしょうか、マスター?」

 

「いやいやちょっと待って!?冴えないってなにさ!そんなふうに見られてるわけ!?」

 

「いやぁ……それは、ねぇ?」

 

 

自分で言うのもなんだが、俺はいわゆる"人気動画投稿者"だ。現在サイトに投稿する作品を作成中だ。しかしマスターのはずなのにこの扱いはなんだろう……。うちの子たちってこんな性格だっただろうか。おかしいなぁ。

 

 

「ま、まぁ俺の扱いはいいや。それよりも仕事が溜まってるんだ、早く片づけないと。一緒に頼むよ――ゆかりさん」

 

「もちろんです、私たちはそのために居るんですから。頑張りましょうね、マスター!」

 

「ゆかりさんだけじゃなくて、君たちもよろしくな」

 

 

この場には俺とゆかりさんだけではなくあと四人、総勢六人いる。男女比率は……気にするな。俺の肩身が狭いってことで察してくれ。

 

 

「ゆかりちゃんだけじゃ不安だからねー。私も頑張るよ」

 

「確かにゆかちゃんはうっかりさんですからね。見てないと本当に不安です」

 

「私はうっかりじゃありません!マキさんずんこさん適当言わないでください!」

 

「えーホントかな~」

 

 

うちでは弄られ役が定着してしまったゆかりさん。そんな彼女をからかっているのはマキちゃんとずんこちゃん。金髪がマキちゃんで緑がずんこちゃんだね。"うっかり"というワードが聞こえてきたけど、実際ゆかりさんは少し抜けているところがあったりする」

 

 

「マスターマスター、途中から声に出てるで。ゆかりさんがすごい顔してるよ」

 

「これはマスターが悪いですね。謝った方がいいんじゃないですか?」

 

「え、マジ?抜けてるって言ったの聞こえてた?」

 

「それはもう」

 

「バッチリと」

 

 

ゆかりさんの方を向いてみる。そこには無表情でただならぬオーラを背負っている紫の少女が!

俺氏終了のお知らせ。ここまでご愛読ありがとうございました、次回の作品にご期待ください。

 

 

「マスター……?何か言い残すことはありますか?」

 

「それはその~なんと言うか~……ゆかりんはドジっ子可愛いから!!」

 

「……」

 

「あの~ゆかりさん?固まってますけど……」

 

「か、かか可愛いだなんてそそそんなことはなないですから!」

 

 

さっきまでの剣幕はどこへやら。"可愛い"というワードだけで恥ずかしがって大人しくなってますねぇ。この子は本当に――

 

『 ち ょ ろ い 』

 

これは満場一致の結論だろう。なにせ"可愛い"の前に置いた"ドジっ子"という単語はガン無視してるから。まぁそういうところにゆかりさんが人気になった理由があるのだろう。

 

現在ゆかりさんとマキちゃんにずんこちゃん、あとは琴葉姉妹――赤いのが茜ちゃんで青いのが葵ちゃん――の五人と一緒に動画を作っている。

 

 

「ちゃちゃっとサクッと仕事終わらしちゃいましょうかね~」

 

『はーい』

 

「私が可愛いなんて……ってちょっとみなさん!どこ行くんですか!?」

 

 

これが我が家の日常。これが作業風景。これが人気動画作者の日常だよ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「よーし終わった!!みんなもお疲れさま!」

 

「いや~今日のゲームはハードだったね。特にゾンビが走ってるのは……ゆかりちゃんの涙目プレイは必見だけど」

 

「あれは可愛かったですね。これでゆかちゃんの人気もうなぎ登りですね!」

 

「せやね。ゆかりさんってそのままでも可愛いのに、あんな仕草見せられたらどんなヤツでもイチコロやで」

 

「お姉ちゃん、そんなこと言ったらまたゆかりさんが固まっちゃうよ」

 

 

葵ちゃん、それもう遅いと思うんだ。現にゆかりさんがそのシーン思い出して震えてるよ?顔を手で覆ってプルプルしてる。まぁ俺も可愛いと思ってたけどさ」

 

 

「マスター、また声に出てるで?」

 

「……Really?」

 

「まじまじ」

 

「別にいいんじゃない?可愛かったてのは、みんな思ってたことでしょ?やっぱりゆかりちゃんは可愛いなぁ」

 

「うぅ……」

 

 

もう許してあげて!?ゆかりさんのライフは底をついてるから!顔が真っ赤だから!

 

ゆかりさんは毎日こんな風に弄られている。しかし誤解しないでほしい。みなが口々にしているように可愛いからこそ弄っているのだ。それだけゆかりさんが可愛いということだからな。

 

実際にゆかりさんがプレイしてる様子は見ていて飽きない。基本は落ち着いてプレイしているのだけど、突然の出来事やホラー演出にはとても弱い。明らかに動揺している様子が見られて、正直言って役得です。

 

 

「うぅぅぅうぅ!みんなしてなんですか!ちょっと出てきます!!」

 

「あれゆかりちゃんどこか行くのー?ゆっくりしてきてもいいからねー!」

 

「ゆかりさんは頑張り屋だからね。たまにはゆっくりしてきてよ」

 

 

ゆかりさんは俺の実況動画のほとんどに出てるからね、休んでほしいってのはホント。でも少し外に出ていてほいい理由は他にある。なにせ今日はゆかりさんの――

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「もう……みんなして可愛い可愛いって。私からすればマキさんもずんこさんも、茜さんも葵さんも可愛いですよ。なんで私だけ可愛い可愛いって言われるんでしょうね」

 

 

本当に不思議です。五人が五人、ことあるごとに言っきます。私としてはただの恥ずかしい記憶なんですよね……。だからあまり思い出させないでほしい、というのが本音なんですけど。

 

いえ、言われるのがイヤって訳ではないんですよ?別に苛められるのが好きという意味ではなくて、"可愛い"と言われるのは純粋に嬉しいんです。言われすぎるのは恥ずかしいのでやめて欲しいですが。

 

 

「そういえば、ゆっくりしてこいと言われましたね。最近お休みが少なかったですし嬉しいんですが、お仕事してマスターのお手伝いもしたいですし……こんなこと言ってるから"休め"なんて言われるんでしょうか」

 

 

決めました。今日は趣味全開でオフにします!そうと決まればカラオケですね!今日は歌いますよ!

 

 

 

 

「……こんなに好きな曲歌ったのは久しぶりです。お仕事で歌うのも好きですが、カラオケなんかでパーッと発散するのは気持ちいいですね」

 

 

全力で遊ぶのは楽しいです。マスターやマキさんたちとお仕事している時も、もちろん楽しいですよ?基本は実況なので。しかし遊びと仕事は別な訳で……つまりそういうことです。

 

 

「えぇと。そろそろ帰りましょうか。流石にこれより遅くなるのはマズいですからね、ちょっと急いで帰りますか」

 

 

ということで、早く帰ります。そういえば、今日は何かイベントがあったような気がするんですが……なんでしたっけ?

 

とか考えてる間に着きました。今日は中々に充実した一日でしたね。まだ日も落ちていないのに、一日というのは気が早い気がしますけどね。

 

 

「ゆかりさん、ただいま戻りましt『パン!パパン!!』ちょっ、なんですか!?」

 

『 誕 生 日 お め で と う ! ! 』

 

――え?誕生日……?

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

……ゆかりさんが出て行ったな。

 

 

「行ったね」

 

「行きましたね」

 

「行ったな」

 

「ゆかりさんが帰って来るまでに、急いで準備しましょう」

 

 

自然にゆかりさんを家の外に誘導できたな。まぁ羞恥で出て行かせたも同然だったが。手段を問えないほどに、ゆかりさんが家にいてはいけなかったので許してほしいところではある。

 

なんと言っても、今日はゆかりさんの誕生日なのだからな!サプライズしようにも本人がいては何の意味もない。そこでゆかりさんには一時撤退してもらったのだ。

 

 

「あの様子だと今日が自分の誕生日だって忘れてそうだよね~。さっき実況してた時も微塵もそんなそぶり見せなかったし」

 

「ゆかちゃんはうっかりさんですからねぇ。仕方ないです」

 

「ずんこさんもひどいなぁ。まぁうちも忘れそうになったことはあるけど」

 

「お姉ちゃんはのんびりしてるからね。もうちょっとしっかりして欲しいな」

 

 

口を動かすのも楽しくていいけど、今は手を動かそうね。ゆっくりしてこいとは言ったけど、いつ帰って来るか分からないからね。

 

 

『はーい』

 

 

まぁ準備と言っても簡単な料理とケーキ、飾りつけにプレゼントくらいしかないけどね。それでもしっかり頼むよ。

 

 

 

 

 

「ゆかりさん、ただいま戻りましt『パン!パパン!!』ちょっ、なんですか!?」

 

『 誕 生 日 お め で と う ! ! 』

 

 

「なに惚けてるのさ。今日はゆかりさんの誕生日じゃないか……まさか、忘れてたり?」

 

「……えと、今日でしたっけ?」

 

「これはひどい」

 

「まさか自分の誕生日も忘れてるなんて……そんなんだからドジっ子とかうっかりなんて言われるんだよ?」

 

 

まさかとは思ったけど、本当に誕生日だと認識していなかったよ。これにはマスターの俺も呆れ顔だ。

 

 

「本人が忘れてたとか、ゆかりさんはやっぱりポンコツだとかはいいから。早くお祝いしようよ」

 

「お姉ちゃん、ポンコツは流石にひどいと思うよ……」

 

「ここで立ってるのもアレなので、テーブル行きましょうよ。ゆかちゃんもボーっとしてないで」

 

「……」

 

「ゆかちゃん?」

 

 

ずんこちゃんが声をかけるが、ゆかりさんはつっ立ったまま動かない。いったいどうしたのだろうと思っていたら、何やら目元がうっすらと光っているような――

 

 

「……」

 

「ちょ!?ゆかりちゃんなんで泣いてるのさ!?」

 

「いえ……思ってもみなかったので、嬉しくて……」

 

 

泣かれるとは、と思ったがどうやらうれし泣きだったようで。良かった良かった。

 

 

「……ふぅ」

 

「落ち着いた?なら早速パーティーしよう!」

 

「みなさん、ありがとうございます……」

 

「みんなゆかちゃんが大好きですから!当然ですね!」

 

 

パーティーは主役がいてなんぼだからね。主役も持ち直したところで盛り上がっていかないと!

 

 

「ふふ、プレゼントには期待してくれてえーよ」

 

「喜んでもらえそうな物を選びましたから!」

 

「こんな日ぐらいはハメを外して騒ごうね」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

ゆかりさんの誕生日パーティーが終わって静まり返る我が家。女の子は先に寝かせて、俺は片づけを買って出ていた。いつもいい仕事をしてもらっているから、休んでほしいのだ。

 

 

「あとは食器を戻すだけなんだが……こんな時間にどうしたの?眠れなかった?」

 

「……気づいていらしたんですね」

 

「まぁね。それで、どうかした?」

 

「いえ、少しマスターとお話ししたいと思いまして」

 

 

先に休んでいたはずのゆかりさんが、リビングまで来ていた。何かあったのか聞くと、俺と話をしたいらしい。

 

まぁ作業はほとんど終わっていたので、少し話すことは吝かではないけど。

 

 

「今日は……ありがとうございました。今年も私のお誕生日を祝っていただいて。すごく嬉しかったです」

 

「そうか。それはよかったよ、ゆかりさんは家族だからね。喜んでもらえたならこちらも嬉しい。そういえば、プレゼントはどうだったかな?お気に召してもらえた?」

 

「はい!みなさんから頂いたプレゼント、大切にしますから」

 

「そうしてくれ」

 

 

俺が送ったプレゼントは喜んでもらえたみたいだ。無難にアクセサリーを、と思ったのは正解だったな。もしいらないとか言われたらどうしようかと。

 

 

「……マスター」

 

「ん?どうした?」

 

「……私が。私で、良かったんでしょうか」

 

「?」

 

 

聞こえてきたのはそんな言葉。"良かった"とはどういう意味なのだろうか。分からないので黙っておくことにする。

 

 

「私がメインで良かったんでしょうか。私がお仕事のメインになっているのは分かってます。でも主軸として選ばれている理由が"可愛いから"だったら、私よりも他のみなさんの方がふさわしいと思うんです」

 

「……ずいぶん自分を卑下した言い分だね。どうして基準が"可愛い"だと思ったのかな?」

 

「だって――いつも言ってくるじゃないですか、"可愛い"って」

 

 

……つまりだ。ゆかりさんは周りから掛けられる"可愛い"という言葉はステータスか何かだと思っているのか?自分はみんなよりも下だと思っているのか?それは――

 

 

「ゆかりさんは可愛い」

 

「ちょっと!?なんで言った矢先にそんなことおっしゃるんですか!」

 

「いや、何か勘違いしているようだったから。俺がゆかりさんを軸にしてるのにはいくつか理由がある。もちろん可愛いっていうのも含まれるけど、それはおおきなものじゃない。ゆかりさん、マキちゃん、ずんこちゃん、茜ちゃんに葵ちゃん、みんながみんな可愛いから」

 

「……みなさんが可愛いというのは分かります」

 

「いや君も含んでるからね?みんな可愛いから、そこに差はないよ。ゆかりさんは俺にとって――特別なんだよ」

 

 

パッと聞かれたら誤解されそうなセリフだが、彼女に対する思いに名前を付けるなら、"特別"というのはふさわしい。

 

 

「特別、ですか?」

 

「そう特別。ゆかりさん以外の四人が来るずっと前から、君は俺と一緒に動画を作ってくれた。俺が一番頼りにしてるのは、中心にいてほしいと思うのはゆかりさんなんだ。面と向かって言うのは恥ずかしいけれどね」

 

「……そうですか」

 

「そうだよ?動画を上げても見向きもされない、無名の頃からの付き合いなんだから。懐かしいよ……ゆかりさんはいつも俺を励ましてくれた。もう動画作るのやめようかと思うたびに"頑張れ""あきらめるな"って言ってくれたから、今の俺があると言っても過言ではない」

 

「……あの頃は本当に大変でした。でも私は楽しかったですよ?マスターと一緒にお仕事できて。だんだん知名度が出てきて私以外のみなさんがやってきてからは、もっと楽しくなしましたし」

 

 

……楽しいと言ってくれるならこんなに嬉しいことはない。俺の仕事は、彼女たちが楽しみながら出来る仕事を与えることだと思っているから。これまでも、そしてこれからも。

 

 

「仕事を楽しいと言ってもらえて良かったよ。まだまだ有名になっていく予定だから、これからも頼むよ?」

 

「もちろんです!マスターの期待に応えること、それもお仕事ですから!」

 

「ホント頼もしいよ。では改めて……今までありがとう!これからもよろしく!!」

 

「はい!!」

 

 

 




ゆかりさん誕生日おめでとう!!!


……ごめんなさいほぼ二日遅れの投稿です。22日が誕生日だと気がついたのが前日、私の遅筆では間に合わなかったよ。

マジでごめんねゆかりん……許してください何でもはしませんが!

来年はもっと早く書き始めるからね!


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