「ふむ。これは、マズイな。」
歩兵部隊が基地を攻めている最中、和泉と美由紀、それから数名のロボット整備士は、一旦ロボットの調整に入っていた。
片腕を失くしたロボットの操縦席で、和泉は目を細める。何度も言うように、ロボットとは非常にアンバランスな兵器だ。全長約十メートルの鉄の塊。腕を失くしたことで、ここにきて和泉のロボットは輪をかけてバランスが悪くなった。
ただ戦闘が不利になるだけではなく、操作性も悪くなる。それは、機動力も落ちることにつながる。
常に重心が片側に寄ってしまう中で、敵の戦車部隊を蹴散らせたのは、和泉の腕によるところが大きい。
和泉も、先程は美由紀を庇うことに必死で意識していなかったが、今改めてロボットを操縦してみると、万全の状態との感覚の違いを認識させられる。
ロボットくらい巨大な兵器を動かす上では、指先の感覚一つ違うだけで、それが大きな違和感に変わる。
違和感を放置しておけば、それだけで命を落としかねない。
「大柳隊長。これ以上の戦闘は不可能です。」
整備士の一人が、深刻そうな面持ちで告げる。
ロボット一台の戦力、それを引っ込めるよう進言するのは、かなりの心労を伴う。
が、彼にも整備士としてのプライドがある。そして、和泉を気遣う気持ちも。
信頼されているがゆえの進言だ。無下には扱えない。とはいっても・・・
腕一本失くした挙句、部下からは戦線離脱するよう気を遣われる。
和泉からすれば情けないばかりである。
「いいから、俺の命の心配とか。このロボットはまだ動く。その事実だけで充分だよ。」
「な、何を仰るのですか!」
なお食い下がる部下。和泉が抜ければ戦況は不利になるだろう。それでも、それと差し引いても、和泉がここで死んでしまうよりはマシだ。
「私も、ここで引いたほうが良いと思う・・・。直接の原因は私にあるから、偉そうには言えないけどさ、あんたには死んでほしくないし。」
美由紀も、整備士の意見に賛成らしい。これほどまでにしおらしい美由紀を見るのは、和泉にとって久方ぶりだ。よほど、先の出来事がショックだったのか。
心配してくれる部下たちがいるというのは、喜ばしいことだ。それでも、たかが腕の一本や二本で敵から尻尾巻いて逃げるくらいなら、和泉は初めから敵国まで来てはいない。
さっきから聞いていると、どうやらこの二人は和泉が死ぬ前提で話しているように感じる。
「お前ら。本当に、俺が死ぬと思うか?」
美由紀と整備士達は、和泉が戦車隊を壊滅させた時の状況を振り返る。
完璧な敵の奇襲から美由紀を護り、冷静に敵を分析し、死角から確実に敵を仕留める。
およそ死にそうには見えなかった。
彼がロボットを一番上手く操れるというのが、紛れもない事実であったことを思い知らされた一戦であった。
「な?死ななそうだろう。」
『な?』じゃねーよ。部下一同は口から出そうになった言葉をなんとか飲み込む。本当に死ななそうなあたり、いささか怒りが沸く。
「それはそれ、これはこれよ。たとえ一%でも死ぬ可能性が増えるのなら、やっぱり私はあんたに戦って欲しくない。」
今度は和泉が笑いを堪えるのに精一杯だった。
この女、何を言っているんだ?死ぬ可能性が増える??理解しかねる。軍人の言葉ではない。
「死ぬ可能性がどうのなんて、ここで言ってても無意味だ。お前も、わかってんだろ?言葉を返すようで悪いが、俺が戦わないことで、お前らの死ぬ可能性も上がる。隊長としては望ましくない。お前らが心配な気持ちも良くわかった。でもな、俺はひかないよ。」
「なっ・・!あんたねえ・・」
「お前らが死ぬ可能性を上げてまで戦線を離脱するなんて、隊長失格だよな?どうかお願いだ。俺をお前らの隊長でいさせてくれよ。」
よく「引き際をわきまえている隊長は優秀」というが、部下を生贄にするとなると、状況が違う。
「・・・わかったわよ。あんたってホント強情ね。」
部下一同、諦めたようだ。それぞれ無言で作業を再開する。だが、気分を害した者は誰ひとりいない。大柳和泉がこういう人物だということは理解していた。
「うっし、そんじゃあそろそろ出発するか!」
歩兵部隊からの援助要請はない。ただ、エルク・ラゼルがこのまま引き下がるとも思えない。
和泉は今一度気を引き締め直した。少々感じる違和感を心の奥へと追いやり、ロボットの脚部を動かすべく、ペダルを強く踏み込んだ。