秘密基地内部。地下にある牢屋に、石井は閉じ込められていた。
敵を殲滅するためにエラン国へ潜入していた彼は、百台近い敵戦車に囲まれてしまい、なす術なく捕虜にされてしまった。
エラン国としては、日本との交渉材料、それとロボットの研究において、彼に利用価値を見出した。
監禁されてから何日が経過したのか。太陽の光すら届かない地下にて長らく過ごした石井の体内時計は、完全に狂っていた。
(畜生が。せめて、本国にロボットを奪われた事実だけでも伝えねーと、手遅れになっちまう。)
ボロ切れと見まごう、むしろボロ切れと言っても差し支えない毛布(?)にくるまりながら、石井は考えをまとめる。
(俺たちが敗北してから、かなりの時間が経過した。定時報告もしていない今、俺たちが何かしらのトラブルに見舞われたと、本国でも予想はされているだろう。)
ろくな食事をとらせてもらえていないためか、頭の働きも悪い。
それでも、四面楚歌なこの状況を打破しなければ、いずれ石井は殺されるはずだ。
(あーあ。大柳の坊主にはあわせる顔もねーな。あんだけ意気込んで、三台もロボットを失っては格好つかないぜ。せめて、ここに秘密基地があるって事前にわかっていれば・・・)
思考が脇にそれそうになっていたことに気づき、石井は慌てて軌道修正した。
(大柳なら、俺たちの心配よりも、まずはロボットの奪還を優先するだろう。あいつ自らが前線に出てくれんなら百人力だが・・・。下手な新米にロボットを預けちまったとしたら。俺らの二の舞を演じることになるな。)
力で押し切られたとはいえ、石井たちも抵抗しなかったわけではない。
捕虜として捉えられるまで潰した敵戦車の数は、石井一人で二十を超える。
実際、不意打ちで高橋が死んでおらず、三人で戦えていたならば。今頃本部へ帰還できていた可能性もある。
たかだか秘密基地に、戦車を百台以上用意してあるというのも、石井としては納得いかない。
(こっちの動きを捉えたとして、百台も戦車をもってくるなんて。それも、あんな短時間で。)
普通に考えて、無理だ。ロボットの機動力ならまだしも。この秘密基地から一番近い敵の基地との距離も、戦車で移動すれば三日はかかる。
考えられるとすれば。
(俺たちの襲撃を完全に知っていた・・・??そうでなければ、こんな辺鄙な土地に百台の戦車を温存しておくものか。)
しばらく思考に集中していた石井は、とある疑問を抱いた。
数時間前から、牢屋を見張る敵兵が全く巡回してこなくなった。
石井の体感で、昨日までは確かに来ていた。急に巡回を中止した理由はなんだろうか。
様々な憶測をしている間に、答えのほうからやってきた。
ゴゴゴゴゴ・・・・!
(な、なんだ?)
建物全体が、突如振動する。地震か?石井は身構える。
(いや。これは。)
地震にしてはどこか不自然だ。揺れの感覚も不定期だし、明らかに上階から振動が伝わってきている。
大型の何かが暴れているような振動。これが戦闘による衝撃なら、原因は・・・。
ロボット。考えつく兵器は、それ意外ない。
(おやおや。大柳の坊主、随分とお早い迎えをよこしてくれたじゃねーか。)
迎えを寄越したというより、和泉本人が迎えに来ているのだが。
誰が来たかまでは、石井もわからなくて当然だ。
そんなことよりも。せっかく敵の巡回が途絶えたのだ。今逃げずいつ逃げるのか。
石井は靴の踵部分に仕込んでいた超小型爆薬で、鉄格子を爆破。
すかさず階段を駆け上がる。数日ぶりの運動に若干足がもつれかかるが、すぐさま調子を取り戻した。
「さすが大柳の坊ちゃん。伊達に中尉を名乗ってはいないな!!」
音の発生する地点を目指し、全力疾走する。
和泉は石井が捕虜になっていることを知るまい。可能性としては考えているかもしれないが、助けに来てくれる保証はない。ならばやはり、石井から和泉との合流を測ったほうが早かろう。
「なっ!?貴様・・!!」
石井の正面に、武装したエラク兵が現れる。石井は咄嗟に横っ飛びした。
石井の立っていた場所は、すぐさま穴だらけと化す。
敵の持っていたアサルトライフルの威力に息を呑む石井。味方の助けに浮かれ、あとコンマ数秒反応が遅れていたら、あの世逝きだったことだろう。
回避行動の後、転がるように手近な柱へと身を隠した。
(ちっ。こちとら素手なんだっつーの。この間合いでは、何も出来ん・・。)
あと一歩のところでままならない。
石井は思わず歯噛みした。どうやってこの状況を乗り切ろうか。
特に意味もなく、すがるような気持ちで服のポケットを探っていると、突然敵兵が倒れ込んだ。
「ん?」
石井はそっと柱の影から様子を覗う。すると、そこには年下ながらも中尉の肩書きを持つ、見知った男が立っていた。
「よ、石井さん。奇遇だな。」
街角で出くわした時のような、軽い挨拶。
緊張感の欠片もない年下の上司に、石井も笑顔で返す。
「待たせやがって、この坊主が。」
和泉がサブマシンガンを石井に手渡した。石井も、無意識に残弾を確認する。
「これから敵の司令室を目指すんだけど、随分やつれてますね。ついてこれるかな?石井さんのペースにあわせようか??」
「ぬかせ。お前こそ、ロボットに頼って体が鈍ってはいないよな?」
軽口を叩きながら、二人の男は風のように駆けてゆく。
身体能力は、人間レベルですよ!いささか平均より高めですけれども。