コールドスリープで遥か未来へ   作:いたまえ

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十四話 到着

 長い長い廊下を、ひたすら全力で走る。天井に一定間隔で設置された蛍光灯が、どれだけの距離を走ったか判断する唯一の材料だ。

 

「なあ!石井さんよ。」

 

「どうした中尉殿。」

 

 息をきらせながら、お互い必死に声を搾り出す。和泉たちは合流ポイントからダッシュを開始して、もう五分が経過する頃だ。一向に、敵司令室はおろか、扉の一つも見当たらない。

 

「この廊下、マジで長くないか?」

 

「ああ。明らかに設計ミスだろう。こんな建物、エスキスの段階で書き直しだろうが!そんなことよりも、方向はあってんのか?ただ闇雲に走ってましたとは言わせんぞ。いくら上官だろうと、拳が出そうだ」

 

「安心しろ。俺が潜入する前に、歩兵部隊にある程度この基地の情報収集させて、目星はつけている。」

 

 むしろ、和泉が聞きたいくらいだ。部下たちの断片的な情報を繋ぎ合わせると、こちらに司令室が存在するのは間違いない。

 

「で、中尉殿。ご自慢のロボットはどうした?」

 

 合流してからずっと石井が気にかけていたこと。ロボット部隊の隊長がロボットに乗らず、生身で敵基地内部まで潜入しているとは、これいかに。

 まさか破壊されたとも思えない。そもそも破壊されていたなら、彼の命も同時に失われているはず。

 

「ああ。ロボットなら美由紀に見張らせている。」

 

 和泉の言葉に、石井はギョッとした顔を見せる。

 

「美由紀ちゃんがこの国に来てんのかい?お前が彼女を連れてくるとはな。」

 

「意外かな、そんなに。まあ、いいだろう別に。彼女もそろそろ育てないと、ね。」

 

 この戦いを通して更にロボット部隊が評価されれば、当然上層部ももっと力を入れ、人員も増えてゆく。そうなった時、部隊を率いることの出来る人間が不足していては、どうにもならない。

 和泉は、彼女が人の上に立つ器だと考えている。

 

「それにしたって、隊長直々に攻める必要性は感じないが・・・。」

 

 どのような戦闘でも、隊長が先陣をきることは滅多にない。もし死んでしまえば、残された兵隊は統率を失う。和泉が歩兵部隊に混じっているのには理由があるはずだ。

 

「この廃墟での戦闘、敵をまとめているのは、あのエルク・ラゼルである可能性が高い。」

 

 石井は再度目を丸くした。エルク・ラゼル少佐。噂くらいは聞いたことがある。戦車部隊を主に率いる実力者。

 

「そう、だったのか。俺たちが遅れをとるわけだ」

 

 しみじみ、と石井が。優秀な指導者たるエルク少佐が、どうしてこんな場所にいるのかはわからないが、なるほど。あの戦車部隊は彼の名のもとに襲撃してきたのか。

 油断していたこともあるが、全滅させられたのも頷ける。

 

「いやいや。ロボットというチート兵器を与えられておいて、それはないっすよ。一人、敵に優秀な指導者がいるってだけで、敗北の理由にはなりませんよ。」

 

 あくまで、どこまでも厳しい和泉の一言。

 

「わかってるわ。言い訳くらいしないと、やってられないんだよ。」

 

「ならいいけど。俺もひとつ、石井さんに聞いておかにゃならん。」

 

「ん?なんだよ、大柳。」

 

「石井さん以外の二人はどうなった?」

 

 石井は黙って首を横に振る。

 

「高橋は、敵の不意打ちであっさり死んだよ。」

 

 仕事でしか、和泉は高橋と会話をしなかった。それでも、同じ部隊の仲間が殺されたというのは、耐えられるものではない。エルク少佐。直接的にしろ間接的にしろ、彼が高橋の仇なわけだ。

 

「そうか・・・。それじゃあ、一ノ瀬のやつは?」

 

 石井、高橋をまとめていた三人目の操縦士。それが一ノ瀬である。

 

 操縦技術は平凡だけれど、状況判断能力に秀でていたため、和泉が隊長に任命した。

 

 結果としては、あまり良くないものとなったが。

 

「わからないんだ、それが。」

 

「なんだと?」

 

 敵の戦車に襲われ、高橋は死んだ。その後一之瀬と協力し、粘り強く敵と戦った記憶が、石井にはある。

 しかし、いつしか気を失ってしまい、気づくと牢屋の中だった。

 辺りを調べてみたが、少なくともあの牢屋のあった部屋には、一ノ瀬の姿がなかった。

 別の牢屋があるのかもしれないし、死んでしまったのかもしれない。

 

 お互い、空白の時間にあった出来事を報告しあう間も、全力疾走は続けていた二人。

 

 唐突に、廊下の終わりが見えた。そこに、白い一枚の扉も。

 

「・・・・見えた!石井、止まれ。」

 

 和泉が言い終えるよりも前に、石井は足を止めていた。

 敵が馬鹿でないことは、承知済み。どのような罠がしかけられてるともわからない。

 

 二人は慎重に、確認しながら扉へ向かって歩を進めてゆく。

 

 この中に、エルク・ラゼル少佐がいるやもしれない。

 

 部下の、戦友の仇。石井にとっては一度苦汁を舐めさせられた相手。

 努めて冷静になろうとするも、中々頭は冷えてくれなかった。

 

 和泉が、石井の隠し持っていた小型爆薬と同じものをドアに放り投げる。

 

 厳重なセキュリティのかかったドアも、これにはひとたまりもなかった。

 

 即座に部屋へ侵入する二人。室内には、エルク・ラゼルと、数名の、エルクの部下と思しき集団が待ち受けていた。

 




明日、12巻発売ですか。キャッホルンルン!
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