同時。和泉と石井がエルクへ銃口を向けたのは、ほぼ反射的な行動だった。この部屋にエルクがいることは想定していたけれど、護衛の数は想定していたよりも多い。
室内での銃撃戦となると、数の多さはそのまま有利に繋がる。肉弾戦であったなら、一度にかかってこられる人数は決まっているという、お決まりの謎理論が適用されたかもしれないが。
この状況だと、和泉たち二人は唯々蜂の巣にされるばかりだ。
「まて、石井一等兵。」
和泉がやおら銃を下ろした。敵の長を前にして、この行動はありえない。石井は和泉の制止を振り切り、引き金にかけた指を引こうとする。いや、実際に引いた。だが、射出されるはずの弾はいつまでたっても出てこなかった。
「ったく。そこまでするか?中尉さんよ。」
もはや呆れを通り越したというふうに、演技がかった大げさな仕草で肩をすくめる石井。
彼の手に収まる拳銃は、和泉の手によってロックされていた。
石井の持つ銃は、いくつかの手順を踏まなければロックをかけられない。和泉は一瞬の内に、それをやってのけた。
どうにも、和泉は本心から石井に発泡するのをやめて欲しかったようだ。
そのような一幕を、余裕の笑みで眺めていたエルク・ラゼル少佐。見れば、彼の部下達も、立ち尽くしているだけだった。守るべき上官が撃たれかけたというのに、この落ち着きはなんなのか。
「もう、よいかね?」
エルクが、子供に言い聞かせるような優しい口調で語りかけてきた。
意外にも、エルクの使用した言語は日本語だ。
「日本語喋れんのか!?」
石井の素直な反応。流石に敵を前に自重した和泉ではあったけれど、心中は石井と同じこと思っていた。
石井がエルクに向けて引き金を引いたのに、微動だにしなかった部下たち。そして、今や他国とあまり交流の無くなった日本特有の言語を扱える敵の少佐。
日本国籍でももった外人じゃないと、外国人が日本語を習得するのは困難を極める。
いくつか疑問はあるが、まずは一番に問いたださなければならないことを、和泉はエルクに直接聞く。
「・・・ロボットはどこだ。」
敵に盗まれたであろうロボット。見当もつかない状態で探すよりかは、敵さんに聞いてしまったほうがてっとり早い。紛れもなく、心の底から和泉はそう考えている。
当たり前のことだが、そんなことをすれば命の危険がつきまとう。こんな危険なことをしてまで敵の少佐に直接会いにいく意味は・・・無論、ロボットを確実に奪還するためだ。
「ロボット・・?はて。いきなりおとぎ話をされてもね。」
しらをきるエルク。エルクもそうだが、彼の部下がこの上なく不気味だ。
「おとぎ話ではない。貴様らエラン国が、二台ほど所持しているんだろう?」
「それはとんだ言いがかりだよ。我々は、ロボットなどといった夢物語で盛り上がれるほど幼稚ではなくてね。」
のらりくらりと和泉の言葉を受け流してゆくエルク。この男、まるで和泉たちを敵視していない。
余裕か、奢りか?和泉ならば、敵が銃を装備して眼前にいたら、少なくともここまでの余裕はない。
「そういう君たちは、日本の兵隊かな。」
今度はこちらの番といったふうに、和泉たちの素性を探るエルク。
「随分余裕ね、おたく。」
「そういう君たちこそ、ここが我々エラン国のホームグラウンドだということを、忘れてはいないだろうね?」
エルクが、獲物を見つけた狐のように目を細める。
「ホームとかアウェイとか、そんなの関係ないだろう?ホームだから心臓撃たれても死なない。なんてこともないじゃないの」
和泉はエルクの放つ威圧感に臆することなく対峙する。だが、次のエルクの一言には、和泉といえど焦りを覚えずにはいられなかった。
「君たちのその銃。果たして使用できるのかね・・?」
「!!」
カチっ。今度こそ、ロックの解除された銃の引き金を引いた石井。
弾丸は、相変わらず発射されることはなかった。