エルクの首級を持ち帰る。ロボットこそ回収しそこなったが、戦果としてはまずまずだ。
せめてロボットのありかだけでも知っておきたかった。
「でも、ま、悪くない。」
エラン国を離れ、丁度ロシアとの堺あたりの野営地。作戦はまだ終わってはいないが、ここらでしばしの休息をとることとした。
和泉は作戦会議室としての機能を持った、大型テント内で満足気な声をだした。
美由紀の新型ロボットによる奇襲。イチかバチかにも程がある、いうなれば賭けだった。
エルクが油断して会話を引き伸ばさなければ、美由紀がレーダーによって敵司令室の様子を把握し、奇襲を成功させることなど叶わなかっただろう。
エルクがあれだけゆとりを持っていられたのは、ひとえにコチラの銃を使用不可能にしていたからだ。
これからまたエラン国でロボットを捜索するのに、銃無効化の仕組みを解明できないのは辛いものがある。
「あんたねぇ・・・。命が何個あっても足りないわよ!あんたはロボットの操縦士。それが、生身で歩兵部隊と混じって敵陣に乗り込むなんて。前代未聞よ。」
いつのまに接近していたのか。和泉が腰掛けている椅子を、軽く蹴飛ばしながら美由紀が怒鳴り込んでくる。
「うおっと・・!いつからいたんだ??」
「どうだっていいでしょ、そんなことは。」
「良くはないが。何しに来た?次の作戦内容でも知りたいのか。」
「あったりまえよ!私たち、ロボットを回収するどころか、見かけてすらいないのよ!!」
美由紀が整った黒髪をかきむしる。カルシウムが不足しているようだ。
「それな。お前がロボットを即座に選んでくれていたら、もしかしたら間に合っていたかもしれないねえ?」
いつも美由紀が和泉に言っているように。今度は和泉がややイヤミっぽく言った。
もうすぐ三十路とは思えない態度だが、彼もまた、ロボットを発見できずじまいでストレスがたまっているのやもしれない。
こういった美由紀とのコミュニケーションが、案外精神的疲労を緩和しているのだろうか。
「ご、ごめん。でもでも、新型のおかげで、エルク少佐の裏をかけたじゃない。エルク少佐も、ロボットに空間把握能力があるとは思わなかったのでしょうね。」
美由紀の操る新型にのみ搭載されている機能。特殊な音波を飛ばすことで、あまり離れていない空間であれば、壁越しだろうと部屋の構造を把握可能とする。
エルクを倒した時も、基地の外から念入りに室内を調べてから、和泉たちに被害を出さないよう加減して奇襲を成功させた。
新型といえど、この能力は反則じゃなかろうか。
「お前がいなくても、俺と石井ならナイフのみで制圧もできたけどね。」
「はいはい、負け惜しみはみっともないわよ。そもそも、あんたがドヤ顔で敵陣に乗り込んだ時点でコイツ頭おかしいなとは感じたわけよ。」
「ふはは。小娘。正論ばかりではこの先やっていけんぞ?それに、エルクからロボットの在り処を聞き出せるかもしれないだけで、俺が乗り込んだ価値は大いにあるんだよ。」
負けず嫌いな二人の会話は、しばし続いた。
「なに盛り上がってんだ??」
美由紀の後からテントに入ってきたのは、石井だ。
もうすっかり身体の感覚を取り戻したのか、石井は訓練後で汗をかいている。
「お、牢屋の似合う男、石井さんじゃないですか。」
「いよっ!調子に乗って捕虜にされた石井おじさん!!」
第三者に毒舌を吐く状況下でのみ息の合う和泉と美由紀。
「うるせーぞお前ら!それと美由紀ちゃん。俺はおじさんじゃないだろ?」
そんなことを若作りスマイルで言われても、美由紀からしたらおじさんと呼びたくなる年齢差に変わりはない。
「そうね、ごめんなさい。」
「わかればよろしい。階級も年齢も上なんだから、もうちょい敬ってくれてもよくね??」
「ロボットを取られたのは、どこの誰だったかしら・・・?」
「・・・、私、石井で御座います。申し訳ございません。」
二十代前半の少女に言い負かされているアラフォーを見ていた和泉は、一人涙をこらえるのに必死であった。あまりにも惨めだよ、石井さん。
暑いですね、毎日毎日。汗をかく前に水分補給するよう心がけましょう。