休息後、和泉たちは廃墟付近を数時間かけて捜索してみたものの、成果と呼べるものはなかった。ロボットの稼働時間もだいぶ長くなってきた。これ以上続けるとガス欠をおこしそうだ。
「さすが新型というか。美由紀のロボはまだ半分以上燃料が残っているとは。」
自身が操る旧型ロボットのエネルギーメーターを見て嘆息する和泉。
「私が戦闘らしい戦闘をしていないというのも、理由の一つでしょ。それを抜きにしても、燃費は遥かに良いけどね。」
そろそろ日本へ帰還し、ロボットの調整をしたい。和泉も美由紀も、ロボットの活動限界を懸念し始めていた。エネルギー補給は当然として、片方だけになってしまった腕も修復しておきたい。
ロボットをエラン国へ渡すのはしゃくだが、ミイラ取りがミイラになっては意味がない。
自分の乗る機体の状態を把握しておくのも、一流のパイロットの務めだ。
「しゃあない。ここいらで撤収としますか。作戦は一時中断。」
和泉が言うと、素早く撤退の準備が行われる。
そんな最中だった。和泉のロボットに非常用の回線で連絡が入る。
「これは・・。大島博士か。」
相手を確認し、即座に応答。大島が連絡を寄越してきたのは初めてだ。非常用の回線を使用するほどの用なのか。
「こちら第四師団所属、大柳中尉であります。」
『む、無事でいてくれたか。私だ、大島だ。』
やはり、連絡主は大島。無事でいてくれたか、とはどのような意味なのか。
『単刀直入に、要件だけ言う。』
「はい。」
大島の口調は切羽詰っている。なんだか嫌な予感がする和泉。予感だけに終わればどれだけ良かったことか。
『・・・アメリカ軍のロボット部隊が、君たちのいるポイントへ向かっている。』
「なんですって!?」
アメリカがロボットを所持している?いつの間に、アメリカ軍はロボットの研究を終えていたのか。それに、和泉たちの居場所が掴まれているのも不思議だ。
「アメリカがロボットを完成させたのですか。」
半信半疑といった様子の和泉。それもそうだ。今までアメリカは、日本がロボットの研究成果を公開していなかったこともあり、戦争にロボットを投入できずにいた。
現在も、日本は技術をかたくなに秘匿している。
『今、その話は置いておくとしよう。もはや、君たちがそこから逃げきれる保証すらない。』
「ロボット部隊とおっしゃいましたが、どの程度の性能か、また、何台編成の部隊なのか。そうした情報は掴めていないのですか?」
相手の情報が多ければ、状況を打開できるやもしれない。
『おそらくは、君の乗るロボットと同程度の性能。台数は、発見できただけでも十台はある。』
「十台・・」
日本の旧型と同じ性能といえど、アメリカからすれば超がつくほど貴重なロボットのはず。
いきなり十台もつぎ込んでくるとは。随分と羽振りが良い。
流石は元ナンバーワン軍事国家といったところか。
『どうにか応援を要請してはみたものの、あまり期待はできない。十中八九、アメリカ軍のほうが早くそちらへ到着する。』
「日本の旧型レベル、ですか。ならば、どうにかなるでしょう。」
『なんだと?大柳くん。なにか打開策があるのかね。』
和泉は口元だけで笑った。
「俺が、新型に乗ります。」
『いくら君でも、それは無茶だ!いきなり動けるはずが------』
プツン。
唐突に、通信が切断された。
途中から大島との通信に耳を傾けていた美由紀が、和泉に駆け寄る。
「和泉!!アメリカ軍がくるって本当なの?」
「らしいな。そして、もうすぐご到着だろう。」
大島との回線が切れたのは、敵による妨害電波が原因だろう。
随分と用意周到なことだ。
和泉は美由紀のロボットへ乗り込む。
「あ、あんた!?」
「俺が敵を引き付ける。白川隊員。お前は俺のロボットを操り、皆を先導して撤退しろ。」
ロボットに搭載された武装を確かめながら、和泉は指示を出す。
美由紀も馬鹿ではない。和泉に敵を任せ、自分たちが撤退すれば、全員で迎え撃つよりは全滅のリスクも少ないはず。
納得できるかは別問題だが。
「敵を引き付けるだけなら、私でも良いはずよ!」
そう言おうと、どれくらい逡巡したか。
美由紀がその言葉を発することは、なかった。敵は十台。ここに残ればまず殺される。
美由紀は後一歩のところで、自分の命を優先してしまった。誰も、それが悪いことだと責めたりはしないだろう。
片腕のみのロボットに乗り、撤退するため先行する。どんどん小さくなる上司を尻目に、美由紀は血が出るほど、自分の唇を噛み締めていた。
「さーてと、ようやく足でまといがいなくなった。これで思う存分暴れられる。」
残された和泉は迫る死の足音を気にした様子もなく。撤退する仲間たちを、しばらく見守っていた。そして・・・
『日本のロボットだな。黄色猿が、散々調子に乗りやがって。この時を堺に、再び我がアメリカがナンバーワン軍事国家となろう。』
「おやおや。同盟国相手に、すごいセリフだね。」
和泉は十数台のアメリカ製ロボットに囲まれた。
「そんじゃ、まあ。死んでも恨むなよ。」
敵ロボットが銃を構える。和泉は臆することなく、大型の盾でロボットのコクピット部分を庇いながら、敵部隊のど真ん中へ突っ込んだ。