コールドスリープで遥か未来へ   作:いたまえ

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二十二話 クリシュナ9世

 取調室内には、シギュンとその護衛。そして和泉をいれた五人しかいない。

 逃げようと思えばギリギリ成功させられる状況ではあるが、実行するつもりはない。

 

 ロボット、そして武器を没収された上に、現在地すらわからないのでは、この部屋から逃げおおせても意味はない。

 

 やがてシギュンが口をひらく。

 

「…イズミ。いきなりこんな真似をしてしまったことを、先に謝っておくわ。」

 

 頭を下げるシギュン。イズミが気絶していた場所がビノンテンの領土だったなら、ロボットに乗った和泉を拘束するのは当然なのだが。むしろ、立場が逆なら、和泉はロボットの操縦士を躊躇なく殺す。

 シギュンはそれでも謝罪をした。

 

 優しい心の持ち主なのか、取り調べを行う前に、和泉を油断させる作戦なのか。

 真意はわからない。

 和泉のとれる行動としては、せいぜい心を殺し、平静を装うことくらいだ。

 

「頭を上げてください。別に、謝られることじゃない。知らなかったとはいえ、この国の領土に侵入していたことは事実なんですから。」

 

 どこか居心地が悪くなった和泉は、シギュンに頭を上げさせる。

 それでも、シギュンがどのような考えをもっているのかわからない以上、気は抜けない。

 

「それです、私たちが一番聞きたいこと。貴方はどこの国から来て、なぜあの場所で気絶していたのですか?」

 

 日本から来て、ロボットの故障で気を失いました。事実はそうなのだが、まさかそのまま伝えるわけにもいくまい。

 さて、どのような嘘でこの場を乗り切ろうか。

 

「…出身は言えませんが。敵に追われ、あの場所まで逃げてきたが、そこで力尽きた。経緯としてはそんなところです。」

 

「敵、ですか。それはやはり、クリシュナのゴゥレムのことですか?」

 

 スッと、シギュンの目が細くなる。まるで和泉の心を透視するように。

 が、和泉とて軍人。こうした場合の対応も、幾度となく訓練した身だ。

 爪をはがされようが眼球をえぐられようが、悲鳴をあげこそすれ、情報を漏らすような真似はしない。

 

「申し訳ありませんが、私はそもそもクリシュナという言葉を存じません。」

 

 クリシュナ。先程からシギュンが口にしていた単語。

 一体なにを指す言葉なのか、和泉にはわからない。

 

「そ、それは…本気で言っているのですか?」

 

「?。もちろん。」

 

 シギュンも、護衛も、心底驚いている様子だ。

 自分は何か変なことでも言ったのか。和泉はやや怪訝に思う。

 

 シギュンは数秒和泉を見つめる。和泉が嘘をついていないことを、顔から判断したようだ。

 

「クリシュナは、この国の名前です。そして、貴方が今いるこの場所が、王都ビノンテンよ。」

 

 和泉がクリシュナを知らないと言ったことが、余程驚きだったのか。シギュンは目をキョロキョロさせ、落ち着かない。それでも和泉に説明をしてくれたのは、やはりこの少女が優しい性格をしているからだろうか。

 

「そうだったのですか。では、質問の答えはNOです。私はクリシュナと敵対してはいません。」

 

 クリシュナが国の名前で、ビノンテンとは王都のことだったのか。和泉は認識を改めた。

 

「イズミ。貴方に敵意は感じません。それでも、我が国としては貴方を警戒せざるをえません。その点はご理解ください。」

 

「ええ、わかっています。」

 

「それと、貴方の乗っていたゴゥレムについても聞きたいことがあります。」

 

 ゴゥレム。どうやらこの国ではロボットをそう呼ぶらしい。質問というなら、和泉だってクリシュナがロボットをどのように入手したのか気になるところだ。

 

「申し訳ありませんが、お話できることはありません。」

 

 素っ気ない和泉の返事。

 その態度に、シギュンの護衛が声を荒げた。

 

「なんだと!キサマぁ、シギュン様に対して無礼な!!」

 

「お待ちください。私なら構いません。」

 

 やはりというか、シギュンがまたも護衛をなだめる。シギュンに言われては、護衛も黙るしかない。

 

「イズミ。貴方も、自分の国を売る真似は出来ないのでしょう。」

 

「…ええ、まあ。」

 

「でしたら、申し訳ありませんが、貴方にはしばらく我が国に滞在してもらいます。」

 

 シギュンが右手をあげる。それが合図なのか、護衛が和泉の腕をつかみ、無理やり立ち上がらせる。

 和泉の座っていた椅子が音をたてて倒れた。

 

(優しい態度でいても、やっぱ拷問する気か。)

 

 特に抵抗もせず、和泉はシギュンに言った。

 

「何をしようと、俺から情報は引き出せませんよ?」

 

 この後どのような拷問が待っていようと、和泉は絶対に口はわらない。

 そう覚悟を決めた。

 

 が、シギュンとしては拷問をすることなど、微塵も考えていなかった。

 

「なにを考えたのかはわかりませんが、手荒な真似はしません。ただ、私たちで勝手に貴方のゴゥレムを調べさせてもらいます。その間だけでも、貴方にこはここにいてもらいます。」

 

 つまり、監禁ということか。

 自分たちでゴゥレムを解析して、あわよくば和泉から情報を聞くつもりなのだろう。

 

(ま、仕方ないか。でも、拷問はしないだなんて、随分平和な国だな。)

 

 あるいは、シギュンだけが平和主義なのかもしれない。

 

 これから牢屋に連れて行かれるのか、などと和泉が考えたその時。

 

 一人の男性が、取り調べ室に入ってきた。

 

「あ、あなたは!!」

 

 男性の姿を見て、護衛の誰かが声を出した。

 

 男性はゆっくりと歩みをすすめる。

 

 和泉の前まで来ると、白い歯を見せて笑った。

 

「よう、アンタが噂のゴゥレム乗りか。」

 

 長身の、褐色肌の男性。スポーツマンのような爽やかを感じさせる、気さくな態度。

 ハスキーボイスが、室内によく響く。

 

「あ、あなたは?」

 

 和泉が男性に問う。

 男性はハッとして申し訳なさそうな表情になる。

 

「おっと、すまない。名乗るのが遅れたな。」

 

 一度咳払いをして、男性は名乗る。

 

「俺はホズル。ホズル・ベクト・ギロ・メゴ・キ・テイラ・ペタール・エグザ・ゼーヨダ、っていうのが本名なんだが。長いからホズルと呼んでくれ。」

 

 随分と長い名前。実際、和泉は既に『ホズル』以外の彼の名前を聞き取れなかった。

 

「はあ。俺は、イズミと言います。」

 

「そうか、よろしくな、イズミ。」

 

 ホズルが手を差し出し、和泉の手を握る。

 力強いものの、けして痛くはない。

 

「あの、何か俺に用ですか?」

 

 もしや、牢屋の番人とかだろうか。

 それにしては雰囲気が軽い。何が目的で、ここに来たのか。

 

 ホズルの返答は、和泉を驚愕させるのに十分なものだった。

 

「俺はクリシュナ9世。まあ、国王というやつだな。珍しいゴゥレムに乗った奴が王城にいると聞いてな。顔を見に来たのさ。」

 

「国王!?」

 

 今までなんとか冷静でいた和泉だが、気づかぬうちに大声を出してしまっていた。

 

 

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