「それで、私は何をすれば??」
残ったメンバーは、バルド将軍とシギュンに和泉。
積極的に話題を提示するような人物はおらず、完全な部外者たる和泉は居心地の悪さに耐えられなくなりそうだ。
せめて、シギュンに今後の方針を聞くことで、この状況を打破したいと考えるのが自然だろう。
「まずは、一旦整備室へ戻りましょうか。貴方のゴゥレムも、もう運び終えています。」
「ええ?あんな重量のあるもの、どう運んだんです?」
戦車を複数使用し、引っ張ったとか?はたまた誰かが操縦して、普通に移動させた?
後者ならばまだしも、前者であったならもっと時間がいるはずだ。
「なにを言ってるんですか。もちろん、数代のゴゥレムで運んだまでですが?」
そういえばそうだった。この国にも、ロボットの技術が知られているのだ。
先程から見張りのロボットや整備中のロボットをいくつか目にしているではないか。
言ってしまえば。シギュンたちは、日本のロボット部隊よりもロボットに精通しているようにも見える。
なんだかお株を奪われたようで面白くはないけれど。しかしながら、この国のロボットがどのような性能なのかは知っておきたい。
シギュンは整備室に着くなり、和泉のロボットの構造等を質問してくるに違いない。
タダで情報を教えるのは問題外。
最悪でも、クリシュナのロボット製造技術くらいは公開してもらわなければ割に合わない。
(たとえ銃をつきつけられようと、無条件での情報提供はしないさ。)
などとカッコイイことを考えている和泉だが、結論として、シギュンがそのような手段をとらないのは取調室でも経験済みの通りだった。
整備室に到着して、シギュンはまず研究員たちに指示を出すことから始めた。
「柔軟系石英A-2の在庫が不足しています。次回からは現在の二倍の量があっても補充するよう心がけてください。」
「は、はい!シギュン様。」
和泉をほったらかしにして、研究員に在庫補充の目安を教えている。
しょうがないので、運び込まれていた自身のロボットを眺めることにした和泉。
数人の研究員たちが思いのままにロボットを弄っている様子は、やや不快だ。
(あーあ。そんな乱暴に扱っちまって。壊れたらどうしてくれんだ。)
和泉が一人でモヤモヤしていることに気づかず、シギュンは次の作業へ手をつけた。
(シギュンさんよ。アンタ、どんだけ俺を放置するつもりだよ…)
作業に没頭するシギュンの顔は、まさにマッドサイエンティスト。
今彼女に話しかけても、まず反応しないだろう。
大島と似た部分。研究者とは総じてこのような人たちなのだろうか。
待つこと三十分。
ようやくシギュンが手を止めて、和泉のもとへ戻ってきた。
「お待たせしたわね。」
長い髪をかきあげる。その仕草だけみると、さっきまでのマッドサイエンティストぶりが嘘のようだ。
「ホント、待ちましたよ。ま、それは良いとして。俺をここにつれてきて何がしたいんです?」
「イズミも薄々は予想がついているのでしょう?貴方が搭乗していたアンダー・ゴゥレムについて。実際にその機体を前にして聞きたいことがあるのです。」
「そういえばその『アンダー・ゴゥレム』という単語。ホズル国王も口にしていましたよね?加えて言うなら、私の『ゴゥレム』はニ機目だそうですが。」
シギュンの目つきが、かすかにだが鋭くなった。
軍人の和泉を怖気付かせるにはいささか威圧感が足りない。けれど、整備室内の他の研究員は充分恐怖を抱いている風だ。
さすがは王妃というべきか。
「そうです。実は、一ヶ月ほど前にも、採掘場からアンダー・ゴゥレムが発見されました。私たちの製造したゴゥレムとは全く違うタイプのものが。そう、貴方のゴゥレムと同じく、千年前の技術で造られたものです。」
「なんですって。」
それはつまり日本のロボットがもう1台、この国にあるということか。
いや、この『時代』に、かもしれない。
「…どちらのロボットも、鉄が主材料でした。」
「そうですか。でも、それだけで私のゴゥレムと同じだなんて言い切れますか?」
「2台のゴゥレムの共通点は、それだけではありません。」
「というと?」
シギュンは和泉のロボットをたっぷり五秒間ほど見つめる。
その瞳はどこまでも澄んでいて、ロボットの内側まで見透かそうとしているようだった。
それから、手近な机に置いてあった資料に目を通す。
「信じられませんが、2台とも魔力を全く使わないもののようです。」
「…え?」
和泉は自分自身の耳を疑った。
シギュンが今、妙なことを言った気がした。
「ま、魔力…?」
「そう、魔力。」
漫画やゲームの世界にしか存在しない、空想上のもの。そんなものが、さも当然のように登場した。
シギュンなりのジョークだったのか?
そんなことがないのは、彼女の顔を見れば一目瞭然だ。
では本当に、魔力などといったオカルト的要素が、この国のロボットには使われているのだろうか。
和泉にはそう聞こえた。
この国ではロボットに魔力を使用するのが当たり前で、魔力を使わない和泉のロボットが変わっているのだと。およそそういった内容のことを口にした。ように聞こえた。
「ま、まさか。この国には、魔力なんてものがあるんですか?」
おそるおそる、和泉は問う。
「え?もしや、貴方も魔力を持たないものなんですか?」
ここは驚かれるポイントでは無いように思う。
あと、どうして和泉が魔力を持っていることが前提なのか。
「魔力なんてもの、持っているわけがないでしょう。それから、貴方『も』ってなんです??」
シギュンは驚愕のあまり、口を開けたままになる。
周囲を見回すと、研究員たちも驚いていた。まるで信じられないといった様子。
「…イズミ。まさか、貴方もライガットと同じ---」
そこから先の言葉は、いくら待っても発せられなかった。
ゴゴゴゴゴゴ……
「な、なんだ!?」
突然、城全体に轟音が響いたからだ。
和泉とシギュンは周囲を見回す。
音自体はかなり遠くの方から聞こえてきたようだが。
原因もわからず、和泉が軽く痛む耳をつまんだりしている横を通り過ぎる形で、シギュンが顔を青くして、外の見える廊下まで駆けていった。
(な、なんだ?)
なんとなしに和泉も後を追う。
「どうしたんですか?」
シギュンの背中に聞いてみる。
シギュンは振り向かず、こう応えた。
「その、もう1台のアンダー・ゴゥレムが発見された採掘場がある方角から、音が響いてきたように思います。」
必死で望遠鏡を覗くシギュン。だったらなんだというのか。
仮にその採掘場が音の発信地だったとして、なにか問題でもあるのだろうか。
「ライガットやホズルが向かった場所なんです。」
「そ、そんな!」
「もしかしたら、アテネスの兵に襲われたのかもしれません。」
足に力が入らないのか、シギュンは付近の手すりに捕まって、ようやく立っている。
旦那であり国王でもあるホズルが襲われたのかもしれないのだ。
神経がすり減るもの仕方ないだろう。
「もしも…」
ぼそりと、和泉がつぶやいた。
「はい…?」
ただでさえ肌の白いシギュンが、更に顔を白くさせて聞き返す。
そんな彼女に向けて、和泉はゆっくりと言葉を紡いだ。
「もしも、許可をいただけるのなら。私にゴゥレムで様子を見に行かせてください。」
自分に関わりのない国であろうと。シギュンの死にそうな顔を見てしまったら。
大柳和泉は手を貸さずにはいられなかった。