コールドスリープで遥か未来へ   作:いたまえ

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二十九話 跳躍

「念のため確認しておくが、キサマの言う『ライガット』とは、ライガット・アローのことか?」

 

 ゼスは臨戦態勢のまま、再度問いかける。

 どのような回答が望ましいのか。ここで和泉がゼスとの会話を良い方向へと持っていけば、彼が仲間になってくれる可能性もある。

 …確率が限りなく0%に近いことは確かだが。

 

 せめて、クリシュナ襲撃を中止してもらうことはできないだろうか。

 

(…無理だな。ホズル、シギュン、ライガットとは学生時代の親友といった間柄だったらしいし。親友の国を襲うなんて、理由があるのは当然だが、相当な覚悟もあるに違いない。)

 

 今日が初対面で、しかも敵として対峙する和泉の言葉が、ゼスに届くとは思えない。

 

(ひとまずは、ゼスとの会話を続け、腹の探り合いといこうか。)

 

 さしあたって、続けられる限り会話を引き伸ばすことにする。

 和泉が後方へ置き去りにしてきた他の別働隊員が到着するまでの時間稼ぎも兼ねて。

 

「そうだ。てことは、アンタがゼスさんか。」

 

 和泉はいつでも戦闘を続行できるよう構えておく。

 その様子に気がつかないゼスではなかったけれど、ここはお互い様だ。

 

「ああ。キサマが奴とどのような関係かは問わない。…が、もし命が惜しければ、この場においては撤退を許そう。」

 

 カチャリ。

 

 ゼスが、和泉に向けていた銃をかすかに下ろす。

 銃口の向きとしては、まだ瞬時に和泉の乗るコクピットを狙える。

 

 和泉がゼスの言葉を聞いて撤退を選べば、銃を完全に下ろすという意味か。

 

「随分、情け深いんですね。しかし、良いのですか?私はまだ戦えますよ。」

 

 別段和泉のロボットを戦闘不能にしたわけでもないのに、この行動。

 本来こうしたセリフは敵制圧後に発してこそ意味がある。

 

 ゼスの言葉に、やや引っ掛かりを覚える和泉。

 なんとなれば、わずかでも隙の大きくなったゼスに攻撃を仕掛けようかと考えてしまうほどに。

 

「普通は、そうだな。」

 

 撤退の意思を微塵も見せない和泉に、ゼスはほんの少しだけ頬を緩めた。

 自分自身の行いに呆れたような笑顔だった。

 

「それでも、気の弱いヤツなら撤退するんだが。どうやら、キサマは違うらしい。」

 

 ゼスとしては、よしんば和泉が撤退を選ぼうものなら、それに条件をつけるつもりだった。

 

 アテネスがクリシュナと小競り合いを続けている現状を打開するため、自身の親友であり、クリシュナの国王でもあるホズルへの、伝言を頼みたいと考えていたのだ。

 

 和泉はライガットとも面識があるようだし、丁度良かった。

 

 けれど目の前の男は、到底撤退などしない猛者だったらしい。

 

「そいつは、ご期待に添えず申し訳ない。」

 

 和泉がこの場で撤退を選択していれば、どのような結果が待っていただろう。

 

 追いついてきた別働隊員に、背後から射殺されてしまっていたかもしれない。

 

 和泉がおかれた立場。

 クリシュナ側からすれば、素性の一切しれない不気味な存在。

 そのようなものが作戦放棄したとなれば、スパイの可能性を考慮して殺してしまうのがベターだ。

 

「それは、まあ良い。懐かしい名が出て、つい時間をくってしまった。悪いが戦いを続行させてもらう!!」

 

 言うやいなや、ゼスが和泉へと飛びかかる。

 ゼスの持つ銃には、銃身に添うような形で刃が取り付けられていた。

 

 片刃でリーチも短いが、銃で近接戦をこなせるようになるあたり、非常に画期的な兵器だ。

 

 横になぎ払うように振るわれたそれを、和泉は真っ向から受け止める。

 剣と剣。扱うものによって、如実に差が出る武器。

 

 ゼスの剣を滑らせるように巻いて、浮きあがったゼスの腕を断つように和泉が剣を振る。

 半歩機体を後ろへ移動することで攻撃を躱したゼスは、そこから思い切り踏み込んで、今度は縦に銃を振り下ろす。

 

 真似をしたわけでもないが、和泉も一歩後方へ移動して避ける。

 

 避けられたゼスの銃。

 だがそれは虚しく空を切り続けるのではなく、腕が地面と水平になったあたりで、ピタリと止まった。

 

(っち!!)

 

 そこから、銃本来の用途通り、和泉に弾丸が射出される。

 おそらく今の攻撃、ゼスは最初から避けられることを読んでいたのだろう。

 あくまでもこの銃撃が本命。

 

 まんまとフェイントに引っかかった和泉。

 

 どうにか後方へ出した左足で地面を蹴り、空中へ退避する。

 

 およそ15mは飛び上がっただろうか。

 空中で機体を縦に一回転させながら、地面へと着地。

 

 ゼスの放った弾丸は、和泉に命中することなく終わった。

 

「なに!?今の跳躍は…!!?」

 

 見たところ、和泉は片足のみで軽く地面を蹴っただけだ。

 にも関わらず。今見せたジャンプ力は、アテネスの軽量級ゴゥレムを遥かに上回っている。

 

 跳躍直後、あまりの跳躍力に驚愕しつつも、ゼスは銃を乱射した。

 

 が、一発とて命中することなく終わる。

 

 和泉が着地した途端、辺り一体が振動する。

 操縦していた和泉も、身体が裂けそうなほどの痛みを感じた。

 

(ジャンプ力は凄いが、パイロットへの負担軽減が課題だな。)

 

 強いて言えば、飛びすぎてしまったことが、失敗だった。

 和泉がゼスから離れすぎてしまい、ゼスに撤退の機会を与えてしまう。

 

「悪いが、ここはひかせてもらう。」

 

 戦闘中も、ゼスは和泉以外の別働隊を気にかけていた。

 ほどなく到着する頃合だろう。

 

 部下も今の戦闘中に遠くまで逃げられたはず。ゼスのこなすべき役目は終わったのだ。

 

「しまった。距離をおきすぎたか…。」

 

 峡谷を抜け出したゼスを、遠くから眺める。

 

 追おうと思えば追える。だが。

 

 ここで仕留められなかった時点で、諦めるしかない。深追いは禁物だ。

 

 しばらくして駆けつけた援軍とともに、一旦王城に帰還する和泉。

 ホズルやライガットが心配だ。

 

 それに、ゼスと交戦したことも、報告しなければならないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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