最低でも二週間に一回は絶対更新しますので、気が向いたらチェックしてやってください。
千年前の世界から来た。
シギュンの目の前にいる男、大柳和泉と名乗る男性はそう口にした。
何を言っているのか。言葉は聞き取れたけれど、その意味を理解するのにシギュンは結構な時間を要した。
落ち着いて考えてみれば、そんなことあるはずがない。
千年もの間、どのようにして生命活動を維持してきたというのか。
そもそも、和泉の言葉を信じる信じない以前に、人間は千年も生きられない時点で答えは出ている。
「この状況で、何冗談を言っているのです。」
冗談を言ったつもりもなく、自分の素性を語るために覚悟を決めた和泉は、シギュンの返答に力が抜けた。
最初からすんなり信じてもらえるとは思っていなかったが。
(どうしたものか。)
信じてもらえなかったのなら、それでも良い。
今ならばまだ、和泉が千年前の人間だという事実を隠したままにしておける。
ライガットのゴゥレムに刻まれた日本軍の紋章は、和泉の軍服の目立たない部分にも存在する。
また、和泉が元々乗っていたロボットが、この時代ではアンダー・ゴゥレムだという点。
これらを証拠に真実だと説明することも可能ではあるが、果たしてそれが正解なのか。
(もう少しだけ、あと少しだけ、様子を見よう。)
事なかれ主義、ではないが、和泉はことこの場においては逃げを選択した。
問題を未来に先延ばししたところで、いずれ来るべき時になれば清算しなければならない時が必ず来る。
和泉も、そのことには気がついている。
「冗談ですよ。それよりも、ライガットさんのアンダー・ゴゥレムはこれからどうなるんですか?」
「…それが、ライガットが操縦席を離れたしばらく、完全に電源が落ちてしまいまして。」
「ほう。それで?」
「私達研究者たちがいくら起動させようとしても、まるで反応しなくなってしまって。」
「……ああ、そうだったのですか。」
一つ、和泉の頭には、また大島の言葉が蘇る。
とある少年について。ある少年が触れた途端、石英が発光したこと。
そしてその少年は、ロボットを起動させることが出来なかったという。
「それで?原因は判明しているのですか。」
シギュンが首を振る。無論、横に。
その際、長い綺麗な金髪が踊る。
かすかに甘い香りが、和泉の鼻をくすぐった。
「それがまだ、わからないのです。高位魔動戦士でさえも起動すら出来ないだなんて。もしかすると現代のゴゥレムとは起動におけるプロセスが異なるのかしら。和泉の乗るゴゥレムも、同様でしたね。我々は起動することすらかないませんでした。」
アンダー・ゴゥレム同士の共通点が、また新たに見つかった。
(さてと、俺はこの世界のゴゥレムについて詳しいわけではないから断定は出来ないが。この時代の人間は、大島博士の話に登場した少年と同じないし似た体質なのかもしれない。)
「おーい、シギュン!」
不意に、ライガットが整備室に現れる。
「そろそろ寝床を用意して欲しいんだけど…って、イズミさんも居たのか。」
サクッと片手を挙げるライガット。和泉も応えるように、ヒラヒラと手を振った。
「俺も先ほどの戦いにおける報告をしてたんですよ。」
「お互いに大変だな。」
ライガットは歯を見せるように笑う。無邪気、そんな言葉を連想させる人懐こい笑顔だ。
和泉が思わず気を許してしまいそうになる程。
男二人笑い合う横で、シギュンがせっかくの美貌を歪めていた。
「ライガット…、あなたの報告書、書き直してもらえる?」
シギュンの手にはライガットが先ほどの戦いについて記した報告書が収まっていた。
「えー!なんでだよ!!」
ライガットが口を尖らせる。
「どれどれ?」
和泉がライガット作の報告書を覗くと、そこにはイラストがデカデカと描かれていた。
言うまでもなく、軍隊の報告書としては下の下、というか書き直しを要求されるレベルだ。
「もう良いです。じゃあ、あの採掘場をどうやってよじ登ったのかだけ教えて頂戴。」
「え?普通にジャンプしたんだけど。」
「嘘をつかないで。20メイルはあるのよ?アテネスの新型ゴゥレムでも10メイルが限界なのに、加速もなしでそんな跳躍できるはずないでしょ。」
横でシギュンとライガットの会話を聞いていた和泉だが、ライガットの言葉におかしなところはない。
ロボットの性能なら、その程度の跳躍造作もない。
ただ、『ゴゥレム』の性能では、どうやら10mのジャンプが限界らしい。
(性能的には、ロボットのが上なのか?千年後の技術もたいしたことないんだな。)
あるいは、大島の技術力がずば抜けていたのか。
どちらでもかまわない。
(待て。てことは、あのゼスって野郎。俺よりショボイ機体で俺と互角以上の実力を見せたってわけか!?)
ジャンプ力のみロボットがゴゥレムを上回っているだけに過ぎないかもしれない。
(腕力等、ゴゥレムの性能をもう少し調査しないとな。)
課題がもう一つ増えたが、今後戦闘するなら避けては通れない。
シギュンはライガットにダメ出ししたあと、部屋を出て行った。
「おかしいな、自信あったんだけど。」
「まあまあ、シギュンさんも悪気はないんでしょう。」
取り残された男二人、お互いのゴゥレムを見ながら軽い談笑をする。
………
数分の後。また新たに、白髪の男性率いる部隊が整備室に入ってきた。
「これが、古代人の乗っていたガラクタか。」
先頭にいた白髪の男性が、ロボットを見るなり貶しはじめる。
「おいコラ爺。いきなりご挨拶だな。」
自分でも気づかないうちに、和泉は男性の前に立ち、男性のヒゲを引っ張っていた。
「いたたた!!なんだお前は。」
「お前こそ誰だ。開口一番俺のゴゥレムを悪く言いやがって。」
ロボットを馬鹿にされたことで、和泉本来の、荒っぽい性格が出てしまっていた。
グイグイ。リズミカルにヒゲを引っ張られ、男性が涙目になりかかったところで、和泉の手が男性の部下に払われる。
「トゥル将軍に何をする、無礼者!!」
褐色肌の、女性だった。
美由紀の例もあるし、別に女性の軍人くらいは珍しくもない。
それよりも。
「は?将軍??」
「そう!クリシュナの最強戦士、トゥル将軍だ。」
女性は自分のことのように、誇らしげに白髪の男性を紹介した。
「いや、ナルヴィ。ワシは最強では…」
トゥル将軍のほうがやや気まずそうに部下の言葉を否定しようとする。
その将軍の態度は、更に部下の女性を饒舌にさせた。
「何を仰るのですか!近接戦闘、中距離戦闘、遠距離戦闘、全てにおいて、全魔動戦士最強なのはトゥル将軍です!!」
「いや、だからじゃな…!」
漫才みたいなやり取りに、和泉は少しだけ拍子抜けする。が、言うことは言っておかなければ気がすまない。
「おい、オッサン。」
「だから誰じゃ、オマエは。」
「イズミだ。このゴゥレムをガラクタ呼ばわりしたこと、謝ってもらおうか。」
トゥルはヒゲや軍服をさすって整える。
「…ならば、口ではなく、戦闘で証明してみせよ。口だけならどうとでも言えるわい。」
「覚えてろよ?」
トゥルの和泉に対する第一印象は、あまり良くないものとなった。
言うだけ言って、大股で部屋を後にする和泉。その背中を見ながら、トゥルが呟く。
「ふん、イズミか。若造が。…まあ、なかなか骨のありそうな奴じゃないか。」