コールドスリープで遥か未来へ   作:いたまえ

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三十四話 自暴自棄

 朝。目を覚ましても、和泉は千年後の世界に存在し続けていた。

 

「…やはり、な。そうそう都合よく夢であってくれるわけがない。」

 

 自分の精神を自分の言葉によって削る結果となった、独り言。

 千年前の世界に未練がないなんて、とてもではないが言えない。

 

 親、友人、上司、部下。

 

 今まで接してきた、特に親しい人間。

 長年の付き合いとなるそれらの人々との関係が、コールドスリープによってリセットされた。

 

 この世界には孤独を好むものも少なくないが、和泉は人との交流は嫌いじゃない。

 

「こんな世界で一人生きていて…」

 

 なにがどうなるというのだ。

 和泉は己の生きる価値を見いだせずにいる人間の内の一人だが、それでも家族のため、友人のため、平和のためだと言い聞かせながら、どうにか生きてきた。

 

 その縋り付いていた理由も、今やリセットされた人間関係とともに消え去った。

 

 もはや、どうでもいい。

 全てが、色あせて見える。

 

(…こうなっては仕方ない。せめて、俺を捕虜としなかったシギュンさん、ホズルさんへの義理立てとして、捨て駒にでもなろう。)

 

 多少無茶な作戦だろうと、あからさまに不可能な作戦だろうと、関係ない。

 むしろ喜んで、遂行させてもらおう。

 

(あとは精々、あのトゥルとかいうオヤジを見返してやりたいってのが唯一己を動かす原動力かな。)

 

 朝からなんともネガティブな思考。

 

 寝癖を軽く直し、部屋を出る和泉。

 

「ん!?」

 

 扉を開いてすぐ。

 もう少しで扉が当たるのではないかと心配なほど近距離に、強面の男が仁王立ちしていた。

 

「あ?…なんですか??」

 

 本当に、なんなのだろう。

 和泉としては朝一、部屋まで男に迎えに来てもらう理由を思いつかない。

 なんだか気色悪いとさえ思ってしまった。

 

 部屋の前にいた男は、ゆっくり言葉を発する。

 寝起きの和泉が聞き取りやすいよう配慮しているのか。

 

「驚かせたことは謝ろう。私は、ロギン。君がイズミ君だね?」

 

「ロギンさん?確かに、俺が和泉だが。なにか用ですか??」

 

 ロギンは紙を和泉に差し出す。

 作戦の指示書のようなものだった。

 

「これを見てもらえるか?」

 

 内容はいたって簡単なものだ。

 本日、ゼス率いる敵部隊の捜索が行われるが、その捜索隊に和泉も同行せよとのこと。

 

「なるほど。いいぜ、了解だ。」

 

 すんなり。すんなりすぎるくらいの和泉の返事に、ロギンはいささか拍子抜けだ。

 

「本当かい?良かった。これから格納庫でゴゥレムの整備を行う。君も準備ができたら来てくれ。三十分後までに。」

 

「いや、今一緒にいきますよ。特にすべき準備もないですし。」

 

「…わかった。」

 

 ロギンと和泉。並んで格納庫へと向かう。

 

 和泉のロボットはクリシュナの研究者でもまともに調整できない。

 整備されていない機体に乗るのは良い気分ではないが、仕方ない。

 

 格納庫につくや。

 

「ほう、この大剣、ワシに使われたいと見える!!」

 

 トゥル将軍がゴゥレムに乗って、戦闘準備を行っている最中だった。

 

 一瞬素でズコッとこけてしまいそうになった和泉だが、どうにか踏ん張る。

 

「オッサンもこれから出撃かよ!」

 

「ぬ?おお。昨日の小僧か。」

 

 大剣をホルダーにしまいながら、トゥルがゴゥレム越しに和泉を見つめる。

 

「その様子だと、小僧。まだ聞かされていないのか?」

 

「ん??なにをだ。」

 

 和泉はロギンに向き直った。

 

「すまない、言うのはここに来てからでも良いと思ってな。」

 

 ロギンは先の指示書と同じものを取り出した。

 

「和泉には、我々トゥル将軍部隊に同行してもらうんだ。」

 

「な、なんだと??」

 

 昨夜あんなにも挑発的なことを言った手前、一緒に行動するのはどこか気まずい。

 

(俺が、このオッサンの下につくのか!…だが待てよ。)

 

 逆に、貢献すればトゥルにロボットの評価を改めさせることが可能だ。

 

(こいつはチャンスかもしれんな。)

 

 口角を上げる和泉。その緩んだ表情は、次の瞬間元に戻った。

 

「そうだ。イズミ!!こんな幸運、二度とないぞ!!!」

 

 唐突に、ロギンの背後からナルヴィが現れる。

 

(げっ、こいつもいるんだったな。)

 

 出撃前から不安要素(戦力的な意味では無い)が多い。

 

(けど、まあ。)

 

 やれるだけのことはやる。

 

 

「承知した。大柳和泉、これよりゴゥレムの調整に入ります。」

 

「うむ、うむ。死ぬんじゃないぞ。」

 

 形だけでも、中身が無くとも、和泉がトゥル将軍に行った敬礼は、見た目の上ではこの上なく丁寧で様になっていた。

 

 




天王洲アイルって、やっぱヒロインの名前みたいですね。
お住みの方、申し訳ございません。
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