和泉によって命をおとしたリィ。そのゴゥレムは、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。
「リィっ!!嘘よ…認めない…!!」
叫びは、リィが命をかけて庇った少女、クレオのもの。
目の前で親友が殺された。まだこの世に生まれて12年のクレオにとっては、あまりにもショッキングな出来事。咄嗟に和泉に襲いかかろうとしたところでようやく、自分が転倒したままであることに気がついた。
「許さない…許さない!!!」
「怖いな。そんなに怒らないでくれよ。」
和泉はゆっくりと剣を引き抜く。
その様子は、さらにクレオの憎しみを増加させる。
とはいえ、和泉に罪悪感が無いわけではない。ただ、
「戦場にくるってことは、殺される覚悟が出来てるってことでしょう?」
それが全てだ。
むしろ和泉に理不尽なまでの怒りを向けているクレオのほうが、軍人として異端だとも考えられる。
「そんなこと、関係ないわよ…!!!アナタが、私の親友を殺した!それだけが全て!」
「やだな。冷静さを欠いた奴は。そんなに怒るな。すぐに会わせてやるさ。」
流れ作業をこなすかのように、和泉はクレオに剣を突き刺そうとした。
「!!!」
自分へと近づいてくる剣を前にして、クレオは中途半端に両腕を交差し防御する。
そのようなことで剣を防げるわけがない。
「そうはさせるか!!!」
「おっ!?」
瞬間。もう一人のアテネスパイロット、アルガスが和泉の攻撃を防いだ。
和泉の真横からプレスガンで攻撃を仕掛けたのだ。
後ろに下がり躱そうとした和泉だったが、何発か被弾してしまう。
主に右腕部分を中心に軽微な損傷を負った。
「やるな、アテネスのパイロット。」
「馬鹿な、あれが致命傷にならないだと!?」
アルガスの銃撃は和泉がクレオに剣を刺す瞬間だった。
つまり、重心が僅かでも前に傾いていたはず。
それが、あれだけ瞬時に後ろへさがれるものなのだろうか。
不可能だ。少なくとも、アルガスには。
「俺のゴゥレムはちょっとだけ特殊でな。アンタに落ち度はないさ。」
和泉のゴゥレム、つまり日本軍の最新式ロボットには空間把握能力が備わっている。
例え壁を挟んだ向こう側に敵がいたとしても、察知することが可能だ。
エラン国にて、美由紀がエルク・ラゼルを奇襲で倒したのも、この機能があったからだ。
アルガスの位置は通常であれば和泉の死角。
空間把握能力がなかったら、和泉も死んでいただろう。
「くそっ。クレオ、大丈夫か!?」
「はい、アルガスさん!!」
クレオは起き上がり、和泉から離れる。
さすがに近接戦ではキツイと感じたのだろう。
その判断はおおいに正しい。
正直、離れられると和泉は何も出来なくなってしまうからだ。
先ほどリィがプレスガンを構えた際に、貴重なランスを投擲してまで攻撃を防いだのはその為である。
(こんな凹んだライフル、あてにしてはいられないからな。)
そう考えると、ライフルをゼスに凹まされたのは辛いものがある。
シギュンなら直せるかもしれないが、修理をするにも、まずはアテネスの二人を倒してしまわなければなるまい。
「貴様、よくも、よくもリィを…!」
アルガスの声は、冷静さの中にも怒りが感じ取れる。
二対一で、まだまだ不利な状況下にいる和泉。
付け入る隙があるとすれば、アルガスとクレオが冷静ではないところか。
「覚悟っ!!」
先に攻めてきたのは、アルガス。
プレスガンを絶えず連射しながらの突進。
走りながらの射撃なので、命中精度こそイマイチだが、距離が近づくにつれて精度もあがる。
(コイツ…!)
瞬時に盾を装備し、ロボットを半身にすることで、全体を盾で覆う和泉。
およそ考えつく中で最高の防御姿勢。
アルガスの放った弾を全て防いでいる。
もっとも…
(盾が…もつか、もたないかってとこだな。)
命中制度だけでなく、距離が狭まるにつれて威力だってあがる。
和泉に向かって来ているとはいえ、アルガスとの距離はまだまだ遠い。
このままでは盾が破壊される。そうなれば和泉を待つのは死、のみだ。
「貴様、遠距離武器は無いのか。先程から防戦一方だぞ!!!」
「そうだな。んじゃ、撤退させていただこうかな。」
新型ロボットの性能なら、崖下へ落下しても着地が可能だ。
すかさず、崖から飛び降りるべく駆け出す和泉。
「!?待て、逃げるのか!!」
慌てて後を追うアルガス。
リィの敵を逃すわけにはいかない。
そして、凄まじい性能のゴゥレムを破壊することの意味。
気がつけば、アルガスは全力で和泉を追いかけていた。
そんなアルガスを見て、和泉の目がにわかに細くなった。
「馬鹿な奴だ、だから冷静でいられない奴は駄目なんだよ。」
アルガスがジワジワと和泉との距離を詰めた(正確には、距離が縮まるように和泉が速度を調節していたのだが)あたりで、急に和泉が切り返す。
後を追っていたアルガスと、正面からぶつかり合うように。
「なんだと!」
「こうすれば、近接戦に持ち込めるよな!」
「…っく!!」
和泉とアルガスの間合いは、剣やランスが届くほどに近くなった。
和泉は剣で。アルガスはプレスガンと一体になった片刃の剣で、それぞれがそれぞれの息の根を全力で止めにかかった。
アレですね。なんと言いますか、やっぱラウラは可愛いですね。