コールドスリープで遥か未来へ   作:いたまえ

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五十話 ゼスの葛藤

アルガスまでもが命を落とし、今やゼスとクレオの二人だけになってしまった。

ここまで犠牲を出してしまった、その責任はゼスにある。

実際に死んでいった部下達に聞くことが出来たとして、誰一人ゼスを恨んでいるものはいないだろう。が、軍上層部はもとより、国は、民衆は、そうは思ってくれない。

 

クリシュナに第一アタックを仕掛けた時にキャンプ地とした国境近くのポイントで、二人は食事を摂っている。

一度は王都ビノンテン目前まで侵攻したものの、またふりだしに戻ってしまった。

 

「クレオ…。君だけでもアテネスへ戻るべきだ。さっき、攻略第二陣に控えているボルキュス将軍が、先遣隊を送ったようだ。伝令が本国からそれを伝えにくる間にも、準備は更に進んでいることだろう。」

 

クレオはしばらく泣きっぱなしだった為、赤く染めた瞳でゼスを見据える。

 

「ゼス様。…それは、出来ません。」

「クレオ?」

「私がここで逃げ出そうが逃げ出さまいが、戦況が大きく変化することはないですよね。それはわかっています。」

「…いや、違うぞクレオ。君はよくやってくれた。が、」

 

ゼスとクレオが二人で作戦を続行したところで、クリシュナを降伏させることは不可能だ。

ライガットとの邂逅。あの時点でライガットを説得出来ていたならば、まだ望みはあった。ライガットが口にした『条件』という単語。引っかかりを残すとすればそこだが、最早どうでもいい。

 

今はもう、クレオだけでも本国に戻してやりたいというのが、ゼスの考えだった。

それでも、ゼスの前にいる少女は、頑なに拒み続ける。

 

「私にとって、ここでの撤退は、死んでいったみんなを侮辱するのと同じことなんです。せめて、あのゴゥレムを倒さないと…。死んでも死にきれません。リィに、会わせる顔がないんです…。」

 

「そうか…。君も俺と同じ…。あの謎のゴゥレムを倒し、敵をとらないとならないんだな。」

 

クレオもまた、イズミに対しては尋常じゃないほどの恨みをもってしまっている。ならば、ゼスには彼女の考えを改めさせることは出来ない。

 

時間にして5秒間、クレオの瞳を覗き込むゼス。

そこに一切の揺らぎは無く。作戦前までは少女らしさしかない、幼い顔つきだった。今は、ただ目的を遂行するための、軍人の顔つきに変わっていた。

 

(俺の不甲斐なさが、クレオをそうさせてしまったんだな)

 

ゼスも、覚悟を決めた。

ホズル、シギュン、ライガット…。かつての友の顔は、瞼を閉じれば浮かんでくる。彼らを救いたい。そう願い作戦に挑んだが、大きすぎる代償を払ってしまった。

「兄上。このような出来の悪い弟で、申し訳ありません」

 

本国で指揮をとっている兄宛に、呟く。クレオの耳にも、ハッキリと届いた。

 

そして、旧友へ向けて。

(ホズル。キサマのことだ。ライガットとシギュンの安全ばかり気にするんだろうが、たまには自分の身を第一に考えるくらいのほうが、可愛げがあるぞ。すまないが、もうしばらく、キサマの国で戦わせてもらう。)

 

「クレオ。」

「はい、ゼス様。」

「…俺と一緒に、もう一度戦ってもらえるか?」

「!!」

 

ゼスが自分を認めてくれた。戦うことを許してくれた。

それだけのことだが、クレオにとって、今はその言葉が一番の励みになる。

 

「はいっ!ありがとうございます!!」

「よし。」

 

クレオの、あまりの喜びぶりに、ゼスも口角を上げずにはいられなかった。すぐに無表情をつくり、今後の作戦を伝える。

 

「敵は、此方が一度休息する、若しくはこのまま撤退すると考える筈だ。幸い、今回我々がアタックを仕掛けたポイントは、未だ戦力補強されていない。同じルートで王都まで攻め上がる。」

「わかりました。」

「大切なのは、我々の目標は、リィやアルガスを殺したあのゴゥレムだということだ。王都付近で戦闘をおこせば、奴は出てくる。出来れば、渓谷が望ましい。防戦でも構わない。少しでも戦闘を長引かせれば、奴は機動力を生かして挟撃にまわるだろう。…ピンポイントで奴と戦える可能性は、高い。」

 

挟撃しにきた和泉を相手取るということは、それまで戦闘を行っていた相手に背を見せることになる。それでも、クレオは何も反論することはなく。ただただ、和泉を打ち倒す事だけを思い描いていた。

 

「今から、出発するぞ。」

「今から…」

「クリシュナ軍上層部は、あの機体を評価しているように見受けられた。人間、奇襲されるといった不測の事態が起きた場合、どうしても評価の高い兵に頼りがちになってしまうものだ。おいそれと将軍を出陣させることは出来ないだろうしな。」

「…ゼス様…。」

「もちろん、絶対とは言えないけどね。極力、奴を出陣させる確率を上げるというだけさ。」

 

それから数分後、二台の黄色いゴゥレムが、王都ビノンテンへ進軍を開始した。




こいつら何回決意を新たにしてるんだ!!そう思った方、すみません。ただ、人が死ぬということを、軽〜く書きたくはなかったのです。
もうゼス編終わりそうです。我らのボルキュスがウォーミングアップしてますので。

人の死が軽すぎるのもどうかと。
あ、テュペル家の当主は…。至高のゴゥレムですけども。
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