クロザワの部下が、ゼス達との交戦により殉職したとの報告が入ってきたのは、和泉が部屋に戻って間も無くのことだった。報告があって、すぐさま引き返し、会議続行となる。
クロザワの部下、名はリードという。リードは、クロザワの指示で国境付近の砦を見張っていた。
一度ゼスに襲撃された後、修繕作業を行っていた砦を中心にして、バイクで周囲を見回る最中。突如襲来したゴゥレムに蹴り飛ばされてしまう。
まさに、一蹴。十数メートルも吹っ飛ばされ、全身を強打。打ちどころが悪かったようで、ほぼ即死状態となる。
こんなにも短いスパンで攻めてくるとは考えていなかったのか、和泉を含んだクリシュナ上層部は頭を抱えていた。
「…ゼスも、焦っているように思う。」
まず口を開いたのは、ホズル。苦虫を噛み潰した表情を浮かべているのは、リードの死を聞いてか。
「休む間もなく攻撃してきた時点で、冷静なゼスらしくないと、俺はそう感じた。どことなく、やぶれかぶれになっているんじゃないか。もしくは、そう思わせることが狙いなのか…。そこまではわからないが。」
グラムを指で撫でつつも、ホズルは旧友の思考をトレースする。
同じく長い付き合いだったライガットとシギュンも、ホズルの考えに同調した。
彼らの知っているゼスは、勝算もなく特攻する、などと無謀なことは嫌う。
が、バルド、トゥル、和泉はまた違った考え方をしていた。この三人と、ホズル達は、まず立ち位置から違う。
ゼスとは交友がないのもそうだが、バルドらは実際に部下を持って戦場に出たことがある。そこは、ゼスと同じ。今回ゼスは多くの部下を死なせた。その報いとして、敵を討ちたいという気持ちは、少なからずあるはずだ。
案外、なにも裏は無く、仇討ちの為に命を捨てた特攻をしている可能性だって低くはない。
そうなると、ゼスが最も殺したい相手。それは…
「あれ?もしかして。ゼスさん、俺と戦いたいって線もあるな。仮に仇討ちの為の特攻だった場合、狙いは間違い無く俺だろうな。」
実質、リィとアルガスを殺したのは和泉なのだから。
この場にいる面々も、そこは否定しない。
「なら、和泉を戦場に出すわけにはいかないわね。わざわざゼスの思惑通りにする必要はないもの。」
シギュンは眉をひそめる。
和泉の身の安全を考え、出撃は控えさせようというのだ。
「待ってください。俺なら平気です。むしろ、俺が出て行った方がいい。犠牲が増えていく一方よりも、俺が出て、ゼスの狙いをハッキリさせたほうが良いでしょ?」
「そんな!危険よ。」
横で和泉とシギュンのやり取りを聞いていたライガット。見ると、拳を握りしめ過ぎたのか、手の色が白くなっていた。ゼスの話ともなれば、致し方ないだろうが。
「俺も、和泉さんと一緒にいくぜ。」
「ライガット!?」
…驚きは、誰のものか。
「ゼスの野郎とはもう一度会わなくちゃならねぇ…。それに、和泉さんが、危険なのにも関わらず出撃しようってんだ。俺だけ指くわえて見てらんねーよ。」
今にも部屋を出て、出撃したいのが伝わるほど、ライガットは気迫に満ち満ちている。
「よし、ライガットさん。一緒にいこう。」
「…!ああ、頼むぜ、和泉さん。俺のデルフィングなら、和泉さんにもなんとかついていけるしな。」
戦場から帰還したばかりだったが、休んでもいられない。和泉とライガットは、出撃準備をすべく、部屋を出た。
相手はたったの二騎。ゼスは操縦技術が優れている。それでも、埋められる数の差はそう多くはない。
ゼスは、一度攻め落とした砦経由で王都まで接近しているようだ。それならばと、和泉、ライガット両名は先回りし、ゼス達を待ち構えることにした。ドラウプニル部隊も後を追う手筈となっているが、二人としては、トゥル達が到着するより早く、決着をつけたいと考えていた。
第三者の手によってゼスが殺されるイメージも、浮かばなかったが。
……………
………
…
国境から数えて3つ目の砦に着いた和泉とライガット。
それぞれ身を潜めるポイントを探し、備える。
シギュンが和泉のライフルを手直ししてくれたので、遠距離戦にも対応可能だ。ライガットはもともと接近戦しか出来ないので、かなり奥まった崖の隙間で待機している。
和泉がゼス達と遠距離で牽制し合い、距離が縮まったあたりで飛び出す作戦だ。第一に、和泉は単騎だと思わせる必要がある。いざとなれば、ランスを投擲するなり、やりようはある。
ポイントについたところで、和泉は姿勢を低く保ち、スコープを覗いた。
しばらく、無言の時が続き。
「…。来たぞ、ライガットさん。敵影2。ゼス達だ。」
ロボット特有のズーム機能でやっと発見出来る距離。
ゼス達は気付いていない。
この視野の違いで、ほぼ毎回先手を取れていた和泉。今回も、まずはライフルでどちらかを狙い撃てる。
(これまでの成功率を見れば、俺はとんだへぼスナイパーだな。…今度という今度は、必ず命中させてみせる。)
ライフルと、ロボットの視界をリンクさせ、先陣を切るゴゥレムへ的を絞った。限界まで引き付ける。
神経を研ぎ澄ませて発射した弾丸は、相手ゴゥレムの左脚を粉砕するに至った。