コールドスリープで遥か未来へ   作:いたまえ

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五十四話 千年ぶりの再会

わずかな油断。和泉が、突如流れた音声に戸惑う、刹那。

戦場においても、致命的とまではいかない程度の隙。

 

だが。アテネス所属であろう漆黒のゴゥレムにとっては、間合いを詰め、斬りかかるに足る時間だ。

間隙を突かれた和泉は、敵の黒い大剣を中途半端に受け止めるのが精一杯だった。

 

「吹き飛べぇえ!!!」

 

和泉の防御が充分でないと見切るや、美由紀と認識された敵パイロットは、力任せに大剣を振り抜く。

ミシミシ。和泉は腕や指部分に負担がかかるのを感じ取った。無理に衝撃を吸収しようとしたり、武器を手離すのは自殺行為だ。前者は腕が破壊される。後者は、そのまま斬撃をくらう。

 

反応が遅れた。その時点で和泉の負けであり、この一撃に関しては素直に、身を委ねるしかない。結果、和泉は宙を舞い、背中から着地という最低の結末を迎える。

それでも、死は免れた。いや、死ぬのが幾ばくか遅くなっただけに過ぎない。

 

和泉が起き上がろうとした瞬間にはもう、漆黒の大剣がコクピット部に向けられていた。

 

(ああ、死んだか…。でも、これだけは確認しておかないとな。)

 

白川美由紀。この時代には存在するはずもない、かつての部下。千年もの時を経たロボットだ。声帯認証が正確なのかも疑わしい。

 

「あなた個人に恨みはないよ。まあ、運が悪かったってことでよろしく!」

 

喋り方も、和泉が知る白川美由紀そのものだ。

確認するだけの価値はある。

 

「待て!俺だ、大柳和泉だ!!」

 

コクピットに進もうとした剣は、ピタリと止まる。

 

「…嘘…。その声…ホントに…?」

 

ピタリと止まった剣が、今度は小刻みに震えだした。

信じられないといった声をあげる美由紀。

しかしまだ半信半疑なようで、和泉に質問をしてくる。

 

「!…そのゴゥレム。あなた、どこから来たの?」

 

相手があの美由紀だと断定出来ていないのは、和泉も同じだった。それが、今確信へ変わる。

 

「日本軍、ロボット部隊所属。大柳和泉中尉だ。…肉体的には、千年ぶりだな?白川隊員。」

「まさか、本当の本当に?」

「ああ。どうして、お前がここにいる?」

「あ、あんたが大柳和泉なら、なんとなくわかるでしょ?」

 

和泉の口調には多少の余裕が出来たが、依然剣を向けられたままの状態だ。

 

「…コールドスリープ…。」

 

アメリカ軍との交戦中に、突然起動したコールドスリープシステム。千年経とうと、記憶には新しい。

 

「そう!!…コールドスリープ。あんたもやっぱり、そうだったんだ…大島博士の、言う通り…。」

「どういうことだ?あんたもってことは、お前も…?」

 

いや、そんなことよりも。眼前にいるのが白川美由紀本人ならば戦いを中断し、味方になって欲しい。そう、思う。

 

「話したら長くなるけど。私はあんたを追ってコールドスリープしたんだけどね。それよりもあんた、アテネス…今私がいる国にこない?そしたら、戦わなくてすむ。それから、話したいことがたくさんあるの!」

 

戦いをしたくないのは、美由紀も同じ。

だがしかし、今の和泉にはクリシュナを抜ける決断が出来なかった。

 

あまりにも唐突な出来事。

まさか、白川美由紀と再会するなどとは、思いもしなかったのだから。

 

「悪いな。こっちで目覚めてまだ間もないが、クリシュナの人達には良くしてもらってる。裏切るのは無理。」

 

「そう、なんだ…。…うん。じゃあ、仕方ないね。」

 

美由紀が、チラッと後方を確認すると、そこにはもうゼスの姿は無かった。

 

「ゼス様は逃げられたみたいだし、最低限…かな。」

 

言いつつ、美由紀は和泉から剣を遠ざける。

 

「正直に言うと、私は、あんたと会うためだけにコールドスリープをしたの。でもね、私にはアテネスを裏切れない理由がある…」

 

「…そうか。」

 

「…じきに、クリシュナは滅びる。その前にもう一度、あんたを説得にくるから!!私以外の人に殺されたら、あの世まで追いかけるからね!」

 

「重いぞ、その発言…。」

 

美由紀お得意の冗談だろうか。

千年前であれば、チョップとともにツッコミでもしていた和泉だが、いまは若干引いたようなリアクションしか出来ずにいた。

 

「別に、恋愛感情とかはないから!そこは勘違いしないでほしい。…それから。」

 

「ん?」

 

「また、一目会えて、凄く嬉しいよ。中尉。今度は、ロボット越しじゃない姿を見たい…かな。」

 

言い残し、黒いゴゥレムは崖を飛び越え姿を消した。

まるで和泉の返事を聞きたくないかのようにもみえた。

 

(ああ…。なんてことだ。こういうのを奇跡って言うのか。しかし、美由紀が乗っていたのは間違いなくロボットだ。それもかなり高性能な。俺が、奴と戦わないことには、クリシュナ勝利が無さそうだ…。)

 

千年もの時を超えて再会した部下との戦いが、避けようのないものだとは。無神論者である和泉だが、この時ばかりは神様に文句を言いたくなった。

 

(そうだ!ライガットさんを探さないとな。)

 

まだ、和泉の心臓は普段より早めに脈打っている。

指の震えが収まったのは、それから10分後のことであった。

 

 

 




美由紀さん、登場してしまった。

まるでロボットのバーゲンセールだな。

ボルキュスはウハウハですよ。そりゃね。
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