ボルキュス将軍がクリシュナ攻略の第二陣に控えているのはゼスも知っていた。だからこそ、今回の作戦を計画したのだが。その第二陣の先遣隊として戦線に加わった漆黒のゴゥレムを操る女性。
名前をミユキ。何はともあれ、このミユキが来ていなければ、ゼスは自決していたに違いない。
お互い、顔を合わせるのは初めてだ。
「助かった。君が来てくれていなければ、俺とクレオは無事では済まなかっただろう。ありがとう。」
国境から、アテネス寄りに大きく距離を置いた野営地に設置された、あるテント内での会話。
そこにはゼス、クレオ、美由紀の三人がいる。
因みに、クレオのゴゥレムは戦闘地点から離れていた為、どうにか野営地まで運ぶ事に成功した。片足を失っていたので、美由紀のゴゥレムで牽引する形ではあったが。
ゼスから感謝をされ、美由紀は照れ臭そうに頬をかく。
「そんな、お礼なんて…。」
「私からも、お礼を言わせてください!本当に、ありがとうございました!」
クレオの純粋な瞳で礼を言われて、美由紀も悪い気はしない。ただ、和泉との戦闘を中断したのは、敵をみすみす見逃したことと同義だ。現場に居合わせた兵士はいないので、追求されるような事態にはならなかったが。
「君が噂の…。なるほど、確かに変わったゴゥレムだね。」
丁度、ゼス達が此度の戦準備をし始めた期間に、謎のゴゥレム乗りが現れたと、アテネス内で噂になっていた。
なんでも、異形のゴゥレムを操る女兵士で、実力も相当なものだという。当然ゼスの耳にも噂が入ってきていたが、時期が時期だけに、顔をあわせる機会はなかったのだ。
「あー。まあ、アテネスで生産されたゴゥレムでは無いって、わかっちゃいますよね?見た目で。」
さっきより明らかにバツが悪そうな美由紀。
が、ゼスはそれ以上説明を求めなかった。
噂とは別に、本国にいるボルキュス将軍が美由紀の実力を認め、素性不明な彼女の軍隊入りをロキス書記長に嘆願しているという情報があった。更に、ロキス書記長はその願いをきいた。
どこのスパイともわからぬ女性を軍に入れるなど、型破りにも程がある。
反発する者も少なくはなかった。ただ、ゼスにおいては、ロキス書記長が認めたならば、異論を唱えようとすら思わない。
「君が誰かなど、さして重要じゃないよ。アテネスの為に戦ってくれるのなら、何も問題は無い。」
「私もゼス様と同じ意見です!何より、ミユキさんは命の恩人ですから!!」
クレオも、ゼスに同調した。さらに、
「もう少しで、蛮族に捕まって辱めを受けるところでした」
と、クレオは付け加えた。
「蛮族…。」
クリシュナを知らない美由紀には、どうにもとれない言葉だったが、ふとクレオを辱めようとする大柳和泉がイメージとして浮かんだ。
いい年した男が、クレオを襲う図は完全に変態だ。
そのイメージは現実の和泉の人柄とは乖離しており、美由紀は思わず吹き出しそうになる。
(クリシュナがどういう国かは知らないけど、あいつが私の誘いを突っぱねたってことは、そんなに悪い国ではなさそうなんだよね。てことは、戦争中の教育なのかなー)
ミユキは笑顔でクレオに応え、それから、テントから顔を出し、付近の衛兵に三人分の飲み物を用意するよう伝えた。
「それで、ボルキュス将軍は今どうしてるんだい?」
口を開いたのはゼス。
ゼスの目論見は失敗した。もはや全面戦争は避けようが無く、指揮権を委ねられたボルキュスの動向を気にかける。
「今、イリオスで兵士を集めている最中のようです。我々はボルキュス将軍の部隊が来るまではこの付近で待機です。しかし…。ゼス様と合流出来たのは非常に喜ばしいですね。」
現在も西部の国境に位置するクリシュナの砦を落とすべく小競り合いは続いているが、ゼス、クレオ、ミユキはその作戦には参加しないようだ。
この後、ボルキュス将軍がどのような策をとるかまではゼスにもわからないが、戦争となれば、彼の作戦や戦力が心強いことに変わりはない。やり方には同調出来ないが。
どうあれ。ゼスとクレオは、今夜ばかりは緊張を解いて休むことが出来る。
衛兵が暖かいお茶を三人分運んできた頃には、もう既にゼスとクレオは眠りについていた。
(和泉。あんたは簡単に死なないだろうけど、ボルキュス将軍、彼の強さは異常だわ。ボルキュス将軍のこと、伝えとけば良かったかな。)
ゼスとクレオの寝顔を見ながら、三杯のお茶を一気飲みして、程なく美由紀も眠りの世界へと誘われていった。