申し訳ありません。
メキメキと。大木をかき分けるようにエラン国の森林を突き進む二台のロボット。隠密行動をとるつもりなど微塵もなく、正面から敵の秘密基地へ迫る。
正面突破をする自信があるのか、それともやぶれかぶれの特攻、いちかばちかの突撃なのか。
・・答えは前者だ。それは、誰の目から見ても明らかだった。10メートル近い大木を、難なくかき分ける鉄の塊。その速度も尋常じゃなく速い。
味方からすればこの上なく頼もしく、敵からは悪魔のように見えていることだろう。
現に、エラン国の秘密基地で、偵察カメラ越しにそのロボットの姿を見たエラン軍司令部は頭を抱えていた。抱えずにはいられなかったと言ったほうが正しいだろう。
明確な死をイメージしてしまう、強大な兵器。日本国のロボットを確保したとはいえ、その性能は把握しきれていない。
慌てふためく兵士であふれかえる基地内にて、戦車隊を率いるエルク・ラゼル少佐は一人冷静にロボットが映し出されるモニターを凝視していた。
その彼の様子に気づいた兵士が、どうしたのか訊ねる。
「ラゼル殿。ここはもうじき敵に襲撃されます。ご避難なされては・・・」
「何勝手なことをぬかしているのかね。我々が敗走するのは、このワタシがそう指示した時のみだよ。それとも君は、軍などお構いなしに、命だけでも助かりたいのかね。」
兵士は何も答えない。いや、答えられない。
どう見ても分が悪い。勝てない戦はするものではないはずだ。あんなにも暴力的なロボットだ。前回は運良く破壊し、一台を別に確保出来た。とはいっても、あれは敵の休息中に、数に任せて圧倒したに過ぎない。
今、モニターに映っている敵は、はじめから戦闘態勢に入ってしまっている。それも一直線にこちらへ向かってきたいるということは、念入りな下準備をした上でロボットを取り返しにきたに違いない。
兵士はただただ顔面を蒼白にするばかりだ。
エルクは仕方ないなといった様子で、モニターの電源を落とす。
貴重な敵の情報源を切ってしまったことにも驚きだが、自分を落ち着かせるため、絶望的なイメージしか連想させない映像を切ってくれたことにはもっと驚きだ。
「ラ、ラゼル殿・・・。よろしいのですか?せっかくの敵の映像を」
「よろしいもなにも、映像をつけていては、君がまいってしまうだろうに。まあ、私はもっともっと絶望的な状況にも遭遇してきたわけだが。ともかく、敵の情報も大事だが、自分の部下のコンディションに気を配るのも上官の勤めだからね。」
エルクの優しさに触れ、兵士は落ち着きを取り戻した。
「申し訳ございませんでした。もう、大丈夫です。」
「そうか。無理だけはするなよ。」
兵士は敬礼し、上官の言葉に応じる。
「それで、ラゼル殿。二台のロボットはどう止めるのですか?」
恐る恐る、兵士は問う。己ではこの問に対する回答を見つけられなかったからだ。エルクならばあるいは、とっておきの作戦を思いつくのではないか。期待を視線に込め、エルクの返答を待つ。
「・・・もうすでに、戦車隊Aグループをポイントに配置済みだ。敵は最短距離でこの基地を目指している。まずは一撃、様子を見させてもらおうか。」
「なんと!さすがであります!!敵の通るルートを予測しておられるとは・・・!!」
エルクの指示の早さに感心しつつ、兵士も自分の持ち場へと戻ってゆく。
(とはいえ・・・)
去ってゆく兵士を見つめながら、エルクは思案する。
(あの手前のロボット、やけに新しそうだ。前回攻めてきた三台と、奴の後方のもう一台と比べ、光沢があり、頭部や装甲も新しく見える・・・。)
ロボット自体が新兵器なのだからなんともいえないけれど、警戒しておいて損はない。
(こちらにロボットを渡してしまったから、急いで新型でも開発したのか・・?ともかく、用心しなくては。)
不意に、エルクの無線が鳴った。
「こちらラゼル。」
素早く応答。無線から聞こえる声は、ややくぐもっていた。
『ラゼル殿。敵を目視。あと数分で、戦車の射程へ入ります!』
その報告を待っていたとばかりに、エルクは走って部屋を出る。基地の屋上から、戦車隊やロボットのいる方角を眺める。
「私からはタイミング等の指示も出さん。すべてそちらに任せる。一台でも良いから仕留めるのだ。」
望遠鏡を除くこと数分。爆音が、森林のみならず基地のある廃墟まで響き渡った。