貴方は英雄ですか? いえいえ。まだ一般ぴーぽーです 作:カルメンmk2
お久しぶりです。一万字越えですがどうぞ!
多分なオリジナル設定成分を含んでおりますので、ご容赦できる方はお読みください。
誤字脱字方向、感想お待ちしております。
「それじゃあ行ってくるよ。今日中に帰ってこなかったら、2,3日は戻らないからね」
「あい、わかった」
「行ってらっしゃい神様。物騒だから気をつけてくださいね」
「神に手を出す輩なんていないさ。いってきまーす!」
ガネーシャ主催の
アクセサリーもなく、ドレスを着ているわけでもないが元の素材が一級品なため、普通のパーティーに行けば引く手あまただろう。往々にして美形揃いの神々の間では、身なりも重視されるため見た目だけでは勝てないのだが………。これがヘスティアファミリアの現状であった。
「僕達も行きましょうか」
「ようやっと戦えるの。外もおらんようだし」
「成果見せてみます!」
「見せてもらおうかの」
ふんす! と力こぶを見せて意気込むベルに、頼もしい頼もしいと笑いながら永嗣はリュックを背負う。
やっぱり工房・正村の武器が欲しいと長剣を腰に携え、廃教会を出た。外には誰もいない。それはそうだ。逃げられる
「案の定いないな」
「静かですね。僕もつき纏われたりとかしましたし」
「やはりか。聞ける者を狙うのは当然か」
居もしない連中のことを話していても仕方がないと、二人は迷宮へ向かって歩き始めた。久しぶりの実戦に心躍らせる永嗣だが、ベルは唐突にこんなことを言い出した。
「そういえば、何日か前にここでファミリアの抗争があったらしいですよ」
「ほう」
「血痕だけ残ってたらしいです。量からして、致死量だったとか………」
「祟って出ないことを祈ろうか。人の怨念は怖いからの」
「ゆ、幽霊ですか?」
「そうとも言うな。人が死んだ所には出るもんじゃよ」
「家の近くなのに…………」
夜帰ってくるの怖いなぁ、と最もなことを呟くベルに、永嗣は折を見てヘスティアに頼んでみようと提案する。神ならば、除霊ぐらいは出来るのではないか? そんな淡い期待もある。
「神様ならできますよね!?」
「さぁの。じゃが、神がいる街じゃしな。案外、昇天しているかもな」
いざとなれば塩でもまいておけばいい、と言うとなんで塩? とベルが質問してくる。
極東の風習でな? と話しながら、二人は街へと入った。もちろん、永嗣はあの場所で何が起きたのかは知っている。だが、言わない。そのための借りなのだから。
唐突であるが、オラリオには名物と呼ばれるものがいくつかある。
一つはバベル。白亜の巨塔は晴れた日にその頂が見えるぐらいに高い、世界最大最高の建造物だ。
一つは迷宮―――ダンジョン、ラビリンスと地方によって様々な呼び名のあるモンスターが生まれ落ちる、未だ底すら見えない奈落。
前者はともかく、後者は一般人には見ることのできない領域にある代物だ。バベルだけでも、神の威光というものを知るには十分なものだが、つまるところデカイ塔である。大きさに慣れればインパクトは弱くなる。
しかしながら、あと一つ、オラリオには名物が存在する。どちらかと言えば観光スポットのようなところ。バベルと同じぐらい、一度見れば忘れられない建物。とあるファミリアの本拠地―――
「―――アイ・アム・ガネーシャ………………趣味悪いなぁ」
暖かな日差しが降り注ぎ、太陽を背にしているため影がかかっているが、その異様という威容は何よりも目立っていた。
像の仮面を着けた細マッチョな男が胡坐をかいている建物。ガネーシャファミリアの主神ガネーシャを模していて、出入り口は股間の部分にある。なんとも自己顕示欲の強い神だと、青髪の童話作家は呆れていたとかなんとか。
で、今回もパーティーはこの館で行われる。神会と言われているが別に眷属を連れてきてはいけないわけではない。現に、幾つかのファミリアはタキシードやドレスを着飾った眷属を侍らしている。
ヘスティアは余りこういった催しに参加したことが無いから知らないのだが、顔合わせや友好的なファミリア同士での面通しといったものだったりする。
しかし、ヘスティアファミリアの貧窮は厳しい上に、火中の人物を連れて行けばどうなるかは火を見るよりも明らかだ。そのまま刃傷沙汰になるかもしれない。自分の一目惚れとは違う、愛おしい子どもが持つスキル【狂気】はレベル6を殺めようと駆り立てたのだ。
「目的の相手がヘファイストスだからなぁ」
余り仲のよろしくないヘファイストスと彼は、出会い頭で何をするかわかったもんじゃない。結局、彼を嫌う理由も教えてもらえずに疎遠になりかけているのだが、これが最後の頼みとなることをヘスティアは覚悟していた。彼に聞かれでもしたら、ゲンコツが飛んでくるだろう。もっと友神を大切にしろと。
例えそうなるとしても、ヘスティアは考えを改めることはしない。頼むと言ったら頼むのだ。そうでもしないと――――
「よしっ! いくぞー!」
気合を入れて、ヘスティアは股間にある扉をくぐっていった。
エントランスに辿り着くとヘスティアは胸の谷間に入れていた一枚のチケットを取り出した。ガネーシャファミリアの団員たちが招待状の有無を確認してきたのだ。何か邪な視線を感じたが、渡すと随分と念入りに調べている。
触る、つまむ、
「も、もう行っていいかな?」
「どうぞ。控室をご利用されるのでしたら、エントランスを抜けてすぐ左の扉から上へお上がりください」
そんなことを言っても、ドレスなんて無いのだから意味がない。化粧は基本していない。しなくても神は綺麗だからだ。
ただ、すこし暖かいせいか汗をかいているため、拭きたいかなと思う。
「タオルもご用意しております。どうぞご利用なさってください」
「おお! 気が利くね。さすがガネーシャの子どもたちだ!」
「恐悦至極にございます。何かございましたら、備え付きの呼び鈴でお呼び下さい」
気を良くして控室へと向かうヘスティアを、その男は見送っていた。
完全に控室に入ったことを確認すると、男は徐に無駄に高性能な冒険者の身体能力によって、見るも止まらぬ早業で包んだチケットを懐から取り出した。
「――――……………………んはぁ………! これが!女神の!フ・レ・グ・ラ・ン・ス!」
「手に入れたのか兄弟!」
変態の仲間が現れた!
「処女神のものだ。あの谷間に挟んでいたレア物だぜ」
「俺はヘファイストス様のタオルだ。たまんないね、この香り!」
「ヘスティア様も通しておいたからな。そっちのタオルも期待できるっ」
「おい! フレイヤ様も来たぞ!!」
「最優先だな」
「奴らに気取られるな。ヤヴァいぞ」
「あ、お腹痛いから帰っていいですか?」
「いいぞ。主犯格はお前だとぶちまけてやる」
「さぁ! 行くぞ! 大儲けの時間だ!」
その背後には羽根帽子の男神の姿があったとかなかったとか。
もちろん、彼らは捕まりましたよ? ムキムキな
神は見栄を張りたがる。他の神に対して、子どもたちに対して…………兎に角、見栄を張りたがるのだ。見せびらかし、貧しいものに嘲りを与える。殆どの神々は力無きものに対して無関心で、死のうが生きようがどうでもいい。自分のお気に入りの玩具となるのであれば慈悲を与え、そうでなければ何もしない。
殆どの神々は
ただ、例外も存在する。鍛冶神ヘファイストスや薬神ミアハを筆頭に医療を司る神々の一部。商売を行う神々の一部、農耕の神々の一部。全体としては一握りだが存在する。
そんな一握りの中でもっとも人を愛する神がいる。
「俺がガネーシャだッ!!」
ガネーシャファミリアの主神こと、象の仮面を着けたエキゾチックな民族衣装に身を包む偉丈夫な神である。
群衆の主と呼ばれ、オラリオの住人たちに分け隔てなく愛を注ぐ、神物だ。芸術センスや自己主張の激しさを無視すれば立派な神物だろう。
「皆、よく集まってくれた! ささやかだが食事と酒も用意してある。存分に楽しんでくれ」
「「「「さすがガネーシャ! 気前の良さにしびれるぅ!」」」」
「当たり前だ。俺を誰だと思っている? 俺がガネーシャだッ!!」
「「「「イエーーー!!!」」」」
正直に言えば、名も知らぬ神々たち(永嗣基準からすれば)も、こういうときに限ってはノリの良さで盛り上げ要員には使える。
そしてノリの悪い、つまりは冷静な神々は彼らなりのノリでガラスでできた綺麗な盃を掲げて意を示す。
ガネーシャが乾杯と言えば、そこからパーティーの始まりだ。飲んで、食って、談笑する。まぁ、何千年も神界にいたのだ。大体の神々とは、多少の面識もある。もちろん、面識が一切ないものも多い。自然と、知り合い同士で固まり始めるのだが、一部の神々はそんな固まりたちを次から次へと訪問し、あいさつ回りをしている。
オラリオにおいては上位と数えられる有力ファミリアの主神たちだ。
こういった雑多な神々が集まる催しなど、実はそれほどに多くはない。二つ名の命名式や非常時などにおいて行われる
ガネーシャファミリアの資金力の凄まじさをヘスティアは感じていた。
「僕もこれぐらいのパーティーを開けるようになりたいなぁ…………今でも満足だけど」
ただ食っちゃ寝のできる立場―――というか金が欲しいの事実だが、あの老人のような青年の目の前でそんなことをしたら――――
怖いことを考えてしまったと体を震わせ、ヘスティアはビュッフェ方式のランチを堪能する。持ち帰りたいが、みっともないと怒鳴られそうだし、この後つるし上げられるのだから恥をさらすわけにもいかない。
「とはいえ、腹が減っては戦は出来ない。心理だね!」
もちもちとした頬をリスのように膨らませ、食いだめできるだけ食いだめておくと言わんばかりに食べていく。
彼女を見て、他の男神たちはロリ巨乳が必死に喰ってる、と嘲笑を浮かべる。金がないのか? 早く誰か突っつけよと嗤っている。
聞こえないふりをしていたが、態度には出るようでその勢いも徐々に弱まってきた。そして、給仕を呼び、ワインを一杯煽って人心地着くと、彼女の目的の一つ。今後も神友と呼べるのかわからない友神こと、ヘファイストスがワインを片手に呆れ顔でやってきた。
「アンタ、何してるのよ」
「あ、ヘファイストス! 久しぶりだね」
「口元汚して…………ほら、これで拭いなさい」
「ありがとう」
こしこしと口元を拭っていると、心配そうな顔でこちらを見てくるのに気づいた。
「ど、どうしたんだい?」
「―――いえ、顔色が悪いなって、思ったのよ。子どもたちはそんなに稼げないの?」
「まぁ、これからを考えると緊張してね。いいや。最近まではベル君一人だけだったけど、今日からシグレ君も参加するのさ。ようやくね」
「そう」
「うん。それでね…………実は―――」
「ドッチビー!!」
頼みごとをしようとした矢先に、不倶戴天の敵の声が響く。
珍しく、男装ではないドレス姿をした赤いまな板がやってきたのだ。
「久々やな。ファイたんもな!」
「貴女の子どもは来たけどね。それより、ゴブニュが鬱になりかけているのよ。剣姫に武器は大切にするようにって、言っておいてくれる?」
「無理やって! 深層は武器を気にしていたら挑めへん! それよか、安くしてくれん?」
「ダメよ。びた一文まけないわ」
「いけずやで、ファイたん」
「僕は無視かい?」
「おっとすまんな。デカいファミリアにはデカいなりの悩みがあるんや。ドチビにはわからへんやろ?」
「ッ……!!(このまな板女神ィイイイイイ)」
とはいえ、これで空気もだいぶ緩くしてもらった。ロキなりの気遣いというか、ノールド君からヘファイストスに頼み事のことを聞いているのだろう。恩を売りに来ているのだ。
乗ってやろうじゃないか、とヘスティアは意を決するがさらなる闖入者が現れた。
「あら、三人とも仲がいいわね」
「フレイヤ!」
「そうよ。私も混ぜてくれない?」
「あー…………別に構わないけど、その………」
「どうしたの?」
「失礼だけどさ。苦手なんだ、君が。本当に」
「ふふふ。気にしないわよ。貴方のそういうところ、私は好きよ」
「度胸あるな、ドチビ」
片やオラリオの双璧、片やオラリオでは零細。戦力差も資金力も、
弱小で、頭を下げて怒りを買わぬよう、大人しくするのが普通だが、ヘスティアはそんなことは気にしない。あまり気にしない。言うべきことは言うべきなのだ。無理に付き合っていても、いつかは拗れて酷いことになる。そうなる前に距離を置くべきなのだと判断したのだ。
そういったところをフレイヤは評価している。自分に対して一言言える神はロキやウラヌス、ガネーシャぐらいしかいない。一柱、小煩いのがいるがアレは論外だ。美というものをはき違えている。
ある意味ではフレイヤは孤独なのだ。強すぎる勢力を持つがゆえに、比肩するものもない美を持つがゆえにフレイヤは孤独なのである。
「歯に衣着せないもの言いも時には必要だよ。ただ…………君もアレのこと?」
「そうよ。だって面白そうじゃない」
「そうやでドチビ。パーティーに出るよりも、それを聞きたくて集まってるやつが殆どや」
そうだそうだ! 早く言えー! などとヤジが飛んでくる始末。
会場にいる神々は会話を止め、ヘスティアたちに耳を向けていた。いっそ、神の鏡でも使うか? と使用許可をとろうと票集めまでしているぐらいだ。
「元々そのつもりだったからね。僕の家族、シグレ君は―――――」
「そっちに行きましたッ」
「応とも」
ヘスティアが神々の前で永嗣について語り始めているころ、当の本人は
数にすれば30匹近い数の暴力を質で打ち負かしていた。
ベルが成り立てとは思えないほどのステイタスをもって斬り込みんでいく。
永嗣が後を追ってそのリーチとベル以上に速く巧緻な剣技で傷を抉っていく。
止まらずに通り過ぎたベルの追撃しようとしたゴブリンたちの頸を一閃で刈り取り、返す刀でフロッグシューターの刺突を受け流し、逆に刺突につかったその舌を斬る。
「シグレさん!」
「後ろを頼むッ」
「はい! 片付けたら抜けます!」
四方から襲い掛かるモンスターを滅多切りにしていく。
恐怖を覚える知性などない低ランクのモンスターは目の前の惨殺は単に餌を奪うやつが減っただけの事。ひたすらがむしゃらに突き進んでいくモンスターを、軽鎧どころか、皮の鎧すら装備しない永嗣は受け流しては斬り、相手を蹴り飛ばしては斬っていく。
モンスターのヘイトがこちらに無雁斬っているころに、ベルは再び突貫した。背後に回ろうと策を弄しているウルフを返り討ちにしたからだ。狼と体格などはそれほど変わらないウルフを、ベルは一体ずつ丁寧に狩る。喉を裂き、心臓を穿ち、時折塵にも変わらぬ遺骸を投げつけ、健脚で蹴りつぶす。
剣士の背後に敵がいなくなると、兎は駆け出した。トン、トン、トン、と跳ねるように駆けていく。跳ねるたびにモンスターはどこかが刎ねられていく。
目前へと迫る脅威を無視できる―――否、他の
「ッッ………!」
軽やかなステップは止まり、より深く、強く踏み込む。頭が地面に着きそうなほどに前のめりに大地を踏みしめた。逆手に握る短剣と半ば折れたショートソードを盾にするように交差させる。
こん棒よりも太そうな腕を振り上げるゴブリンが汚い鳴き声で笑う。
爪と牙で蹂躙しようとコボルドが迫る。
涎を垂らして大口を開けたウルフが跳ぶ。
その額を撃ち抜こうと大跳躍したフロッグシューターが一つ目を輝かせる。
「遅い!」
「言うなれば五月雨斬りだな」
そんなものは二人には通用しない。連携というものを知らないモンスターでは二人に届かない。
弾丸の如く跳ぶでなく駆け抜けたベルは両手に持つ得物で切り裂いた。
下へ上へ、右へ左へと剣を振り、背後から斬り捨てていく永嗣。
水の音と湿った何かが落ちる音がした後、皆、塵になっていった。残照の煙がそこかしこで昇る。
残心を終えた永嗣は、一つ深く息を吐いて、手に持つ長剣をしみじみと眺める。
視界の隅にはモンスターの血を少し浴びたベルがせっせと魔石を拾っていた。
「――――数打ちではこんなものか」
傷めぬように加減はしていたが、それでも剣は耐えられないらしい。
それはベルも同じだろう。ショートソードは折れていても、芯まで罅が入っているわけではない。造りのしっかりしたコレはまだ耐えられるだろう。しかし短剣の方は柄に罅が入っているのが見えた。
「回収終わりました」
「わかった。これで終いにしようか」
「まだ行けますよ?」
「これを見てみよ」
刃が欠け、罅が入り始めた長剣を見て、ベルは恐る恐る自分の得物を抜いてみる。なるほど。これではもう危険だ。
「わかりました。帰り道も考えないといけないですね」
「足早に行こうか。駆け抜けるぞ」
「こっちです!」
ビキ、ビキ、ビキ――――ダンジョンから新たな
狂気であろうと、狂戦士ではない。冷静な考えの出来る気違いなだけなのだ。この男は……………。
「――――だから誓ってもいい。僕は
スキルやアビリティについては、かすかに匂わせる程度に話したヘスティアは周囲の様子を窺うため、言葉を止めた。反応はおおよそ3つに分かれていた。
一つは成る程と納得したものだ。ガネーシャやロキ、フレイヤ、ヘファイストスらだ。
二つ目はヘスティアが嘘をついていると決めつけているものだ。ディアンケヒトを筆頭とする性格の悪い神々だ。
最後はスキルやアビリティによるものを勘違いしているものだ。アポロン、イケロス、イシュタルといった一定以上の規模を持つファミリアの主神たちだ。
「うちは前にも聞いたけど…………んー…………でもなぁ………」
「信念はすべてを凌駕するものだ。ガネーシャがそう保証してやる!!」
「実際、オッタルがそうだったからね」
「………………信念、か。でも―――それじゃあ………」
ディアンケヒトらについては述べるまでもない。野次か一方的に嘘をついていると決めつけているだけだ。
問題は三つ目の集団。アポロンたちだ。
「ふむ。どう思う?」
「ひひっ!どうと言われてもな。実際に見たわけでもないが…………楽しそうなことには違いないだろう」
「イシュタルは?」
「この目で見てから考えるとするさ。お眼鏡にかなうなら……………オラリオの先輩として、
「いい性格をしているね、イシュタル」
「見た目もイイんだよ。イケロス」
絶対に碌なことを考えていないはずだ。特にアポロンなんて、両刀使いだって噂だ。シグレ君はまだしも、ベル君を狙いに来る可能性は十分ある。
「僕が言えるのはここまで。あまり自分のことを話すつもりもないし」
「それで家族っていうの?」
「家族だから秘密は抜きだ、なんてのは間違いだと思う。そういうのすら含めて、一緒に生きることが家族なんじゃないかな」
でも何時か必ず話してくれると信じているよ。君の過去にどんな罪があっても、特異な由縁でここに来たとしても。僕もベル君も君を受け入れるからね。
「もういいかい?」
「いいえ! 私からありますよっ!!」
聴衆の中から声が上がった。甲高い声で、どことなく人を不愉快にさせるような声。
当然、前へ出ようとするその神を他の神々は海を割るかのように道を開けた。
「ネメシス!!?」
道化師の化粧をした、肉体にぴっちりを貼りつく光沢をもった服。それに浮かぶ女性的ないくつかの形が、それを女神だと知らしめていた。
女神ネメシス。ネメシスファミリアの主神であり、少数ながらも全員が一線級の戦闘力を持つファミリアの主神。またの名を―――――
「復讐の女神かい? 何が聞きたいんだ?」
「んっふっふっふー。そんな塩対応はやめてもらえないかしらヘスティアちゃん」
「君とは会ったこともないよ。見ず知らずの他神で、関わり合いになりたくない類の神さ」
「あっらっらっらー。酷いわね」
くるくるりんっ☆ 道化師というよりも、サーカスのピエロみたいな態度だとヘスティアは思った。
ニコニコと笑っているが芝居がかっていて、それがなおの事、腹立たしい。
ネメシスを知らないヘスティアにロキは、耳元で忠告する。
「疫病男の主神や。関係あるで、ドチビ」
「なんだって?」
「あっふっふっふー。そうとも。私があの汚くて醜くて愛おしい憎悪を孕んだポプヌスの主神さ。自己紹介はこんなものだね。こんなものとしよう。そうしよう! 聞きたいことは単純だ。君の眷属の右腕は顕在かい?!」
「は?」
「顕在かと聞いているのさ! 腐ってないのかい? 斬り落とされていないのかい? 失われていないのかい!!?」
「そんなことあるわけないだろ! 五体満足だ。一体何を言っているんだ君は?」
「んっんっんー…………それはおかしい。実におかしい」
――――なぜなら僕の眷属たちには特徴がある。そう、復讐で! 傷つけた相手に同等の復讐を行うというのにだ!
その言葉でロキの顔から血の気が失せた。
こいつは今何と言った? 確か同等の傷を相手にも負わせると言った。まさか………!
「それは神の力と違うんか!!? 復讐の特性を与えたんか!!」
「はっはっはー! それは違うよロキ。私の眷属となるには消えることのない怨嗟の炎。狩れることのない憎悪の澱みがあるかどうかだ。私はその手助けをしただけ。フレイヤが意図せず魅了してしまうように、私は意図せずに復讐心や復讐を肯定させる。私の血を受けた眷属は――――――さぞ、素敵だね。いやいや! 素敵すぎるッ」
「何が素敵や! 子どもを化け物にするんかおのれは?」
「くっふっふっふー。それは違うよロキ。子どもたちが求めた。願った、請うたんだ。復讐を司るものとして、その復讐心は紛れもない憎悪として
興奮しているのか、血走った眼をギョロりと向けて、片をつかんで揺さぶってくる。なるほど。復讐を司り、復讐する力を与えたというのに、復讐が出来なかったなんて…………アイデンティティーが壊れてしまうだろう。
―――でも、僕も同じだ………似ている部分がある。でも、君のように狂ってはいない。ヘスティアは淡々と告げる。
「君の眷属程度の復讐心で、彼に届かせるなんて無理さ」
「―――――なんだと?」
「そんな復讐心なんて、彼にとっては塵芥にも劣るって言ってるんだ」
「ははっ――――――ここで天界に還されたいのか、ババア」
「何を言うんだ、小娘。ああ、君を孕ませた
「言ったな? その言葉を私の前で言ったな………私を人間どもの傲慢と蔑んだな!!?!」
「何度でも言ってやろう。そんなんだからヒュブリスと混同されるって言ってるんだよ………!」
一歩も引くつもりはない、とヘスティアは青い瞳で語っていた。
普段と違う態度に、どの神々も瞠目していたが彼女は家を守護する神だ。手を出されれば黙って泣き寝入りするなんてことはしないだろうと当たりをつけた。
「君たちがどれだけ強くても、厄介な力を持っていても僕は家族を守るためなら、神の力を行使するのだって躊躇わない。永久の別れになったとしてもだ」
「ヘスティア!!」
「止めないでくれ、ヘファイストス。これは譲れない。譲ってはいけないことなんだ」
その言葉にロキも、自分を重ねる。モンスターに殺されるならロキはどうとも言わない。迷宮でモンスターと戦い、死んでしまうのは甘く見たか、力が及ばなかったかだ。大切な子どもたちを失い、悲嘆に暮れて、それでもロキは立ち上がって新たに出発するだろう。
だが、何かしらの悪意を持って嵌められたなら話は別だ。持てる力とコネをすべて使い、オラリオから永久追放したあとに殺してやる。地獄には娘もいるのだ。娘に懇願してでも重い罰を受けさせてやる。
「二人ともやめーや」
「ロキ」
「ドチビも気持ちはわかる。カッカしたらそれこそ思うつぼや。お前もそうなんやろ、ネメシス」
「――――――ぬっふっふっふー。気付いていたのかい」
「アンタは相当な古株や。オラリオの治安を陰から保ってきたのも知っておるし、
「君たちは不倶戴天の敵ではなかったのかい? 庇うなんて………ガラじゃない」
「そんなもん決まってるで。―――――――――ドチビのファミリアが面白いことになりそうな予感がするからや。神の
「道化師…………いや、
ネメシスはそう言い残し、スキップをしながら帰っていく。その後ろ姿を見ながら、ロキは冷静に今後のことについて展望を考える。
第一に、これでヘスティアに恩が売れた。アイズも気になっている件の剣士に師事でもしてもらえれば悩みも晴れるだろう。
第二に、周囲への牽制だ。自分の獲物、あるいは同盟者だと錯覚させられる。団長や団員クラスではなく、主神が庇ったという印象は強いはずだ。
第三に、きな臭い動きを続ける連中への鉄砲玉だ。良心が無いわけでもないが、それでも自分の子どもたちを犠牲にするぐらいなら他を犠牲にする。
ただし、問題も出た。庇ったことによる友黙度が上がったこと。
今後は、ロキファミリアが矢面に出ることも考えなければいけないことだ。もっと貸しを作って、雁字搦めにしておかなければならない。
「ドチビ、貸しやで」
「わかってるよ。借りたよ」
「すぐには使わへんけどな。まぁ、せいぜい気張りや」
「うぐぅ!?」
「冷や冷やさせないでよ、まったく!」
「へ、ヘファイストス…………ごめんよ。でも、僕は――――」
「デモもストもないわよ! こんな無茶しないで。わかった?」
「うぅ……………それを言われるとなぁ………」
「何よ? まだ何かするつもり……?」
「うん。頼みがあるんだ」
即座に、もう金は貸さないわよ、とありきたりな要求を封じておく。
ヘスティアはそうじゃないんだ。もっと別のことだ、と座り込む。極東で言う正座というもので、何を地べたに座る? と具合でも悪くなったかと心配すると彼女は頭を地面にこすりつけた。
「君と縁を切られても構わない。それだけのことを頼むんだ。それを踏まえて聞いてほしい!」
「やめなさい。神が頭を下げるなんて―――」
「僕のプライドでそれが叶うならいんだ。ヘファイストス!」
――――僕の家族に武器を造ってほしい。
そしてヘファイストスは、土下座をするヘスティアを凍てつく瞳で見下ろしていたのだ。
原作どうりだと、他と同じだ。ならばオリジナル展開を含んで他と差を作ってみようと思うカルメンです。
難産でしたが、一応の完成です。
では、解説行きます。
『時雨永嗣』
武器を壊し始めていることにショックを受けている。しかし、天性の肉体と恩恵の相乗は彼が思う以上の力を与えているのだ。
「未熟なり」
『ベル・クラネル』
数値上は永嗣以上であり、登頂者のスキルでさらに強化されている。現状においては、レベル2成り立ての冒険者でも勝てる可能性がある。
クロッゾ謹製のショートソードは丁寧に造られたらしく、半ば折れても支給品のものを凌駕しているようだ。
「武器代あるかなぁ」
『ヘスティア』
実はゼウスを生んだ神の長女にあたる存在だったりする。そのため、ゼウスよりも若干年上ではあるが、女性の地位が低かったであろう当時では、ゼウスのほうが上だと作者は考えている。この拙作においては、ゼウスはヘスティアに頭が上がらない。
家族を守るためなら、天界に送還されるのも辞さないという覚悟見せつけた。土下座はバイト仲間のタケミカヅチより伝授された。
「理不尽をはねのける力を、家族に持ってほしいんだ」
『ロキ』
道化師以外にも知能犯という呼び方も持っていた。
打算でヘスティアを助けてはいるが、そこまでのことが出来る神はそうはいないという、彼女なりの称賛だったりする。
「シックスセンスより、ゴッドセンスのほうがえんとちゃうか?」
『フレイヤ』
作者はよくフレイアなのかフレイヤなのか間違えてしまう、美の神。前も後ろもあけっぴろげなのは単なる痴女でしかないと、作者は思う―――おや? 誰か来たようだ?
「私の肢体こそ美であり、服はそれを邪魔するだけのものよ?」
『ガネーシャ』
オラリオではかなりまともな部類の神。群衆の主の呼び名通り、冒険者であろうと逸般人であろうと分け隔てなく接するため、市民からはロキとフレイヤより人望が篤い。
しかし、自己主張が強いのと美的センスがずれているため、イイ子はその辺りを追求しないようにネ!
「俺がガネーシャだ!」
『ヘファイストス』
多少の頼みなら聞いたって構わない。でも、それはいけない、と冷たく突き放そうと心を鬼にした優しい女神。
「断るわ」
『ネメシス』
道化師の化粧と、体にぴっちりと貼りつく衣装を好む不気味な女神。通常は「うっふっふっふー」といった、小馬鹿にしているのではと思われる前置きをつけるが、それも相手を煽って反撃の理由を作るためだったりする。
フレイヤと同じように、復讐の神の力は発動しており、恩恵を受けた眷属には全員厄介な能力がついている。ポプヌスは自分を傷つけた相手に同等の傷を負わせるといった、スキルを持っているようだ。
「あっはっはっはー。復讐は後手だ。先に出しては復讐とは言えないよ」
『ガネーシャ像』
オラリオの観光スポットの一つ。君も一緒に叫ぼう! 俺がガネーシャだ!
『一つ目蛙』
フロッグシューターと呼ばれる、単眼で舌を槍のように伸ばして攻撃してくるモンスター。サイズ的にはウシガエルの二倍以上で、瞬発力が上層ではトップクラスに位置する。