貴方は英雄ですか? いえいえ。まだ一般ぴーぽーです   作:カルメンmk2

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 今回は解説は、後日追加いたします。追加次第、活動報告にてお知らせいたしますのでご容赦ください。

 また、天界は似たり寄ったりですがオリジナル成分が多々含まれます。
 こじつけ感もありますが、楽しんでいただければ幸いです。


 誤字脱字、感想、ご指摘お待ちしております。


 今回の話、カルメン流ロクデナシ神々というものでござんすww


怪物祭で花は開く

 

 

 女神の愛とは如何なるものか?

 大体の答えは、神は神聖で誠実なのだから栄誉あるものだと想像して言うだろう。

 だが、少数の………いわば捻くれたか、ソレがどういうものか知る存在は口を並べて言い切るのだ。

 

 ―――全くもって、傍迷惑かつ周囲を顧みることすらしない災害だと。

 

 その言葉は正しかったようだ。

 美の女神、フレイヤはコロッセオの地下部分で、自身の能力を最大限に発揮していた。ここに何があるのだろうか?

 怪物祭(モンスターフィリア)の主役、怪物調教(モンスターテイム)をするためのモンスターが隔離されていたのだ。そして、檻の中に閉じ込められていたモンスターは一匹を残してどこにもいない。

 居たのは、陶酔感に浸り、失禁してしまっている女性冒険者や精を放って痙攣する男性冒険者らであった。

 

 

「――――あなたに決めたわ」

 

 

 彼らを無視して、フレイヤは檻の中で唸る拘束具を纏うモンスター、シルバーバックと呼ばれる大猿に手を差し伸べた。口輪をされ、手枷と足枷で動けなくなったモンスターをやわりと撫でる。吐息をかける。面の向こうで赤く光る双眸を見つめる。

 猿は大人しくなり、従順な下僕となった。

 

 

「イイ子ね。ここから出してあげる」

 

 

 かちゃりと幾つもの鍵が付いた鍵輪を取り出し、檻を開け拘束具も外す。

 

 

「これを食べて、私と同じ匂いを追って? そして、一緒にいる白い兎を襲いなさい」

 

 

 大人しかった猿は大の男を3人縦に並べようと届かぬほどの巨躯である。

 フレイヤからの命令を受けると渡された鈍く怪しく光る魔石を喰らい、外へと飛び出した。

 聞こえる雄叫び。

 

 

「うふふ」

 

 

 聞こえる恐怖の叫びと破砕音。

 

 

「あははは」

 

 

 フレイヤは嗤った。そして、もしものために控えていた猫人族(キャットピープル)の眷属に抱かれてその場を後にした。

 彼女は美と愛を司ってはいる。愛情深い女神である。お気に入り以外の魂も愛しむだけの分別はある。

 

 されど神である。神の中でなお嫉妬深い、愛と美を司る女神である。

 お気に入りの魂が激しく輝くところが見たい。あるいは失意に堕ちて、自分が癒してみるのもいいかもしれない。

 どちらでもいい。私は美しく、そして愛でたいものの輝きを見れればそれでいいのだと。

 

 だから神の真実(醜さ)を知るものはこう断言するのだ。

 

 

 ―――――それゆえに見捨てられ、忘れ去られたのだ、と………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目下、オラリオは狂乱に侵されていた。

 出現するはずのないモンスターがコロッセオを中心に暴れまわり、その内の何匹かはすでに大通りや居住区のほうへと移動している。

 そして不幸だったのは上層の上層、つまりは冒険者に成り立ての新人たちが迂闊にも手を出したことである。

 

 モンスターが捕獲されているのは知っている。

 その際に、死なない程度に痛めつけ、体力を消耗させているとも聞いた。

 弱っているなら自分達でも狩れる。レベルの上がる。貴重な魔石も自分たちのものだ。

 

 

「うげッ――――」

「――――」

「たすけ―――」

 

 

 世の中、そんなに甘くはないのだ。

 無謀にも挑んだ彼らはその大半が今日という日を超えられなくなった。そして理解した。

 弱ってなどいない。狩られるのは自分のほうだ。

 

 正しくは、フレイヤがポーションなどを与えて傷を癒したのである。

 暴れているモンスターに命じたのは二つ。

 

 好きなだけ暴れ、本能に従え。

 私の匂いのするモンスターから敵を引き離せ。

 

 たったこれだけだ。シンプルゆえに、モンスターたちは好き放題に暴れた。暴れに暴れた。

 屋台をなぎ倒し、店を破壊し、中身の入った樽を群衆に向かって投げつけ、あるいは捕まえて捕食した。

 そしてモンスターの本能が厄介だった。

 曰く、ダンジョンは神の存在を憎んでおり、彼らの存在を許さない。その眷属も許さない。ゆえに、モンスターたちは神々を標的に襲い掛かった。護衛をつけたものとつけていないもの。

 多くの神が襲われた。

 

 

「オオオオオォオオオオーーー!!!」

 

 

 雄たけびを上げて、憎き神へと突進する小竜(インファントドラゴン)と呼ばれる竜。翼をもたないが炎を吐くことが出来るこいつは、有象無象のファミリアの主を襲わんとした。

 刹那、小竜の頭が爆ぜる。

 

 

「げびゃびゃびゃ」

「疫病男!」

「さっさと行きな。ここは俺が仕留めてやラァ」

 

 

 悪臭をまき散らして、ポプヌスは振りぬいた拳を開き、ずしんずしんと地響きを立てて、暴れるモンスターへと近づいた。悪臭のあまり、襲っていた冒険者を無視しし、丸まって逃げ出そうとする大猪ことハードアーマードに狙いを定めた。本来なら何の突起物もついていないはずのその背甲には無数の棘が生まれ、地面を削るのも無視して逃げ去っていく。その過程で一般人を轢き殺そうと、挽き肉にしようと構わない。

 ハードアーマードの前には人がいた。家族がいた。あるいは旅の行商人がいた。

 

 ポプヌスはその巨体に見合わぬスピードでハードアーマードの前に躍り出て、その進行を鎧すら纏わぬ裸で受け止めた。

 石畳を無惨な姿に変えていた棘を裸で受け止めるなど自殺行為である。その惨状を見たくないがために、皆目を瞑った。

 

 

「げびゃびゃびゃ。なんダァ、それハァ」

 

 

 生きているのか、でもなぜ?

 ハードアーマードの棘はポプヌスの体に傷一つつけることは敵わなかった。逆に、丸まった状態のハードアーマードをギリギリと羽交い絞めにしていく。ベアハッグと呼ばれるものだ。

 

 

恩恵(ファルナ)に、偉大な神の眷属にそんなものは通用しネェ!」

 

 

 べき、びき、ぶち…………硬いものに折れる音。罅が入る音。肉の潰れる音。

 成人男性の胴体ほどもあったのハードアーマードは徐々に圧縮されていき、やがて耳に残る音を発てて真っ二つになった。

 

 

「ウォオオオオオオオオ!!!」

『『『『わああああああ!!!』』』』

 

 

 その勝鬨は彼らの心を揺さぶるものだった。

 我に続け。

 さぁ、力を望め。

 憎きモンスターに怯え続けても良いのか!?

 断じて、否であるッ!!

 

 

「神の力を讃えろ! そして、戦う力を授かれ! そうすればお前たちも冒険者だ! 英雄となれる資格を得るッ!」

『『『『神万歳! 冒険者万歳! モンスターに死を! 我らに栄光を!!!』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは何とも……………」

「椿、トーリ!」

「バベルの防衛ですな」

「戦える者を集めてきます」

「頼んだわ。シグレ、貴方も――――って、居ない?!」

 

 

 ベルと行動を別にしていた永嗣は何をしていたかと言えば、以前であった赤毛の青年、ヴェルフ・クロッゾが主神のヘファイストスが用事があると話しかけてからだ。

 先日の蟠りは置いておいて、彼女は永嗣と正村トーリと引き合わせたのである。

 

 

「どこ行ったのよ!? ――――まさか……………?」

 

 

 折れた刀を持ってこさせ、トーリに鑑定してもらい、面談する。

 なるほど。呼ぶ前に見せてもらっていたが、よくも耐えきったものだ。ただの鉄鉱石で、恩恵の守りを得ている肉体を斬った。レベル1だというのに。

 同じことが出来る冒険者が、この街に存在するだろうか?

 

 

「ヘスティアを探しに行ったの!? 丸腰なのよ!」

「ヘファイストス様! フレイヤファミリアとアポロンファミリアが協力していただけるそうです。防衛は任せろと!」

「ッ、わかったわ。トーリ、彼が丸腰でヘスティアの捜索に出てしまったの。武器を持ってきて」

「………………ヘファイストス様。身の程をわきまえぬ者に私は武器を託したくはありません」

「いいから持ってきなさい。探しに行くわよ!」

「――――承知いたしました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして――――

 

 

「あっという間にまた一匹倒したぞ!」

「すげぇ! アレが剣姫か!」

 

 

 ヘファイストスらが永嗣を探し始めてからわずか後。コロッセオの近く、ロキに伴っていたアイズ・ヴァレンシュタインは別行動をしていたヒリュテ姉妹とレフィーヤ・ウィリディスと合流し、逃げ出したモンスターの掃討に移っていた。

 破損した愛剣デスペレートの代わりの剣を振り、妹のティオナ・ヒリュテはナックルガード、所謂メリケンサックで殴りかかり、姉のティオネ・ヒリュテは隠し持っていたミスリルのダガーで削っていく。

 彼女らの攻勢を魔法職のレフィーヤはロキの隣でただ眺めるだけであった。

 単純に、詠唱するよりも殴ったほうが早いからだ。そしてレフィーヤに中層域のモンスターを撲殺できるほど力のステイタスは無い。念のため、短文で放てる魔法を用意しておくことぐらいだ。

 

 

「これで5体ぐらい?」

「まだ悲鳴が聞こえるけど………どれだけ捕まえてたのよ」

 

 

 転がる魔石を回収し、どれほどいるのかわからないモンスターとガネーシャファミリアに悪態を吐きつつ、駆け出す5人。こんな状況ではロキを一人で返すわけにはいかない。

 もしかしたら、神を殺すための陽動作戦である可能性も否定できないからだ。

 

 

「前方、トロール2、ミノタウロス1!」

 

 

 装備的にも身軽なティオナがスピードを上げ、突進と同時に一番小さくて一番厄介なミノタウロスの上半身を弾けさせた。その勢いはすさまじく、拳を振りぬいた先へ血しぶきが飛んでいくほどだ。

 続いてティオネがトロールの頸を刈ろうとするがそれよりも先にアイズがバラバラにしてしまう。剣の長さ敵に、力士のような体型のトロールを細断できるはずもないが、彼女には魔法という力があった。

 

 

「………これで8体」

「アイズ! あたしにも戦わせなさいよ!」

「あ………ごめん、ティオネ」

「まったく。その武器、借りものなんだから壊したら不味いのよ?」

「まあまあ。一般人に被害が出るよりいいじゃん」

「ちんたらしているほうが悪いのよ。さっさと逃げればいいものを………危機感が無いのかしら」

 

 

 モンスターは人類にとって不倶戴天の敵である。特に迷宮(ダンジョン)で生まれるモンスターは地上で繁殖したものたちよりも数倍は強い。同じゴブリンですら、迷宮生まれは5~6匹で村一つを滅ぼせるほどだ。

 その恐ろしさは聞いたことがあるはずなのに、街の人間は逃げるどころか隠れようともしない。

 

 

「怖いもの見たさ、っちゅーやつやな。アイズたんたちが強いって世界規模で有名な証拠や」

 

 

 この街でアイズを知らない者は生まれたばかりの子どもか、冒険者に全く興味のない者ぐらいだろう。つまり、その強さも知られているのだ。

 あるいは一級冒険者が容易くモンスターを倒す姿を見て、それほど恐ろしい存在ではないのかも、と勘違いしているともいえる。

 

 

「邪魔すぎますよ。これじゃあ―――――」

「待って…………………何か聞こえる………?」

「え? 私は特に…………あ、揺れてるかな? でも、トロールがいるぐらいだし………ね?」

「地響きを立てるからね。何か気になるの?」

「――――――――違う。地上じゃない!!」

 

 

 ティオナの言葉に、石畳に剣を突き刺して集中していたアイズが急に叫んだ。

 

 ―――逃げて!

 

 さすがは冒険者。ティオネがロキを抱きかかえて大きく跳躍、後退し、レフィーヤをティオナとアイズが両脇から持ち上げるように持ち上げて下がる。

 刹那、石畳の下から男の肩幅ほどもある太さのナニカが突き出してきた。

 

 

「こいつ!」

 

 

 明らかにレフィーヤとロキを狙っていた。突き出たナニカ―――いや、植物の蔓、ここでは触手としよう。それは彼女らの下から突き殺すように出ていたのだ。

 

 

「ティオナ! ロキとレフィーヤを守りなさい! アレは段違いよ!」

「わかった! 二人ともこっち来てッ!」

「アイズはあたしと牽制! レフィーヤは一番強い呪文を撃ちなさい!」

「わかりました!」

 

 

 レフィーヤが呪文の詠唱に入ると、今度は建物を揺らすほどの地鳴りと揺れが襲ってきた。

 石畳を盛り上げ、さらに6本追加で、地面から触手が増えてきた。その奥には巨大なのっぺりとしたいびつな円錐状の物体、おそらくは本体であろうものが周りを崩しながら出現したのである。

 

 

「でかっ!?」

「ゴライアスよりも大きいわね」

「ティオネー、あたし、本拠地(ホーム)から大双刃(ウルガ)持ってきていい?」

「この前の遠征で壊したばかりでしょ」

「あ、そうだったねー。あっはっはっは………これヤバくない?」

「ヤバいわね。アレ、深層域のモンスターよ」

 

 

 気配でわかるのだ。だって、この前まで深層に遠征しに行っていたんだもん。

 可愛く言っても、相手が手心を加えるわけが無い。

 あの塊は無造作に触手を振り回した(・・・・・・・・・・・・)

 

 

「あ――――」

 

 

 咄嗟の判断だった。こちらを狙ってきた触手は打ち払えた。それだけならまだよかっただろう。しかし、触手は8本も存在したのだ。8本の触手をいっせいに振り回したのだ。

 

 

「きゃあああああ!!」

「うわぁあああ!!」

「逃げろぉおおおおお!!」

 

 

 多くが犠牲になった。辛うじて生き残った者たちも這う這うの体で逃げ出そうとする。アイズたちを押しのけるように、あるいは囲むように逃げる一般人を、モンスターは6本の触手でまとめて肉団子にしてしまおうと伸ばした。

 人波に飲まれ、まともな動きが出来ないアイズたちは跳躍して逃げることを選んだ。その結果がどういう物かも理解していた。触手を蹴って、付近には人っ子一人いなくなった道に降り立つ。

 柔らかくも芯のあるものを潰し、砕く音に耳を塞ぎたかった。助けることが出来なかった。

 

 

「ッ、させない!」

 

 

 丸めた人間たちを喰らおうと本体でありそうな塊が六つに割れ開いた。

 まさしく花弁のごとき六つのソレには大小さまざまな牙と雌蕊(めしべ)雄蕊(おしべ)なのか、それに類するものがうねうねと蠢いている。

 さあ、喰らってしまおう小さな触手群も伸ばすが、アイズはそれを許そうとはしなかった。

 仲間の制止を振り切り、彼女は力を籠めて叫ぶ。

 

 

吹き荒れろ(テンペスト)【エアリエル】!!」

 

 

 風がアイズを包み込む。彼女の魔法、エアリエルだ。風を纏い、身体能力を強化し剣にすら纏わせられる風は真空の刃として細剣(レイピア)の攻撃力を常識の埒外まで跳ね上げる。

 

 彼女は跳んだ。前へと跳んだ。かつての自分を思い出して跳んだ。

 風が螺旋状の円錐を作るように、彼女はレイピアを突き刺すように構えてゆく。

 

 

「食べさせないッ!!」

 

 

 彼らにも家族がいたはずだ。帰りを待つ人がいるかもしれない。

 遺体があれば踏ん切りがつくのだ。死んでしまったと理解できる。自分のように何時までも帰りを待って、帰らないことを知って絶望する人を増やしたくない。

 復讐に駆られて、何も顧みない復讐者を生み出したくない。

 

 

「リル・ラファーガ!!」

 

 

 加減など考えない全力の一撃をアイズは肉団子を運ぼうとする大きな触手へと突進した。触手は穿たれ、風の刃は小さな触手を余波だけで斬り飛ばす。

 肉団子が音を発てて地面に落ちた。レフィーヤはその塊の中、奇跡的に潰れていなかった双眸の片方と目が合ってしまう。吐ければ楽だった。けど、吐くような暇はない。

 魔法を扱うにあたり、重要なのは集中力を切らさないことと詠唱を間違えないこと、魔力を調整することだ。彼女は今、自分が持ち得る最大火力の魔法を放とうと集中し、針の穴を通すのが極めて楽だと思えるぐらいの精密さで魔力を調整していた。

 

 

「【ウィーシュの名のもとに願う。森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ。繋ぐ絆、楽宴の契り。円環を廻し舞い踊れ】―――――」

 

 

 容姿が可愛いから、あるいは少女だから。そんな理由でロキファミリアに入団することなどできないし、幹部連中が入団を許すわけもない。

 レフィーヤは正しく、天武の才を持ち、弩級のレアスキルを持っていた。

 紡がれる言葉はまるで、同胞や偉大なる先祖らに捧げる声であり、願いである。

 

 

「【至れ、妖精の輪】」

 

 

 彼女の周りに輝く円環が現れる。沸き立つ光が波のように動き、しぶきは光の粒となって彼女の周りを踊る。

 

 

「【どうか――――――力を貸し与えて欲しい】」

 

 

 光が形を成した。誰かもわからないヒトの形。レフィーヤの尊敬するエルフを統べるもの。

 

 

「【エルフ・リング】………!」

 

 

 そしてそのヒトは明確な形と色と――――姿を現した。若緑色の髪に、理知的な双眸。手に持つは格に相応しき(ロッド)としなやかな指、それはリヴェリア・リヨス・アールヴに他ならなかった。

 彼女は極度の集中で、周囲の時間が遅くなっているように感じた。それもそうだ。これから使う魔法は下手をすれば都市の一区画を砕けさせてしまうような凍てつく魔法である。

 

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風を巻け】――――」

 

 

 リヴェリアの幻影も呪文を呟き始める。エルフ・リングで高まった魔力がさらに魔力を吸い上げようとする。

 アイズたちは彼女の紡ぐ詠唱に心当たりがあった。凍てつく氷の魔法。リヴェリアの攻撃呪文の一つだ。

 そして彼女の機転にも称賛を贈った。炎の魔法で一瞬で片付けられなかった場合、燃え盛る触手が暴れ狂い、そこかしこに延焼する可能性があった。凍ってしまえば、破片や攻撃の余波で崩れてもそれ以上被害が広まるわけではない。

 

 

「【閉ざさえる光。凍てつく大地】」

 

 

 モンスターが放っておくはずもない。本能で自分を撃滅しうる(レフィーヤ)に向けて、アイズたちを無視して―――――ロキへ(・・・)と伸ばした。

 

 

「レフィーヤを狙わない!?」

「そのまま詠唱を続けなさい! アイズ! 斬れないの!!?」

「リル・ラファーガじゃないと無理みたい。さっきよりも硬くなってるッ」

 

 

 明らかに使役されている動きだ。アイズたちに守られているロキはそう確信した。

 子どもたちの伝聞からすれば、モンスターは脅威度の高い敵を優先して狙っていくという。この場合、自分を撃滅しうるレフィーヤの魔力に反応するのが当然とみて間違いない。しかし、こいつは自分を狙った。無力な神を狙ったのだ。

 強制送還覚悟で神の力(アルカナム)を放てば、一撃でもって地上を焼き尽くせるのを考えると妥当ではある。だが―――――

 

 

(明らかに、うちを狙って引き留めとる。レフィーヤたんには一切向けとらん!)

 

 

 となると、このモンスターには氷の魔法は効かないのではないだろうか?

 あるいは黒曜石のモンスターことオプシディアン・ソルジャーのように魔法耐性があるのかもしれない。

 

 

「こんな時にムメーは何しとるんや!? 気付いておらんのか!?」

 

 

 ずっと行方をくらましている―――でも、本拠地の掃除や家事、洗濯はきっちりと行われている―――あの赤マントはどこをほっつき歩いているのだろうか。

 他のところで戦っているのだろうか?

 

 

「ロキ! 動かないでッ」

「こンのぉ!!!」

「しつけェんだよ、テメェ!!」

 

 

 執拗な攻撃は止まらず、叩きつけるように繰り出される触手の攻撃はアイズたちを制限していた。

 別に階層主や強竜(カドモス)のような力があるわけではない。

 打撃が通じず、ダガーでは斬り落とすまでには深く抉れず、細剣で受け止めるには重すぎる。

 そして、ロキの近くで防衛をさせることで一番即効性の高いリル・ラファーガを使わせないという(したた)かさ。たまに斬らせて傷を作るなど芸の細かいこと。

 そうしているうちにレフィーヤの詠唱が終わりを迎えた。このまま引き付けておけばいい。それでこの状況を打破できる。

 

 

「【吹雪け、三度の厳冬―――我が名はアールヴ】―――【ウィン・――――】」

 

 

 しかし、今まで上からこちらにのみ叩きつけられる触手の一本がレフィーヤへと横薙ぎに叩きつけられようとした。虚をつく攻撃。ご丁寧に壁を作るようにして打ち重ねられた触手に、アイズたちは一歩出遅れた。

 跳んでも間に合わない。リル・ラファーガを放つには一拍の溜めが必要。

 ――――レフィーヤは助けられない。

 

 一方で、レフィーヤは迫る触手に心はざわめかなかった。

 祖先、同胞らの気配が彼女を一種の境地に押し上げていたのかは定かではない。あと一言で詠唱は完了し、モンスターを氷漬けにできる。

 

 

(言っていいのかな? でも、ロキ様まで巻き込んじゃうか)

 

 

 今なら方向を変えて放つこともできる。それをやれば自分は助かるが、ロキもアイズもティオナもティオネも助からない。射線上の区画が全滅するかもしれない。

 となると、一直線の道である本体へと放つしかない。自分は死ぬだろうけど―――

 

 

「(あとは頼みます。もっと一緒に冒険したかったです)【――フィンブルエルト】!!」

 

 

 極寒の風が吹き荒れた。指向性を持たせた冷気は塵も空気を凍らせて、真白い風となって進んでいく。

 レフィーヤは敵を討つことを選んだ。

 死ぬのは恐いけど、皆に烈火のごとく怒られるよりは恐くない、と笑みすら浮かべていた。

 こういうときほど、時間は遅く感じられ、余波で脆くなった触手を割り砕いて鬼気迫る顔でこちらに手を伸ばす家族が見えてしまう。自分は恐らく、ごめんなさいと泣きながら笑っているのではないだろうか。

 

 もっとも近かったこちらへ迫る触手が、動きに耐えきれず割れていく。でも、勢いは止まらない。

 下手な鉄塊よりも硬そうな氷はそのままレフィーヤを無残な姿に変えるだろう。

 

 ―――ああ、ホントにカッコいい人たちだったなぁ………。

 今際の言葉がこの言葉なら、十分ではないだろうか? アイズたちの重し(トラウマ)になりたくはないと目を瞑る。

 刹那―――

 

 

「――――――――――隠し剣―――――」

「――――俺が撃ち落とそう」

 

 

 自分の横に人の気配、そのさらに後ろに狩人の気配。

 知覚が鋭敏化されたレフィーヤには誰が来たのか分かった。そして、後ろに立つ気配に安心感を得ていた。

 村に住んでいたころ、森一番の老木が醸す安堵感だ。

 

 

「――――鬼の爪――――」

「―――飛翔する死棘の槍」

 

 

 包み込む十の銀閃。四散する赤の棘。運命はレフィーヤに微笑んだのだ。





 遅ればせながら、あとがき解説行きますよー。


『時雨永嗣』
 爺、オンライン!
 丸腰、というのは持っていた長剣が使い物にならないという判断から。
 放たれた十の銀閃は比肩しうるものはちょっとしかいない!
 「――――」


『ムメー』
 騒ぎを聞きつけ、カルデアから出撃。途中で永嗣と合流した。
 「槍は専門ではないのだがね」


『ヘファイストス』
 折れた刀を見て、この冒険者―――否、剣士こそ眷属の求めた存在と確信した。でも、胸に押し寄せる不安感は一体何なのだろうか?
 「はぁ………」


『正村トーリ』
 剣を見れば理解した。己の求めた存在だと。でも、恐れてしまった。相応しい剣が鍛てるのかと。
 「―――――――なんたる様か……!」


『ポプヌス』
 腐っても、臭くてもレベル6の冒険者。多少のモンスターでは傷一つつけられない。
 しかし、何の目的があって人助けなどするのか?
 「慈善活動ってやつダァ」


『フレイヤ』
 比較的には良識も持つが、それ以上に厄介ごとを引き起こす女神。
 爺ポイントがたまりました。あと2ポイントで首置いてけ!が発動します。
 「さぁ、どんな輝きを見せてくれるのかしら? あわよくば――――うふふ」


『アイズ・ヴァレンシュタイン』
 コロッセオ周辺にいたところをギルド職員に頼まれて討伐に参戦した。
 永嗣の剣撃を再度見て、その心は決まったらしい。
 「もっと、強くなりたいから」


『ティオナ・ヒリュテ』
 姉妹のちっぱい方。それだけで全て伝わる。
 隠し武器はアダマンタイト製のメリケンサック、だったのだがあのモンスター相手には分が悪かった。
 「すっごい!ホントにすごいよ、あの人!!!」


『ティオネ・ヒリュテ』
 姉妹のでかい方。ばるんばるんです。ぶるんぶるんです。何がかは言わせんなYO!
 隠し武器はミスリル製のダガー。ただし、傾向性を重視しているため刃渡りが短く、あの触手を斬り落とすことは不可能だった。
 「レフィーヤが無事なのはいいけど…………団長の誘いを断ったのよね」


『レフィーヤ・ウィリディス』
 【千の妖精(サウザンド・エルフ)】の二つ名を持つ、ロキファミリアの次期主力メンバー。保有するスキルもチートで、前提条件が揃いきればリヴェリア以上の戦闘力を発揮するだろう。今回の魔法は咄嗟の判断で効果範囲を周囲にも拡大させたため、アイズらの触手にもダメージを与える結果となった。
 あと、異性にこんなにも近づかれ、命の危機に助けられるのは初めてだったりする。
 「ふぁ………」


『ロキ』
 おおよそ、こんなに手古摺ったのはお前のせいだと。こんなことが起きるなど考えたこともないため、まあ仕方ない。
 アイズらに参戦させたのはガネーシャに恩を売るため。しかし、永嗣に恩を売られる結果にもなった。
 「なんやアレ? なんなんやアレ!!?」


『花弁のモンスター』
 原作では暴れまわるだけの代物だったが、今回はどこかに調教者(テイマー)がいるらしく、いやらしい手を使ってくる。
 また、アイズたちの斃したモンスターの魔石を捕食したことで強化されている。ゴライアスよりも大きいと評しているが――――


『シルバーバック』
 中層域から出てくるはずのモンスター。でも、ミノタウロスのほうが強い―――のだが、この個体は特に巨大だったらしく、さらに魔石を食わせたことで強化種に変貌している。


『エアリエル』
 アイズの魔法。攻撃に防御に身体強化と万能な反面、広範囲にわたる攻撃能力が低い風の魔法。
 最大の業は嵐のように螺旋回転させて突撃する【リル・ラファーガ】。人間が喰らうとミンチひでぇや、と言われるだろう。


『エルフ・リング』
 レフィーヤの真骨頂。同族のエルフが使う魔法を使用できる魔法。ただし、詠唱などを知らないと使えない上に、その魔法を使う前にこの魔法の詠唱が必要だったりする。
 しかし、魔法は基本的に両手で数えられるぐらいしか覚えられない(あらゆる手段を講じても)という括りを完全に無視できるため、汎用性はリヴェリアを大きく凌ぐ可能性を秘める。


『ウィン・フィンブルエルト』
 九魔姫、リヴェリア・リヨス・アールヴの得意とする氷の魔法。絶対零度の冷気はあらゆるものを凍てつかせる。


『隠し剣・鬼の爪』
 対・佐々木小次郎用の剣技であり、燕返しを破るために生み出されたもの。燕返しのカウンターとして存在し、カウンター条件として整うと小次郎相手なら確殺できる。こちらから仕掛けた場合は返り討ちに遭う可能性があったりする。
 ちなみに、燕返しに対応するときと自分から放つ場合とでは軌道が違ったりする。


『飛翔する死棘の槍』
 ゲイボルグのこと。フィンが見たら発狂するような代物で、殺してでも奪ってやると言われかねない。
 刺し穿つ――のタイプは単一目標に向かって飛ぶが、飛翔する――は穂先が30以上の棘となって群体を攻撃することができる。レフィーヤと永嗣に向かって飛んでくる氷塊を粉砕した。
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